リリなのinボクらの太陽サーガ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
継承のメモリーキューブ
前書き
すみません、パソコンの修理やら何やら色々あって遅くなってしまいました。
旧暦***年。
「あれから……何年経ったんでしょう……」
制御を離れ、暴走状態に陥っている戦艦ゆりかご。その内部にある荘厳な造りの部屋、玉座の間で聖王オリヴィエは無数のコードに繋がれ、自力で動かせないほど衰弱した身体を椅子に横たわらせていた。幸か不幸か、暴走によって一度は失った自我を取り戻せた彼女は必死に戦艦を止めようと手を尽くしたのだが、結局コントロールを取り戻せないまま、こうして力尽きてしまったのだ。
「もう外の戦争は終わった、後は私が死ねばこの艦は止まるのに……この艦に搭載されている生命維持システムがそれを許してくれない。もう誰も殺さなくていいのに、勝手に誰かを殺してしまう。そんなの……嫌なのに……自分じゃ止められない。死にたいのに死ねない、生き地獄に囚われてしまった。だからお願い……誰でもいいから、早く私を……」
轟音、震動。
『外部装甲破損、敵性分子侵入。排除開始』
「侵入者……? もしかしてクラウス……? ううん、希望を持たない方が絶望は少なくて済みます。艦内のセキュリティシステムも凶悪なものばかりです、なにせ生半可な人間では一歩進むだけで全身穴だらけなんですから……。ああ、でも……叶う事ならば、私の所にたどり着いて欲しいです」
爆発、激震、破砕音。
「中々頑張りますね、この侵入者。もしかしたら、この人なら本当に……私を終わらせてくれるのでしょうか?」
陣風、爆裂。
侵入者は巨大なメイスで艦のセキュリティシステムをなぎ倒し、玉座の間に到着する。彼はそこで驚きながらも子犬のようにすがる目をしているオリヴィエを見つけ、盛大にため息をついた。
「(オリヴィエはナイチチ……噂通りだな)」
「(なぜでしょうか、すごく失礼な方法で判断された気がします)」
「ん、悪いな。来たのがクラウスじゃなくて」
「あ、いえ……そのようなつもりでは……」
「気遣わなくていい、彼らのことは後で話す。で、あんたは本当に聖王オリヴィエ?」
「ええ、私が聖王オリヴィエです。ようこそ、侵入者さん。心から歓迎します」
「歓迎するつもりならあんな花火はいらない、正直鬱陶しい。でさ、事情を知ってから一度言いたかったんだが、あんたこんな牢獄に自分から閉じ込められるとか何なの? マゾ?」
「ま、マゾじゃないですよ……! だってこうでもしないと、戦争は終わりそうになかったんですし……」
「当時のあんたが切羽詰まってたのは知ってる。けど今は別の戦争を引き起こしかねない立場になってるから、本末転倒だ」
「え、別の戦争……?」
「やっぱり何も知らないか。今の情勢でこのままあんたを消せば、ゆりかごの次の所有権を巡って戦争が再発しかねない。どれだけ膨大な被害を出した所で、コレに秘められた力はあまりに魅力的に映るらしいし」
「……というと?」
「今、ベルカではかつての栄華を取り戻そうとする脳ミソが筋肉な旧体制の騎士国家に対し、次元の壁を超えて複数の世界を一つの管理体制の下に統一するという、ぶっちゃけ夢物語じみたことをのたまう全く新しい組織を生み出そうとする動きがある。どっちも相手を倒そうと躍起になり、大いなる力を秘めた道具を集めたり改造したりしているんだが、その矛先がついにゆりかごにも向いた」
「……結構辛辣な言い方しますね、あなた」
「ゆりかごが暴走状態なのを承知の上で手に入れようとしているんだが、奴らは今のゆりかごの主……そう、あんたが邪魔だった。あの聖王がまだ生きていたこと自体が想定外らしいが、それを知ったら確実に動き出す者がいる。まぁ言わなくてもわかるだろうが、あえて答える……あんたの戦友だ」
「クラウス……?」
「そう、覇王クラウスに鉄腕王ヴィルフリッド、他にもいるらしいけど、名前忘れた」
「え~名前忘れちゃったんですか……」
「いいだろ、別に。それならあんたは何十万もいる国民の名前を全員覚えられる?」
「うっ……流石にちょっと無理、ってそれはあまりに極端では?」
「話を戻す」
「あ、ずるい!」
「彼らは独自にあんたの救出に動いた。だが……奴らが一手先を行っていた。要するに、あと少しの所で捕まったんだ」
「捕まった……!? そんな馬鹿な、王の力を持つ者がそんな簡単に捕まるはずは……」
「国民を人質に取られた」
「っ……!」
「新型の大量破壊兵器アルカンシェルを首都に撃つとちらつかせてね。逆らえばシュトゥラを始めとした国、いや、ベルカの血筋全てが歴史から消え去ることになる」
「そ、そういうことだったんですか。確かに王には王たる責務がある……クロゼルグのこともあった以上、クラウス達も民を見捨てる真似は決して出来ません。王だからこその弱点を突かれた訳ですか……」
「ん、だから俺が来た。表向きは奴らの命令であんたを暗殺しに、本当はヴィルフリッドの最後の頼みを叶えに」
「最後の頼みって……その言い方から察するに、もしや……」
「ああ……毒だ。彼女の命は風前の灯火、間違いなく明日まで持たない。だからヴィルフリッドから、一つ策をもらってる」
「リッド……。そもそもあなたは、リッドとどういう関係なんですか?」
「創造主と被造物、ドライバーとギア・バーラー、マスターとゴーレム、そんな感じ」
「あぁ……おおよそ理解できました」
「なら話、進めていい?」
「ええ、どうぞ……」
「内容は単純だ、俺がこの艦をユニット含めて全部破壊する。奴らは俺があんただけ殺して、この艦の損傷を最低限に済ますと思い込んでいるが……それを逆手に取る」
「なるほど、いっそ二度と使えなくすれば次の戦争の要因にはなりえない、ってことですね。……ですが、あなたは良いのですか? それを為せば、恐らく……」
「両勢力の目論見を潰したことで恨みを買い、事実と虚構を混ぜ合わせた汚名を背負うことになる。例えばあんたの制御下を離れた後にこの艦が滅ぼした国や人が、情報操作で俺が殺したことになったり、身を投じて戦争を止めた聖者を手にかけた悪魔と呼ばれたりと、まあ少し考えるだけで色々ある。でもそんな外聞、俺にはどうでもいい。俺にもこの策を貫く理由がある」
「理由?」
「……」
「答える気は無いのですね……わかりました。では私も最後の力を振り絞って、あなたに協力します。もう自力ではほとんど動けない身体ですが、艦のシステムに干渉してあなたへの攻撃を妨害することは、まだできます」
「そ。じゃあ少しだけ踏ん張ってて。あんたが世界にあったら不安に思うもの、残したくないと思ってるもの、全部壊してくる」
「ええ、いってらっしゃい。……この言葉を口にしたのは、いつぶりでしょうか……。こんなことを思えるのも、“ゆりかご”に囚われてからは一度もありませんでしたからね」
久しぶりに笑顔を浮かべた彼女―――聖王オリヴィエは彼を見送り、彼はエレミアの策の通りにゆりかごの各パーツをスクラップ同然になるまで内側外側関係なく破壊していった。このゆりかごは素体の戦艦(それでも全長1キロメートルぐらいある)に、武装の大半を担う外部ユニットを装着することで本領を発揮する。彼はその外部ユニットを悉く粉砕し、素体の戦艦もよほどの技術者が修理しない限り、二度と飛ばせないほどに壊していった。
盛大に破壊したことでゆりかごの墜落も時間の問題となった頃に、彼は玉座の間に戻ってきた。それは牢獄に囚われし聖王に終わりを与えるため、彼女の魂を解放するため。もはや生命維持システム無しでは生きられない彼女だが、ゆりかごの完全破壊、及び次の戦争回避のためには彼女の抹殺が必要不可欠であった。
「これでベルカは力と欲に憑りつかれた者の思惑を覆し、次の戦争を起こさずに平和へ歩き出せます。あの凄惨な戦争はこれで本当に終わった、新しい時代が始まった……」
「……」
「後は……私に残された最後の役目を果たすだけです。私の命を消し、血塗られた暗黒の時代に終止符を打つこと。もう……あんなことが繰り返されないように、皆で明日の太陽を拝めるように。だってこの世に明けない夜は無いって、あなたが示してくれたんですから」
「……オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。あんたは……」
「あぁ、そういえばもう一つだけ大事な物があったのを思い出しました。玉座の後ろに埋め込まれてある剣を持って行ってください。あれは力の及ぶ一定範囲を守護する剣で、ゆりかごを無敵たらしめるもう一つの鍵でした。でもあの剣はこの時代の、いえ、この世界の人間が持つべきものではなかった。太陽の如き情熱と暗黒の如き抱擁の両方を兼ね備えている、そんな人間が持つべきものだったのです。いつかそんな資格を持つ者が現れるまで、俗世から離れた場所で静かに眠らせてあげてください」
「ん……承った。常人の手に渡したくないなら、良い場所に心当たりがある。それに……あそこならクラウスが焼け落ちたクロゼルグの森で生き残っていたのを見つけ出し、ヴィルフリッド・エレミアが植えた苗を守ってくれそうだ」
「そうですか……それはきっとあの剣も喜ぶはずです。では……最後に、あなたの名前を教えてください。私の最後の希望で、私を殺してくれる“ヒト”の名前を……死ぬ前に胸に刻みたいんです」
「俺は……ギア・バーラー、レメゲトン」
「レメゲトン……決して忘れません。絶望の中にいた私の、長い夜を晴らしてくれた、輝ける太陽……」
「……さよなら、オリヴィエ。多分……初恋だった」
……キンッ!
