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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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キムチ料理でホットな一夜に・その1

 俺が着替えを済ませている間に、早霜がウェルカムドリンクと称して1杯目の注文を取っている。俺も手早く制服を脱ぎ、動きやすいTシャツにラフなズボンにサンダル、仕上げに前掛けを付けた姿になる。

「よぅ、お待たせ……って、どうした?鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔してるぞ」

 更衣室から顔を出すと、ドリンクに口を付けたまま固まる上条御一行の姿があった。

「いや、だってこんなデカい鎮守府の提督がそんな格好……」

「この店にいる内は俺ぁただの飲み屋の親父さ。そんな堅苦しく飲んでたら折角の酒が不味くなるぞ」

 そうは言ってもガッチガチに緊張するのが普通だよな。ウチに来る他の鎮守府の連中は緊張するどころか図々しいのが大半で、頭のネジが弛んでるかそもそも存在しねぇんじゃねぇかと思う。こういう『まとも』な反応は珍しく思える。

「さてと、気を取り直して行こう。早霜、ウチの店のシステムはもう説明したのか?」

「いえ、今からする予定でした」

「そっか、なら俺から説明さして貰おう。見てもらえば解る通り、ウチの店にはメニューがねぇ。食いたい物を注文して、材料が揃ってりゃあ出来る限り作って出すってのがウチのスタイルだ」

「何でもいいんですか?」

「あぁ、作れるモンなら何でも作るぜ?」

 恐る恐る尋ねてくる川内に、自信たっぷりに頷いて見せる。

「そう言われても……なぁ?」

「そうねぇ……パッと思い付かないわ」

「なら、とりあえずおまかせでいいか?丁度今日辺り頃合いになってるハズの物がある」

 何を頼もうか悩んでいる様子の上条御一行に、俺が助け船を出す。俺はキッチンの床下収納を開け、中に仕舞ってあった甕を取り出す。

「大将、それは?」

「これか?これはな……本場韓国のオモニ(韓国語でお母さん又はお袋の意味)から習って俺が漬けた、特製キムチだ」

 パカッと蓋を開けると、漬け物独特の酸味の効いた匂いと、ニンニクや唐辛子なんかのキムチの味付けに使われている調味料の香りが混ざってぷ~んと漂う。

「くっ、臭っ!キムチってこんなに臭かったっけ!?」

「日本風のキムチに慣れてりゃそうなるだろうな。日本風キムチと韓国のキムチはほぼ別物だからな」

 韓国の代表的な食べ物、キムチ。キムチと言われれば白菜のキムチが一般的だが、日本と韓国ではそもそもキムチの立ち位置が違う。

 日本では漬け物をおかずにご飯を食べる習慣がある為、キムチもご飯のおかずに位置している。その為、浅漬けキムチと呼ばれる塩漬け白菜をキムチ風の味付けをした調味液に漬けて作るのが一般的だ。ご飯のおかずである為、キムチ単品で食べるように味付けも優しい。

 一方韓国では、キムチは醤油や鰹節のようにある種の調味料の役割がある。本格的な韓国焼き肉の店などに行くと、肉をキムチと一緒にサンチュで包んで食べる事からも明らかだ。その為、日本の浅漬けキムチとは違い味も辛味も強めな上、乳酸菌発酵させているので日本のキムチよりも圧倒的に酸っぱい。しかしそのクセの強さがまた酒のアテには最高で、俺は専ら自分で漬けるようにしている。

「た、大将の手作りなんですかソレ……」

「おう。他にも色々作ってるぞ?梅干し、糠漬け、魚の干物、醤油、味噌、果実酒に……」

「強面で偉い人なのに凄い家庭的だー!?」

 上条君にビックリされてしまった。まぁ、強面なのに料理や菓子作りが上手いモンだから学生時代には女友達に損してる、とよく言われたもんだ。

「特にリクエストも無いようなら、このキムチで料理を作ろうと思うんだが?」
 
 聞いて見たが、異論は無いらしい。




《簡単!和えるだけ!アボカドキムチ》※分量2人前

・アボカド:1個

・キムチ:80g位

・酢:大さじ1位※お好みで!

・韓国海苔又は味海苔:適量


 まずはサクッと作れるお通しを1品。……つっても、刻んで混ぜるだけなんだがな。アボカドの種を取り除き、スプーンで身を掬い取るか包丁で皮を剥く。ボウルに入れてスプーンで細かくするか、包丁で刻んでからボウルに入れる。

 後は食べやすい大きさに刻んだキムチとアボカドを和えるだけなんだが、ここでポイント。アボカドのクリーミーさを引き立てる為に酢を加える。だが、それは市販の浅漬けキムチの場合。俺のキムチは十分に酸味があるので酢は入れずにそのままアボカドと和えれば完成。皿に盛り付け、お供に韓国海苔か味海苔を添えれば尚良い。

「あいよ、まずは軽くつまめる『アボカドキムチ』だ。そのまんま食ってもいいし、添えてある海苔で巻いて食っても美味いぞ」

 一応未成年の上条君には白飯も出しとくか。この手のツマミは飯のオカズにも最高だからな。俺もジョッキを手に持ち、サーバーからビールを注ぐ。キムチ食うにはマッコリもいいが、やっぱりビールか焼酎だろ。

