提督はBarにいる・外伝
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ブルネイ第一鎮守府vs幻想殺し
ナメられている。率直に思った感想がそれだ。艦娘同士の演習だとしても、上条大佐が連れてきた艦娘達ではウチの連中を相手にするには力不足に思えた。だから、手抜きはしないにしろ多少の手心は加えるつもりでいたのだが……まさか提督が、それも生身で艦娘を相手取るだと?馬鹿げている。
「本気か?陸上でなら兎も角、海上で複数の艦娘を相手にするだと?」
「えぇ、本気ですよ」
「……そうかい」
悪びれる様子もなく、さも当然といった風で豪語する上条。そのナメくさった根性叩き直してやろうじゃねぇか。
「大淀、今日の演習の面子変更だ」
演習参加用メンバーを書き出したオーダー表を破り捨て、新しく書き直して大淀に手渡す。
「……本気ですか?提督」
「当たり前だ。ここまで虚仮にされてタダで帰せるか」
「いや、しかし……」
「いいから、早くしろ」
俺の圧力に屈したのか、鎮守府内に駆け込んでいく大淀。そして5分後、金剛以外の演習メンバーを引き連れて戻ってきた。
「急遽で済まんな、お前ら」
「いえ、榛名は大丈夫です!」
「折角の休日、お昼まで寝ていようと思ったのですが……」
「仕方ありませんよ、赤城さん」
「でもどうしたの?提督がそんなに怒るなんて珍しいね」
「何があったっぽい?」
金剛に加えて榛名、赤城、加賀、夕立、時雨の6人。今鎮守府にいる中で錬度も高く対人戦の経験もあるメンバーを選抜して艦隊を組んだ。演習用の模擬弾とはいえ、マリンバイクに当たればひとたまりも無い。最悪沈んだとしても、不幸な事故として処理できる……いや、絶対にする。俺は演習メンバーに事情を話して聞かせると、徐々に顔色が悪くなり始める。
「……あまり気分のいいものではありませんね」
加賀の握った弓がギシリ、と軋む。
「ナメられてるのは嫌い。ムカつくっぽい」
夕立も右拳を左手にぶつけている。
「そうだね。海の上で僕達に勝てると言われるとはね」
普段は(俺が絡まなければ)冷静沈着な時雨も、苛立ちを隠せないようだ。
「……まぁ、実力で解らせてあげましょう」
赤城までやる気、というか殺る気まんまんである。
「Oh……皆バーサーカー過ぎるネー」
「あはは……」
落ち着いて見えるのは金剛と榛名の2人だけだ。
「まぁ落ち着け。俺もあの態度は業腹だとは思うが、あれだけの大口叩くからにゃあそれなりの根拠があるハズだ。油断せずに行け」
コクリと頷く6人。それぞれが海上で配置に着き、演習開始の合図を待つ。
「それでは……始め!」
6人vs1人(提督)のハンディキャップマッチと呼ぶのもおこがましい演習が、始まった。
「行きます、fire!」
「榛名、全力で、参ります!」
演習開始の号令と共に、金剛と榛名が砲撃を雨霰とぶちこむ……が、あまり当てる事は意識せず水柱を派手に上げる事に注力している。当たれば儲け物、という位の集弾率だ。動きを制限する為の牽制射撃であり、視界を塞ぐ目眩ましの意味もある。その時間稼ぎをしている間に、赤城と加賀は発艦を済ませ、夕立と時雨は肉迫する。
「今度はちゃんと狙うネ~……fire!」
牽制が終わった金剛が、今度は狙い澄まして砲撃。波立って動けなくなっているマリンバイクに、吸い込まれるように砲弾が迫る。
「YES!貰ったネー!」
命中を確信して金剛がガッツポーズをする。が、上条は予想外の行動に出た。
「おおぉぉぉぉぉぉ……らあっ!」
気合いの籠った叫びを上げながら、飛んできた砲弾に右拳を振り抜いた。砲弾と拳が接触した瞬間、ガラスの割れる様な音と共に砲弾が『消滅した』。弾かれるでも粉砕されるでもなく(それでも十分におかしいが)、跡形も無く消え去ったのだ。
「…………はっ?」
「えっ?」
あまりの出来事に動きが止まる。観戦していた俺達も、海上で戦闘していた金剛達も。しかし上条は違った……棒立ちになった瞬間なんて大チャンスを逃すハズもなく。
「止まるな!狙われるぞ!」
俺の喝で意識が戻ったのか、ハッと気付いた金剛達がバラバラに動き始める。が、上条の乗るマリンバイクはその頃にはトップスピードに達しており、一直線に金剛と榛名の下へ向かっている。
「Shit!」
「くっ……やらせません!」
格闘戦で迎え撃とうと足を止めて構えた金剛と榛名だったが、上条は気にせずフルスロットルで突っ込んでいく。バカなのか?それともさっきのあの現象に絶対の自信があるのか。三人が交錯した瞬間、吹き飛ばされたのは金剛と榛名だった。しかし、先程のように何かが砕けるような音はせず、ただ吹き飛ばされて海上に背中から叩き付けられる。艤装が思いっきり水を被っている。アレでは航行できるかも怪しい所だ。
