英雄伝説~西風の絶剣~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第39話 学園祭
side:リィン
やあ、リィンだ。俺は今ジェニス王立学園に向かっている。何故かというと今日は学園祭という事で孤児院の人たちと一緒に行くことになったんだ。
「オリビエおじさん。本当に何でも買ってくれるの?」
「食べ物とかも一杯食べていいの?」
「勿論いいさ。でもおじさんは止めてくれないかな?」
何故かというよりはやっぱり付いてきたオリビエさんはすっかり子供たちに懐かれていた。まあ元々子供っぽい人だから波長が合うんだろうね。
「……ふんっ」
でもクラムは相変わらず俺に敵意を抱いているようだ。何とか学園祭で仲良くなれる切っ掛けが作れるといいんだけどな。
「……ぷいっ」
そして約もう一名不機嫌な子が俺の右手をつないで歩いている。怒っているなら手をつながなくてもいいんじゃないかと思うがそれを言ったら余計に拗ねてしまうので言わないでおこう。暫くすると前方に沢山の人が集まっていた。
「うわぁ……凄い人の数ー」
「テレサさん、あの人たちも学園祭を目的にしてきた人たちですか?」
「ええ、毎年多くの人がこの時期にルーアンにいらっしゃいますの。でも今年は今までの中でも一番の数ですね」
「流石はリベールが誇る王立学園の事はありますね」
俺がテレサさんと話していると学園の方からアナウンスが聞こえてきた。
『……大変長らくお待たせしました。ただ今よりジェニス王立学園、第52回・学園祭を開催します』
アナウンスが終わると校門が開き人々が学園内に入っていく。俺たちもそれに続いて中に入っていくがこれがジェニス王立学園の内部か。綺麗な校舎だな、ここで勉強したり部活をしたり青春っていうのを満喫しているのかな?俺は日曜学校にも通った事がないから少し新鮮な気持ちだ。
「皆、来てくれたのね」
「あっ、クローゼ姉ちゃん!」
校門をくぐった先に誰かが立っていた。子供たちが反応したという事は孤児院の関係者だろうか?
「リート、あの子が昨日話したクローゼだよ」
「ああ、孤児院によく来るって話していたあの……」
フィーはテレサさんたち以外にもお世話になった女の子がいると言っていたがあの子がそうなのか。しかし可憐な人だな。学生服も可愛いが来ている本人もそれに負けない位綺麗だ。
「……デレデレしない」
「いひゃいっ!?」
突然フィーに頬を引っ張られてしまった。人前で女の子をジロジロ見るのは失礼だったな。
「あの……あなたがフィルさんのお兄さんですか?」
フィーに頬を引っ張られていると子供たちに囲まれていたクローゼという少女がこちらに来て俺に話しかけてきた。
「初めまして、俺はリートといいます。あなたがクローゼさんですね。俺の妹が世話になったと聞いています。本当にありがとうございました」
「私の方こそフィルさんには色々と助けて頂いたので気にしないでください。寧ろ私の方がお礼をいわなくてはならないくらいです」
「孤児院の事ですよね。そういえばその事件についてはエステルさんとヨシュアさんが追っていると聞いていたんですがお二人はこちらに?」
「エステルさんたちなら……あっ」
「うん?どうかなさ……うおっ!?」
「リート君!見つけたわよ!」
「エ、エステルさん!?」
背後から急に現れたエステルさんに肩を掴まれて激しく揺さぶられる。
「聞いたわよ、リート君!フィルってあなたの妹さんだったんですって!?どうしてあたしたちに話してくれなかったのよ!!」
「エ、エステルさん!?そんなガックンガックンしないでください……!気持ち悪いです……!?」
「まあまあ……エステル、そんなに揺さぶったらリート君も話せないよ?」
