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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第153話「神降しの敗北」

 
前書き
神殺しと言う性質上、どうしても優輝の方が一撃ごとのダメージは大きくなりますが、これでも守護者に対してそれなりにダメージを与えています。
そして、戦闘が続くに連れ、どんどん優輝が椿の性格に釣られて行きます。
いくら今まで消えない代償を負わなかったとはいえ、本来は神降しが出来る身ではありませんからね。
 

 




       =優輝side=













「――――――え?」







   ―――……一瞬、状況を理解し損ねた。









「か、はっ……!?」

 口から血が吐き出される。
 視界には、刀を振り切り、掌を突き出した守護者の姿。

 ……そして、宙を舞う私の左腕が映っていた。

「(そん、な……)」

 予想はしていた。想定はしていた。
 ……ただ、それを上回る“巧さ”だっただけの事。

「ッッ―――!!」

 木々を薙ぎ倒しながら、私は吹き飛ばされた勢いを殺す。
 何があったかなど、もう理解は出来ていた。

   ―――“刀極意・先々(せんせん)(さき)

「(カウンター……それも、“刹那”レベルの……!)」

 そう。私の“終極”が、無効化された上に痛烈なカウンターを返されたのだ。
 それこそ、導王流の奥義の一つである“刹那”と同等の強さを誇る業で。

「かふっ……!」

 もちろん、守護者の方も無事ではなかった。
 拘束する直前のあの一撃が効いていたらしく、吐血していた。
 また、四肢も一度貫いたのだ。その傷もある。

「っ……!」

 愕然としている暇はない。
 即座に葵にアイコンタクトを送り、同時に長細い大きな針を創造。
 その針を斬り飛ばされた腕に射出して刺し、こっちへ持ってくる。

「はぁああっ!!」

「っ……!」

 腕を繋げるまでの間、葵に時間を稼いでもらう。
 本来なら、葵では時間を稼ぐ間もなく押し切られてしまうだろう。
 だけど、今は四肢に傷を負い、さらに私の導標も操って動きを妨害している。
 これなら、繋げるぐらいの時間は稼げる……!

「(掴まれた!でも……!)」

 右手で左手をキャッチ。そのまま断面をくっつける。同時に針は消しておく。
 そして、神力で無理矢理治す。
 血管や神経なども、神力なら繋がるように治してくれるからね。
 それに、どうやら瘴気に若干侵されていたようで、それも浄化してくれた。

「っ!」

   ―――“撃”

 既に、妨害に使っていた導標は守護者の手に掴まれてしまった。
 ……当然だ。妨害するとはいえ、飛び回る程度の武器を、掴めないはずがない。例え、葵が攻撃しながらでも、容易いだろう。
 だから、すぐに手放すように、導標を持つ手に向けて衝撃波を放った。
 同時に短距離転移を使う。

「はぁっ!」

「シッ!!」

   ―――“呪黒剣”

 即座に葵が呪黒剣を発動。咄嗟にその場を動かないように周囲に展開する。
 そして、自前の刀と導標を振るわれる前に私は動く。
 身体強化を速度に特化させ、振るう腕を止める。
 ちなみに、この速度特化だが、守護者を上回る速度と言えば聞こえはいいが、その分動きが単調になってしまう。だから、ずっと使う訳にはいかない。

「っ、ぁあっ!!」

     ギィイイン!!

