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NEIGHBOR EATER

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EATING 19

「皆さんはじめまして。
俺は清輝翼です。
これから宜しく御願いします」

月の始め、俺は夜架のいる学校に復学した。

なぜ転入ではなく復学かと言うと、侵攻で校舎を失った学校も有り、生徒もそれに合わせて整理されたからだ。

「あと、こんな格好ですが男です。
もう一度言います、男です」

迅に必ず言えと言われた事だ。

じゃないと大変な事になるとか…

確かに俺の髪は長くて女の子に間違えられる事はあり得るけれど、大変な事にはならないと思う…

「はい、翼君は事情があって今日までお休みしていました。
皆さん、仲良くしてあげてくださいね?」

はーい、と間延びした返事が帰ってくる。

"間延びした"と感じるのはボーダーの規律に従って生活していたかただろうか?

「席は羽々斬さんの隣です」

また謀ったような席だな…

大人しく夜架の隣に座る。

夜架は最後列の窓際から二番目で、その窓側が空いている。

「頼むぜ、夜架」

「はい、主様」

授業は簡単だった。

元々できる方だったし、侵攻後は迅や林道さんに教えてもらっていた。

一コマ目の休み時間。

「主様」

「学校でその呼び方はヤメロ。他の奴等に聞かれたらどうする?」

「ではどのように?
アナタ?
旦那様?
隊長?
ご主人様?
翼君?
清輝さん?」

はぁ…

「ボケるな。前四つじゃなければいいぞ」

「では翼きゅんで」

「はっ倒すぞ」

「あら? 私を押し倒すおつもりですか?
直ぐに形勢逆転ですね」

やなこと言うなよなぁ…

「それはそれとして次の授業は体育ですよ翼様」

「あぁ…もうそれでいいや…」

「更衣室の場所はわかりますか?」

「いや、知らん」

「わかりました、ではお連れいたします」

夜架に連れられ、着いたのは体育館前の更衣室だった。

「女子はここで男子はあちらです」

「ん、ありがと」

「いえいえ」

体操服の入った手提げをもって男子更衣室に行こうとした時、手を捕まれた。

「夜架?」

「主様」

「なに?」

「更衣室はこっちですよ?」

「は?」

いや、そっち女子更衣室…

「主様は可愛らしいですから、襲われるかもしれません。
なのでこっちです」

「待て待て待て待て! 頭沸いてんのかお前!」

「いえ、従者として主の身を案じるのは当然ですゆえ」

「今は関係ないだろう!?」

「羽々斬夜架は主様の従者。それ以上でもそれ以下でもありません」

夜架が掴んだ腕をグイと引っ張り、女子更衣室のドアノブに手をかけた。

「待て!本当にマズイ!復学初日から問題とかヤバイって!」

「大丈夫です。問題にしようとした人間は潰しますので」

「余計ダメだろうが!」




結局途中で来た先生に治めてもらい、体育が始まった。

内容は球技でバレーボールだった。

今の俺は"素"の状態で髪を染めてカラーコンタクトをして羽と光輪を隠した状態…

つまり、俺の今の身体能力は人外である。

かなり手加減しないと色々バレるし他の奴にケガをさせてしまう。

さっきから飛んで来るボールだが、わざと見逃すのが大半だ。

ひどくもどかしい。

幸い今日は放課後に防衛任務が入っているのでその時に暴れさせてもらおう。

「主様、いかがなさいましたか?」

「ん? いや、なんというか、力を抑えるというのは面倒だ。
防衛任務では暴れさせてもらおう」

「わかりましたわ」











「翼様。あーんです」

「いい加減にしろや夜架」

お昼の時間、夜架が俺に弁当のおかずを突き出して来た。

ってゆーか朝一緒に作った弁当だし。

現在、三門市では給食センターが復旧されていない。