そして……ゆりかごは墜落した。戦争は終結し、彼は預かった剣をとある場所に隠した後、世間から姿をくらまして戦乱を再び引き起こそうとする存在と陰で戦い、そして長い眠りについた。なお、この時から彼はレメゲトンの名を勝手に口外されることを非常に嫌悪するようになったのだが、その理由を知るのは本人と、仲間の手で丁重に埋葬された創造主のみである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
マキナの日記。
新暦66年、12月13日。
今日は第100独立世界ミルチアに来てみた。ここはさながら未来国家そのもので、天を突くほどのメガロポリスや、島ぐらい大きいメガフロート、海底都市同然のジオフロントとか、SF色満載な見どころがたくさんあった。
でも、そんな高い技術力がある世界でも苦しむ人はいる。私達がこの世界に来てから知り合った青年、シン。彼の妹のラウラが3年前から突然、まるでスイッチが切れたようにまぶたを除いて身体が全く動かせなくなるという特殊な病気にかかってしまい、指一本さえ自分で動かせないらしい。症状だけなら筋ジストロフィーとほぼ同じだが、こっちの発症の原因はそれとは別にあるみたいだ。彼は妹を治すためにあらゆる手を尽くしたようだが、未だに妹がこの状態なのだから相当の難病なのは間違いない。
ま、薬や点滴ばっかりじゃ気も滅入るだろうし、たまには趣向を変えて美味しいものと思ってアクアソルを飲ませてみたら、ピクッとラウラの指が動いた。するとシンは相当驚いて私にアクアソルはどんな薬なのか尋ねられたけど、これ分類上は薬じゃなくてスポーツドリンクなんだよね……。確かに全身の血行を良くして緊張をほぐす効果はあるから、血液の流れが良くなって脳とかが少し活性化したのかもしれないけど……。それはそれとしてシンは私がアクアソルを作った上に次元世界の各地を旅していると聞いて、妹を助けるために力を貸してほしい、と頼み込んできた。
家族全員で土下座してまで真摯にお願いされたら、無下に突っぱねるわけにもいかない。あんなことがあった後だけど、私はこの少女を助けようと思った。身体の障害を治すだけでなく、身体機能も出来るだけ復活させるための薬……素材の調達には慣れてるから、難しいけどやってみよう。
12月15日。
薬の調合、思ったようにはいかないものだ。今までたくさん学んできたつもりだけど、実際に活かすのはまた別の苦労がある。私一人で出来ることも限られてるし、ここは専門家達に意見を伺うべきだろう。別の世界に渡れる人間が、別の世界の専門家に意見を伺い、別の世界の素材を用い、別の世界の人間を救う、か。これもヒトとヒトを繋ぐきっかけになるのかな。
12月17日。
この日、神の手を持つと評判の薬調合の先生、世界中の植物の生体や採取場所を知る博士、伝説的とまで言われた医者などなど、私の出会ってきた専門家が一堂に介した。何というか……彼らの偉業を良く知る人がこの光景を見れば、泡を吹いて倒れるほど驚くかもしれない。それぐらい歴史的な光景なのだ。
そんな先生達を引き合わせた私は、彼らからこの素材が必要と言われたら私が取りに行き、この人の技術が必要になれば私がお願いしに行き、この道具が必要となれば私が調達しに行き、の繰り返しで目が回るどころか常に尻に火が付いてるぐらい忙しい。でも開発は順調のようで、戻ってくるたびに成果が良くなっているから、私も頑張ろうと思える。
12月22日。
今回、私は数日かけて人間が行くには過酷な場所へ素材を調達に行った。ミッドのブルームーン並みの濃い魔力素が竜巻のように吹き荒れているせいで、魔法がまともに使えないどころか、身体の内側からダメージを受けてしまうほどの秘境、ギンヌンガ・ガプ。巨大なドラゴンやワイバーン、ヒトさえも丸のみに出来る肉食植物が大量に生息しているその地に“命の果実”っていう果物が成る木が生えている。これまでその実を求めて足を踏み入れた冒険家は、そのほとんどがその地の生物の糧になったという。ごくわずかに帰ってこれた冒険家も、二度と行きたくない、定職で足の付いた安全な生活をする、という感じで大抵心が折れてるとのこと。
いやはや……よくあんな地獄に一番近い場所から帰ってこれたものだと思う。アギトとケイオスがいなければ今頃私は間違いなくドラゴンの腹の中だ。正直、私もしばらく大人しく引きこもろうかと考えた。でも、私は止まる訳にはいかない。私の目指す先には、シャロンがいる。進み続けていれば、きっとまた会える。だから……私は止まらないよ。
そういえば命の果実が成る木があった草原に、緑色の刀身の先端が割れたみたいで真ん中がリング状の奇妙な剣が刺さってたっけ。あの一帯にはギンヌンガ・ガプのモンスターが全然近寄らなかったし、魔力素の嵐によるダメージも受けずにいられた。あの剣にはドラゴンも魔力素の嵐も退くほどの守護の力があるのだろう。もしかしたらあの剣は命の果実の生る木をモンスターから守るために、あの場所に刺さってるのかもしれない。そう思った私は、あの神秘的な剣をそのままにしておいた。なんていうか、勝手に持ち去ってはならない雰囲気というか、そこにあるのが最も自然に感じたのだ。そもそも下手に持って行って、ファーヴニル事変みたいなとんでもない事態になったら取り返しがつかないわけだし。私は管理世界の人間のように、自分勝手な都合で何もかも強奪していくような人間にはなりたくないもの。
あと……帰り際にケイオスがなぜかお礼を言って、懐かしそうに剣と木を見ていた。彼はあの剣のことを何か知っているのかもしれない。でもわざわざ今聞き出す必要もないし、本人が話したくなったら聞いてあげるくらいの気持ちでいよう。
12月25日。
ついに薬が完成した。私や先生たちの努力の結晶、治すことにおいては究極に達した薬……オメガソル。名前は究極の太陽……どんな夜にも必ず朝が来るように、闇の中でも決して消えない輝き。即ち、曙光。そんな意味を込めて私が代表として名付けた。
そういえば、今日は面白いことに聖夜だ。私にとっても、アイツにとっても色んな意味で特別な日に完成したのは、何かしらの運命を感じる。なお、完成のために必要な最後の決め手になったのは、私のアクアソルだった。
いつの間にか先生達が組合を結成してたのは驚いたけど、次元世界版の医療組合を作るきっかけや、これまでの素材を用意した功労者に見合う功績として、先生達はオメガソルの製作者代表の座を私に譲ってくれた。彼ら曰く、この薬の作成に携われたことだけで十分らしい。
さて、私や先生、家族の皆が見守る中、この薬をラウラに飲ませたら、時間はかかったけどしっかり自力で起き上がれるぐらいにまで回復した。あれは嬉しかったな。皆の誰かを助けようとする努力が実ったんだから。
にしても……“組”と言えばシンの家も“組”だったか。家族の部下の黒服達に、「お嬢、ちわっす!!」なんて感じに頭下げられるようになった。そんな御大層な人間じゃないけどなぁ、私。
ところで回復してからようやく言葉を話せるようになったラウラと色々話してみたら、彼女、性格が中々に面白かった。親もアレだし、あの家はミルチアの今後に大きな影響を与えるかもしれない。次に会える時が楽しみだ。
~~~~~~~
新暦67年、8月13日。
新しい依頼が来た。どうも病院からの火急の要件らしいが、移動中に感じてるこの胸騒ぎは何なんだろうか? これは2年前みたいに何か、大きな戦いが始まる予感なのかな? もしそうならサバタ様、どうか私の戦いを見守っていてください。
(ここから先はページが途切れている)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第一管理世界ミッドチルダ中央部、西部方面への地下鉄。
暗黒物質の雨の中に長時間さらされるのは私でも辛いので、地下鉄への階段を見つけるなり、私は看板ボードの底にエナジーを介して水を纏わせ、陸のサーフィンみたいに階段を滑り降りた。駅内はエネルギー不足のせいなのか、それとも発電所がやられたか、はたまた電気配線が切れかけているのか、とにかく電灯が点滅して不気味な雰囲気が漂っていた。私はエナジーでその電灯を太陽ランプみたく一時的な明かりを点けながら進んでいき、改札は……切符を買ってる余裕も無いので通る際に軽く謝っておいた。
電車もニーズホッグの端末兵器の襲撃を受けたせいで、駅のホームの近くで見るも無残に壊れていて、中は逃げ切れなかった多くの人がレーザーに射抜かれて焼け焦げた跡があった。……閉鎖空間で襲われたら、何の力もない一般人にはどうしようもなかったようだ……。
北部方面の線路は一本前の電車の運転手が真っ先にやられたせいなのか、電車同士が衝突していてとても通れそうになかった。前回も酷かったけど、今回もどれだけの犠牲者が出ているのやら。
『こうして地下鉄の線路を進んでいると、子供の頃、恐竜の化石とかが眠ってるんじゃないかという夢を見ていたことを思い出します』
気分転換のつもりなのか、イクスが気の紛れそうな話題を提供してきた。恐竜か……レックスとかエクセルサスとかかな? っていうか恐竜の化石という夢を見ていた辺り、イクスって何だかんだ言って結構男の子なロマンを持ってるよね。
「そういや古代ベルカにも地下鉄、というか乗り物はあったの?」
『あぁ、乗り物なら当時は馬車とか竜車が普及していましたね』
「竜車?」
『馬と同じように小型のドラゴンに乗るんですよ。肉食獣なので当然しつけるのは馬より大変ですが、道中の安全や移動速度ならぶっちぎりです。そりゃあ飛行魔法や転移魔法を使えばこんな危険なことをせずとも目的地に早く行けますが、リンカーコアを持たない人や飛行適正が無い人もいる以上、普通の移動手段としての乗り物もこのような感じでちゃんと存在していました』
「なるほど、魔法の有無はこういった所にも影響があるんだ」
『あと代表的なのは、魔導列車ですね。仕組み自体は電車と同じですが、動力が電気ではなくて魔力なんです。わかりやすく伝えるならば、カートリッジが車の燃料やバッテリーとして使われている感じです。というよりここの電車もよく見れば、私の時代の魔導列車の流れを汲んでいましたよ?』
「そうなの?」
『ええ。今の時代では元が同じだったことは忘れ去られたようですが、根本的なシステムは特に変わってはいないみたいです。当然ながら伝達中の消耗が減るように色々洗練されていますが……』
「要はレシプロ機とジェット機のような違いはあっても、飛行する原理は同じみたいなものか。……ん?」
明かりに照らされた線路の途中で、私は壁に奇妙な歪みを見つけた。触ってみるとまるで外から塗り固められたような感じで、他の部分と材質が違って少し脆かった。どうやら今回の襲撃の余波で、この先の何かを覆い隠していた壁が崩れかけたらしい。
「イクス、どう思う?」
『こんな辺鄙な所に隠している辺り、どうあっても見つからないようにしたかったんでしょうね。どこの誰の目から隠れているのかはわかりませんが』
「管理局がこれをやったなら、ロクでもない何かが隠されている可能性があるか……」
『行ってみます? 姿を隠すならここはうってつけだと思いますが。それに何らかの情報を得られるかもしれませんし、探索する価値はあると思います』
「セキュリティとかがあるかもしれないけど……そうなったら全力で逃げればいいか。じゃ、行ってみよう」
意を決した私は高周波を流した民主刀で一気に壁を斬り捨てて、隠されていた通路を露呈させた。ポッカリと開いたその通路はそこそこ長く、まるで地の底に続いてるようでもあっ……ッ!?