 そして、無理矢理導標を奪取。
 即座に転移魔法で反撃を回避。葵の傍に現れる。
 そのまま反応して私に振るわれた刀を、導標で防ぐ。

「葵!」

「っ!」

 同時に、葵の手を取る。
 そして、転移。それも、短距離ではなく長距離。

「っ……!まさか、あそこまでのカウンターをしてくるなんて……!」

「迂闊だったよ……!あの極意をあそこまで極めるなんて……!」

 あのカウンター技自体は、葵から聞いた事がある。
 何せ、“刹那”に似ているからね。
 ……でも、その“巧さ”が段違いだった。だから、手痛い反撃を喰らった。

「……腕は大丈夫?」

「繋がってはいるわ。でも、痛みが治まらない」

「そっか……」

 神殺しの性質か、それとも瘴気に若干侵されたからか。
 どちらにしても、未だに腕が痛む。
 それに、導標も瘴気に若干侵されている。
 これではまともに打ち合う事も厳しいかもしれない。

「……向こうだってダメージは受けてる。このまま二人でやれば、勝てない事もない」

「……うん」

 一見、私がカウンターで大ダメージを受けたように見える。
 だけど、傷自体は向こうの方が多い。
 回復手段があるとは言え、ダメージによる疲労は治せない。
 ……このまま、押し切ればこちらの勝ちだ。

「役割はさっきまでと同じ。でも、同じ行動ばかりはダメ」

「分かってるよ」

 同じ動きばかりでは、絶対に対処されてしまう。
 常に動きを変えなければ、倒しきれないだろう。

「(逃げられる前に倒さないと、被害が増えるわね)」

 大門の守護者……つまり妖と化しているとはいえ、霊力に惹かれるとは限らない。
 何せ、守護する門から離れてでもどこかへ向かおうとしていたのだ。

 ……いや、瀬笈葉月の話と(椿)の記憶から、どこへ向かおうとしていたのかは分かる。
 逢魔時退魔学園。(椿)と葵、そしてとこよがかつていた学園。
 あそこには、様々な思い出がある。
 そこへ、彼女は向かおうとしたのだろう。……もう、跡地すらないのに。

「(……結界で隔離……ね)」

 そうするべきだろう。
 結界の破壊に動かれたら、いとも容易く破られてしまうだろう。
 それでも、戦闘の余波による被害は抑えられる。
 先ほどまでは戦闘中で張る余裕がなかったけど、今なら。

「行くわよ」

「うん」

 どこにいるかは、あれほどの霊力と瘴気を持っているから、すぐにわかる。
 そして、向こうもこちらの位置は感付いているだろう。
 気配が近付いているのがわかる。先に私を倒すのを優先したらしい。

「ッ……!!」

 結界の術式を練りながら、矢を連続で放つ。
 葵も、レイピアを生成して射出する。

「はぁっ!!」

   ―――“速鳥-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”

 御札をばら撒き、刀で斬りかかる。
 ……二刀流は、もう出来ない。左腕は繋げたとはいえ、寸前まで切れていたからね。
 私の利き手は左だ。だから、先程までと比べ、明らかに力は落ちている。
 でも、それはダメージを喰らった相手も同じだ。
 おまけとばかりに四肢に突き刺した武器には、術式を込めていた。
 それは、傷が治っても痛みが違和感となって残り続ける呪術。
 簡易的なものだから、何かしらの弾みであっさり解けてしまうけどね。

「ッ!!」

     ギギギギギギィイイン!!

 いくら力が落ちたとはいえ、戦闘が激しい事には変わりない。
 未だに、神降しをしていない私では敵わない強さだ。

「っ!そこ!」

   ―――“呪黒剣”

 御札による術、創造した剣による妨害。そして刀による攻撃。
 それらを以って、守護者と渡り合う。
 手数において、未だに二刀流が扱える相手の方が、圧倒的に上だ。
 速度こそ落ちているが、術や創造魔法を使わなければ追いつかない。
 そこで、葵が死角を突くように黒い剣を放つ。

「くっ……!」

「っ、はぁっ!!」

 僅かに気が逸れる。
 そこへ術を一気に叩き込み、短距離転移で背後に回る。
 振り返りつつ繰り出される攻撃を、葵がレイピアを射出して僅かに妨害。
 それを見逃さずに刀で弾き、もう一刀が当たる前に掌底を当てる。

「っ……!!」

「葵!」

「ッ……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 掌底で後退した守護者は後退しつつも葵に向けて斬撃を飛ばした。
 すぐさま私が短距離転移で庇うように立ち、障壁で防ぐ。

「っ、ぁあっ!!」

「ッ……!」

     ギィイイン!!

