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105部分:イドゥンの杯その十一


イドゥンの杯その十一

 トリスタンの予想通り情報収集は順調に進んだ。彼の手元にはコノートにいる帝国軍のことが次々にわかってきていた。
 まずはその規模が。敵は十個艦隊であった。
「面白いな、これは」
 トリスタンはそれを確かめた後でこう述べた。
「一つの地域に派遣される帝国軍の兵力は常にこれ位だ」
「十個艦隊がめどだと」
「今各地を転戦している帝国の戦力もそうだったな」
 そして彼はコノートの他に展開している帝国軍に関する情報も入って来ていた。
「メーロト=フォン=ヴェーゼンドルクの軍も」
「あの軍もですな」
「そうだ。何か条件でもあるのだろうか」
「どうやら帝国軍はその基準を十個艦隊と定めているようです」
「基準か」
「はい。それに従って兵を派遣している様です」
「ふむ」
 トリスタンはそれを聞いて考える顔をした。
「方面軍としてか」
「その様で。ただ基本を艦隊に置いているのは我等と同じです」
「そうだな。それは同じだ」
「はい」
「そしてその艦隊を幾ら集めているかでその地域の重要性がわかる」
「我々は十個艦隊の重要性だと」
「そうだな。大体そういったところだ」
 トリスタンは部下にそう述べた。
「あまり重要ではないと認識しているのか」
「他の地域にはより送っている場合もありますね」
「そうだな。これもニーベルングの戦略か」
「そもそもニーベルングは我々には然程関心がないのではないでしょうか」
「それはどういうことだ?」
 彼はそれを聞いて顔を上げた。
「反乱勢力である我々にあまり関心がないとは」
「いえ、これは我々だけではありません」
 その部下は答えた。
「全ての反乱勢力に対して。それ程関心を向けてはいない様に思えます」
「そうだろうか」
「若し本気ならば十個艦隊程度で済むでしょうか」
 彼は言った。
「今のニーベルングの力ならば。一つの反乱勢力に対して優に二十個艦隊の派遣が可能な筈です」
「だが彼はそれをしない」
「ヴェーゼンドルクの軍にしろそうです。より戦力を持っているのでは」
「ふむ」
「本拠地が何処にあるのかすらわかりませんが。そこに戦力を集めていると思われます」
「言い換えるとそこで何かをしていると」
「はい。それが何かまではわかりませんが」
「反乱勢力よりも優先させなければならないものか」
「例えば新兵器の開発」
「新兵器」
 トリスタンの目がピクリと動いた。
「まさか」
「そのまさかの可能性もあります」
 部下は言った。
「ファフナーの改良型等」
「やはりそれか」
「ファフナーはニュルンベルグにも現われました」
「そうだな」
 その情報はもう聞いていた。
「そしてニュルンベルグを完全に破壊しました」
「そしてそれから行方を絶っている」
「あれが新兵器なのは間違いありません」
「だからこそ試作品の可能性もある」
「そうかと。そして若しそうならば」
「本格的なものを建造にかかる」
「と思われます。どちらにしろ今の帝国軍の沈黙には何かがあります」
「うむ」
「いずれ動くとは思いますが」
「だがそれは今ではないか」
「おそらくは」
「反乱勢力への出兵も少ないのはそれか」
「それ以上のものを彼等は持っているかと」
「だが今はそこに隙がある」
 トリスタンは述べた。
「今は。それを利用させてもらおう」
「では」
「これまで通りフランシーズ及び帝国軍への情報収集は続ける」
 彼は言った。
「そしてあの星系を手中に収める。よいな」
「ハッ」
 戦略は動きはしなかった。だがまた一つ気になることが出て来た。
「ファフナーのか」
 彼は自身の研究と黒竜のことを考えていた。
「その弱点は」
 自身の研究のことはよくわかっていた。その長所も短所も。彼は勢力を蓄えながら研究も開始した。今度は新兵器の研究であった。
 
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