『ここで急にバックステップとは、一体どうしたんですか?』
「い、いや……なぜかわからないけど、そこの床を踏もうとした瞬間、すごい悪寒が走ったんだ」
『……? 一見、周りと同じで何の変哲もない床ですが……あ、でも“怖いもの知らずは信用してはならない”とガレアの帝王学で教わりましたし、ここは慎重にシャロンがなぜ恐怖を抱いたかを追求してみるべきでしょうね。試しにダンボール箱でも置いてみます?』
というわけでイクスの提案を受けた私はここに来る途中でまた拾っていたダンボール箱を、悪寒を感じた床の上に投げ入れてみた。
シュビビビビ!! ボッ!!
「……」
『……』
「……。……燃えたね、ダンボール」
『燃えましたね。一瞬で消し炭です』
「高圧電流の床かぁ。こんなのに気付けた私の勘も捨てたもんじゃないや」
『何もない上に暗くて長い道で高圧電流を仕掛けてくるなんて、相手も中々底意地が悪いですね。普通はわかりませんよ、これ。もし気付かず足を踏み入れてたら今頃どうなっていたか……』
「間違いなく感電死してるよ。骨とか見えるんじゃない?」
『ギャグ時空ならなぜか無事でも、リアルだと洒落になりませんよ。にしても今回のように、シャロンは恐怖に敏感ですよね。何らかの脅威や危険に対し、予知レベルの察知能力があると言いますか。今後シャロンが怖いと感じたものは、一層注意しておく必要がありそうです』
「ただ臆病なだけだと思うけど……」
『しかし王や将軍などのように、他人を指揮する立場の者は勇敢な者より臆病な者の方が適しているんですよ? なにせあらゆる物事に慎重になるから、欲をかいて戦いの被害を増やし過ぎないし、それに伴って和解の障害になる火種を生まないし、味方も自分達の生存率が上がって士気が高まります』
「わかりやすく表すなら、戦士と一般人では視点が違う、みたいな?」
『あ~大体そんな感じです』
そんなわけで雑談もひと段落し、私は高圧電流の床を壁走りで無理やり突破した。にしてもこの床、飛行魔法を使えれば何の問題も無いんだろうが、そもそもこんな狭い所だと目的が無い限り普通は使わないものらしい。飛んだ所で特に移動範囲が増える訳でもないし、機動力も上がらない、むしろ勢いが付き過ぎて壁にぶつかる危険があるから、速度に意識を置く必要があるし、そのせいで戦闘に集中できず劣勢に追い込まれることだってよくある。飛行魔法を覚えたての初心者魔導師にはよくあるミスなんだとか。恐らくはそういう常識の穴を突いたトラップなのだろう。
それはともかく、一番奥にたどり着いた私が見たものは、大規模な電子機器が張り巡らされた部屋と、その先にある大穴を見通せるガラスの壁だった。
「何だろう、ここ。まるで何かのデータバンクのような雰囲気がある……」
試しに目の前のコンソールパネルをいじってみると、ぼぅっと起動して画面が浮かび上がった。画面には何かの文字列が並び、文章らしきものを展開していた。恐らく、これはアカウントを使うためのパスワードなんだろう。
「この文字は……」
『ミッド語でもベルカ語でもありません、どうも知名度の高い言語ではないようです。これでは読めませんね』
「ふんふん……“高貴なる者たちよ、地上へようこそ”……」
『って、読めるんですか!?』
「世紀末世界で読んだ本の中に同じ言語があった。あっちの図書館には次元世界では失われた言語の文献もまだ残ってたから、好奇心をそそられて翻訳している内にいつの間にかね」
『うわぉ、しかも一瞬で解読してましたし、次元世界の考古学者や翻訳家は形無しですねぇ……』
とりあえずコンソールに今の言葉を入力するとログインに成功し、読み込みを開始した。一体何があるんだろうと思った、その時。
『驚いた、まさかあの言語を読める者がいたとは』
こんな人気のない場所で唐突に老人のような声が聞こえ、私は心臓が一瞬飛びあがるほどに驚いた。すると今の声に鼓動するかのように、コンソールに酸素マスクを付けたような顔をした3人の老人が浮かび上がってきた。
「あなた達は……?」
『我々は管理局最高評議会。次元世界を統べる者だ』
「最高評議会……?」
『貴様のことは我々も記憶、いや、記録している。月詠幻歌の歌姫、ファーヴニルを封印せしニダヴェリールの月下美人よ』
『こんな形でまみえようとは、不可思議な因縁もあったものだ』
「因縁? ……あぁ、今の一言で大体想像ついた。ずっと昔からあなた達が裏で糸を引いていたんだ。ニダヴェリールで闇の書の暴走が始まった時、管理局が来るのが妙に早かったのも、ニダヴェリールを管理世界化して魔導結晶を手に入れるため。それに連動してファーヴニルの封印を弱めたのも、絶対存在の力を得るためだった。いわば、あなた達はニダヴェリールの、アクーナの民の仇なんだ」
『……憎いか、我々が』
「ああ、憎いね。どんな事情があろうと許せないし、怒りのあまり我を忘れそうだ。大体、あなた達はどうしてそこまで力を求めてたの? そんなことをしなければ、ニダヴェリールが滅ぼされるようなことにはならなかったかもしれないのに」
『力を求める理由か、なら答えてやろう。我々は次元世界を存続させるために、己が人生全てを投げ打ってきた存在だ。かつて戦争によって疲弊していた次元世界を、自らの手で立て直すために……』
『平和を作り出すには力が必要だ、完全体の聖王のゆりかごのような。だがそれは失われてしまった、故にその代わりとして我々は何者であろうと圧倒できる、伝承に伝わる神の力を求めていた』
「神の力?」
『原初の魔導師が振るいし“神剣モナド”。次元世界全てのデバイスの祖となる武器であり、我々の知るデバイスは全て当時製作されたモナドの劣化コピーから派生したものだ』
『伝承によるとモナドは資格を持つ者が振るえば、全ての事象を思い通りに操ることができる。起こりえる全ての事態に先んじて対応できるほか、ファーヴニルのような絶対存在さえも凌駕できる力を得られる。まさしく最強のデバイスと言えるロストロギアで、今の情勢では銀河意思に対抗する切り札に成りえるのだ』
『それほどの力を求めたのも、全てはあの荒廃した世界を立て直すため。今度こそ完全な平和を手にするために、我々は管理局を設立した。世界の管理、ロストロギアの管理、全ては我々の正義の下で次元世界全てを安全な管理下に置くため』
『ヒトは尤もらしい理屈を“正義”と言い、理解できない行動を“悪”とみなす生物。故に我々はヒトに己が正義を行使できる場として、管理局は次元世界の守護者という役割を培った』
『だがヒトの中には、その在り方に反発を持つ者もいる。過去にこだわる者、プライドを守ろうとする者、変化を拒む者、全てを捨ててでも願いを叶えようとする者もいる。力を持つ者、持たざる者、共にはけ口が必要だったのだ』
『我々は際限なく現れる持たざる者達を“悪”とみなすように、管理局法を制定した。持たざる者達も我々の策の下、自覚なき操り人形として動かしてきた。こうして“持つ者の善”と“持たざる者の悪”が永遠に衝突するシステムを構築し、法の下で懐柔させていくことで彼らが培った力を取り込んでいった』
……はぁ、なんだかなぁ。思わずため息が出たよ。
最強のデバイス、神剣モナド?
管理局法は持つ者と持たざる者を衝突させるために用意した法律……?
持つ者と持たざる者を衝突させることで、彼らの力を取り込む……?
ごちゃごちゃ言ってるけど彼らの言い分は要するに、管理局に集った人間は散々使い果たし、ボロ雑巾のように捨てる。邪魔者は利用できるように誘導し、最終的には取り込んで何者にも屈しない力を得る、ってことだろう。確かに世界を平和にするってことは綺麗な理想なんだろうけど、理想って奴は綺麗であればあるほど血を求める。まるで月夜に嗤うヴァンパイアのように、正義の理想は妖艶に人を誘惑、魅了する。そしてアンデッドのように感染を広げるんだ。
そんな風に考える私から見れば、こういう理想主義者はイモータルと同類だね。
『我々がそうであるように、正義であろうとする者は、他者にもそうあれと望む。他者にとってはそれが途轍もない苦痛であろうと、自らが信じる理にその者が従うことに喜びを感じる。それがその者のためになると、一切疑わずに』
『それが受け入れられない者、即ち持たざる者は何かを変えようとして、他者を排除しようとする。自らの信じる考えを成し遂げるためならば、他者を犠牲にしようと構わなくなるほどに』
『そう、正義は悪であり、悪もまた正義である。長い時を経た我々は知っている、平和とは双方のバランスが調和を取れている状態であると。正義が強くなり過ぎた時は、正義の下に人心が動き、偏見と独裁が横行した。悪が強くなり過ぎた時は、悪の下に時代が動き、倫理と秩序なき混沌を生み出した』
『我々はヒトの無意識を管理下に置くために、様々な手を尽くした。環境による思考の誘導、言葉による意識の変質、喪失による感情の覚醒……』
『大抵のヒトはAという環境にBという事象が起こればCという行動をする。ありとあらゆるパターンとデータを集め、確率と統計を計算、考察し、我々は次元世界に生きるヒトの在り方を掌握した』
「傲慢、ここに極まれり。在り方を掌握とか、まるで自分達が神にでもなったかのような言い方だね」
『それの何が悪い? 力のある者がそれ相応の立場と権利を得るのは、社会のシステムとしても当然の話だ。我々のような特別な存在こそが、民衆を、世界を導かなければならないのだ』
『例えばの話だ。天才とも謳われるほどの賢者が、知性の欠片も無い野蛮人に教えを乞うのか? 長年磨かれてきた職人の技術が、ぽっと出の新人に劣るのか? 地獄を生き延びた歴戦の戦士が、戦場のせの字も知らない一般人に倒されるのか? 否、全て否だ。なぜなら敗者には経験が無い、状況の対処法がわからないのだ』
『それは次元世界の、国の政治にも当てはまる。政治を行うには政治の知識が必要だ。経済活動、人間関係、異変兆候、株価変動、参勤交代、ありとあらゆる世界情勢に敏感でなくてはならない。だというのに民主主義やら選挙やらで、何の知識も無い新参者をトップに就かせたらどうなる? 確実に破滅し、世界が乱れる。だから長い時を経た我々こそが統治し続けなくてはならないのだ』
「人心を操る経験が豊富だから、あなた達はミスを犯さないと?」
『ああ、そうだ。そのはずだった』
はず?
