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おぢばにおかえり

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6部分:第二話 神殿その三


第二話 神殿その三

「何よそれ、そもそも新一君まだ十七じゃない」
 ムキになって言いました。
「それで結婚って。大体私はまだ勉強中だしそもそも何で新一君なのよ」
「冗談だって」
 軽く切り返されてしまいました。
「冗談ってちょっと」
「まあ未婚のカップルってところかな」
「・・・・・・いい加減にしなさい」
 今度は本気で頭にきました。毎回毎回。
「何が未婚よ、私はキスだってね」
「それ俺も」
 また切り返してきました。本当にこういうのだけは上手いです。
「俺だってそうだよ」
「そんなのどうでもいいわよ」
 本気でそう思いました。誰が新一君のなんか。
「私はね、結婚するまではそんな。それなのにどうして子供なんか」
「だから例えだって」
「例え!?」
「そっ、例え」
 軽い口調で言います。
「そんなに気にすることないじゃない。単なる例えで冗談なんだから」
「だったらいいけれど」
 それでも凄い腑に落ちないですけれど。機嫌が悪いままです。
「とにかくね。私は」
「主任先生のお孫さんの相手しなきゃね」
「そ、そうね」
 また先に言うことを言われました。彼はこうしたことはほんっとうに上手いんで困ります。本当にこういうのだけは上手いんです。
「それはそうだけれど」
「それでさ、先輩」
 いつもの軽い笑顔を私に向けてきました。
「祖霊殿参拝するんだよね」
「ええ、まあ」 
 もうすぐ目の前にあります。前後を参拝する信者さんが通ります。
「そうだけれど」
「じゃあ行こうよ」
「最初からそのつもりだけれど、私は」
 神殿に来たらやっぱり礼拝場と教祖殿、祖霊殿は行きたいです。時間がなければ礼拝場だけになりますけれど。よく回廊を膝当てをして拭いておられる方がいますけれどこの人達もひのきしんをしておられるんです。簡単に言うと奉仕でしょうか。『日の寄進』と書くとも言われています。おみちではかなり重要な教えです。
「行くのよね、新一君も」
「だから来てるんじゃない」
 その軽い口調で答えてきます。
「でしょ?だから」
「わかったわ。それじゃあ」
 彼に応えて言います。
「行きましょう。いいわね」
「うん。それじゃあさ」
 新一君は私の言葉を受けて主任先生のお孫さん達に顔を向けます。その顔を見たら笑顔で優しい感じで子供達に接しています。私に対してとは全然違います。
「あの中に入ろうね。いいね」
「はあい」
「わかりました」
「うんうん、子供は素直でいいな」
「本当ね」
 その言葉には頷けます。主任先生のお孫さん達は皆よくできた子供達です。横にいる大きな子供とは全然違って。
「何処かの誰かさんとは違って」
「それ誰?」
「さあ」
 惚ける新一君を見てまた言います。
「誰かしら」
「わからないよね」
 やっぱり惚けたままです。
「何処の誰やら」
「まあいいわ。じゃあ」
 祖霊殿の前まで来てお辞儀をしてから中に入ります。ここは中山家の方々、教会本部に勤めておられた先生方の祖霊が祭られています。全部で三つの場所があります。
「参拝しましょう」
「うん。じゃあ」
 新一君も私と一緒にお辞儀をして中に入りました。そうして参拝の後で神殿の西の方から出て広い道を通って詰所に帰ります。右手に憩の家があります。天理教が作った病院です。
 そこを右手に見ながら歩きます。白い道を二人。子供達を連れて。
「すぐに終わったね」
「まあ神殿に参拝するだけだったし」
 新一君は相変わらず子供達の手を引きながら答えます。両手にそれぞれ子供達の手を持っています。私は残る一人の手を。
「そりゃまあ早く終わるかな」
「そうね。じゃあ後は詰所で」
「ねえ先輩」
 新一君は急に私に声をかけてきました。
「何?」
「お腹空いてない?」
「まあ言われると」
 お昼から結構経っています。それでお腹は結構減ってきていました。
「新一君は?」
「俺も」
 新一君も答えます。考えたら彼から話を振ってきたんですからこれは当然と言えば当然でした。

 
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