 防ぐと同時に、頭の部分が身の丈程ある鎚を創造し、振り回すように当てる。
 守護者は振り向きざまに刀を叩きつけ、無理矢理叩き切った。

「ふっ!」

「はっ!」

 その間に私は守護者の頭上を、葵はさらに後退し、矢とレイピアを放つ。
 矢は弾かれ、レイピアは避けられるが……。

「シッ!」

「ッ!」

 頭上を通過し、着地する私がそのレイピアの柄を掴み、振り返りざまに投擲。
 遠心力も利用した投擲なため、速度がさらに上がる。

「ふっ!」

 レイピアと同時に命中するように、矢を放つ。
 これで、矢を弾けばレイピアが、レイピアを弾けば矢が命中するようになる。
 障壁を張ろうものなら、死角である地面から葵の呪黒剣が来る。
 ……そうなれば……。

「っ!」

「(普通、飛ぶわよね)」

 でも、それは読み通り。
 レイピアは元々葵が生成したもの。だから、葵が軌道を変えるのは可能だ。
 投擲されたレイピアはそのまま弧を描くように再び守護者へと向かう。

「装填数六発。行くよ!!」

   ―――“Silver Bullet(シルバーブレット)

 さらに、葵が準備しておいた六つの魔力弾が順に放たれる。
 当然、私もじっとしている訳がない。

「四方八方からの砲撃、これなら……!」

Verzögerung,Freigabe(遅延、解除)

 既に魔法、霊術、神力による砲撃を、それぞれ四門ずつ設置していた。
 それも、跳んだ守護者を囲うように。
 それを、遅延魔法で一斉に発動させる。

「ッ……!!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 葵の魔法は、砲撃魔法と同等以上の威力を持つが、それでも分類上は射撃魔法だ。
 つまり、誘導が可能なため、見事に砲撃を当てれるように誘導できた。
 障壁に防がれたが……それも、()()()()

「っ、らぁああああ!!」

   ―――“穿貫閃突(せんかんせんとつ)

 防いだ瞬間を狙い、転移魔法と加速魔法を併用。
 加速しながら位置を変える事で、逸らされる事を防ぎつつ、障壁を突き破る!!

     ギャィイン!!

「っ、っづ……!?」

「ぁっ!!」

「がっ!?」

 僅かに刀で軌道が逸れ、さらに守護者自身が避けようとしたため、直撃しなかった。
 だが、それでも脇腹に命中し、横を通り抜ける際に体を捻り、蹴りを当てた。
 結果、守護者はそのまま吹き飛んだ……けど。

「ぐ、っ……!?」

 右の二の腕に、大きな切り傷が出来ていた。
 おそらく、吹き飛ぶ際に反撃していたのだろう。

「(……傷は治せても、痛みは消えない……)」

 これはもう、神殺しの性質も瘴気も両方影響しているだろう。
 傷は治っても痛みと疲労が取れないのであれば、長期戦は苦しい。

「(向こうもそれは同じのはず。互いに足掻いているから、長引いているだけ)」

 残っていた葵の魔法が、追撃のように追いかける。
 その後ろから私も追いかけつつ、そんな思考をする。

「(だから、一気に決める……!)」

 少し離れた場所で、守護者は葵の魔法を切り裂いていた。
 既に魔力弾の数は一つになっている。そこへ奇襲を掛けるように斬りかかる。

     ギィイイイイン!!

「っ、ぁっ!!」

「……!」

     ギギギギィイン!!

 その一撃は受け止められる。
 即座に受け止められた反動を生かし、少し間合いを取る。
 同時に導標から手を離し、傍に浮かせておく。
 そして、次々と武器を創造。連続で投擲する。
 さらに弓矢を創造し、投擲した武器と同時に着弾するように射る。
 ……が、悉く弾かれた。

「ッ……!?」

「そこっ!!」

     ギィイイン!!