『我々は見落としていた。銀河意思は死者を現世にすくいあげていたということに。銀河意思ダークが送ってくるイモータルとは、世界や当たり前の加護から外れた者達が成り果てる存在であった。我々が生み出した善と悪の対立構造は、法の下で確保という名の消去で、零れ落ちた者が無限に現れるシステムになっていた』
『だがイモータル、アンデッドとはその零れ落ちた者達が力を得て戻ってくることだった。彼らの思念、怨念は我々の想像をはるかに超えていた。スカルフェイスが我々の築き上げた駒をいとも容易く掌握したようにな。そして……』
『我々のシステムが作られる前の時代でイモータルに成った者の怨念は、もはや太陽さえも抗えない程の暗闇と化していた。その闇は我々の本体の肉体を一薙ぎで消し去り、管理局の全てを奪われてしまった』
「その闇って、公爵デュマのこと? 本体の肉体?」
『ここにいる我々は、再現データだ。オリジナルの我々はデュマの手で既に死亡している。オリジナルはデュマに殺される直前に、データバンクへオリジナルの思考や権限などをバックアップし、我々という同じ存在を作り出した。もはや肉体の有無は、脳しか肉体が残っていなかった我々にとっては大した問題では無かったのだ』
『しかしデュマは我々の存在にすぐ気づいた。当然デュマは我々をデリートしようとしたが、実は管理局のサーバーは我々の反応が完全消失したらセキュリティロックされるように設定されている。つまり最後の砦たる我々を殺せば、管理局をSOPの首輪で繋ぎ止められなくなることを意味していた』
『我々をデリートするわけにはいかなくなったデュマは我々の権限に限りなく近い権限を手にすることで2年前の計画に対処したが、我々はこうして外の様子を知ることは出来ても影響は何も与えられないデータバンクに閉じ込められた。奴らが管理局のサーバーを完全に掌握するまでの間、我々を生かさせるために、自害することも、意識を消すことも出来ない電脳の牢獄に繋ぎ止められたのだ』
『皮肉な話だ。様々な社会規範やルールを作ってきた我々が、それらの治外法権に放り出されたのだ。今の時代ではさしずめ、プリズンヘイブンとでも言い表すべきか』
「でもそれは自業自得でしょ。あなた達は数えきれないヒトの運命を弄んできたんだから」
『運命を弄ぶ……客観的に見れば我々のやってきたことはそう映るだろう。だが我々も我々で銀河意思に対抗しようとはしていたのだ』
「何とも都合の良い言い訳だね。銀河意思と戦うためなら、何をしてもいいの? 他人の世界を壊すことになっても、銀河意思に勝つためなら何の躊躇もなくやるの?」
『ああ、やるとも。月詠幻歌の歌姫よ、これは生存競争……否、銀河意思の作り出した時の牢獄から脱出するために必要なことだ。ツァラトゥストラによる無限ループから抜け出さねば、決して終わらぬ戦いなのだ。手段や過程に意味は無い、今までの銀河意思の計画を悉く阻止できていたとしても、最終的に勝利できなければ、ヒトの未来は永遠に来ないのだ』
過程に意味がない?
最後に勝てなかったら未来が無い?
何か決定的な理由があるのだろうか?
それを尋ねたら、彼らはもったいぶらずに教えてくれた。今の次元世界はツァラトゥストラによる無限ループをしているらしい。誰かが接触するなどして条件が整ってツァラトゥストラの永劫回帰が始まると、世界はやり直されて再び時が流れ始める。これをどうにかして止めなければ、今までのことは全部無かったことになる。
かと言って、やり直された後の世界は前と同じになる訳じゃなく、同じ人物がいたり同じ出来事が起きたりするけど、接触者の動き次第で何かを変えることができるとか。
……ドクン。
じゃあ……じゃあもし、世界をやり直したら……マキナを、ニダヴェリールを死の運命から救えるの……?
『シャロン!』
「い、イクス?」
『世界のやり直しだなんて考えちゃダメです! それはこれまでの歴史を、今までの全てを否定することになります!』
「お、落ち着いてイクス。私はちょっと考えただけで実行しようなんて」
『人間、誰しもやり直したいことの一つや二つあります。時が戻ればいいのに、あの時ああしてれば、などと考えたらキリがありません。ですがそれを実際にやってはいけないのです。そんなことを一度でもやってしまったら、最も都合の良い結果になるまでやり直そうとするでしょう。例え今までの中で最も良い結果になっても、まだ上があるんじゃないかと考えて際限なくやり直してしまいます。これは私の予測ですが、ツァラトゥストラの永劫回帰は、接触者が今の世界に納得がいかなかったせいなのではないかと思っています。だから無限ループになっているのは即ち……』
「接触者が今の世界に満足していないせいで起きてる?」
『あるいはループ毎に接触者が異なっている可能性もありますが、とにかく現状を受け入れられない何者かであることは確実です。故に、辛い現実を前にして過去をやり直したいと思うのではなく、過去の誘惑に負けない意思が大事なのです』
過去の誘惑に負けない……か。でも衝動的に思ってしまうことまでは、どんな人間でも防ぎようがないなぁ。
『さて……ここまで話を聞いたならもうわかるだろうが、我々が出来ることは何も無い。残っているのは精神と記憶、牢獄では無用の長物となっている権利のみだ。しかし世界を存続させたいという意思は、尚も強く保持している。故に……貴様に我々の全てを授けてやることにした』
「は? 全て?」
何やらとんでもない発言を聞いた次の瞬間、目の前の電子機器から小さな透明のカプセルが出てきて、中には持ち手になる部分が無い奇妙な形状をした金色の鍵が、やけに大事そうに入っていた。
「これは?」
『“ゾハル・エミュレーター”。オリジナルの我々が手にしたロストロギアの一つだが、正直な所、これの本質は我々にもわかっていない。判明しているのはメモリーカードのような情報端末であることと、デバイスやゴーレムなどといった無機物を修復し、強化する能力だ』
『なぜこんな代物がここにあるかというと、オリジナルの我々が昔ここでギア・バーラーについて調査や研究をしていたからだ』
ギア・バーラーとは、鉄腕王ヴィルフリッド・エレミアによって生み出された最強のゴーレムとのこと。しかし制御には様々な条件があり、一つは動力源になる核。属性は何でもいいから、とにかく強いエナジーが込められた物質を融合させる必要があるらしい。もう一つはドライバーという、精神面での核となる存在。つまり唯一無二の相棒が必要なんだとか。
『はるか昔……まだ肉体があった頃の我々は、とあるゴーレムを手に入れた。それがギア・バーラー、ゴエティア。長い年月を生きた我々が、生涯最も心を預けられた存在だ』
『彼女は世界を平和にする我々の理想のために、ありとあらゆる障害を打ち倒してくれた。あらゆる問題から我々を守ってくれた。あらゆる困難から我々を支えてくれた。今だから言えるが、我々は彼女が見ていてくれたおかげで道を見失わずにいたのだ。もしあの事件さえ無ければ、我々もそこまで非道には走らなかったかもしれない』
「あの事件?」
『貴様もよく知る……闇の書の暴走だ。最初にあの事件が起こった時代は一般的には古代ベルカ戦乱期とひとくくりにされているが、実際には第一次大戦期と、第二次大戦期がある。第97管理外世界地球で言う、第一次世界大戦と第二次世界大戦のようなものだ。そして事件が起きたのは、第二次大戦期が終焉を迎えた数年後のことだ』
『当時は二つの戦乱期を生き延びた者達が、その後始末や世直しをしていた。今後あのような戦乱が二度と起きないように、我々は管理局の母体となる組織を設立し、混沌と化していた次元世界に秩序を作り出していた。我々は各地の復興や援助などに力を注ぎ、人々の意思と力をまとめ上げることに尽力していた。長く、苦しい戦争が終わったことで、人々は新しい時代を、平和を生み出そうとしていたのだ。だが……そんな人達の前に、闇の書は突然現れた』
『苦しい戦乱の日々を耐え抜き、ようやく希望を掴み出した者達を、闇の書は容赦なく手にかけていった。ゴエティアはその無辜の者達を守るために、闇の書へ単身立ち向かった。聖王オリヴィエがゆりかごで戦乱を終わらせたことは有名だが、そのせいであの時代では実力のある者の多くが死に絶えており、闇の書と守護騎士を相手に渡り合えるのは、現場にいた者の中では彼女しかいなかったのだ』
「ん? なんでここに聖王が出てくるの?」
『聖王のゆりかご……あれは一種の終末兵器だ。ゆりかごの標的となった国家は全て焦土と化した。王も兵士も騎士も国民も、あれの前では等しく塵となっていった。そう、ゆりかごはベルカの世界が滅んだ原因の一つだったのだ』
『聖王教会がなぜ聖王を信仰しているかわかるか? あの宗教団体は元々、ゆりかごの力を目の当たりにした者が聖王を畏怖すべき対象とすることで、ゆりかごの標的から逃れるために設立したのだ。そう、正確には“教会”ではなく“恐会”であったわけだ』
『ゆりかごは力を持つ者をことごとく殺戮することで、結果的に戦乱を収めた。それを都合よく情報操作することで、現代に至る聖王信仰が構築された。だがあの地獄を作ったのは、中にいた聖王本人の意思なのか、それともゆりかごに自動殺戮システムのようなものが搭載されていたせいなのか、我々にはわからない。ただ確実なことは、あれを止めることが出来ていなければ、確実に地獄は広がっていたことだ』
「じゃあ、そんな化け物を誰が止めたの?」
『ヴィルフリッド・エレミアが生み出したギア・バーラーの中で最強と言われた存在、レメゲトン。彼がゆりかごを破壊したことで、ゆりかごの殺戮が止められたのだ。恐らく彼は、中にいた聖王の最期を知っている唯一の存在かもしれない。尤も、信仰対象を殺した事実を快く思わない者や、我々のようにゆりかごを失ったことで目論見が外れた者が彼の名を貶めたのだが……今では栓無きことか』
『話を戻すが、ゴエティアは闇の書のカウンターとして戦った。数年、数十年に渡る戦いを彼女は続けた。だが不老である彼女と違い、我々も人間だった。我々は肉体の老いもあり、そろそろ管理局と彼女のドライバーとしての役目を次の世代に託すべきかと考えていた。だが……我々が見込んだ若者達に管理局と次元世界の未来を託そうとしたその瞬間、若者達は我々の目の前で闇の書の守護騎士による不意打ちを受けて殺された。その場にいた我々も深い手傷を負い、魔力を蒐集されて打つ手が無くなった我々の前で当時の闇の書は魔力を完全に充填させてしまった』
