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真田十勇士

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巻ノ百三十四 寒い春その五

「本朝を出て暮らせばよい」
「ではですな」
「その様にされて」
「そうしてですな」
「我等で暮らしますか」
「その時は」
「そうしようぞ、そして戦になればな」
 その時のことも話す幸村だった。
「負けるにしてもな」
「真田の武士の道をですな」
「天下に見せますか」
「思う存分働き」
「そのうえで」
「そうしようぞ」
 こう言うのだった。
「その時はな」
「わかり申した」
「それではです」
「その時に備え」
「今はですな」
「策を考え鍛錬を続ける」
 そうするというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
「その時に備えてです」
「策を講じてです」
「鍛錬をしましょうぞ」
「それではな」
 幸村も頷き鍛錬もした、彼等は戦がなければそれに励んでいた。だが大坂全体の空気はというと。
 重苦しくだ、木村はその有様を見て大野に眉を曇らせて話した。
「修理殿、今やです」
「兵、特に浪人となった者達がな」
「そうです、殺伐として自暴自棄になり」
「喧嘩が多くなっておるな」
「刃傷沙汰も出ております」
「士気も落ちてのう」
「そこまでおわかりですか」
「声が聞こえるわ」
 その兵達のものがというのだ。
「もうこうなればとな」
「戦をしてそうして」
「死んだ方がましだとな」
「そう言っている者が多いです、最早です」
 木村は彼等が今いる場所から外を見た、その外はもう何もない見事なまでに平らになってしまっていた。
「城はこの有様、逃げた者も多く」
「残った者達はな」
「そうなっております」
 気持ちが荒んでしまっているというのだ。
「そうなってしまっておりまするぞ」
「無理もない、全てはわしの責じゃ」
「茶々様を止められなかった」
「若しわしがな」
 自分を責めて言う大野だった。
「あそこで茶々様をお止めしてな」
「講和自体をですか」
「止めていれば」
 堀を埋めるという話にもならず今の様に裸城になることもなかったというのである。
「そうなっていたわ、しかしな」
「今の様にですな」
「なってしまったわ、これではじゃ」
「兵達も荒みきってしまうのも道理」
「全てわしのせいじゃ、そして主馬はな」
 すぐ下の弟である治房の話もした。
「わしのことで随分肩が狭い思いをしておるのう」
「そしてかなりです」
「わしに怒っておるな」
「茶々様をお止め出来なくこの有様だと」
「それもわかっておる、全ての責はわしにある」
 大坂方の執権である自分にというのだ。
「だから主馬の怒りもな」
「受けられますか」
「城の者達の言葉もな、そして茶々様と右大臣様にはじゃ」
「言わせぬ」
「そうする、しかし思うことはな」
 それはというと。 
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