 そこへ、葵の最後の魔力弾が迫る。
 あっさりと切り裂かれそうになる瞬間、葵が術式を操作したのか、自壊する。
 その際に、激しい閃光を起こし、目暗ましとなる。
 その隙を突くように、突きを放つ。……が、防がれる。
 ちなみに、目暗ましに関しては、事前に葵がそうすると分かっていたので、私は対策してあった。なぜわかったのかは……まぁ、椿()は付き合いが長いから、多少はね?

「ッ……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

「はぁっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”

 防がれた所へ、先程弾かれた武器を差し向ける。
 それを障壁で防ぐと同時に、体を捻り、一閃を放つ。
 甲高い音と共に障壁は切り裂かれ―――





 ―――二振りの刀が私に向けて振り抜かれようとしていた。



「『優ちゃん!!』」

     ガキィイイン!!

「ッ……!」

 葵が飛ばしたレイピアと、創造魔法による盾。
 その二つを以って僅かに軌道とタイミングをずらす。
 そして、導標で片方を防御。その反動で体をずらし、もう一刀も躱す。

「ッ!」

   ―――“呪黒剣”

「はっ!」

     ギィイイン!!

 葵が援護で呪黒剣を足元から放つ。
 それを躱した所へ斬りかかり、防がれると同時に衝撃波を放って吹き飛ばす。

「ふっ!」

 吹き飛ばした所へ、矢を放つ。
 さらに、反対側から創造した武器を突き刺すように射出する。

「ぁあっ!!」

     ギギィイン!!

 声を上げ、守護者は二刀を振るい、矢と武器を叩き落す。
 ……が、矢が僅かに弾ききれずに手に突き刺さる。

「(良いダメージ。でも……)」

 血が、頬を伝うのを感じる。同時に、痛みも感じる。
 あの時、矢を放つ瞬間、守護者も術で反撃してきたのだ。
 辛うじて躱したものの、こうして掠ってしまった。

「(……一歩でも間違えれば、敗北は必至……か)」

 ただでさえ、“終極”を決めれなかったどころか反撃を喰らったのが痛い。
 どちらも治癒系の術が可能なため、一気に決めないと戦闘は長引く。
 そして、私は葵との連携が崩れるだけで負けが確定する。

「(厳しい状況にも程があるでしょう……!)」

 導王流と相性が悪く、さらに神降しとも相性が悪い。
 その上で実力は互角……いや、守護者の方が高い。
 手痛いカウンターを喰らったため、葵がいなければまともに打ち合うのも厳しい。
 ……これで、押しているなんて間違っても言えない。

「はっ!」

「っ!」

 尤も、だからと言って諦める事も、立ち止まる事も出来ない。
 すぐに間合いを詰めに行く。
 守護者は手に刺さった矢を再利用し、射ってくる。
 それを躱し、刀で斬りかかる……が、刀で防がれる。

「ふっ!」

「……!」

「甘い!」

「くっ!?」

 刀を弾くと同時に体を捻り、回し蹴りを繰り出す。
 すぐに刀を返し、脚を斬ろうとしてくる。
 それを用意しておいた短距離転移の術式を使って背後に回り込み、回避。
 そのまま回し蹴りを当てる。

「(防御が入った……でも)」

「っ……!」

   ―――“Silver Bullet(シルバーブレット)

「くっ!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 咄嗟に腕で防いだものの、守護者は後退する。
 そこへ、再び葵が魔法で狙う。
 守護者はそれを障壁で防ぎ……。

「ッ!?」

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”

     ギィイイイイン!!

