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おぢばにおかえり

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17部分:第三話 高校生と大学生その九


第三話 高校生と大学生その九

「それじゃあ先輩四時に」
「・・・・・・ええ」
 憮然として答えます。
「わかったわ。それで」
「いやあ、よかったよかった」
 最後に新一君の能天気な声を聞かされました。
「おかげで今日は先輩とデートだ」
「頑張ってね阿波野君」
「この娘奥手だから」
 皆相変わらず新一君の味方です。何時の間にかデートにまでなってるし。
「リードしてあげないとね」
「ええ。そういうことで先輩」
「わかったわ」
 多分苦虫を噛み潰した顔になっていました。そうならざるを得ませんでした。
「じゃあね」
「ええ。それじゃあ」
 軽い調子で言い出しました。
「ちょっと時間潰してきますんで」
「別にそのまま忘れてもいいから」
 私は彼に言いました。
「別にね」
「阿波野君、四時よ」
「場所は大学の食堂の前ね」
 そうしたらまた。彼女達が言うんです。完全に新一君の味方になっちゃってます。何か私って彼絡みの話になると急に孤立無援になっちゃいます。どうしてなんでしょう。
「わかったわね」
「了解っ」
 ぴっと右手で敬礼みたいに挨拶をしてきました。
「じゃあその時間にね、先輩」
「期待しないで待っておくわ」
「期待して待っているよ」
 ああ言えばこう言うって本当に彼のことを言うんでしょう。本当に何から何まで次から次に言葉が出ることです。そりゃ私が口下手なせいもありますけれど。
「じゃあそういうことでね」
 そのままどっかに消えます。ずっと私の前に出なかったらいいのに。そうすれば清々するんですけれどね。けれどそうなったら・・・・・・って私何でこんなことを。
「じゃあちっち」
 また友人達が私に声をかけてきます。
「講義行きましょう」
「さぼってたらそのままデート忘れかねないしね」
「忘れたいわよ」
 むっとして言い返しました。全く。
「新一君とデートなんて。何でそんなこと」
「まあまあ」
「それにさ。ひょっとして」
 一人が私に聞いてきました。
「何?」
「ちっちってひょっとしてデートはじめて?」
「そういえばあれよね」
 他の子達も今の言葉でふと気付いたように声をあげます。
「ちっちって一年二年の時は彼氏いないし」
「そうよね」
 引っ掛かる言い方です。一年二年はわかりますが何で三年はないんでしょう。大体私は十九年ずっと彼氏なんかいませんけれど。だって私やっぱりあれなんです。そりゃ古い考えですけれどお付き合いするなら御一人とずっとがいいですから。
「じゃあ今までずっと?」
「デートとか経験なし?」
「悪いの?」
 横目から皆を見上げて尋ねます。顔がちょっと赤くなっていたかもです。
「ないわよ。だって」
「じゃあいい経験じゃない」
「そうよね」
 皆そう言って笑顔で頷き合います。
「行って来なさいよ」
「女は度胸」
「けど」
 ここで何か恐いものも感じました。
「新一君も男の子だし。若い男の子と二人きりだなんて」
「考え過ぎよ」
 こう言ったらそう返されました。思いきり笑われて。
「心配御無用」
「あの子だったらね」
「そうかしら」
 かなり疑わしい言葉にしか聞こえませんでした。正直。
「私はそうは思えないけれど」
「精々唇までじゃない?」
「手を握っただけとか」
「唇って」
 そう言われて今度は顔が確実に真っ赤になりました。冗談じゃありません。
「嫌よ、私キスだってね、まだなんだから」
「自分で言わないの」
「本当に奪われても知らないわよ」
「あっ」
 失言でした。今度は皆に完全に呆れられてしまいました。
「しまった・・・・・・」
「とにかくね」
 皆呆れながらも私に言います。
「四時よ、いいわね」
「それまでは講義を受けましょう」
「え、ええ」
 皆の言葉に頷きます。何はともあれまずはそちらです。けれど四時は絶対にやって来ます。それを思うと憂鬱になりますが時間からは逃げられないんですよね。どうなるやら。


高校生と大学生   完


                 2007・9・20
 
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