おぢばにおかえり
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15部分:第三話 高校生と大学生その七
第三話 高校生と大学生その七
次の日。私は午後から授業でした。それで自転車で学校に行くと。
「あっ、先輩」
急にあの軽い声が聞こえてきました。
「こちこっち」
「昨日言われてもう来たの!?」
声の方にそう言いながら向き直りました。
「どういう頭の構造してるのよ、ちょっと」
「まあよく見てよ」
「よく見てって何をよ」
「僕の服装さ。よく見て」
「服!?」
「そうそう、見てよ」
服って。そういえば私服です。大学は私服だから気付きませんでした。
「どうしたのよ、それ」
「だから着替えたんだ」
新一君はにこにこと笑って答えます。
「それで来たんだけれど」
「ひょっとしてわざわざ持って来たの?」
「うん」
返事はあっけらかんとしていました。どうやらそのようです。
「制服では駄目なんでしょ?だから」
「山村先生はそれでいいって仰ってるの?」
「全然オーケー」
先生も甘いんだから。この子は甘くしたら余計につけあがるのに皆甘くします。そういう私もあれなんですけれどね。残念なことに。
「いいんだってさ」
「何でそうなったか凄い不思議なんだけれど」
本当にわかりません。昨日それでわざわざ詰所にまで来られたのに。どういった天変地異があったのか私は凄い不思議に思いました。
「何でよ」
「それは企業秘密」
「全然わからないわよ」
「じゃあ国家機密」
もっとわかりません。とにかくこうなった理由が凄く謎です。しかもよく見れば新一君をこの学校で見る時って。
「先輩目立つし」
「そこで私なの?」
「中学生に見えるから」
「大きなお世話よっ」
また背のことです。ついでに顔のことも。童顔で小柄なのをまた言われます。どうせ私は小さいし小柄ですよ。いつもいつも言うんだから。
「けれど制服じゃまずいからね」
「で、着替えて」
「俺着替えるの早いしさ」
「ってよく見たら」
単に制服の上脱いだだけです。黒いカッターを着ています。少し見たら得体の知れない組織の少年構成員です。彼の服の趣味がわかりません。
「凄い格好よね」
「ネクタイもしてみようかなって思ってるんだけれど。黒の」
「止めなさい」
それはすぐに止めました。
「ナチスドイツになるわよ」
「っていうか黒シャツ隊かな。ムッソリーニの」
どっちにしろろくなものじゃありません。全体主義なんて。
「けれど悪くないでしょ」
「似合ってはいるわね」
悔しいけれど彼スタイルいいんです。背が高くてすらりとしているし顔立ちだって。って私ったら何でこんなことを。今の言葉は気にしないで下さいね。
「黒が似合うのはいいわね」
「赤も好きだよ」
「けれど赤いネクタイは駄目よ」
「また何で」
「滅茶苦茶派手じゃない」
そう言葉をかけました。
「赤だなんて。やっぱり派手にならない方が」
「面白くないなあ、そんなの」
「そもそも新一君の服ってあれよ」
実は彼の私服を見たのはこれがはじめてじゃありません。何度かあるんですがどれも。
「派手過ぎるのよ。青いコートに白いシャツに赤いマフラーとか」
「それよかったでしょ」
「遠くからでもわかったわよ。何処にあんな服あったのよ」
よく考えたらフランスの国旗の色です。最初見た時はびっくりしました。
「いや、普通にユニクロで」
「ないわよ、あんなの」
しかもその組み合わせは。有り得なかったです。
「とても。それで何でここに来たの?」
「ここに来た理由?」
「そうよ。何かいつも来てるけれど今日のは何?」
「先輩を見に」
「帰りなさい」
速攻でこの言葉が出ました。
「何考えてるのよ」
「何って駄目?」
「全く。何を言い出すのかと思ったら」
悪い冗談です。いつもの。
「ふざけていないで学校に戻ったら?今日平日じゃない」
「いや、今日は午前で終わりだし」
「家に帰ったら?」
それならそれでこう言い返します。大体いっつも遊んでばかりですし。
「それでゲームでもしていなさいよ」
「それだったら詰所でもできるし。まあ特にさ」
「ああ言えばこう言うね、本当に」
いつものことですが。全く困った子です。
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