 側面へと短距離転移をした私の一閃を受け止める事になった。

「(間違いない……!判断力が落ちている……!)」

 どちらも放置出来ないからこそ、どちらも警戒しなければならない。
 そうなれば、時々喰らうダメージもあって、判断力は落ちてくる。
 そのおかげで、押している。……安心はできないけどね。

「(でも……)」

 刀と刀がぶつかり合う。
 先ほどまでと違い、守護者は二刀流から一刀流に戻している。
 その代わり、妨害に入ってくる葵の攻撃を全部凌いでいる。

「シッ!」

「っ、はっ!」

   ―――“火焔旋風-真髄-”、“氷血旋風-真髄-”

 刀の一閃が躱され、そのまま術と矢が迫る。
 神力を放って相殺しつつ、また間合いを詰める。
 ……そして、違和感を感じる。

「(……これは、一体……?)」

 確かに戦況は押している。一歩間違えれば瓦解するにしても……だ。
 それなのに、どこか違和感を感じる。何かを見落としているように。
 ……違う。思考では見落としているかもしれない。でも、体は、本能は見落としていないらしい。

「(……焦っている?)」

 そう。押し切らなければ、倒さなければ。
 そう考えていた私は、確かに無意識に焦っていた。
 でも、一体何に私は焦っているのかが、わからない。

「っ!」

     ギィイイイイン!!

 心の片隅で、そんな疑問を思っている間も戦闘は続く。
 葵の援護を障壁で防いだ瞬間を狙い、刀を大きく弾く。
 そして、身体強化を速度特化にし、蹴りを放って吹き飛ばす。
 こうする事で、反撃を喰らう事なくダメージを与えられた。

「今!」

「ぁああああああっ!!」

 合図と共に、葵が魔力結晶を一気に10個使う。
 そして、限界まで魔力運用し、強く魔力の込められたレイピアを大量に生成した。
 それらは、一瞬でも守護者を足止めするための布石。
 あわよくばダメージを与えられればと考え、葵が今出せる最強の援護射撃だ。

「っ……!」

   ―――“神域結界”

 そして、その間に結界を張る。
 この結界を張る事で、戦闘の余波を気にする事はなくなる。
 また、神力による結界は、術者に対して有利だ。
 事実、私の体が少し軽くなった。

「(これで……!)」

 さらに有利になる。
 ずっと感じる焦りも、早く倒してしまえば心配する事はない。









   ―――ゾクッ……!







「ッ――――――!?」

 ……だが、そんな考えを裏切るかのように、“嫌な予感”を感じた。
 見れば、そこには“笑みを浮かべた”守護者が。

「……隔離する結界。……好都合だよ……!」

「っ……!」

 その言葉に、反射的に動く。
 間合いを一瞬で詰め、刀を振るう。
 葵も私の動きに反応して、死角を突くようにレイピアの動きを変える。

「ぁあっ!!」

「くっ……!」

 葵との連携で、刀が体に少しだけ当たる。
 と言っても、致命打には程遠い。

「(焦りの原因は、これか……!)」

 間違いなかった。“嫌な予感”が膨れ上がっている。
 この予感を阻止するために、私は無意識に焦っていたのだ。



 ……そして。



「……これ、で……!」





 その時が、来てしまった。







   ―――“乖離(かいり)結界”





「ぁ―――!?」

 傷つき、後退して膝を付きながらも、守護者は結界を発動させた。
 正しくは、私が張った結界に上書きさせた、だろうか?
 そして、そうなってまで張る結界であるならば、その効果も厄介なはず。
 ……その効果は、すぐに理解できた。

