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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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キムチ料理でホットな一夜に・その3……からのオチ担当無双

 プライベートな話に踏み込みすぎたか、店内の空気が微妙に重い。こういう時は美味い物を出して空気を変えるに限る。……『その手しか知らねぇだろ』というツッコミは認めん。



《豚キムチのバリエーションに!豚キムナス》※分量4人前

・豚肉(薄切り):150g

・キムチ:120g

・ナス(大きめの):2本

・ピーマン:2個

・ケチャップ:小さじ1

・酒:大さじ1

・醤油:少々

・塩:少々

・胡椒:少々

・キムチの汁:少々


 さてと、キムチと豚肉の炒め物……いわゆる豚キムチは定番だが、そこに野菜を足して更にボリュームアップを図ったのがこのレシピだ。ナスは縞になるように皮を剥き、細長い乱切りに切ったら薄い塩水(分量外)に浸けて灰汁抜きをしておく。ピーマンはヘタを取り、種とワタを取り除いたら5mm幅に刻んでおく。

 豚肉とキムチを食べやすい大きさにカットし、混ぜ合わせておく。今回豚肉はしゃぶしゃぶ用の豚バラ肉を使ったが、他の部位の薄切り肉や豚小間切れ肉でも美味しく出来る。あぁ、豚肉の下味も兼ねているので、キムチの汁を少々加えるのを忘れずに。

 フライパンに油を引いて熱し、ナスを炒めていく。しんなりしてきたらピーマンを加えてサッと炒め、一旦取り出しておく。

 野菜を取り出したらキムチと絡めておいた豚肉を炒めていく。肉の色が変わったら取り出しておいた野菜を戻し、ケチャップ、酒、醤油、塩、胡椒で味付けをしたら完成だ。





「さぁさぁ、そんな小難しい顔してないで、とりあえず食った食った!お次は『ナス入り豚キムチ』だよ」

 その小難しい顔にさせた話題の発端は俺だと自覚が在るため、多少の罪悪感も手伝っていつもよりテンション高めに呼び掛ける。腹ペコな連中は我先にと食い付いているが、テーブル席の一角は何やらテンションが違う。ウチの金剛を囲んで、上条君トコの加賀・陸奥・青葉がウチの鎮守府の私生活……特に、嫁艦絡みの話に花を咲かせている。

「その……心配じゃないのかしら?本妻として」

 何故大量の嫁を抱えているのに、自分が捨てられないか不安が無いかと加賀が尋ねれば、

「ン~……darlingが私にベタ惚れなのを知ってますから、あんまり心配はしたこと無いヨー?」

「でもホラ、他の娘にアピール掛けられて奪い取られたらって思うと……」

「あ~、それ心配しちゃうとキリ無いネー。私達の場合、私達が花でdarlingが気分屋のミツバチみたいな関係デス」

「花とミツバチ?その辺をもう少し詳しく!」

「darlingがあっちへフラフラ、こっちへフラフラ好きな花を選ぶんです。花は甘い匂いでアピールはするけど、自分から動いて捕まえには行かないネー」

「成る程~……しかし、それだと金剛さんの所には帰ってこない可能性もあるのでは?」

 青葉の更なる追求に、金剛は少し頭を捻りながら

「私は花というより、ミツバチの巣みたいな物デスかね?darlingが飛ぶのに疲れたら必ず帰ってきて、羽を休める場所……だから私はドーンと構えて、待ってるだけでいいのデース!」

 にゃははははは!とテンション高く高笑いする金剛。だが、俺は声高に言ってやりたい。お前らを花に例えるなら、半分以上が食虫植物じゃねぇかと(虫を捕まえて養分吸い取る的な意味で)。何やら上条君が恋バナ?に花を咲かせている一角に視線を送ってソワソワしているが、あそこに突っ込んで行っても爆死するのが目に見えている。だから俺は優しく肩に手を置いて、『止めとけ』という意味を込めて首を左右に振る。君子危うきに近寄らずって奴だ。どうにか伝わったらしく、上条君はコクリと頷いてそちらへ視線を送る事は止めた。





 それからも長い時間、大いに飲み、食べ、騒ぎ、楽しんだ。楽しい時間はあっという間に過ぎるというが、気付けばもう午前0時を回ろうとしている所だ。

「さて、そろそろお開きにしよう」

 ウチの連中からは再びブーイングの嵐だ。盛り上がって来た上にいつもなら後3時間はどんちゃん騒ぎをしている時間だからな。

「お前らは好きにしてろ。払うモンはキッチリ回収するしな。ただ、上条君達はそろそろ休まないとキツいだろ?」

 上条君達は明日の朝早くにここを発って空港に向かい、そこから一般の航空機で日本へと戻る手筈になっている。さすがに貫徹で送り出すのは年長者としても階級が上の者としてもやっていい事ではない。