ヨシュアさんが助け舟を出してくれたお陰で俺はエステルさんから解放された。
「あ、ごめん!あたしったらつい興奮しちゃって……リート君、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です……」
エステルさんが落ち着いてくれたようなので俺はフィルについて話し出した。
「俺はカシウスさんにフィルの事を話したとき自分が信頼する人物に捜索させるからこの件については口外しないでくれといわれていたのでエステルさんたちにも話せませんでした。ごめんなさい」
「そうなの?うーん、父さんからしたらあたしたちは信頼できなかったのかしら……」
「まあ僕たちは準遊撃士だし二人は帝国で起きた事件の被害者でもあったそうだから安全のため情報が拡散されることがないようにそう言ったんだと思うよ」
「俺もそう思います。カシウスさんはお二人を何よりも信頼してますしそんなことは思ってないですよ」
落ち込むエステルさんをヨシュアさんと俺で励ました。
「まあいいわ。それにしてもリート君とフィルが兄妹だったなんてね。あんまり似てないから言われなきゃ分からなかったわ」
「俺とフィルは義理の兄妹ですから似てはないですね」
「ん、だから合法的に結婚できる」
「はいはい、そういう冗談は止めなさい」
ブイと指でサインするフィーの頭をポンと叩いた。
「あはは、仲いいのね。ヨシュアも偶にはお姉ちゃんに甘えてもいいのよ?」
「お姉ちゃんぶりたいならもう少ししっかりとしてほしいね。フィルとクローゼに初めて出会った時も前方不注意でフィルにぶつかったんだから」
「あわわ、それは言わないでよ~」
エステルさんとヨシュアさんのやり取りに俺たちはクスッと笑みを浮かべた。相変わらずこの二人は仲がいいな。
「ねえねえ、エステルくん?僕には何もないのかい?」
「……ツッコミたくなかったから放置してたけどなんであんたがいるのよ?」
「そりゃあ君たちと僕には複雑に絡み合った運命の赤い糸があってそれが必然的に僕たちを……」
「リート君、あたしたち劇に出るから良かったら見に来てよ」
「……だから無視はしないでほしいなー」
エステルさんがオリビエさんの話を無視して放そうとするがそれにオリビエさんが待ったをかけた。
「もう折角放置できたと思ったのに何よ?」
「何で僕がここに来たのか聞いてよ~」
「面倒くさいわねー。そんなの興味ないわ」
「ガックシ……」
結局オリビエさんはエステルさんに軽くあしらわれてしまった。その後エステルさんたちは劇の準備があるらしくそちらに向かい俺とフィーはオリビエさん達と一緒に学園祭を周る事にした。
「お兄ちゃん、あれ買って~」
「うん、いいよ」
ポーリィにおねだりをされて俺とオリビエさんはクレープやアイス、ポップコーンを子供たちに買ってあげた。ポーリィとマリィ、ダニエルとは仲良くなれたんだけど……
「クラムは何か欲しい物はないかい?」
「……別にねえよ」
うーん、まだ仲良くなれないか……どうしたものかな。
「リート君、僕には何か買ってくれないのかい?」
「ええ……オリビエさんのほうが年上なのにですか?」
「はは、流石に昨日の出費と子供達に奢ってあげていたら財布が薄くなっちゃったのさ……」
「見栄を張るからですよ。まあいいです、何が欲しいんですか?」
「流石リート君!優しいねえ!」
「調子いいんだから……まったく」
オリビエさんにも何か買ってあげようとクレープ屋台の前に行くと目の前に何だか見た事のある金髪の女性が並んでいた。
「あれ、メイベルさん?」
「あら、もしかしてリート君?久しぶりですわね」
目の前にいたのはボースでお世話になったメイベルさんだった。でもどうしてメイベルさんがジェニス王立学園にいるんだ?
