NEIGHBOR EATER
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EATING 27
前書き
EATING26の翌日の話です。
08:15
「くぅ…くぅ…」
「ふふ…主様の寝顔を独占できるとは、今日はいい1日になりそうですね」
翼は腰から伸びる羽が邪魔になるので何時も横向きに寝る。
しかも大抵は枕を抱き込むように寝るのである。
夜架が翼の頬をつつくとふにゅりとへこんだ。
その温度も人肌の温度であり、それは翼が未だに『ヒト』である証拠と言えた。
「………」
夜架はふと気になり、そっと翼のシャツの中に手を入れた。
「………ちゃんと動いてるじゃないですか」
鼓動があるのは、そこに心臓があるから。
胸が動くのは、そこに肺があるから。
「主様には、まだ肉体が残っていますよ…」
耳元で囁くと、擽ったそうに身を縮めた。
「んみゅ…」
「お目覚めですか主様?」
翼がゆっくりと目を開ける。
「よるか?」
「はい夜架です」
「……………………………起きるか」
翼はのそのそと羽を広げ、ふよふよと洗面台へ向かう。
「くぁ~」
(ぶつかりそうですね…)
ゴン!
「へぶっ!?」
ドアに頭をぶつけた翼だが、またすぐにふよふよと飛び始めた。
「案の定ですか…」
少しして翼が洗面所から出てくると、その額が僅かに光っていた。
「主様」
「何?」
「トリオンがもれていますわ」
「うげ…」
翼は額を一撫でし、傷をふさいだ。
「よし、さっさとメシつくっちまおう。
サンドイッチでいいか…」
二人は朝食を作り、朝のニュースを見ながら食べていた。
「もきゅもきゅ……うゆ?」
「どうされました主様?」
「んく……お前がどうした?さっきからずっとこっち見てるけど…」
「いえ、なんでもありませんわ」
翼がその小さい口で小動物のようにサンドイッチを食べているのを夜架はニコニコしながら見ていた。
「いや…きになるんだけど…」
「お気になさらず」
これ以上言っても無駄と悟った翼は食事を再開した。
ちょうど食べ終えたタイミングで雪ノ下姉妹がやって来た。
「あー…翼君がもきゅもきゅしてるの見たかったのにー…」
「姉さんの準備が遅いからでしょ」
「?」
こてんと首を傾げる翼に、三人が顔を背ける。
「あ、雪乃」
「何かしら翼君」
「今日さ、雷蔵にお前用のトリガー頼もうと思うんだけど。どう?」
「ええ、願ってもないわ」
「ハルもいいか?」
「この前のアレを見ちゃうとねぇ…」
二人の許可が出たな。
「じゃ、この後開発室行こ」
ふよふよ浮きながら朝食の後片付けを終えると、翼がトリガーを起動した。
近頃はボーダー隊員が増えてきたので、隊室と防衛任務以外でフリューゲルの姿になるのは会議室から禁じられていた。
翼を先頭にして開発室へ向かうと、朝早くから個人ランク戦に精を出していた隊員が微笑ましい物を見る目を向ける。
「解せぬ」
「まぁまぁ、翼君。仕方ないよ」
ムスッとした顔の翼を陽乃が抱き上げた。
「なにをする」
「んー? 面白そうだったから」
陽乃はウキウキ顔で歩を進め、雪乃はやれやれといった顔を見せ、夜架はにこやかな顔をしていた。
そうして、開発室へ。
陽乃がコンソールにトリガーを当て、ロックを解除した。
「よっす雷蔵君!雪乃ちゃん用に正式トリガーちょーだーい!」
唐突な訪問に入り口を見やった雷蔵は次の瞬間吹き出した。
「ぷっ…くく…翼…おまっ…」
翼は未だに陽乃に抱かれている。
「雷蔵。今すぐに雪乃のトリガーを用意するか最近太ってきたお前の肉をそぎおとされるかの二択だ!」
トリオン体は食べた物をほぼ100%消化可能なので太りやすい。
最近研究ばかりしている雷蔵の腹は少し肉がついていた。
「しょうがないな…で、雪乃君のトリオン量は?」
「一応入隊テストでは9でした」
雪乃の応えを聞いた雷蔵は目を丸くした。
「なんで君オペレーターなの…?
9ってボーダー内でも上位じゃないか…」
「最初からオペレーターとしてはいったので…」
通常であればオペレーターは戦闘員に慣れなかった者がなるのだ。
「雪乃はアタッカー適正があるのは確かだが他も見てみたい。
雪乃、どのポジションをやってみたい?」
雪乃は清輝隊の構成を考えた。
「そうね…アタッカー寄りのオールラウンダーかしら?
