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109部分:イドゥンの杯その十五


イドゥンの杯その十五

 トリスタンは程なくコノートに降り立った。そして帝国軍の軍事施設を接収すると共に惑星を完全に掌握しにかかったのであった。
「まずはこれで終わりか」
 トリスタンは敵の総司令部の管制室にいた。そこには参謀の一人であるプライも一緒であった。
「まずはこの辺りは終わりですね」
「他の帝国軍は健在ということか」
「この近辺ですとラートボートにも敵軍がおります」
「ラートボートか」
 トリスタンはそれを聞いてその知性的な目を動かした。
「あそこにもいるというのか」
「はい。只今テルラムント提督の軍が展開しているそうです」
「あの猛将がか」
「そうです。そしてローエングリン=フォン=ブラバント司令の軍と対峙しているとか」
「彼とか」
「どうされますか?」
「まずはこの惑星を完全掌握しよう」
 彼は言った。
「それからだ。ラートボートに向かうのも他の方針を執るのもな」
「はい」
「まずはそれからにする。よいな」
「はっ」
 まず彼はコノートを完全に掌握し、そこを自分達の軍事拠点とすることを決定した。そしてカレオールとフランシーズと合わせてここを重要軍事拠点にし、防衛及び進出を計画していた。
 暫くは軍事に関しても政治的な動きが続いた。そんなある日のことである。
「陛下」
 食事を終えたばかりの彼にホッターが報告に来た。
「どうしたか」
「指揮所に通信が入っております」
「通信が」
「はい。我等や同盟者のものではありません」
「では帝国からか」
「おそらくは。どうされますか」
「出よう」
 暫く考えたが決断を下した。
「通信ならば害もないだろうからな」
「わかりました。それではおいで下さい」
「うむ」
 トリスタンはすぐに指揮所に向かった。するともうそこには部下達がつめていた。当直の者達である。彼等も食事を終えていた。そうして彼を待っていたのだ。
「お待ちしておりました」
「うむ」
 部下達が敬礼でトリスタンを迎える。トリスタンも返礼してそれに返す。
「ところで通信が入っているそうだが」
「はい」
 そこにいる若い将校の一人がそれに応える。
「こちらです」
 そしてモニターにスイッチを入れる。するとそこに黄金色の髪と目を持つ美女が現われた。
「なっ・・・・・・」
 その美女を見てさしものトリスタンも驚きを隠せなかった。
「これは悪戯ではないな」
「え、ええ」
 見ればそこにいる全ての者が驚きを隠せないでいた。
「そのようなことは」
「どういうことだ、これは」
「トリスタンですね」
 その美女はトリスタンに声をかけてきた。
「私のことを。覚えておられるようですね」
「忘れる筈がない」
 トリスタンは感情を押し殺してそれに応えた。
「まずは久方ぶりと言っておこう」
「はい」
「そして何の用だ」
「ここに出られるということはそちらの帝国軍は倒されたのですね」
「その通りだが」
「では。次はどちらに」
「それに答える義理はない」
 冷たく放した。戦略をわざわざ敵に対して言うつもりもなかった。
「そうですか」
「言っておくが私は卿の命も狙っている」
「はい」 
 その言葉を感情を出すことなく受け止めた。
 
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