「メイベルさん、お久しぶりです。今日はジェニス王立学園の学園祭に来ていたんですか?」
「実は私、この学園の卒業生なんです。毎年学園祭には顔を出させてもらっていますの」
「なるほど、そうだったんですか」
「それよりリート君こそどういたしましたの?ひょっとしてあなたも遊びにきていたんですか?」
「そんな所です。今日は妹とその友人たちと来ました」
「妹……?」
メイベルさんが俺の隣にいるフィーとオリビエに視線を送る。
「オリビエさんもお久しぶりですわね。あの時は本当にありがとうございました」
「なに、気にすることはないよ。美人の頼みを聞くのは紳士の務めだからね」
「偉そうに言わないでくださいよ。どっちかっていうとあなたがメイベルさんに迷惑をかけたんじゃないですか」
「うふふ、お二人も変わりないようで安心いたしましたわ。そしてあなたは初めましてですわね。私はメイベル。商業都市ボースの市長を務めさせていただいている者です」
「ん。私はフィル。リートがお世話になったって聞いた。よろしく」
ギュッと握手をして自己紹介を終えるフィルとメイベルさん。するとそこにメイベルさんのメイドのリラさんが現れた。
「お嬢様、また勝手にいなくなられたりして……まずはダルモア市長とコリンズ学園長にご挨拶をしに行くと決めていたじゃありませんか」
「ごめんなさい、リラ。美味しそうなクレープがあったからつい……」
「ついじゃありません……リートさん、お久しぶりです。本当はもう少し会話を続けたいのですが予定が迫っていますので……」
「リラさん、お久しぶりです。相変わらず大変そうですね、俺たちの事は気にしないでください」
「ありがとうございます。さあお嬢様、行きますよ」
「あ、待ってリラ。まだクレープを……」
「それでは皆様、失礼いたします」
リラさんはペコリとお辞儀をするとメイベルさんを連れて行ってしまった。
「……何だかあのメイドの人、大変そうだったね」
「まあ何だかんだ言ってもあの二人はいい関係だと思うよ。リラさんも楽しそうだったし」
メイベルさんと別れた後、俺たちは本館の中を見て周ることにした。二階には生徒たちが調べた研究内容が展示されていた。二つの教室がありそれぞれが違うものを研究していたようで社会科コースはルーアン地方の歴史や経済について調べてあり自然科コースは結晶回路と導力技術について調べた事が展示されていた。
「へえ、結構本格的なんだな……」
展示されていたものは学生が作ったものにしては本格的な内容でかなり興味が湧いた。子供たちは退屈そうなのでオリビエさんに相手をしてもらい俺は熱心に展示されていた物をみていた。
「おや?もしかしてリート君ですか?」
「アルバ教授、あなたも来ていたんですね」
俺に話しかけてきたのはロレントで知り合ったアルバ教授だった。彼も学園祭に来ていたのか。
「ええ、偶には息抜きもしようかとここにお邪魔させていただきました。それにしても奇遇ですね、お元気そうで何よりです」
「教授こそ元気そうで何よりです。あれから至宝について何かわかりましたか?」
「いえまだ何とも言えませんね……つい先日も『紺碧の塔』の発掘調査にいったんですが成果はあまり得られませんでした」
「また一人で行ったんですか?あなたも無茶しますね」
俺がアルバ教授と話していると隣にいたはずのフィーが何故か離れた場所にいて俺たちの様子を伺っていた。
「あれ?フィル、どうしたんだ?」
「……」
フィーに声をかけてみるが彼女はアルバ教授を警戒しているのかこちらには来なかった。
「リート君、あの子は誰ですか?」
「ああ、あの子は俺の妹です」
「妹さんがいたんですか。でも何やら私を警戒しているようにみえますが……」
「すいません。あの子ちょっと人見知りするところがあるので……」
「なるほど、確かに私みたいに怪しい人物は怖いでしょうし不安にさせてしまったようですね」
「不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
「いえいえ、私は気にしてませんよ。じゃあ私はこの辺で失礼させていただきます。またお会いできるといいですね」
アルバ教授はそう言うと別の展示物がある教室に向かった。するとさっきまで離れていたフィーが俺の傍に来ていて手を握っていた。
「……」
「フィル、どうかしたのか?昔よりは人見知りが治ったと思っていたんだけど……」