「部屋は用意させてある。風呂もウチは24時間使い放題だから、入りたければ使うといい」

「何から何まですいません、ホント……」

「気にするな。まだ若いんだから、歳上の厚意は素直に受け取っとけ」

「……ウッス」

「では、ご案内しますね」

「では大将、ごちそうさまでした!」

 そう言って赤城が立ち上がり、上条君一行を先導していく。しかし、前途有望そうな若手じゃねぇか。ジジィの見立ても案外アテにならねぇなぁ……ったく。

「ん……あれ?」

「ん、どうしました司令?」

 俺が変な声を出した事に、カウンターで飲んでいた青葉が首を傾げる。

「いや、今日演習やった相手の提督の名前……なんだったっけか?」

「はい?ついさっきまでここで一緒に騒いでたじゃないですか!まさかボケたんですか」

「まさか。いや、でも……あれ?」

 思い出せない。まるで頭の中でその記憶だけが消しゴムで消されたかのように、すっぽりと抜け落ちてしまっている。まさか、本当にボケたのか?……いや、飲み過ぎか。




~SIDE:上条~

「では大将、ごちそうさまでした!」

 そう言って店を出る。前を歩く加賀姉達も満足そうに笑顔を浮かべている。

「ほんに美味かったのう」

「陸奥さんは帰ったら早速キムチ漬けてみるの?」

「う~ん……白菜の時期が過ぎちゃってるから、来年の冬ね」

「……加賀姉」

「どうしたの?当麻」

 すぐ目の前の加賀姉に声をかける。不意に声をかけられたせいか、加賀姉の顔は不審な物を見るような疑いの眼差しだ。

「あ~……なんというか、その」

「どうしたの?言いたい事があるならはっきり言いなさい」

「俺も……さ?ケッコンとかどうすりゃいいかまだハッキリ解んないけど、自分なりに考えるから」

「……そう」

 酷く、アッサリとした返事だったが、加賀姉の頬に朱が差す。

『いやぁ~甘酸っぺぇ空気ですなー。こうして隠れてニヤニヤしながらいつまでも眺めてたい気分ですが、お仕事なんでお邪魔しますよ~……っと』

 不意に廊下に響き渡る少女の声に、背筋がゾクッとする。

「誰だ!?」

『目撃者が多いですねぇ……面倒な。「ザ・ワールドッ!」なんつって♪』

 カチッ、と何かが填まるような音が響くと、俺の周囲の空間が色を失ってモノクロに変わっていく。そして加賀姉を含め、皆が固まっている。

「おい、加賀姉!?大丈夫なのかよ、オイ!?」

『お~、流石は幻想殺しと呼ばれるだけありますねぇ。時間を止めた空間の中で動けるとは』

「時間を……止めた?」

『ちょっと待っててくださいね、今そっちに行きますから……』

 そんな声が響いてすぐに、廊下の床下からニュッと頭が出てきた……まるで床をすり抜けて来たみたいに。白いセーラー服に白い帽子、更に帽子の上には白い猫。大きな頭に不釣り合いな身体のその少女に、俺は釘付けになっていた。

「ふぅ。ようやく捕まりましたよ、上条当麻さん。いや~大変だったんですよ?次元の裂け目からこっちの世界に落っこちたって『向こう』の世界の私から連絡を受けて、捜そうにもその右腕に宿った厄介な存在がジャミングのように働いて、探知できなかったんですから」