「ッ―――!?」

 ……神降しが、保てない。
 即座に残りの神力を出来る限り導標に込めた。
 これで、神降しが解けても導標は残り続ける。

「優ちゃん!?」

「まず、い……!?」

 ()の体から、神降しの影響で気絶している椿が現れる。

「葵!リヒト、シャル!」

「っ、ユニゾン・イン!」

 デバイスである葵が対象だからこそできる召喚魔法で葵を呼び寄せる。
 同時にリヒトとシャルを再び展開。
 呼び寄せた葵とは、すぐにユニゾンし……。

「転移!」

 転移魔法で距離を取る。







「まずい……なんてレベルじゃないな……!」

『うん。神降しが解けた今、優ちゃんはまともに打ち合えないよね?』

「少なくとも真正面からは無理だな」

 問題はそれだけじゃない。
 再度の神降しは不可能で、椿も長く神降しをしていたからか目覚める気配はない。
 そして、そんな椿を守りながら僕らは戦わなければならない。
 ユニゾンしたのは、少しでも守りやすくするためだ。
 これほどの実力差では、片方が時間稼ぎなんて真似は出来ない。
 防御や足止めの上からあっさりやられるだろう。
 それを阻止するために、少しでも力を上げようとユニゾンしたのだ。
 ……激しい戦いでの葵とのユニゾンは、これが初めてか。

「神殺しの性質からは逃れられたけど、それを補って余りある実力差だぞ、これ……」

 幸いと言えるのは、さっきまでの戦闘で、それなりに守護者の力も削げた事だ。
 傷自体が回復されていたとしても、疲労や霊力の消費はそのままだ。
 ……少しでも、弱っていればいいが。

「それよりも葵、さっきのは何かわかるか?」

『……ううん。霊力を用いた結界なのはわかるけど、どんな効果なのかは……』

「そうか……」

 上書きされた結界の基点の術式は、一瞬だけ見た。
 その時まで神降し状態だったから、どんな術式かは記憶に焼き付いている。

「(……一言で言えば、従来の簡易的な結界の効果に加え、外界からの力の供給を無効化するものだった。神降しが解けたのも、それが原因か。ユニゾンが可能なのは、結界内で完結している強化だからか)」

 無意識な焦りと、守護者の動きが若干鈍かったのは、術式を用意していたからだろう。
 “嫌な予感”が強くなったのは、僕が結界を張ったから……。

「っ……!結界をこの短時間で上書きするように術式を書き換えたのか……!」

 さすがは最強の陰陽師。
 守護者になっても、僕なんかでは遠く及ばない技術を持っているらしい。

「(……本当に、まずいな)」

 高速でこちらに近づく気配を察知し、構えながらもそう思う。

 ……僕も、守護者も、後先考えない戦闘をしていた訳じゃない。
 お互いに実力を計り、戦術を練り、後を見据えて戦闘していた。
 最後に勝っていればいいのだから、途中は押されるのも戦術の範疇の場合がある。
 そんな“戦術”において、僕は彼女に負けたのだ。
 あの“終極”が決まらなかった時点で。

「っ……“霊魔、相乗”……!」

〈マスター……!っ……来ます!!〉

 神降しで既に体に負担は掛かっている。その上で、全開の霊魔相乗を行う。

 ……守護者は、神降しした僕を見た時点で、あの状況に持って行くのを決めたのだろう。
 そして、実際にその戦術は成功し、僕はこうして追い詰められている。

「(椿……)」

 いくらユニゾンして、霊魔相乗もしているとはいえ、椿を守れる自信はない。
 ……いや、そもそも。

「ッ!?」

     ギィイイイイン!!

「が、ぁっ……!?」





 ……神降しで互角だった相手に、どう勝利に“導く”んだ?







「っ、くそ……!」

 シャルで受け止め、そして吹き飛ばされる。
 取り残された椿を、咄嗟に型紙を使って傍に呼び寄せる。

「ぁあっ!!」

   ―――“Aigis(アイギス)

     キィイン!ギギィイイン!!