『闇の書に魔力が充填すると、次に起こるのは管制人格とナハトヴァールによる全ての破壊だ。ニダヴェリールの大穴を思い出せ、あれが都市部の真ん中で発生したら、どれだけの犠牲が出るかは想像もつかない。故にゴエティアは地上を守るために闇の書を成層圏にまで運び、闇の書諸共自爆した』
『おかげで地上に大した被害は出ず、世界も救われた。だが……失ったものは大きすぎた。闇の書に対抗できる戦力もそうだが、我々どころか次を託せる存在がいなくなれば、これまで管理局や彼女が必死に培った秩序が崩壊してしまう。彼女の意志を守るためにも、我々は死ぬわけにはいかなかった。肉体を捨てて脳だけになってでも、生き延びる必要があった』
なるほど……段々読めてきた。闇の書の襲撃のせいで最高評議会は肉体を失い、次の世代を育てる余裕も無くなってしまい、徐々に思考が狂い始めたのだろう。闇の書のせいで全てを狂わされた、という意味なら彼らも私と同じなのか。
『肉体を捨てた我々は業務の傍らで次の闇の書事件に備えてギア・バーラー、ゴエティアの再生を目論んだ。彼女のゴーレムクリスタルは大きく損傷し、核となっていた物質は自爆のエネルギーになったことで紛失されていた。故に我々は核になる物質の捜索や、彼女のゴーレムクリスタルを修復する方法を模索した。それで見つけたのが、ゾハル・エミュレーターだ』
「あ、ここで話が繋がるのね」
『ゾハル・エミュレーターの力を注ぐことで、ゴエティアのゴーレムクリスタルはゆっくりと修復されていった。とはいえ修復が終わるのに何年かかるかもわからず、こうして誰の目にも付かない場所に隠していた。そういう事情があったことで我々は闇の書などのロストロギアの脅威に対応する方法を別に用意する必要があり、様々な研究や策を講じていった。……後はさっきも語った通りだ』
「なるほど、あなた達は最強のデバイスであるモナドを、復活させた上で強化したゴエティアに持たせるつもりだったんだね。でもゴエティアが変わり果てたあなた達に従うと思ってたの?」
『ああ、思っていた。つい先日まではな』
「?」
『彼女をイモータルに奪われてしまったのは痛いが、しかし新しいドライバーであるエリオ・モンディアルのクローンと接し、嬉しそうに微笑む彼女を見て、我々は気付いた。彼女に、愚かで醜くて浅ましく成り果てた今の我々を見られたくないと。ああ、正直に言おう。我々は彼女を愛していた、彼女といることに幸せを感じていたのだ。我々と共に生き、我々以上に平和と幸せを渇望し、我々よりはるかに高潔に戦い抜いた彼女を。だからこそ、我々はもう表舞台に立とうとは思わない。この老害となった精神と共に、歴史の闇に消え去るべきだと』
『だがその前に、せめてもの贖罪をしようと考えた。もはや我々の思想は歪みはてた、これ以上生きてしまえば、いずれ更なる悲劇を招く。ならばこそ、我々は余計な考えを抱く前に消滅しておくべきだ』
『だが我々はデュマのプロテクトのせいで、自らを消去することができない。そこの機器で操作しない限り、我々は永遠に残り続ける。……シャロン・クレケンスルーナ、要はそういうことなのだ。すまないが……正気を取り戻しているうちに我々を、消してもらいたい。頼む……我々には、ここまで来れた貴様にしか頼めないのだ』
「……。ここで他人任せか……はぁ、あなた達のやってきたことは決して許されることじゃない。本当ならもっとちゃんとした贖罪をするべきなんだと思う。でも……その精神の歪みをもう変えられないなら、贖罪をさせても意味はない。だから……残念だけど後は閻魔様に任せるしかないね」
これが彼らに残された最後の誠意である以上、無視するのは気がはばかられた。私は脅してくるようなら普通に拒否するけど、ちゃんと誠意をもって頼んでくれば無下にはしない。
私は電子機器のコンソールを操作し、『データをオールデリートしますか? Yes/No』の画面を展開する。
「じゃあね、正義の味方の残骸。もし永劫回帰かなんかで次の世界に生まれ直したなら、今よりまともな世界にしてね」
私の人差し指がYesのボタンを押した途端、最高評議会のデータが分解されていった。不思議な感覚だが、私には彼らの理念が何となく理解できていた。彼らは一度後世に託すことを選んでいたが、その機会を奪われてしまったせいで、余計な重荷を持ち続ける羽目になった。その重荷が彼らの限界を超えてしまっただけなのだ。
『感謝する。報酬として我々最高評議会の権限は、ゾハル・エミュレーターと共に貴様に移譲する。デュマが手にした権限はあくまで我々の次席、我々のものにまでは至っていない。故に我々が消失することでSOPのサーバーも、一時的に奴らの手から解放できるはずだ。だから貴様は再度サーバーを掌握される前に、ゾハル・エミュレーターを持ってブルームーンにあるサーバー本体に直接アクセスするのだ』
「は、はぁっ!? 最高評議会の権限!? ブルームーンってどこ!?」
『ククク、誇るがいい。今この瞬間から、貴様が次の管理局最高評議会だ。この世界の未来を託すぞ』
そう言い残し、彼らは完全に消去された。カプセルが開いてゾハル・エミュレーターが外れると同時にデータバンクの機能も停止して電子機器も動かなくなるが、私は私でそれどころではなかった。
「つ、次の最高評議会って……どぉいうことぉぉおおお!!!!????」
『こ、これって……管理局を権利上で乗っ取ったことになるんでしょうかねぇ? いわば影のトップの権限を手に入れた訳ですし……』
「こういうのは押し付けられたって言うんだよ! そもそも私、アウターヘブン社の身分もあるんだけど!? 地球でサバタさんに社員証発行してもらってたんだよ!? なのに両方の組織に関わるって、色々マズいでしょこれ!? っていうかよくよく思い返してみれば、あの電脳ミソ達、後人を育てるのが億劫になってただけなんじゃないの!?」
『せっかく手塩に掛けて育てた後人がいきなり殺されたせいで、また失うことばかり考えるようになったことから再び育てる気を失ったんでしょう。よくある話です』
「だけどこんな形でポンと最大権力もらっちゃうって、しかもマキナや家族の仇が所属してる敵対組織のトップのって!? 正直いらない!」
『う~ん、でもいっそのこと本当に乗っ取っちゃえばいいんじゃないですか? だってほら、あのレジアス中将より上の権限を手に入れたんですし、彼にとってのダモクレスの剣にしておけば、今の犯罪者同然に追われるような状況を無くせると思いますよ』
「身を守りたいなら権力も武器にしろってこと?」
『はい。気に入らない者はいっそ除名してしまえばいいですし、そもそも今の世界の状況を鑑みるに、生きるためには組織を利用することも必要でしょう。少数の実力者でどうにかなるなら、ここまで追いつめられる前にあのエナジー使いの魔導師達だけで何とかなってるはずですし』
「強い個人に頼って勝てる状況は、とっくの昔に終わってるってわけか」
『ええ、管理局が個人の力に頼りすぎた結果が今なのです』
「イクスの言ってることは理解できる……考えてみれば今の私はいわば、“管理局の魔法を所有している”も同然だし、交渉とかで有効に活用するのが定石か。でも……そんなの私にはどうせ無……」
―――その言葉だけは使うな。
「あ……!? ご、ごめんなさいサバタさん! ……あ」
『シャロン? なんで急に謝ってるんですか? しかも誰もいない所に頭まで下げて』
「い、イクス……え、えっとね……その、今のはね……」
『私しか見てないんですから、恥ずかしがらないで大丈夫です。それより今の行動の理由を教えてほしいです』
「……え~っと、私、サバタさんの所でお世話になってた時期があったんだけど、その時にサバタさんが必死に語学を勉強してたマテリアルズと私達に向けて、この言葉だけは絶対に口にするなと言われたんだ」
『それが、“どうせ無理”?』
「うん。サバタさん曰く“一番恐ろしい魔法の言葉”なんだって。どうやらどこかの受け売りらしいけど、この言葉は言うだけで成長の可能性を止めてしまう。たった一言で諦めさせてしまうから、誰もが簡単に使ってしまう。もし特定の言葉を話しただけで感染するウイルスがあるとしたら、この言葉はまさにウイルスそのものなんだって」
『なるほど……サバタさんは面白い視野をお持ちだったんですね』
「しかもね、彼ったら『この言葉を口にしたら死後の世界からでも直接根性叩き直しに行くからな』とまで言ってきたんだよ? すごいよね」
『死後の世界から説教しに来るって、とんでもないこと言いますね。まさか自力で蘇るつもりなんですか。しかも何故か知りませんが、冗談ではなく本当にやりそうな方なのが何とも……』
「でも“叩き直す”と言ってくれてるから、彼からしてみれば相手が救いようがないぐらい落ちぶれようと見捨てるつもりはないんだよね。それに……ひまわりはうつむかない、か。はぁ~もう何なんだろう」
『シャロン?』
「ほんと、サバタさん然りザジさん然り、世紀末世界の人達は心に与える影響がとにかくすごいや。私のような弱虫でさえ、もう少しだけ頑張ってみようと思わせてくれるんだから……」
『ってことは……』
「別に管理局の上に立つつもりじゃないけど、この権力、利用させてもらう。けど先に身を隠せる場所を探すべきだね。じゃないと交渉どころじゃないし」
そう言い、私は最高評議会の置き土産であるゾハル・エミュレーターを拾った。確かに何か強力な力が秘められてるような感じがしたが、今は何の反応も示さなかった。無機物以外には特に影響はない、ということなのだろう。
「で、それはそうとこの後どうしよう?」
『とりあえず……セーブします?』
「いやゲームじゃないし、ここじゃセーブなんてできないし。冒険の書とかがあれば話は別なんだけど」
『冒険の書あるんですか!?』
「うん、世紀末世界の図書館で見つけた」
『えらいところ網羅してますね、世紀末世界の図書館!』
「とにかく無いものは仕方ない、なぜかそこに落ちてたインクリボンでも持っていこう。タイプライターがあればセーブ気分ぐらいは味わえるよ」
『ゾンビが闊歩する街ですか。ある意味、間違ってはいないんでしょうけど……って、話がずれてます。まあここは隠れ場所としては悪くないんでしょうけど、あまり長居したくない気分ですよね』
「ここが外れだっただけだよ。他の所を探せばいい」
『ですね』
とんだ寄り道になってしまったが、得るものはあったから無駄ではない。地下鉄の線路まで戻るのは面倒だったけど、途中の高圧電流の床は動力が切れたから止まっていた。おかげで戻る時に罠の心配はしなくて済んだが―――
「お前……やはり強い! 倒し甲斐がある!」
