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酔いどれエース

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第三章

 そうしているうちに今井は何をせずとも一軍のマウンドで本来の調子で投げられる様になった、そうして阪急の先発の一角を担うまでになった。エースは何といってアンダースローの山田久志であったが彼も欠かせない存在になった。
「今井いいよな」
「ああ、渋いよな」
「速球は決して速くないんだけれどな」
 それでもというのだ。
「コントロールもよくてな」
「球威があってな」
「そこにシンカーやシュートもあるし」
「打たせて取る」
「味のあるピッチングをしてくれるよ」
「それでいて気取らず気さくでな」
「明るくて優しいんだよ」
 ファン達も今井のその人柄に親しみを覚えていた。
「酒も大好きでな」
「そこもまたいいな」
「また漫画に出てるぜ」
 あぶさん、水島新司先生の代表作の一つだ。主人公の景浦安虎のいる南海とはライバルチームにいるのに出番は多く愛されるキャラとして描かれている。
「この漫画での今井もいいよな」
「ああ、キャラ立ってるぜ」
「本人みたいにな」
「このキャラがいいんだよ」
「漫画にも出てるしな」
「阪急も強いし」
「本当にいいぜ」
 阪急は悲願を達成して日本一になった、しかも七十六年と七十七年には憎むべき邪悪なる巨人に正義の鉄槌を浴びせてのうえでだ。
 七十六年は正直危なかった、阪急は見事三連勝したが悪辣なる巨人はそこから三連勝し七戦目の甲子園ではもう日本一になった気分で浮かれている有様だった、しかし阪急はその巨人を成敗し日本一になっていた。
 その中に今井もいた、今井は安定したピッチングを続け何と完全試合も達成した。これにはかつて阪急の監督だった西本も近鉄にいて驚いた。
「まさかあいつがな」
「一気に勝てる様になって」
「しかも完全試合ですからね」
「凄いことしましたね」
「それまでするなんて」
「ああ、正直驚いてるわ」
 こう周りに言った。
「あそこまでなるなんてな」
「そういえば監督は」
 ある者が西本に聞いた。
「今井が一年目の時に」
「ああ、一年禁酒させた」
「そうでしたね」
「あいつキャンプで飲んで帰った時にな」
 キャンプの宿泊先のホテルにだ。
「あいつの部屋はわしの部屋の一階上で同じ三号室やったか」
「それで同じ三号室で階を間違えて入って」
「そこにわしがおってや」
 今井が自分の部屋と思って入ったその部屋にだ。 
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