「は?え?」

 何を言ってるんだコイツは。向こうとか何とか……訳が解らない。

「とりあえず、私はあなたの敵ではないです。味方でもありませんけど」

「なら加賀姉達を元に戻せっ!」

「それは出来ません。私の仕事に差し支えますので」

「テメェの都合なんざ知るか!まずはそのふざけた幻想をぶち壊す!」

 いつもの通り、右腕でその少女に殴りかかる。どう考えてもコイツは異能の存在。ならこの右腕がその力を打ち消せる……ハズだった。

「ハァ……この世界の特異点たる提督さんに調子に乗るなとか言ってましたけど、どっちがですかねぇ?」

 少女は溜め息を吐きながら、指パッチンをした。瞬間、俺の身体は石化したように動かなくなった。

「な……何をしやがった!?」

「あなたの周囲の空間を凝固させました。あなた自身が動けても、周囲の空間が動かないのでは動けませんよ」

 動けるものなら動いてみなさい、と少女はケラケラ笑う。確かに、指一本ピクリとも動かない。

「あなたのその力は、確かに世界のバックアップ装置としては優秀です。……ですが、世界そのものをフォーマット出来るハズが無いでしょう?」

「何者だ……お前」

「私は世界の管理人であり、何処にでも居て、何処にも居ない者。神の御使いであり、悪魔でもある。まぁ、最近は『妖怪猫吊るし』なんて呼び名で定着してますよ」

 自身を猫吊るし、と名乗った少女はニッコリと笑い、その頭上でグンニャリとなった猫がニャ~と鳴いた。





「さて、長々と説明するのもめんどいんで、もうこのまま送還しちゃいますね~」

「ちょ、ちょっと待てよ!送還!?どゆこと!?」

「ですから、この世界はあなたの居るべき世界じゃないんですってば。だから、あなたの居た世界に送り返すんです。返品です、返却です、クーリングオフです」

「クーリングオフは違うだろ!?」

「もう、イチイチ煩い人ですねぇ。とっとと仕事を済ませます」

 猫吊るしが指をヒョイッと振ると、上条の立っていた部分の床が無くなった。

「のおおおおぉぉぉぉぉぉ!?ふ、不幸だああああぁぁぁぁぁっ!」

「さよーなら~♪……二度と来るんじゃねーですよ、ったく」

 上条の落ちていった穴を消し去った猫吊るしは

「さてと、後は彼の関係者の記憶を改竄して……あら?彼の鎮守府の艦娘のほとんどに恋愛フラグが立ってんじゃん。それもヤンデレ要素マシマシ……うっへえ、こりゃ手間だぞぉ……」

 等とぼやいていると、彼女のポケットから〇ース・ベイダーのテーマソングとも言える『帝国軍のマーチ』が流れ出す。その曲を聞いた途端にウゲッ!という顔になる猫吊るし。

「も、もしもし?あ~……はい、はい、はい。ちゃんと元の世界へと送還しましたし、これから直ちに記憶処理を行う所です。……え?お前は仕事が雑だから心配だ?いえ決してそのような事は……はい、それはもう!はい、では失礼します~」

 ペコペコしながら電話を切る猫吊るし。どうやら、上司のような存在からの電話だったらしい。

「はぁ……やりますよ、やってやりますよド畜生が!」

 半ば投げ遣りな感じで後始末を始める猫吊るし。急に金城提督の記憶が曖昧になったのはこのせいである。一方、元の世界へとボッシュートされた上条当麻はといえば……

「いてててててて……何なんだよ、ったく」

 立ち上がろうと床に手を着こうとするが、上条君の手には柔らかな感触がある。掴もうとするとふにょんっとしており、ほんのり暖かい。まだ混乱する頭の中で、これは何だろう?とふにょんふにょんとその柔らかな物体を触り続ける、否、揉みしだき続ける。

「いい加減に退いてくれないかしら?当麻」

 聞き慣れている筈の声なのに、どこか懐かしい。だんだんハッキリしてきた意識で視線を前の方に向けると、そこには青筋を浮かべ、まるでゴミを見るかのような鋭い眼差しの加賀が居た。

「え、えーと……加賀姉?」

「何かしら?」

 間違いない、『元の世界』の加賀姉だ!と上条は確信に至った。同じ顔のハズだが、何故かそう断言できた。

「た、ただいま……」

「そうね、またいきなり失踪して、何年も帰ってこないと思ったら、いきなり天井から落ちてきて、押し倒して私の胸を揉みしだくような変態に成り下がった当麻ですが、ここお帰りなさいと言うべきなのでしょうね」

「……えっ?」

 上条が自分の手がある部分に視線を送ると、加賀の見事に発達した双丘の上に手がある。……というか、指がムニュっと鷲掴みしている。どうやら、猫吊るしがボッシュートして強制送還した影響か、ラッキースケベを呼び込むカミジョー属性の仕業かは解らないが、天井から落ちてきて加賀に胴体着陸(意味深)をかましたらしい。その上、混乱の最中でおもっくそオッパイを揉んだらしい。

「え、え~と……僕はどうしたらいいんでせう?」

「頭に来ました……!」

 その日、数年ぶりに帰ってきた提督の『不幸だああああぁぁぁぁぁっ!』という叫びが響き渡った、と艦娘達は無事の帰還と平和な日常の再来を喜びあったという。 
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