「おい、見えたか?」
「はい、今金剛さん達をぶん殴ったのは左手……でしたね」
「任意で発動のオンオフが出来るのか、それとも右腕だけの能力か……」
「何れにしろ興味深いです!あぁ~……解剖して分析したい!」
何気に明石がマッドサイエンティスト化してるが、確かにあの能力は厄介だ。そもそも、あいつホントに人間か?←※注:提督は自分を普通の人間だと思っています
上条はハンドルを切り、華麗にターンを決めると今度は夕立と時雨に狙いを絞ったらしく、再びスロットルを全開にして突っ込んでいく。が、
「やらせませんよ!」
「……ナメないで欲しいわね」
赤城と加賀が艦載機を殺到させて爆撃と雷撃を見舞う。しかし上条も馴れた物なのか、左手でハンドルを操作して魚雷をかわしつつ、右手で直撃コースの爆弾のみを処理していく。爆弾を殴っても、爆発する事なく消える。どう考えてもあの右手は異常な『何か』がある。尚も止まらない突撃に、夕立と時雨も覚悟を決めたか、手を繋いでダブルラリアットでもするかのように上条に突っ込んでいく。
「チキンレースじゃねぇんだぞ、オイ……」
俺が呆れたようにそう呟いた数秒後、3人が交錯する。正面衝突か!?と思いきや上条が咄嗟に屈んでラリアットを躱す。その上、繋いでいた2人の腕を掴むと力任せに投げて体勢を崩す。吹っ飛んでいく夕立を追い掛ける上条。
「ぽいいいいぃぃぃぃぃ~……」
海面をゴロゴロと転がり、目を回してグロッキーになる夕立。そこに上条が近付き軽く右手で触れた瞬間、またあのガラスが割れたような音が響き、夕立の服が弾け飛んだ。
「お、夕立の奴またおっぱいデカくなったんじゃねぇか?」
「提督!」
「……わ~ってるよ、冗談だって」
あまりの事にちょっと現実逃避したくなっただけじゃねぇか、ったく。しかし、艦娘の制服ってのは普通の服に見えるが装甲の代わりで、一定のダメージを負うまでその機能が失われる事はなく、その機能が失われると普通の服と同じ耐久力になってしまう。
『その物体の持つ特殊な能力を打ち消す能力……?まぁ、有り得ないなんて事は有り得ない世の中だしなぁ』
無いと頭から否定するより、ある前提で考えた方が後々対応もしやすいだろう。まぁ、服が弾け飛んだり砲弾が消滅する意味が解らんが。
「提督、服脱がせる手間が省けていいな~……とか、思ってません?」
「…………オモッテナイヨ」
ちょっとだけ思ったのは内緒だ。そんなアホな事を考えている内に、今度は上条が時雨に迫る。時雨も必死に逃げようとしているが、さっきの夕立の姿を見てしまったせいか、動きに精彩がない。そしてとうとう、上条の右手が時雨に軽く触れた。またガラスが割れたような音が響き、時雨もほぼ全裸になって動きが止まる。
残るは赤城と加賀の2人だけ。艦載機の妖精さん達も2人に近付けさせまいと機銃で、爆撃で、雷撃で。上条を足止めしようとするが、そんなものは関係ないとばかりにフルスロットルで突っ込んでいく。猪か何かかアイツは。赤城と加賀も弓から矢を放ち、上条を狙うが、見事なハンドル捌きで右に左に避けていく。と、上条が気付いていないがジリジリと夕立が背後から忍び寄っている。両手には魚雷。
「服脱がした位で……動けなくなると思うなあぁぁぁ!」
夕立がそう叫びながら、両手の魚雷を上条に投擲。双眼鏡で確認すると、上条の奴も不意を突かれたのかギョッとしている。
「別に……てーとくさんに裸なんていっぱい見られてるから恥ずかしくないもん!」
「いや、別に今それ叫ばんでも」
思わず夕立のカミングアウトに冷静にツッコミを入れてしまった。夕立の投げた魚雷はアスロックのようにケツから火を噴き、上条に向けて飛んでいく。
「……後ろばかり気にしていていいんですか?」
そう呟く赤城の声が聞こえた気がした。後ろに気を取られていた上条の頭部目掛けて、赤城の放った矢が飛ぶ。しかし風切り音で判断したか、それを上体逸らしで躱す上条。だが、一枚上手だったのは赤城……いや、ウチの一航戦だったらしい。
「赤城さん、いい援護です」
「いえ、それほどでも♪」
加賀が赤城から数秒遅れで矢を放つ。その矢は先程まで上条の上半身があった所を通り、夕立の放った魚雷を射抜いた。刹那、飛んでいた魚雷が誘爆し、大爆発を起こした。
後書き
久し振りに書いた戦闘が楽しすぎて、大幅に加筆修正してしまった……(^_^;)
まぁ、オチはあっちと変わらないので許してくだちぃ(;>_<;)
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