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蒼穹のカンヘル

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一枚目

硝子の割れるような音と共に、俺の眼前の存在が緑色の結晶に覆われていく。

「なんなのだ!なんなのだ貴様はぁ!」

俺が握る銀色の錫杖。

それに貫かれた、背中から五対十枚のカラスのように黒い羽を生やした男。

『神の子を見張るもの』幹部が一柱。

堕天使コカビエル。

奴の顔は恐怖に歪んでいる。

まぁそれも当たり前の事だ。

何せ奴は今、魂を直接攻撃され、記憶を侵され、存在を消されようとしているのだから。

「コカビエル、お前は俺を怒らせた!
テメェが消える理由はそれだけだ!」

俺はコカビエルを同化しながら、これまでの日々を、コイツが壊そうとした俺達の日常を、思い出していた。




時はさかのぼる。









『おぎゃぁ!おぎゃぁ!』

あっ、ああ、俺は、どう、なった?

たしか、友人との帰り道、俺は小さい女の子を庇ってトレーラーに…

あのあとどうなった?あの女の子は無事なのか?

体が動かねぇ、だが痛くはない、麻酔か?

『おぎゃぁ!おぎゃぁ!』

赤ん坊の声が聴こえる、病院だな。

ああ、起きないと、皆が心配してるかもしれない。

俺は目を開け…られなかった。

なんだ?まぶたが重い…まだ夢の中なのか?

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

それにしてはこの赤ん坊の声がやけにリアルだ。

「元気な男の子だな」

渋く深みのある声が聞こえた。

は?俺の居る病室で生まれたの?

ここどこだよ?そんな狭い病院近くに有ったかな?

ふっ、と浮遊感がした。

「やっと、生まれてきてくれた、私たちの天使」

そうか、良かったね奥さん。

にしてもマジで目が空かねぇ、目をやっちまったか?

俺はなんとか目を開けようとした。

なんとか目を開けて見たのは優しそうな女性の顔だった。

彼女は俺の目を覗き込み言った。

「貴方の名前は篝、姫島 篝、本当に生まれてきてくれてありがとう、私達の天使」

チュッ、そして『俺の』額にキスをした。

「フフッ堕天使の息子が天使と言うのも、なかなか、くくっ」

堕天使?息子?待てよ、待ってくれよ!

息子?俺が?何を言っている?どっきりか?

仕掛人は…あれ?……何でだ?あいつの名前が、思い出せない、俺の相棒だったあいつの…

あれ?俺は?俺は誰?名前が、思い出せない?

駄目だ、駄目だっ、駄目だ!

思い出せない!

何で!何で!どうして!

「おぎゃぁ!おぎゃぁ!」

思考の渦に囚われていた俺は再び赤ん坊の声を聞いた。

泣いているのは…俺?

彼女に抱かれている?

彼女の天使、つまり子供?

さっきの声の男性は彼女の旦那さん?

ははっ、待てよ、待ってくれよ

なら、俺は、死んだってのか?

そして、生まれ変わったとでも言うのか?

ははっ、カッコつけて、この様か…

ああ、てことはあいつは俺の死ぬところを見ちまったのか。

あいつは真面目だからな、『俺がやっていれば』とか考えてるかもな。

あーあ、やりたいこと、沢山あったのに…

ははっ、せめて卒業してから死にたかったぜ、二つの意味で…………はぁ。

ふざけても変わらないか…

今生じゃぁ、せいぜい無茶しないようにしよう。
 
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