「トーレ姉様~、チンク姉様~、そんな時代遅れの騎士なんか打ち負かしちゃいなさ~い!」
「クアットロは油断が過ぎる。私とトーレが一度出し抜かれたことがあるのを、もう忘れたのか」
「出し抜かれたって言っても4年前の話でしょう、チンク姉様? 大体、あの時の彼はもういないじゃない」
「ほう、つまり俺では彼に及ばないと? なめられたものだ!」
「いやぁ、別にアタシはなめてないっスよ? なめるのはお菓子ぐらいっス」
「あらあら、こっちのボードの子はまだまだ子供っぽいわねぇ。ねぇあなた、こっちに付いてくれたら今度マフィンとか御馳走してあげようか?」
「マジっすか!? じゃ、コッソリと……」
「ちょっとウェンディ!? 敵に懐柔されてるんじゃないわよ!?」
「冗談っスよ~、真に受けないで欲しいっス~♪」
「そもそも君達はなぜ俺達の邪魔をするんだ!?」
「答えは簡単、仕事だからだ」
トンネル内で4人の青タイツの女性と、私を一度捕縛したゼスト含む局員3人がいたのだが……見事に戦闘中だった。眼鏡をかけた茶髪の女性クアットロは特殊能力で味方の攻撃に幻影を混ぜることで翻弄し、赤に近いピンク髪の女性ウェンディは浮遊する機械のボードで、スバルとギンガによく似た女性局員の体術を防ぎ、見覚えのある男性局員は離れた位置から銃型デバイスで支援している。
一方でゼストと銀髪少女チンクの戦いは凄まじく、槍とナイフのリーチの差をナイフ投擲や、懐に潜り込んでCQCで翻弄するチンクに対し、ゼストは槍一本を超人的な豪腕で振るうことで悉く対応しきっていた。その構図を一言で表すなら、忍者と騎士の衝突だろう。私にとっては騎士の方が悪印象なのだが。
大体、私は“騎士”という存在に胡散臭さを感じている。別に物語に出てくる騎士を否定してる訳じゃないが、次元世界の騎士はむしろ殺し屋、暗殺者、詐欺師、嘘つきなどの負のイメージが強い。ぶっちゃけ、それも闇の書に植え付けられたトラウマが原因なんだけど。
「せっかく魔法が戻ってきたってのに、なんで人探しで襲撃を受ける羽目になるんだ……あ」
「あ」
偶然、ティーダとバッチリ目が合ってしまった。やっぱり彼は執務官らしく目が良いが、ここで発揮してほしくは無かった。
「隊長、彼女を見つけた!」
面倒なことに、発見フェイズに入った。最高評議会の権限もゾハル・エミュレーターを通じている以上、接続できるデバイスか端末が必要になる。つまり今の私では彼らの魔法を抑えることが出来ない。もしこのまま地上本部に連れ去られたら、交渉する間もなく私は彼らの人形にされてしまう。だから今は何とかして、この場を潜り抜ける必要がある。
ガキンッ!
「命令なら容赦なく撃ってくるんだ……一度は助けてくれた、あなたでも」
ティーダの弾丸を刀で弾いた私は、残念そうに彼の顔を見る。
「そんな目で俺を見ないでくれ……。俺だって、俺だって君を撃ちたくないんだよ」
「嫌だと思うなら今の内にやめてほしいんだけど」
「それは……出来ない。ごめん」
「う~ん、でも私だってティーダ君の気持ちはよ~くわかるわ。ゼスト隊長、彼女の力がどうしても必要なのは重々知ってるけど、一般人相手にここまで本気出すのが管理局員のやることかしら?」
なんか戦闘中なのに話に割り込んできたクイントがゼストに質問を投げるが、チンクのナイフと鍔迫り合いに持ち込んだゼストは険しい顔をしながら質問を返した。
「ではクイント、もしファーヴニルが再び解き放たれたとして、その結果お前の家族が犠牲になったらどうする? 母親のお前は、それを受け入れられるか?」
「ぐ、痛いところを突くわね……。でも本人の意思を蔑ろにしてでも世界を救ってもらうやり方は、どう考えても駄目な気がするわ。母親だから、ううん、私も一人の女だからこそ、彼女が嫌がって逃げる理由もわかるのよ。ほら、恋の駆け引きでも強引過ぎると嫌われるものでしょう?」
「それで彼女が感情に従った結果、この世界が滅ぶのならばどうしても俺は見過ごせない。感情ではなく、理屈で俺は彼女を捕らえる。世界を救える力を持つなら、救うために使わなければならないのだ」
「そんな理屈を部外者の私に押し付けないでよ。私は元々ニダヴェリールの人間、今は世紀末世界に帰化してるも同然だけど、どちらにせよミッドチルダをわざわざ救う理由がない。ファーヴニルだって元々はあなた達次元世界の人間がニダヴェリールに手を出したせいで目覚めたんだ。私の故郷を滅ぼした原因の一つなのに、それでもあんな化け物を一度は止めてあげたんだから、もう関わらないで欲しい……」
「一度だけでは駄目だ、何度でも止めてもらわなくては意味がない」
「じゃあそうなる前に別の対処法を用意すれば良かったじゃない。月詠幻歌以外の封印方法を用意すれば、私をここに閉じ込める理由はなくなるのに……」
「だから、それが用意できるまで留まって欲しいと言っている……! なのになぜ、お前は誰でもわかるこの理屈に納得しない……! お前にはこの世界を救おうという気持ちはないのか!?」
「むしろ滅べばいいんじゃないかな。あなた達のような人しかいない世界ならね」
「あ~男は理屈で、女は感情で動く生き物だって、前にティアナから聞いたっけか。なるほど、つまりこの状況は“理屈VS感情”って訳でもあるんだなぁ。理屈は大衆、感情は個人……優先順位が違うだけでこうまで衝突するとは、果たしてどうするのが未来に繋がるのやら」
「他人事みたいに言ってる場合かしら、ティーダ君? これは私達、次元世界に生きる全ての命の問題でもあるのよ。嫌がってることをこっちの都合で押し付けているのはすごく気が重いけど……人間が物を食べなきゃ生きていけないように、彼女が歌ってくれなきゃ世界は……」
なんて会話をしているうちに、私は彼らへの注意が疎かになっていることに気付く。同時にシェルターの出来事もフラッシュバックし、私は反射的に横に飛んだ。その直後、件の捕縛ネットがさっきまで私のいた位置を通り過ぎていった。
「やっぱり……! まだ持ってたんだ」
体勢を立て直した私は今のを撃ったゼストをにらみつける。
「外したか……が、こんな飛び道具に頼るのは最後にしよう」
そう言って捕縛ネットを撃ち出す銃を捨てたゼストは、彼が愛用しているアームドデバイスの長槍を改めて構えた。
「やはり……俺にはこれが合ってる」
「言う事を聞かないなら力づくで従わせるって? 騎士が聞いて呆れる」
「何とでも言うがいい。もはや今の俺は真っ当な騎士とは言えん、髑髏事件に関わった先代のアルビオンと同類だ。そう、誇りを捨ててでも、俺には譲れないものがある」
「あぁ、そうだよなぁ……俺にも守りたいものがあるから、君を捕まえなくちゃならない。本当は君を見逃してあげたいけど、たった一人の家族である妹の命が脅かされるなら、俺は妹を取る。ごめんよ、元々関係なかった君をこんなことに巻き込んじまって」
「無実の女の子相手に戦うなんて、正直やる気が全然出ないわ。でも家族のためには、やるしかないのよね……」
改めて戦闘態勢に入る彼らに対し、青タイツの女性集団も無言で体勢を整える。
「聞け、シャロン・クレケンスルーナ」
一旦ここまで下がってきたチンクから、小声で話しかけられた。
「私達はアウターヘブン社のシオンから要請を受けてきた。あなたを発見次第、シェルターまで無事に送り届けるのが任務だ」
「……」
「彼らと戦闘中とはいえ偶然ここで合流できたのは良いが、このままでは厳しい。急ぎこの場から逃げるか、さもなくば援護してもらいたい。早めに決めてくれ」
なるほど、ピチピチの青タイツという正直人前に出るには勇気がいるに違いない卑猥な格好ではあるが、彼女達はシオンが信頼して送ってきたのか。なら……、
「なら今から私の歌であなた達を支援する。こんな気持ちで歌うのは嫌だけど、勝つためならやってやる」
「ハァ~? な~んで私達があなたなんかの歌を聞かなくちゃならないんですかぁ~?」
「待て、クアットロ。彼女の歌の力は本物だ、支援してくれるというなら好都合だろう」
「そういや偶然聞いたんスけど、この子の歌がアタシ達にも影響を与えるかどうか、ドクターも知りたがっていたっスよ?」
「では一石二鳥になるな。頼むぞ、月詠幻歌の歌姫」
「……すぅ……はぁ……。Ahaaaaaaaaaaaaッ!!!」
怒りのこもった“アクシア・イーグレット”の歌い出しと同時に、戦闘が再開される。今回はエナジーと心を込めているため、彼女達の全身を淡白色の光が纏っている。チンクは最初にナイフを投擲して爆破し、ゼストがさっきと同じく槍で弾いたが、さっきと違って爆発の威力を抑えきれずに後ろに吹き飛ばされたことで、どんな効果が付与されたのかすぐに理解した。
「これは……エナジーだ! 私達の攻撃にエナジーが付与されているぞ!」
「お~、身体中がポカポカして気持ちいいっス! いつもより調子も良くて動きやすいっス~♪」
「私達の武器の攻撃力も上がっている、月詠幻歌が守護系の加護を与える歌なら、この歌は攻撃系の加護を与えるようだ」
「それだけじゃないっス。どうも敵対者を弱体化させる効果もあるっぽいっスね、“敵”の基準がどこなのかはわからないっスけど」
「とにかく味方には支援バフ、敵には弱体バフを同時にかけるのが彼女の歌か。なるほど、ドクターが興味を持つわけだ」
「じゃあこの歌があれば、私達でもアンデッドに勝てるわけよねぇ? そこの管理局員や魔導師なんかを差し置いて、私達戦闘機人が上に……クスクス、これは面白いことに使えそうだわぁ……」
事実、さっき彼女達だけで戦っていた時と比べて明らかに戦況が優勢になっており、ゼスト達は彼女達の波状攻撃を凌ぐだけで精一杯だった。
「ぬぐッ……! その歌を……その加護を、どうして俺達には与えてくれない……! お前の力が最初からあれば、今日の襲撃でも多くの市民を救えたはずだ……!」
「なんてこと……せっかく良い歌なのに、私達のことが『嫌い』って感情が乗ってる。私達が……心から否定されている……」
「だからなのか、まるで水の中にいるみたいに動き辛くて息苦しいのは。これは色んな意味で辛いっつーか、一人の男としては急いで謝らなきゃマジでやべぇって気がするぜ……!」
「こんな時に……一人の男とか言ってる場合か……!」
「ううん……今のはティーダ君の方が本質を突いてるわ。ゼスト隊長、今回の件は私達が間違ってる。ヒトの心を無視して、世界の平和なんて守れるはずがないのよ……」
「騎士が……局員が公私混同して、秩序を守れるものか……!」