「あの人、怖い……」
「怖いってアルバ教授が?」
「うん、よくわかんないけど怖くなったの……」
プルプルと体を震わせているフィーを見て俺はアルバ教授が去っていった方を見る。俺は何とも思わなかったがフィーは一般人より感覚が鋭い所があるから自分しか分からない何かを感じたのかも知れないな。
「……少し警戒しておくか」
俺はアルバ教授に少しの疑問を持ち今後は注意深くしておこうと思った。その後はクラブハウスで昼食を食べた後劇が始まる時間になったので講堂に向かった。
「凄い人の数だね」
「ああ、早めに席を確保していてよかったよ」
何とか全員分の席を確保できたが凄い人の数だな、エステルさん達も大分緊張していることだろう。
「でもなんの劇なんだろうね」
「貰ったパンフレットによれば劇の名前は『白き花のマドリガル』といってリベールに貴族制度が残っていた時代の王都を舞台にした物語のようで平民の騎士オスカーと貴族の騎士ユリウス、そして王家の姫君セシリアとの3人の関係を描いた恋愛劇……らしいよ」
「なんかドロドロしてそうだね」
「いや、劇なんだしそんな物騒なものじゃないだろう……っとそろそろ始まりそうだ」
辺りが暗くなりアナウンスが流れてきた。
『……大変お待たせしました。ただ今より生徒会が主催する史劇、『白き花のマドリガル』を上映します。皆様、最後までごゆっくりお楽しみください』
演劇が始まり眼鏡をかけた女子生徒が語り部をしながら物語が始まったんだけど最初に出てきたセシリア姫を見て俺とフィーは目を丸くした。
「……あれ、ヨシュアだよね?」
「ああ、間違いなくヨシュアさんだ」
なんとセシリア姫の役は男であるヨシュアさんが演じていた。後から出てきたメイドが男だったのを見て俺はこの劇は男女の配役を逆にしていると分かった。
しかし似合い過ぎだろ……知り合いじゃなかったら気が付かないぞ。周りの人たちもメイドを見てクスッとしていたがセシリア姫は「姫だけは女性が演じているのか?」なんて言う人がいるくらいだ。
更に劇は進むと今度は赤い衣装を着たエステルさんと青い衣装を着たクローゼさんが現れた。どうやらユリウスがエステルさんでオスカーがクローゼさんらしい。でもよく似合ってるな。
「……」
フィーも周りの人たちも全員が劇に集中していた。それから劇は一気に進んでいく。メインのキャラであるオスカーとユリウス、そしてセシリア姫は幼馴染で最初は仲の良かった友人同士だったが次第に勢力争いに巻き込まれていき、ついにはセシリア姫をかけて二人の騎士が対立するところまで物語が進んでいった。二人の騎士が激しい剣の交戦を繰り広げていく中で等々決着が付く場面になった。
『次の一撃で全てを決しよう。自分は……君を殺すつもりで行く』
『オスカー……分かった。私も次の一撃に全てを賭ける』
二人の騎士はそれぞれ離れた位置に飛び、必殺の構えを取る。
『さらなる生と、姫の笑顔。そして王国の未来さえも……生き残った者が全ての責任を背負うのだ』
『そして敗れた者は魂となって見守っていく……それもまた騎士の誇りだろう』
二人は最後の会話を終えて決意したように同時に飛び出した。二人の剣が互いを貫こうとした瞬間、何者かが二人の間に割って入ってきた。
『あ……』
『なっ……!?』
『セシ……リ……ア……?』
二人の間に入ったのはセシリア姫だった。二人を止めるためにセシリア姫は身を挺したが代わりに二人の剣に刺されてしまう。
『ああ……目が霞んで……ねえ……二人とも……そこに……いますか……?』
『はい……』
『君の傍にいる……』
『不思議……あの光景が浮かんできます……幼いころ……お城を抜け出して遊びに行った……路地裏の……オスカーも……ユリウスも……あんなに楽しそうに……笑って……わたくしは……二人の笑顔が……大好き……だから……
どうか……いつも……わら…い……て……』
『姫……?嘘でしょう、姫!頼むから嘘だと言ってくれええ!!』
セシリア姫は最後まで二人の事を想いそして命を落としてしまった。
「……ぐすっ」
ヨシュアさんが演じるセシリア姫の表情は満ち足りた儚い笑みを浮かべ、今にも死に絶えそうな声に演技だと分かっていても涙が出てきてしまった。
「あっ。リィン、あれ……」
「あれは……」
