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リング

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106部分:イドゥンの杯その十二


イドゥンの杯その十二

 それを進めながらも着々と手を打っていく。同時にカレオールから移動要塞も持って来ていた。惑星型の要塞である。
「これをどう為さるのですか?」
「帝国軍相手に使う」
 既に旧式化し、廃棄を待つばかりの要塞であった。もう誰も使ってはいない。
「これで彼等を倒すつもりだ」
「廃棄同然の要塞でですか」
「そうだ、最後の役目を果たしてもらう」
 彼はイゾルデの艦橋からその要塞を眺めつつ言う。
「同時にフランシーズももたらしてもらう」
「フランシーズまでですか」
「この要塞一つでな」
「何か御考えがあるのですね」
「だからこそ持って来たのだ」
 要塞は何も語らない。ただそこに浮かんでいるだけである。
「ここまでな」
「左様で」
「そしてだ」
 尋ねる部下に顔を向けた。
「あれの開発は進んでいるか」
「はい」
 彼はそれに応えた。
「順調であります」
「そうか。ならよい」
 トリスタンはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「開発が完了したならばまずは試射を行う」
「はっ」
「そして成功だったならばこのイゾルデの主砲に換装するぞ」
「イゾルデのですか」
「これでファフナーを恐れることはない筈だ」
「全てはファフナーの為に」
「あれは今の帝国の支配の象徴だ」 
 その声が険しくなる。
「それを破ることが今の我等の課題の一つだ。その為の兵器なのだ」
「成程」
「成功したならば彼も来るだろう」
「彼!?」
「モンサルヴァートだ」
 トリスタンは部下にこう述べた。
「彼も来る筈だ。竜、いや巨人を倒す雷を手に入れたならばそれを広める為に」
「雷を」
「そう、雷だ」
 彼は言った。なおファフナーは元々は竜ではない。巨人族であり財宝を守る為に竜となったのである。その財宝は手に入れたならば銀河を制することが出来ると言われている。今はファフナーこそがその財宝だともみなされている。
 巨人を倒すのは雷の神ドンナーだ。トリスタンはそれをかけたのである。
「私は今雷を造っている」
「ではその兵器の名は決まりましたな」
「何とすればいいか」
 その部下に顔を向けて問うた。
「ミョッルニルです」
 部下は答えた。
「ミョッルニルか」
「巨人を討つのならばこれ以上はない名前だと思いますが」
「ううむ」
「他にも相応しい名前はあるでしょうが」
「これ以上はないか」
「はい。少なくとも私はそう思います」
「わかった」
 トリスタンはその案を受け入れた。
「ではこの兵器の名をミョッルニルとする」
「はい」
「モンサルヴァートが来たならばそう伝えよう。それでよいな」
「御意」
 こうしてこの兵器の名前は決定した。そして開発も成功に終わった。それから暫くしてそのパルジファルがフランシーズまでやって来た。
「やはり来たか」
「おわかりでしたか」
「きっと来ると思っていた」
 トリスタンは港でパルジファルを出迎えていた。そしてこう声をかけた。
「ここまでな」
「そうですか」
「卿もわかっていたのではないのか」
「否定はしません」
 そしてパルジファルの方もそう答えた。
「今ここに来れば。手に入ると思っていました」
「これもまた運命なのかな」
「そう呼ぶのならそうでしょう」
 彼は言葉を返した。
「閣下が開発されたことも」
「そうか」
「新型砲ですよね」
「そうだ」
 彼はそれもわかっているようであった。
 
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