 追撃の刀の一撃を、何とか防御魔法で防ぐ。
 けど、即座に側面に回り込まれ、二撃をシャルで防ぐ羽目になる。

「っつ……!ぁあっ!!」

   ―――“Übel catastrophe(ユーベル・カタストロフィ)

 “ドンッ!”と、弾かれるように僕は椿と共に後ろに吹き飛ぶ。
 同時に、置き土産のように魔法陣を彼女の足元に展開、柱状に極光が迸る。
 ちなみに、椿の体は魔法で保護しているため、負担が掛かるような事はない。

「これで……っ!?」

   ―――“速鳥-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”
   ―――“斧技・瞬歩-真髄-”
   ―――“斧技・鬼神-真髄-”

「が、ぁあああああっ!!?」

 それに反応したのは、本能だけだった。
 思考が追いつく間もなく、魔法を躱した守護者は僕に肉迫。
 脳が焼き切れる勢いの処理速度で武器や盾を創造。
 葵もレイピアを生成し、それら全てを僕と彼女の間に滑り込ませる。

 ……無意味だった。
 防御に使ったシャルは、壊れる事はなかった代わりに、大きく手から弾き飛ばされた。
 盾代わりに割り込ませた武器などは、全てが打ち砕かれた。
 そして、僕は背後の木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされた。
 幸いと言えるのは、守護者の攻撃も、木々にぶつかる時も気絶した椿を庇えた事だろう。……尤も、その結果は……。

「っ、ぁ……」

「ぐ……ぅ……」

 僕と葵の、戦闘不能だった。
 ユニゾンを解ける程の威力が、今の一撃には込められていた。

「(ダメだ、意識が……)」

 それだけじゃない。戦闘不能に追い込む威力なだけあって、意識を保てない。
 壁のような斜面に叩きつけられ、そのまま倒れ込む。
 既に葵は気絶してしまい、僕もすぐに気絶するだろう。

「っ………」

 何とか立ち上がろうとしても、体が動かない。
 すぐ近くには、弾き飛ばされたシャルが地面に突き刺さっていた。
 それを手に取り、戦わなければ殺される。
 ……それなのに、体が動かない。

「く、そ………」

 守護者がやってくる。
 このままでは、殺されるだろう。
 だからこそ、意識を失う訳にはいかず、必死に立とうとする。

「終わりだよ」

「っ……!」

 だけど、現実は無情だ。
 彼女は一言、僕に行って刀を振りかぶり……。











     ギィイイイイイイン!!!







「ッ……!」

 乱入者の攻撃によって、吹き飛ばされた。
 防御の上からなので、大したダメージは負ってないだろうが……。

「(誰、だ……?)」

 もう、視界も覚束ない。
 でも、辛うじて降り立った何者かが、地面に刺さるシャルを手に取ったのが見えた。















「……後は任せて。お兄ちゃん」





















   ―――もう聞くはずのない、懐かしい声が聞こえた。























 
 

 
後書き
刀極意・先々の先…自身を対象とした単体攻撃を無効化した上、セットしているスキルで一番上にある攻撃技をリキャスト無視で放つ。小説では、刹那の間に相手の攻撃を無効化した上に、カウンターを叩き込む。なお、本来は極低確率で発動だが、小説ではそんな制限はないので、凶悪化している。

遅延魔法…複数の魔法を、発動させずに留めておく魔法。術式の一斉起動などに使う。

穿貫閃突…突きに特化した技。とにかく、速く、鋭く、貫通力が高い。

神域結界…神力によるご都合主義結界。魔法による結界と同じ効果に加え、基本的に術者に対して有利に働く。ただし、神力にしては比較的丈夫じゃない。(魔力などよりは断然強固)

乖離結界…バフ消し結界みたいなもの。外部からの援護(今回の場合は神降し)を全てカットする結界。普通に結界としても丈夫。内部なら問題はないので、ユニゾンやジュエルシードはそのまま使える。


本来なら発動すればラッキー程度のスキルがあら不思議。凶悪すぎるカウンター技に。まぁ、“極意”と付く程のスキルなので、実際ならこれぐらい凶悪です。
一章以来登場しなかった魔法(これでも相当強力だった)の再登場と、そして……?
一体、優輝を助けたのは何者ナンダー?(棒) 
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