「ほう、正義の味方らしく我欲を捨てた高潔な精神こそがお前の強さのようだが、所詮は騎士、ヒトの心がわからない生き物のようだ!」
チンクが威勢を上げたのと同時に彼女達は一斉攻撃を開始。ティーダの魔力弾はウェンディがボードで、クイントのアーツはトーレがCQCで対応し、果敢に飛び込んでいったチンクがナイフを構え……、
「そのような力押しで!」
「ぐッ!?」
チンクの動きを的確に見抜いたゼストが突きのカウンターを放ち、槍の刃がチンクの右眼を深くえぐってしまう。痛々しく血しぶきが飛び散るが、それでもチンクは歯を食いしばってナイフを手放さず、
「まだ、だ! まだ終わってない!!!」
「なに!?」
気合いと根性の雄叫び共にゼストの右眼を斬りつけ、ほぼ同じ負傷を負わせる。更にゼストの手元目掛けてナイフを放り投げたチンクは、
「IS・ランブルデトネイター!!」
と指パッチンしてナイフを爆破、ゼストの体躯が大きく吹き飛び、トンネルの瓦礫にぶつかって転がり落ちる。
「おわぁ!? 隊長がやられた!?」
「嘘ぉ!?」
ティーダとクイントもそれだけは想定外だったと言わんばかりに動揺し、ゼストの下へ駆けつける。ただ、超至近距離での爆破だったため、チンクも余波のダメージを喰らってしまい膝こそついていないが、戻ってきたトーレに支えられながらもフラフラして息切れしていた。
「ぐ、痛み分けか……」
「いや、騎士の方は戦闘不能だ。際どい所だが、チンクの勝利と言っていいだろう」
「歌のサポートのおかげっスね。肉体に負荷もかけないで一般的な強化魔法以上にパワーアップできるなんて、自分でも驚きっス」
「しかも効果範囲は心次第だってんだから、ぶっちゃけあの子がやろうと思えば加護は無限大に広がるのよねぇ。それこそ次元の壁を越え、銀河の果てまでも届くほどに。ま、今回みたく逆に狭まるってこともあるようだけど、そこは本人のさじ加減のようね」
「ん……やっぱり、シャロンの歌は良いな。俺の中の破壊衝動もある程度鎮めてくれた」
「破壊衝動って、なんかゾッとする話っスねぇ~……って君、いつの間にいたんスか!?」
「今来た」
いきなり現れたケイオスに彼女達も局員達も驚いているが、私は彼との合流で一気に安心感を抱いた。たった二日で彼に対する信頼がかなり高くなっていたようだ。
「歌が聞こえたから場所がすぐわかった。だけど……こんな辛い感情が乗った歌は好きじゃない。シャロンの怒りが伝わってくるから……彼女をこんな気持ちにさせた連中に腹が立つ」
左手に持ってる機械仕込みの太刀をちらつかせたケイオスは、クイントに支えられながらゆっくりと立ち上がったゼストに対し、暗にイラつきをぶつける。
「一人の女を優先し……結果、世界が滅ぶのを……お前は善しとするのか……」
「世界か……俺は……ずっと後悔してた。自分の気持ちを抑え、世界のために彼女をこの手で殺めたことを」
「? 一体、何を言っている……?」
「一方的に知ってるだけだった。一方的な片想いだった。最初のドライバーから彼女のことを聞いてる内に、もっと知りたいと、話してみたいと思った。だが世界は彼女を許容しなかった。世界を存続させるために、彼女は殺されなくてはならなかった。だから俺はやった、それが理なのだと信じて……この胸に後悔という消えない傷跡を残し、代わりに世界を守った」
「ドライバー……? その呼び方、覚えがある……つまりお前の正体は……!」
「マキナのおかげで再び目覚めた俺は、彼女が死んだ後に続く世界を見た。マキナのような人間が生きる未来なら、守った甲斐があると思えた。この後悔も何とか受け入れられるほどに。だが……世界はまたしても、俺が大切に思ったヒトを排除した。後悔の傷跡をまたしても抉りだした。だから俺は決めた、世界を優先して大事なヒトを守れないなら、俺は世界を敵に回してでも大事なヒトを守る。もうあんな後悔、したくないからな」
「やはり、ギア・バーラーだったのか……! それもベルカ史上で最も忌まわしき存在、悪魔レメゲトン……! あの聖王オリヴィエを殺した、最悪のゴーレム……!」
「その名で俺を呼ぶな。その名で呼んでいいのは、お前じゃない……!」
どうしよう……彼の過去がサラッと出て来たことより、堂々と殺し文句を目の前で言いまくってるせいで、身体が一気にかぁーッと熱くなってきた。にしてもケイオスって、人間じゃなくてゴーレムだったんだ。でも私は、彼が人間じゃなかったことを、むしろ嬉しく思っていた。だって……次元世界の人間は、どうしても怖いから……。
「はいはい、ウザい局員達を良い感じに叩きのめしてスッキリしましたし、私達も撤収しますよ! IS・シルバーカーテン!」
辟易した顔のクアットロが手の平から閃光を放ち、全員の視界が一瞬奪われる。すぐに光は収まったのだが、そこで目に入った光景を見た私はたまらず噴き出しそうになった。なぜなら……、
「んな、俺の銃がレジアス中将に!? しかも海パンじゃねぇか! って、俺も隊長も海パン一丁になってるし!? バリアジャケットどこ行った!?」
「む、俺の槍もレジアスになってるぞ!? どうなっている!?」
「まるでモデルを置き換えられたみたいに無表情で直立してるわね……黒いピッチピチのビキニパンツ一丁でピーンと姿勢正しく。見た目があまりにアレ過ぎる……うん、キモイ♪」
「って、ちょ……く、クイントさんも他人の事言ってる場合じゃない! あなたも色んな意味でヤバいって!?」
「へ? ヤバいって何が?」
「何がって……服だよ服! パッと見全裸で謎の白い光しか身にまとってないぞ!!!」
「全裸? …………きゃぁああああああ!!!?? なんでこんな格好になってるのぉおおお!!!???」
「恐らく幻影魔法か何かで女性は全裸(謎の光規制有り)に見えるようにしているんだろう。実際に全裸になってる訳ではないのだろうが、まぁ、効果てきめんだな……」
……今のうちに逃げよう。
視線で合図を送ると、ケイオスは頷いて私の手を引いて走り出した。チンク達もそれに続いて逃走を開始。
「くっ……追え、ティーダ!」
「こっちもヘトヘトなんですがねぇ!?」
だがまだ余力があったティーダが追ってきて、逃走を遮るように魔力弾を撃ってきた。しかし、
「うおっ!? 銃弾もレジアス中将だ!? 撃つたびにすごい勢いで海パン一丁で直立姿勢のレジアス中将が飛んでいきやがる! なんだこの吐き気を催すカオスな弾丸!?」
銃口から無数に飛んでくる真顔で海パンな直立姿勢のレジアス弾。チンク達と一緒に撤退している私は、床や瓦礫に頭からザクザクとめり込んでいるレジアスを見る度に笑いをこらえていたせいで腹や肺が痛かった。いや、もう……これからレジアス中将の顔、まともに見れそうにない。次に見た瞬間、これを思い出して笑ってしまいそう。
「クアットロ……お前、少し見ない内にラーン商店街の頭おかしい連中に毒されてないか……?」
「あらあら、あの商店街の人達の素晴らしさを理解できないなんて、哀れですねぇ。彼らは私の感性を高めてくれる珍しい人種ですよ? そりゃあ最初は入信書を大量にねじ込んでくる所とか軽く引きましたけど、色々素晴らしいことを教えてくれたおかげで昔の私と比べて一皮むけた頭脳になれたんですからねぇ」
「一皮むけたって、嫌がらせの達人になっただけじゃないか」
「アハハハハッ!! やっぱ商店街の人達は面白いっス! まさかあのクア姉をアレな方向に汚染してたなんて、もう最高っス!」
なぜだろう? 腹立つ悪党が笑える悪党になった感があるというか、腹黒とエロを混ぜて残念にしたというか、天才と馬鹿を混ぜて有能にしたみたいな意味のわからなさがある。いや、局員のような真面目連中を自分の空気に持ち込むのに最も的確な幻影魔法を使ってるから、味方にすれば心強いけど、敵としてあれを使われるのは勘弁してほしいかな。
「そうだシャロン。この刀、シオンからあんたにって」
「これ、太刀?」
「銘は“ウーニウェルシタース”。失った一本の代わりなのもあるけど、連絡を取れるアームドデバイスとして携帯してほしいって」
「それならありがたく受け取っておくけど、これ民主刀より大きくて重さとかも全然違うから、片手で使うのは無理そうだ。当分は民主刀一本で頑張るよ」
「そ。ま、シャロンが戦わないことに越したことはない」
そう言うなり腰をひねって、レンチメイスで野球のバッターみたくレジアス弾を打ち返すケイオス。力の込め方次第では魔力弾もあんな風に跳ね返せるのか。
「ってことは、魔力には弾力性がある……?」
後で知ったんだが、やりようによっては掴むこともできるらしい。何の対処もしないで当たれば怪我するぐらい硬くて痛いけど、少しでも弾力があるなら今私が考えたこともやれなくはないかな。
刀だと跳ね返すどころか斬ってしまうから、やるなら打撃系が向いてるだろう。そもそも魔力弾は球体にしか作れないのだろうか? あるいはコントロールしやすいから球体にしているのであって、弓矢みたいに細長い形状に固定するのは非効率的なのかもしれない。
「離れて見るならきっと面白かったと思うけど、見た目だけとはいえメタボな裸のオッサンが大量に飛んでくるのは精神的によろしくないわねぇ……。当事者としては、あれやっぱキモイから本能的に避けたくなるし」
「だったらシルバーカーテンを解除すればいいだろう。もしくは幻影の姿を変えるとかしてくれ。正直、あれを凌ぐたびに私も気持ち悪さで鳥肌が立っている」
「トーレ姉も嫌がる程っスか。でも攻撃の精度が下がってるおかげで誰も被弾してないし、精神攻撃なら抜群の効果があるって証明されたっスね」
「しかしあの執務官はかなりやり手だから、コントロールに慣れてきてるぞ。後少しすれば普通の魔力弾と同じ精度を取り戻してしまうな」
「面倒くさいわねぇ。イモータルみたいに管理局の魔法を止められれば、魔導師なんて有象無象に成り下がるってのに」
魔法を止める……? そういやウーニウェルシタースは端末でもあるし、これならゾハル・エミュレーターが使えるかもしれない。
早速、ウーニウェルシタースの機械部分とゾハル・エミュレーターをコードで繋げると、何かのデータがインストールされていった。
『Name:シャロン・クレケンスルーナ
アウターヘブン社広報社員
第二次管理局最高評議会議長』
本当に最高評議会の権限を手に入れてる……多分、ゾハル・エミュレーターと繋げたことで私の個人データに登録されたんだ。ってか私、アウターヘブン社だと広報社員だったんだ。まあ、よく考えたら4年間も欠勤、むしろ行方不明か死亡扱いされて当然なのに解雇されてないことの方が驚きかな。
っと、それより魔法を止めるには……。
ヒュンッ!
