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おぢばにおかえり

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27部分:第五話 彩華ラーメンその四


第五話 彩華ラーメンその四

「特大頼むから」
「特大ね。わかったわ」
 その言葉にこくりと頷きました。
「他には何もいらないの?」
「後でドーナツも食べるんだよね」
「あっ、そうね」
 言われて思い出しました。そうでした。
「だからそれだけね」
「わかったわ。それにしてもいつもながら食べるわね」
 男の子ですし。やっぱりそれは当たり前ですね。
「私は。何か少食だけれど」
「だから小さいんだ」
「ほっといて」
 気にしてるんですから。八重歯と胸と背は本当にどうしようもないです。
「食べる子は育つしね」
「それ以上育ってどうするのよ」
 ただでさえ仰ぎ見ているのに。これ以上なんて。
「頭の方は成長しないのに」
「気にしない気にしない」
「ちょっとは気にしなさいっ」
 またお姉ちゃんな言葉になってしまいました。妹達にもこんなことは言わないのに。
「今二年よね」
「そうだよ」
 私より二つ下ですから当然そうなります。残念ですが留年したなんて聞きませんし。
「一年の頃から全然変わってないじゃないの」
「それは先輩の気のせいだよ」
「そうは思わないけれど」
 心の奥底からそう思います。
「何処が?」
「気付かないところで成長してるの」
 また大嘘です。
「ほら。男子三日会わざればって言うじゃない」
「そうなの」
 この諺は知りませんでした。
「そういうこと。僕だって変わってるんだよ」
「三日どころか毎日会ってるけれどそうは思わないわ」
 本当に毎日なんです。私が高校の頃から。入学式の時からですしそこから毎日毎日。夏のおぢばがえりの時もお正月の時も何故か会いましたし今はわざわざ詰所に来て。何なんでしょう。
「だから気付かないだけだって」
「絶対に気付かないと思うけれど」
「じゃあ。見てみる?」
 何か急に声が真面目になった感じでした。
「今から」
「ど、どうしたのよ急に」
 急に真面目な声になったんでびっくりしちゃいました。
「別にいいわよ」
「そう。じゃあさ」
 すぐに元の雰囲気になりました。何なんでしょう。
「行こう。ラーメン食べに」
「え、ええ」
 まだびっくりしたままでしたけれど頷きました。
「それじゃあ」
「飛ばすよ」
 そう言ってペダルに足をかけます。
「しっかりつかまっていてね」
「だから安全運転よ」
 新一君に注意します。
「さっきから言ってるじゃない」
「お腹空いたし」
「それでもよ」
 注意しておかないと。危ないです。
「車多いのに」
「車の方からよけてくれるよ」
「馬鹿言いなさい」
 何でこんな考えになるのか。理解不能です。
「そんなこと言ってると本当に・・・・・・きゃっ」
「先輩、行くよ」
 話の途中でもう運転をはじめちゃいました。危うく舌を噛むところでした。
「ちょ、ちょっと」
「このまま一気に行くから」
 人の話なんて聞いちゃいませんでした。
「それでいいよね」
「だから安全運転でしょ」
 怒って言い返しました。
「そうじゃないと許さないから」
「あっ、じゃあ」
 急に運転が穏やかになりました。
「そういうことで」
「わかってくれたらいいけれど」
 動きが急に穏やかになって。後ろにいる私の方が驚きでした。こんなに素直じゃないんですけれど。今回に限ってどうしたんでしょうか。
 けれどやっぱり自転車は速いです。あっという間にその彩華ラーメンの前にまで来ました。ここのラーメンって本当に印象的なんです。どう印象的かというと。
「それでさ」
 私達はテーブルに向かい合って座りました。そこで新一君が言ってきました。
「大蒜入れてね」
 テーブルの端にあるおろし大蒜を入れた容器を指差して言います。ここのラーメンは大蒜味でしかもテーブルにも大蒜を用意してあるんです。
「どかっと入れてね」
「それはいいけれど」
 私も大蒜は嫌いじゃないです。ですからそれは本当にいいんですけれど。
「何?」
「後でいいの?」
 そう新一君に尋ねました。
「後でって?」
「ほら、誰かと待ち合わせとかしてないわよね」
「別に。家に帰るだけだし、もう」
「そうなの」
「そうだよ。それにさ」
 ここでまた言います。
「俺の一番大事なのって今だし」
「今!?」
「そう、今」
 私の顔を見て笑って言います。
 
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