悲しみに暮れる人々の前に眩い光が現れた。その光は空の女神エイドスで人々の後悔と懺悔を聞き届けると奇跡の力でセシリア姫を蘇らせた。そしてその後はオスカーとユリウスはいずれ姫をかけて正々堂々と戦う事を誓いセシリア姫が決闘の勝者を譲られたオスカーに口づけを交わす。
『空の女神も照覧あれ!今日という良き日がいつまでも続きますように!』
『リベールに永遠の平和を!』
『リベールに永遠の栄光を!』
そして舞台幕が下りて劇が終わる。辺りには大きな拍手の嵐が鳴り響いた。
「凄かったね~」
「お姉ちゃんたちもかっこよかったしお兄ちゃんも綺麗だったね」
「ぐすっ、オイラ泣いちゃったよ……」
「素晴らしい劇だったよ。それにしてもヨシュア君は僕が見込んだ通りの逸材だったねぇ。写真とか売ってないのかな?」
俺たちは満足した表情を浮かべてエステルさん達がいる舞台裏に向かった。
「クローゼ姉ちゃん!オスカー、スッゲーカッコよかったぜ!」
「ふふ、ありがとう」
「エステルさんもすっごく良かったですよ!ユリウス様~♡」
「ホント様になってたね」
「ちょ、ちょっとマリィ……フィルもクスクス笑わないでよ~」
「ヨシュア君、凄く綺麗なお姫様だったね。僕、本気になっちゃいそうだったよ」
「本当に絶世の美女でしたね。お疲れさまでした」
「オリビエさんもリート君もお願いだから止めて……結構恥ずかしかったんだから……」
ヨシュアさんはそういうが一番演技に集中していたと思うんだけどね。まあ本人は恥ずかしがってるしこれ以上は言わないでおこう。
「ふふ、皆で楽しませてもらいましたよ。恋と友情の間で悩みながら時代の流れに立ち向かっていくそれぞれの主人公たち……手に汗を握る決闘の果てに待ち受けている悲しい決着……そして心温まる大団円……本当に素晴らしい劇でした」
「いや~、そう言ってもらえると頑張った甲斐がありますよ」
眼鏡をかけた女子生徒が照れているのを見てあの劇の脚本を作ったのは彼女のようだと分かった。
「あ、そうだ……ハンス」
「ああ、そうだったな」
「ジル?どうしたの?」
「ん、ちょっと待っててね」
ジルと呼ばれた女子生徒とその近くにいた男子生徒を連れて舞台裏から出て行った。暫くすると二人が戻ってきて誰かを連れてきた。
「まあ、コリンズ学園長……」
「久しぶりだのう、テレサ院長。せっかく来ていただいたのに挨拶が遅れて申し訳なかった」
「とんでもありません……本当に素晴らしいお祭りに招いて頂いて感謝いたします」
どうやらこの人はジェニス王立学園の学園長のようだ。
「……事情はクローゼ君から聞いたよ。大変なことになってしまったね」
「はい……」
「そこで、わしらも微力ながら力になれればと思ってな」
「え……?」
「テレサ院長、どうぞ受け取ってください」
テレサさんがきょとんとしているとジルと呼ばれた女子生徒が分厚い封筒を渡した。
「これは……?」
「来場者から集まった寄付金でちょうど100万ミラあります。孤児院再建に役立ててください」
100万ミラだって!?凄い金額じゃないか!
「ど、どうしてこんな……」
「今回は侯爵やボース市長など多くの名士が来場したからのう、例年よりも多く集まったのだよ」
「そんな……いけません!こんなものは受け取れません!」
「遠慮する必要はありませんよ。毎年学園祭で集まった寄付金は福祉活動に使われていますから」
「孤児院再建に使われるのなら寄付された方々も納得されますって」
「でも……そんな……」
テレサさんはまだ納得できないようだ、根が真面目だから寄付金を使う事に罪悪感を感じているんだろう。
「テレサ、貰っておきなよ」
「フィルさん……」
「テレサの気持ちもわかるよ。でもこれだけの多くの人が孤児院を再建することを望んでここまでしてくれたんだよ?それを受け取らない方が返ってその人たちの気持ちを無下にしちゃうんじゃないかな?」
「フィルの言う通りだと思います。あなたは子供たち、そして寄付金をくれた方々の……そして何より自分の為に今は拘りを捨ててでもそのミラを受け取るべきです」
フィーと俺の説得にその場にいた全員が頷いた。
「……ああ……もう……なんとお礼を言っていいのか……ありがとう……本当にありがとうございます」
テレサさんはその場で膝をついて涙を流した。
「良かったね、本当に……」
「ああ、これで一件落着だ」
俺とフィーはテレサさんを心配して駆け寄る子供たちを見ながら心から良かったと思った。
ページ上へ戻る