「危な!? あの人、ヘッドショットを狙えるまで慣れたんだ」
魔力弾をあんな姿に変えられても短時間でコントロールを取り戻すとは、本当にティーダ・ランスターは優秀な人間だ。だからこそ、敵に回すと厄介なんだけど。
「(イクス、魔力を右足に集束できる?)」
『身体強化魔法の応用でなら、すぐにできますよ』
「ならよろしく。クアットロ、シルバーカーテン解除! 今すぐ!」
「はいはい、わかりましたよ~だ」
雨あられと降ってくるレジアス弾が通常の魔力弾に戻った瞬間、右足を光らせた私は上に向かって一気に飛び上がる。当然、ティーダもこっちを狙って魔力弾を撃ってくる訳だが……両手を広げたポーズで逆さになった私は飛んできた魔力弾に対し、
「シュート!」
右足でサマーソルトキックをぶつけた。どこぞのスフィアシュートみたく放ったそれは、あらかじめ集束していたイクスの魔力のおかげでティーダの魔力弾にダイレクトに作用し、凄まじい勢いで跳ね返した。
……天井に向かって。
「「「「「「あ」」」」」」
『あらら……これはマズいですね』
「なんか天井からミシミシって、嫌な音が……」
「こんな場所でそんな音がしているとなれば、起こりうる可能性は一つしかないぞ」
チンクが真っ青な顔で訴えた次の瞬間、トンネルの天井が一気に崩れ始めた。
「ちょ、冗談だろぉ!? これじゃ生き埋めに……あぐぁ!?」
えっと、位置的に一番近いトーレ。すまないけど、頭に瓦礫が直撃して気絶しちゃったティーダを崩落に巻き込まれる前に助け出してくれるかな。
「了解した」
「躊躇なく行ったな、トーレ。しかしシャロンはいいのか? あいつはお前を狙って……」
「わかってるよ。でも、彼は一応命の恩人なんだ。対立してるとはいえ、ここで見殺しにするのは、ちょっとね……」
「あらあら、月詠幻歌の歌姫サマときたら何ともお優しいこと。さっきこんな世界は滅べばいいと狂気じみたことを言っておきながら、目の前の命は見捨てない慈愛を持っている。月下美人は何とも面倒な性質してるんですねぇ」
「ん、それは月下美人というよりシャロンの性質だ、クアットロ」
「たい!」
「赤ちゃんまで指摘してるっス。しかし問題なのは、今の管理局は彼女に理想を押し付けている所っスかね。情報的に考えて、シャロンは自分の身に余る範囲を守ろうとはしないんスよ。なのに管理局は彼女に世界を守らせようとする、本人がやりたくないと言ってることを無理やりさせようとしているんス。そりゃ怒って逃げたりもするっスよ」
ウェンディの指摘が最も的を射ている件。この子、実は意外と鋭い?
ミッドチルダ西部、海の近くのトンネル出口。
「ふぅ、死ぬかと思った」
トンネルの崩落をやっとの思いで脱し、どうにか地上に出れた。ずっと暗い場所にいたせいか、夜空の星がいつも以上に綺麗に……あれ?
「雨が止んでる……」
「ん、シオンのハッキングが成功したみたいだ。あくまで一時的だけど、都市規模の吸血変異を抑えることはできた」
確かに四六時中暗黒物質の雨が降ってたら、ミッドの人間全てがアンデッドになるのもすぐだ。ギジタイはチェスで表すならチェックを宣言した駒、チェックメイトされずに済んだのはアウターヘブン社の努力の賜物だ。まぁ、管理局も努力はしたのだろうが……どうも彼らがやってきたことで良い結果が出た記憶が無いな。
「ちょ、ちょっと皆! アレ見てよ!?」
驚愕の表情でウェンディが指さした方を見ると、空から大気摩擦で燃えている戦艦が落ちてきていた。あれは……?
「あらあら、巷で有名なアースラじゃない。宇宙空間で待機中って聞いたけど、なんかヘマしたのかしら?」
「ん……メインブースタがイカれてる。撤退中に狙ったか、カナン」
「それで航行不能に陥って墜落し、大気圏突入してきたのか。……2年前の髑髏事件の際にも墜落したと聞いたが、実は何かと不幸な次元航行艦なのでは……」
チンクが同情するような目線で呟くが、不幸な次元航行艦って近づいたら呪われそうで関わりたくない。中の搭乗員も散々だね、自分達の命を預ける戦艦が不幸まみれだなんて。
各々がアースラについて感想を抱く中、炎に包まれながら空中分解していくアースラは遠くの海の真ん中に墜落、すごい波しぶきを上げた。見る見るうちに艦体が沈んでいくが、誰一人として脱出してこないことから、中にいた人間は既に全滅したのかもしれない。
「とりあえずアウターヘブン社のシェルターまで行かないっスか? 護衛任務ぐらいは終わらせておきたいっス」
賛成。もういい加減、くたくたで休みたい。
後書き
完全体ゆりかご:どう考えても原作では弱すぎることから、本作では任務内容に応じてパーツやユニットを付け替えたり、モナドが装填されていたということにしました。なお暴走時はほぼ鉄血モビルアーマー。
ヴィルフリッド:彼女がギア・バーラーを作らなかったら、暴走ゆりかご戦及び現代で詰みます。毒殺されましたが地味なキーキャラクター。
マキナの日記:彼女が薬の知識を学んだ先生、オメガソル誕生経緯、ミルチアとの繋がり、連邦間での医療組合の誕生経緯、聖王のモナドがどこにあるかが記されています。
命の果実:ボクタイ LIFEの最大値を増やしてくれる果実。
シン、ラウラ:ゼノブレイド2より、同じ名前の別人。
太陽ランプ:ボクタイ ギミックの一つ。
高圧電流:MGSより。壁にも電流が走ってるMGS2の場合はシャロンも突破できません。MGS4では月光も倒せます。
シャロンの翻訳:翻訳魔法で訳せない言語も訳せます。
最高評議会:ゼノギアス ガゼル法院がモデル。ゴエティアがいた頃はまだまともな方でしたが、間接的に闇の書が管理局に大きな歪みを与えたことになります。
モナド:ゼノブレイド 物語の鍵となる武器。
ゾハル・エミュレーター:ゼノサーガより。コピー品なのでオリジナルの劣化版ですが、それでも強大な力を秘めています。本作では管理局のセキュリティに対するマスターキーであり、コンパクトな大きさになっているので持ち運びに便利です。
レメゲトン:聖王の汚名を代わりに背負った形になりますが、本人は大して気にしていません。ただしこの出来事を得て今の世界を鑑みた結果、世界より個人を優先するようになりました。
ゼスト隊VSナンバーズ:原作の出来事。ただし場所はトンネルになっている上、ゼスト隊が壊滅していません。なお、クアットロがアクシズな色に染まっているため、シルバーカーテンがギャグ方面に強くなっています。
魔力弾へのボレーシュート:シャロンはスポーツ系なら強いので、練習すれば水中で相手選手2名を吹っ飛ばせるシュートが使えます。ちなみにこれはティーダ繋がりです。
アースラ墜落:またです。なお、
エリオ「政治屋ども、リベルタリア気取りも今日までだな。貴様らには水底が似合いだ。いけるな? カナン」
カナン「(はい。そのつもりです)」
エリオ「フン……それはよかった。じゃ、いこうか」
砲撃発射。
エイミィ「クッ、メインブースタが完全に逝ってる。ダメだ、沈んでいく……こんなものが私達の最期か……」
なんて会話がありました。
マ「何だとぉ!? これはどういうことだぁ!?」
フ「師匠! 文字数が大ピンチなんだそうじゃ!」
マ「ウボァ!」
フ「今回は会話が無理なんで、一部のキャラがFateのクラスに当てはまるならどれになるか出すだけにするのじゃ! では、
なのは→バーサーカー
リトルクイーン→アルターエゴ
シャロン→フォーリナー
以上!」
マ「彼女達のクラス相性がアレな件」
ページ上へ戻る