蒼穹のカンヘル
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五枚目
俺は今再びホールに来ている。
「篝、今回は強いものをイメージする必要はない」
まぁ、さっきみたいになったらまた呼び出し喰らうだろうし。
「今回は自分の心の奥に潜るんだ」
心の奥に?
「イメージは?」
「特にない、強いて言うなら心を落ち着かせることくらいだ」
「分かった…やってみる……」
足を肩幅に開き目をとじる…
暗闇に閉ざされる…
心を落ち着かせる…何も考えずにただただ無心になる…
どれだけそうしていたかは分からない…
やがて虚空になにか玉のような物が浮かんだのが見えた。
色は青っぽい色だった。
海みたいな色だなと思ったけど、透明じゃなくて中は見えない。
大きさは…分からない。
ビー玉のように小さくも見えるし運動会の大玉転がしの玉みたいに大きくも見える。
俺は、なんとなくその玉に触れようと思った。
玉は固かった。
でも柔らかいような気もした。
表面は叩いてみるとコンコンと音がして硬度を感じさせる。
でもゆっくりと押すと窪んだ。
気付いたら玉は俺を飲み込めるような大きさになっていた。
いつの間に大きくなったのだろうか?
今や直径十メートルはあるかもしれない。
俺はその玉の中に入ってみようと思った。
叩いたら弾かれたので、腕を突き出してゆっくり、ゆっくりと沈みこませる。
トプンッ と腕が粘度の高い液体に沈んだのが分かった。
俺は肘から上もゆっくりと入れていった。
玉が鼻先まで来た。
俺は思いきって顔を突っ込んだ。
特に息苦しさは無く、普通に呼吸できた。
俺はそのまま全身を玉の中に入れた。
中は呼吸ができるけど、身体中の感覚は水の中に居るときとおなじだった。
玉の外は見えない、それどころか何処までも水中が続いていた。
俺は何かに引き寄せられるような、誰かに呼ばれたような気がした。
さっき玉に入った方向から考えて俺を呼んだ何かは中央にいるようだ。
俺はその方向へ向け泳ぎだした
気付くと大人の、否、前世での自分の体になっていた。
そんなの、もう覚えていない筈なのに。
俺はそんな事は気にも止めず泳ぎ続けた。
どれ程泳いだかは分からない。
疲れもしないし息継ぎも必要ない。
それでも結構泳いだと思う。
やがて進行方向に何か光るものが見えた。
あの光が俺を呼んだのだろうか?
俺は光へ向かって泳いだ。
いつの間にか手足を動かさなくても進むようになった。
俺はそのまま進み続けた。
やがて、光にたどり着いた。
あったのは形のない光だった。
俺はその光が何かとても大切な物に思えた。
その輝きは優しく暖かかった。
そして言い様のない慈愛を内包しているように思えた。
俺はその光を両手で包み込み、自分の胸に抱き込む。
光の暖かさが全身を包み込み、俺の体は光に溶けていった。
目を開けた、さっき光に包まれて…どうなったんだ?
目の前には杖があった、ただの杖ではなく銀色に輝く錫杖だ。
長さは1,5メートルほど。
持ち手の上には円状になったパーツがあり四つの銀色のリングが通されいる。
円の中には台座があり翡翠色のクリスタルが嵌め込まれていた。
一目見て思ったことは『美しい』。
語彙力の無い俺にはそうとしかいえない。
俺はその錫杖を手に取った。
その時俺はこの神器の名前を知った。
「カンヘル…これから、よろしくな」
これが…俺の神器…使い方は分からない。
でもこうやって持っていると落ち着く。
とても、暖かくて、安心する…
「篝、それがお前の神器なのか?」
あれ?父さん、お仕置きは終わったの?
「そう、この杖はカンヘル。
俺の神器だよ」
「良かったなー篝。神器出せて」
アザゼル…
「お前さん一時間近く立ったままだったんだぜ」
マジか
「嘘でしょ」
「本当さ、お前が立ったまま二十分位してバラキエルと朱璃さんが来てさらに四十分近くそのままだったぜ」
あ、でもかなり泳いだ感覚だったしな
「お前さんその杖をなんと言った?」
知ってるのかな?