「んじゃまとりあえず。堅苦しいのは抜きにして乾杯~!」

 カンパーイ!と喧しく騒いでいるのはウチの連中ばかりかと思いきや、ウチの連中がカウンター席の上条御一行の間に挟まり、無理矢理に乾杯して場を盛り上げようとしている。まぁ、宴会にゃあそういう強引なノリも多少は必要だし、止めないでおこう。

「ん!美味しい!」

「ほぅ、こいつは美味いのう」

 中々売れ行きは好調なようだ。俺に文句たらたらだった加賀も、無言でパクパクやっている辺りがその証明だ。俺がニヤニヤ笑いながら視線を送っていると、その視線に気付いたのかバッチリ目が合った。余程気まずかったのか、赤面してそっぽ向かれてしまった……が、箸が止まっていない。

「どうだい、中々のもんだろ?」

「はい、美味いっす!」

 ガツガツと白飯とアボカドキムチをかっこむ上条君を見ていると、流石に若いねぇ……と思うようになった辺り、俺も歳を喰ったって事か。

「しかし、何でまたこれだけ食糧の自給に力を入れているんです?金城大将」

 おっと、上条君とこの青葉か。

「まぁ、ウチの連中が美味い物を食いたいってのもあるんだが……まぁ、籠城対策も兼ねてかな」

「ほうほう」

「武器弾薬もそうだが、籠城で一番困るのは水と食糧だ。ウチの連中は最悪白兵戦でも戦えるからな、食い物さえあれば年単位で立て籠るぞ?」

「うわ、想像したくないですねぇ……」

 と、青葉は苦笑いを浮かべている。実際、山雲農園はついに水田にまで手を出し始めたし、小麦や大麦なんかも育てているから主食もあるから食事には困らない。酒が無くなればウチの連中はどうなるかは解らんが、籠城戦なら負ける気がしない。

「……ねぇ、そのキムチって作るの難しいの?」

 そんな風に呟いたのは陸奥だ。比叡の奴が興味を持たなくて良かった。

「そうでもねぇさ。一回覚えちまえば毎年白菜が採れるシーズンになれば漬けられるしな」

折角だし、教えてやるか。


《自宅で漬けてみよう!本場の薬念(ヤンニョム)キムチ》

・白菜:2玉

・ニラ:2束

・ニンニク:1個(1片じゃないぞ)

・生姜:30g

・リンゴ:1個(ナシでも美味いぞ)

・生姜:30g

・昆布茶:10g

・ほんだし:5g

・中華だし:5g(鶏ガラスープじゃないぞ)

・ハチミツ:200g前後(好みで調節)

・唐辛子※辛い品種(粗微塵の物):100g

・唐辛子※甘めの品種(細かい物):100g

・アミ(オキアミ)の塩辛:80g※無ければイカの塩辛でも代用可

・漬け物用の塩:200g

①白菜を干す

 まずは白菜の下処理からだ。1玉の白菜を4等分にして、ザル等に乗せて風通しの良い場所で1~2日程干す。これは日本の白菜が韓国の白菜に比べて瑞々しすぎて、韓国の白菜に合わせた味付けでは水が出すぎて上手く漬からないからだそうだ。※習ったオモニ談

②白菜を塩漬けする

 白菜を干したら次は塩漬けだ。4等分のまま刻んだりせず、塩を刷り込んで漬け物樽に隙間なく詰めて重石をして1日漬ける。塩加減が多すぎれば出来たキムチが塩辛くなるし、逆に少ないと白菜から水が出ず、腐ってしまうから注意。重石や樽はホームセンターに行けば大概売ってるぞ。丸一日漬けておけば白菜から水が出てくる。こうなればOKだ。

③薬念(ヤンニョム)を作る

 白菜が上手く漬かったのを確認したら、キムチの味の要、ヤンニョムを作るぞ。このレシピを覚えておけば、白菜キムチの他にもキュウリを漬けたオイキムチや大根を漬けたカクテキなんかも自宅で作れるようになるぞ。生姜、ニンニク、リンゴをすり下ろし、ニラと白菜以外の材料を混ぜ合わせる。イカの塩辛を使う場合には、細かく刻むのを忘れずにな。他にも細かく刻んだスルメやオイスターソースなんかを隠し味に入れると味に深みが出るからオススメだ。材料がよく混ざったら、適当な長さに刻んだニラを加えて更に混ぜればヤンニョムは完成だ。

④白菜にヤンニョムを刷り込む

 塩漬けした白菜をよく絞り、ヤンニョムを白菜の葉と葉の間に刷り込んでいく。手間かもしれないが、ここで手を抜くと味が大きく変わる。丁寧にやろう。臭いが気になるなら、ビニール手袋等を装着してやればいいだろう。

⑤完成! 

 そのまま食べてもいいが、1日寝かせた方が白菜にヤンニョムが馴染んで味が落ち着いて来るぞ。冷暗所に保存すれば1ヶ月は保つはずだから、少しずつ変化する味を楽しむのもいいだろう。ただし、発酵食品だからといって腐らない訳ではないのを忘れずにな。

 



 
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