仮に私が出るなら、姉さんと交代だから翼君と夜架さんと一緒になるわ。
イージスの翼君はオールラウンダーで中距離、夜架さんは純正アタッカー。
バランスを考えるとアタッカー寄りのオールラウンダーがいいと思うわ」
雪乃の真面目な考察に清輝隊の面々がぽかんと口を開けた。
「なによ」
「いや…俺らってそういうの一切考えてなかったとおもってさ…」
「翼の言うとおりだな。清輝隊は基本的な構成ができているし個々の能力が高い。
余計な事を考えるより練度のゴリ押しで力を発揮するチームだからな…」
雷蔵の清輝隊に関する考察は的を射ていた。
「じゃぁ、雪乃ちゃんはオールラウンダーだとして中距離はどうするの?
シュータータイプ?ガンナータイプ?」
「シュータータイプにするわ。銃は重いもの」
雪乃のアタッカーとしての動きの参考は夜架の動きに寄っている。
デッドウェイトは減らしたいのだ。
「雷蔵。とりあえずメインに弧月とアステロイド、サブにバイパーとアステロイド入れた奴を頼む。
あと仮想訓練室の使用許可」
翼が提示したのはオールラウンダーの基本トリガーだ。
「なるほど。私がシューターとして使えるかを見るのね?」
「ああ、剣の腕はもう見たからな。
まぁ、雪乃くらい頭が良ければバイパーも使えるだろうし、まぁ、一応だ。
気を悪くしたなら謝る」
「あ、いえ、そういうつもりで言った訳じゃないわ。
翼君もきちんと考えてるのね」
雪乃のまるで弟を誉めるような口調に翼はムッとした。
「お前やっぱりコレの妹なんだな」
翼が肘で陽乃をつつく。
「あ、ちょ、いたい、いたいよ翼君」
「なら離せ」
「やだ」
エルボーをくらっても自分を抱えたままの陽乃に、翼は大きなため息と共に抵抗を捨てた。
雷蔵が予備のトリガーをカチャカチャといじり、雪乃に手渡した。
「はい雪乃君」
「ありがとうございます寺島さん」
「僕を敬ってくれるのは君と切姫だけだよ…
君の姉と隊長ときたら…」
雷蔵と雪乃の目がじゃれている翼と陽乃へむく。
「じゃ、あの二人は放っといて仮想訓練室行ってきなよ。
ちゃんと僕がオペレートするからさ…」
「そうですね…」
雪乃は仮想訓練室に降り、トリガーを起動した。
「雷蔵さん。ターゲットお願いします」
『わかったよ』
正面に出てきたターゲットを次々に3×3×3アステロイドで射抜く。
更に追加で出てきたターゲットも3×3×3バイパーで撃ち抜いた。
その軌道はよどみなく、初めて使ったとは思えない物だった。
『上出来だ雪乃』
「あら、姉さんとはもういいの?」
『夜架に手伝ってもらって抜け出した』
「そう」
『でだ。雪乃』
その時の翼の声は悪戯を思い付いた子供のそれだった。
『ギムレットいってみようか』
「ギムレット? そんなトリガーセットしてないわよ?」
『あれ?合成弾って知らない?』
「しらないわ」
ソレを聞いて翼は楽しそうに続けた。
『両手にアステロイドを出した上で合わせてみろ』
雪乃は不審に思いながらも言われた通りに従った。
両手に浮かんだキューブが合わさり、輪郭を失い一つの大きなキューブと化した。
『それがギムレットだ。アステロイドより威力の高い弾で、お前のトリオン量なら小型ネイバーの殻も破れるはずだ。
撃つときは普通のアステロイドと同じ要領でやるといい』
雪乃は追加で出てきたターゲットにギムレットを放った。
「アステロイドと変わらないわ」
『訓練用ターゲットならな。実戦では段違いだぞ』
「そう?」
『そう。だから一回戻ってこい』
雪乃が開発室へ戻ると雷蔵が手を出していたのでトリガーを渡した。
ソレを後ろから覗き込むと、追加でトリガーをセットしていた。
「寺島さんそれは?」
「翼の指示で旋空、シールド、メテオラ、テレポーターを追加している」
雪乃が翼達を見るとニヤニヤしていた。
「何を企んでいるのかしら?」
「雪乃。ランク戦行くぞ」
「へ?」
「ランク戦だよランク戦」
「…………いいのかしら。私訓練受けてないわよ?」
「あんだけ動けりゃ大丈夫だろ。
あと俺も基本訓練受けてないし」
雷蔵にトリガーを手渡されると、雪乃は翼に手を引かれてランク戦ブースに連れていかれた。
それはやんちゃな妹に振り回される姉のようだった。
「それじゃぁ適当な奴を嵌め殺して文句言われる前にポイント溜めてこい!」
その日、新人と思われる美少女オールラウンダーがランク戦で暴れまわった。
なお彼女の所属する隊の隊長が会議室から呼び出しを食らったことも追記しておく。
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