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ABULHOOL IN ACCELWORID

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四時間目、数学の時間。

老教師がたらたらと話す退屈な授業中。

うつらうつらしていると視界の端にピコンとメール着信のアイコンが浮かんだ。

課題ファイルか?

そう思い、黒板に目を向けるとさっきよりも多く書き込まれた黒板が目に入った。

どうやら課題ファイルではないようだ。

と、なれば…

俺は首を動かす事なく、ニューロリンカーの機能を使い、後ろを向いた。

すると後ろの方の席で不良生徒がニヤニヤしていた。

成る程、またアイツ等か…

受け取ったメールを開くことなくゴミ箱へ。

授業が終わり、昼休みになった。

あぁ…面倒だ。

俺は絡まれるのが嫌なので購買でおにぎりとコーヒー牛乳を買ってトイレへ向かった。

それも教室から一番遠いトイレだ。

個室にこもり、コーヒー牛乳でおにぎりを流し込む。

さて…昼休みが終わるまでかなり有るな…

潜って暇でも潰すか…

「ダイレクトリンク」

フッと体が軽くなる。

肉体の、義手の重みが消える。

一瞬、全身の感覚がなくなる。

そして、光となった俺の体が、再び構成された。

頭は山羊…ただし骸骨。

足まである黒いコート

手には手袋。

足は黒いズボン。

身長は180センチほど。

俺が好きな漫画の登場人物を模したアバターだ。

手を掲げ、閉じたり開いたりする。

やはり、感覚があるというのは良い物だ…

メルヘンチックな学内ローカルネットの仮想エリア。

その奥へ奥へと歩く。

ふと、泉に目が向いた。

ソコには、形容しがたい美しさを持ったアバターがいた。

スノーブラック…黒雪姫…そう呼ばれる先輩だ。

リアルも遠目に見た事があるが、リアルの方がよっぽど綺麗だと思う。

まぁ、俺のような人間にとっては雲の上のそのまた上の存在だ。

そう思いながらクイズゲーム、ボードゲーム、そして殆どのスポーツコーナーを通り過ぎ、目的地に着いた。

スカッシュ…テニスに似たスポーツだ。

だがテニスと違いマイナーだ。

ブースに入ると記録が表示された。

その殆どは俺の記録だ。

「ふむ…たしか…そうだ、やっと200の壁を越えた所か」

そういってゲームスタートのアイコンをタップする。

ラケットが現れ、カウントダウン始まる。

カウントがゼロになり…

ボールが現れた。

ソレを打ち返す。

その感覚が、心地いい。

仮想とはいえ、自らの腕があり、感覚がある。

その昔、車に轢かれそうな夏姫を庇って、俺は両腕を失った。

後悔はある。

だけどそれは腕を失った事じゃない。

何もない俺は夏姫を救う為だけに生まれたのだろう。

俺が唯一後悔しているのは、夏姫と母さんに迷惑を掛けた事だ。

義手の手術は国から補助金が降りた。

だが、私生活では二人に迷惑を掛けっぱなしだ。

こんな何もない俺なんかのために…二人は…

そんな事考えている内にレベルが200を越えていた。

「あー!こんな所に籠ってたのね!?」

「なに!?」

突然の声に驚きラケットが空を切る。

声がした方には猫耳少女がいた。

チユ…倉嶋千百合のアバターだ。

「ハルが最近昼休みの間ずーっと居ないから探してたのよ!
なんでこんなマイナーなゲームしてんの!」

「俺の勝手だろ」

「レベル202…スコア…301万!?バカじゃないの!?ご飯食べずになにしてんのよ!?」

「はぁ?おにぎり食ったし。そら、あっち行け」

左手でチユにシッシとする。

「へー…そんな態度とっちゃうんだ…リンクアウト」

さて、邪魔者も居なくなったし…

プレイさいか…

「いっだぁぁい!?」

突如頭に激痛がはしり、リンクアウトした。

目を開けると目の前にチユがいた。

俺の三割増し位の身長で仁王立ちをして…

「おい…ここは男子トイレだぞ」

「わかってるわよ、さっさと出てきなさい」

そういってチユは個室の鍵を開け、俺を連れ出した。

そして彼女は手に持ったバスケットを俺に突きつけた。

「ん」

「いや、なんだよ?」

「弁当よ弁当」

はぁ?

「お前そんな事していいのかよ?余りとはいえ彼氏以外にこんなもん渡して」

「余りじゃないわよ」

はぁ?ますます訳わからん。

「昨日なっちゃんからアンタがちゃんとやってるか聞かれたから少し虐められてるって言ったのよ」

あぁ…今朝のアレはそういう事か…

「で、なんで弁当になるんだ?」

「アンタが食べてないのは知ってるのよ…ほら」

チユが見せてくれたのはサンドイッチだった。

「はぁ…タクには悪い気がするが…せっかくだ、貰っておこう」

「よろしい」

そういってチユは俺の頭を撫でて去っていった。

再びトイレの個室に戻りチユに貰ったサンドイッチを食べる。

「旨い…場所がトイレじゃなかったらなおいいんだが…」

ソレをやるとあのアホ共に絡まれる。

まったく…俺を探す暇が有れば午後の予習をすればいいものを…

午後の始業ギリギリで教室に戻ると例の不良に睨まれた。

まぁ、何時もの事だ。

午後の気だるい授業をやり過ごした放課後。

チユに礼を言おうと思い、彼女の部活が終わるまで暇を潰そうと図書館に向かう。

紙のメディアなんてムダだと言う者も子供の教育に必要と言う者もいる。

義手の俺には本の良さはわからんからその議論に興味は無い。

図書館で適当な本を手に取り、個室へ向かう。

「ダイレクトリンク」

再び仮想の世界へと向かい、昼休みと同じくスカッシュコーナーへ向かった。

ブースに入ると記録が現れた。

一番上は…

「レベル220だと!?」

誰だこんな馬鹿げた記録を出したのは…

まぁ、いい…

だったらこの記録を越えるだけだ。

そう思い、アイコンをタップしようとした時…

「あの馬鹿げたスコアを出したのは君か」

その声に、振り向いた先には黒揚羽のアバター…

黒雪姫!?

ハイカーストの生徒会副会長がなぜこんな所に…?

「その記録を出したのは私だ」

なに!?

俺が一月かけて出した記録をたった一回で!?

驚きで混乱するなか、彼女はその妖艶な唇を動かした。

「もっと先へ…加速したくはないか?」

加速…?

何を言ってるんだ?

「その気があるなら、明日の昼休み、ラウンジに来い」

そう言い残して、彼女は去っていった。

「なんだったんだいったい…?」

だが…おもしろい…

明日…行ってみるか…
 
 

 
後書き
有田春雪
幼い頃の事故で両腕を失う。
毎朝妹に義手を嵌めて貰っている。
身長は小六の妹より一回り小さい(義手の重さで成長が阻害されている)。
男の娘(髪はショートヘアー)。
ノーマルアバターは"魔法使いの嫁"のエリアス・エインズワーズ。 
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