医療施設と教育施設を優先し復旧した為に、優先度の低い付属施設は後回しなのだそうだ。

「むぐっ…」

「おいしいですか?」

「むぐむぐ……おう」

クラスの女子から黄色い悲鳴が上がった。

「おい…」

「あら、いいじゃないですか」

「あのなぁ…」

「ご安心を。容姿だけを見れば仲睦まじい"姉妹"ですわ」

はぁ…最近俺の隊が三姉妹とか呼ばれ始めたからなぁ…

「俺は男だ」

「ええ、わかっております。
翼様は立派な男の娘ですものね」

娘って言った事に気付いてないと思ったか。

最近雷蔵に教えてもらったわ。

「お前覚えとけよ」

「あら?私に乱暴するおつもりで?
私はいつでも受け入れますわ」

と色っぽい仕草をされるとドキッとしてしまう。

「お前…いきなり"女"見せるのやめろよな。
いいか、絶対に他所でやるなよ?いいな?」

「あら!私に対して独占欲抱いてくださるのですね?」

「うっせ!」

そんなやり取りをしていると、隣の女子に質問された。

「ねぇ、貴方達って知り合いなの?」

「ええ、まぁ、親戚です」

「まぁ…そんな所だ」

「一つ付け加えるなら…一つ屋根の下で暮らしている…といった所でしょうか?」

「ヲイ」

「あら、口が滑ってしまいましたわ」

絶対態とだろうが!

案の定、教室が喧騒に包まれた。

全ての質問に当たり障りの無い範囲で答え、軈て昼休みも終わった。

五時間目以降は好奇の視線をずっと向けられており、どうも落ち着かなかった。

そして放課後…

「夜架!逃げるよ!」

「はい。我が主様」

質問を再開しようとするクラスメイトを振り切り、俺達は校門へダッシュした。

「あら、二人共早いのね」

校門にはハルが待っていてくれた。

その傍らには赤い車がある。

「ハル!早くだして!」

と車に飛び乗ると、

「え?あぁ、バレちゃったんだ?」

と言って運転席に座り、車を急発進させた。

その車内でハルはニヤニヤしながら俺達に質問してきた。

「で、何がバレたの?フリューゲル?イーター?
それとも私達の同居?」

「一番最後だな。
まったく、俺と夜架が恋人同士な訳ないだろう…」

今の俺の容姿は全くかっこよくない。

こんな女っぽい男が夜架みたいな美人と釣り合う訳ないのに」

「ふふ、嬉しい事を言って下さいますね、主様は」

え?あれ?

「声に出てた?」

「うん。はっきり言ってたよ」


は、はずかしいなぁ…

「主様」

クイクイ、と袖を引っ張られた。

「ん?」

「主様は、格好いい悪いではなく、強いのです。
主様の魅力とは、強さとそれに見合った意志です」

意志?俺の?

「俺に意志なんてあるのかな…?
俺はトリオン機関さえ食べれたらそれで…」

「たしかにそうかもね。だけどさ、翼君って防衛任務中いつも私達を守ってくれてるよね?」

それは…当たり前だろう?

「俺はフリューゲルを持ってるんだから、皆を守らないといけないんだ。
強いなら護る、それって当たり前だろ?」

「はい。それが道理です。
しかしこの世にその道理をこなせる人間は少ないのです。
それには、強い意志が必要となるのです」

強い意志…?

「わからない。俺にはそんな意志は無い…と思う」

俺は、自分に出来る事しか出来ないし、自分に出来る事しかしない。

「まー、いつか翼君にも分かる日が来るよ」

そうなのかな…?

「もし自覚が無いなら、それが君の素なんだろうね。
だからさ、翼君は今のまま、ありのままでいいんだよ」

「私達は、そんな主様に惹かれたのです」

ありのままの、俺…

今のまま?

本当に?

いや、だめだ。


俺はもっと強くならないと…


もっと、もっと、もっと!


そして、俺は……






<死>に怯える自分を殺さないといけないんだ…
 
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