「カンヘルだよ。
掴んだ瞬間に名前が分かったんだ」
既存の神器か新種の神器か…
「カンヘル…聞いたことねーな」
「新種の神器ってこと?」
「ああ、多分な。こんなにも濃い光の気配にそれと同等の龍の気配なんて見たこともねぇよ」
ふぅ~ん、ま、いいか…
「じゃぁこの杖って龍が封印されてたりするの?
それとも龍から作り出したとか?」
「さぁな、調べてみないことにはなんとも言えん」
そっか、新種の神器だしまだあんまり分からないもんね。
ところで…
「姉さんは?」
「あっちで寝てるぞ。
大方慣れない光力を使って疲れたんだろう」
あ、母さんに膝枕されて寝てる。
せっかく神器出したのに寝てるとか…姉さんェ…
ところで俺もサハリエルに教えられた事をやったけど…
そこまで疲れてないぞ?なんでだ?
まぁいいか、それよりも…
「ねぇねぇ今なら翼出せるかな?」
聞きたかった事を聞いてみた。
「分からん、試しにやってみたらどうだ?
そうだなぁ…まぁ出るなら念じたら出るはずだ」
え?そんだけ?まぁいいや背中に意識を集中して…
あ、背中の肩甲骨辺りが熱くなってきたな、このままでいいのかな…
バサッ!
出たかな?
「なんだと?」
どうしたよ総督殿?
「うむ……これは…」
父さんまで…
「どうしたのさ?」
「翼を見てみりゃわかるよ」
翼?……何にもないじゃないか。
ちっさい黒い翼があるだけだ。
でもこんな小さい翼で飛べるのか?
「違う、逆だ逆」
逆?反対側の翼は……ええ…
そこには白銀の大翼があった。
大きさは二メートルはあるだろうか?
しかも形状が鳥の翼とは少し違う。
翼の途中に爪のような物まである。
まるで蝙蝠の翼の皮膜を白銀の羽毛に変えたような翼だ。
「そいつぁ多分だが神器の中に居る龍の翼だと思うぜ」
これが龍の翼?羽毛があるのに?
「でも羽毛があるよ?」
「だから訳が分からんのさ」
ふぅん…
「何か調べたりするの?」
人体実験とかやだな…
「いいや、やりたいがバラキエルと朱璃さんが怖いからやんねーよ」
マジで母さんなにしたんだよ…
「そっか、ならいいや」
にしてもバランス悪いな…小さくなんねぇかなコレ…聞いてみるか。
「コレってすごくアンバランスなんだけど小さくなんないの?
もしくは堕天使の翼って大きくなんないの?」
という俺の質問にアザゼルは答えた
「龍の翼は多分だがイメージ次第で小さくできるだろう。
しかし堕天使の翼を大きくすることは出来ん。
堕天使の翼は力の源だ。
これは天使と堕天使共通でな自分の意思じゃぁ大きさを変えることは無理だ。
俺やバラキエルのような複数枚の翼を持つ者は翼の大きさではなく外に出す翼の枚数で力を調整する」
へ~そうなんだ
「じゃぁ龍の力の源ってなに?」
「一般的には心臓と言われているが詳しくは解っていない。
龍が使う力も何を代償にしてるかもな。
龍を解剖しようなんてバカはそうそう居ねぇしな」
へ~そうか…心臓か…
「龍の翼が出たのならお前の体は龍に近づきつつあるのかもしれんな」
じゃぁ俺って出力系統が二つあるってこと?
「なら俺って龍の力も使えるの?」
「さぁ?使えるかもしれんし使えんかもしれん。
まぁ余り勧められるもんじゃないがな」
「どうして?」
「龍ってのは力の塊なのさ。
その力を操る事の出来る奴より力に呑まれた奴の方が遥かに多い」
「おい、アザゼル」
あ、父さん
「余り篝にそういう事をだな…」
「いーや、こう言うのは早めに教えるべきだと俺は思っている。
バラキエル、ちゃんと篝を見といてやれよ」
「言われなくともそのつもりだ」
と何やら俺抜きで話し合いを始めた。
「で、どうするよ、なんなら俺等で篝と朱乃を鍛えてやってもいいが」
え?なにそれめっちゃやりたい。
「ふむ…いやしかしコカビエルやケムエルのような戦争主義者は教育に悪いだろう」
あ、ダメですかそうですか。
「あ~確かになぁ…やめとくか…
まぁたまに連れてくるぐらいは大丈夫だろ」
よっしゃ!
「アザゼル、貴様は篝のデータが欲しいだけではないのか?」
「いやいや、そんなことねーよバラキエル。
サハリエルが気に入ってるしグザファンも満更じゃなさそうだったしな」
サハリエルは丁寧に教えてくれたしグザファンも解んないところを教えてくれたしな。
「サハリエルとグザファンか…まぁいいだろう」
あ、その二人はいいんだ。
「で、今夜は泊まっていくのか?」
アザゼルの問に父さんは…
「朱璃に聞いてくる」
母さんが一番強いもんなー…
母さんの方に走って行ったな。
「なぁ篝」
アザゼルが話しかけてきた。
「なにアザゼル?」
「羽根を1枚くれないか?」
「羽根?」
「そう、羽根」
父さんが離れるのを見計らってたな。
「何に使うの?」
「調べるだけさ」
ならいいのか?てか羽根って抜けるの?
「羽根って抜いて大丈夫なの?てか抜けるの?」
「ん?大丈夫だぞ。髪の毛と同じ様なもんさ。
ちょっと痛いがそれだけだ。
それに髪の毛と違って直ぐにまた生えて来るからな」
そんな物なんだ…でもさ…
「それって堕天使の翼でしょ?
龍も同じでいいの?」
「ああ、多分大丈夫だ。
それに龍の回復力なら堕天使の翼より早く生えるだろ」
あ、そうなの?
「なら別にいいけどアザゼルの羽根も1枚頂戴」
等価交換ってね。
「別にいいぞ」
バサッ!
おお、六対十二枚の漆黒の翼…これはこれで綺麗だしカッコいいな。
それにアザゼルの翼で上手く俺を隠している。
多分父さん達に俺が羽根を抜くのを見せないためだろう。
アザゼルは自分の翼から1枚の羽根を取って渡した。
「ほら、これでいいだろう?」
「うん」
俺も自分の龍の翼から1枚取る。
イテッ!本当に髪の毛抜いたような感覚だな。
「はい」
アザゼルの羽根を受け取り自分の羽根を渡す。
アザゼルは懐に入れ俺はポケットに入れた。
あ、父さんが戻ってきた。
「篝、今日はここに泊まっていくぞ」
あ、許可がでたんだ…
「分かったー」
「アザゼル、部屋はあるのか?」
「余ってなけりゃあんなこと言わねぇよ」
「そうか」
「で、そろそろメシ時だが?」
あ、そうか、昼過ぎに此所に来てからだから…今大体そのくらいか…
「何処で食べるんだ?食堂か?街に出るのか?」
「篝はどうしたい?」
父さんそこで俺に振るのかよ…
「アザゼルのお勧めで。
総督なら一番知ってるでしょ?」
と言ったら
「ハハハハハ!篝!わかってるじゃねーか!
よーし分かった!俺の一番のお気に入りにつれていってやらぁ!」
え?え?何?なんかアザゼルのテンションが一気に上がったぞ?
「はぁ…」
父さんが溜息をついた…あれぇ?俺なんか不味いこといった?
「よーし!いくぞお前ら!
朱璃さーん!代金俺持ちで街までいきますよー!」
「はーい!」
あ、姉さん起きたな。
こっち見て…驚いてるな。
まぁいいか、とにかくメシだメシ!
慣れないことばっかりで腹減ってんだよな。
さぁて、堕天使総督の勧める所ってどんなところかなぁ~
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