前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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きょうしとせいと
「これに懲りたら、二度と無許可でダンジョンに潜るなよ?
フリじゃないからな?」
「ぁぃ」
リヴェリアさんお説教なう…
怒られてるの僕だけど…
談話室でベートさんの尻尾をもふっていると、急に現れたリヴェリアさんに正座させられた。
「ならばよし。では説教はこの辺りにして…」
リヴェリアさんが僕を抱き上げて、ソファーに腰を下ろした。
「あのー…なんで貴女は毎度毎度僕を膝の上に乗せるんですか?」
さっきからベートさんがニヤニヤしながらこっち見てるし…
って…
「頭を撫でないでくださいリヴェリアさん」
「(ベルの髪…もふもふだな…
本当に兎みたいだ…)」
「リヴェリア」
「なんだベート?」
「お前がベルの面倒を見るのか?」
「正確には私とアイズだ」
「なるほど…俺も混ぜろ」
「何?」
「面白そうじゃねぇか」
「ロキに聞け」
なんか俺そっちのけで話が進んでる…
「そうか。なら行ってくる」
「「へ?」」
僕とリヴェリアさんは顔を見合わせた。
「まぁ、なるようになるだろう」
「アバウトですね…」
その後、僕はリヴェリアさんの私室に連行されて、勉強漬けにされた。
女性の部屋に入る理由の中でもダントツで色気の無い理由だ。
まぁ、内容を理解出来るから苦もないし、綺麗な人の膝の上だし悪い状況ではないんだけどね。
って、『いい状況』はそれはそれで問題なんだけども。
「ふぅ…」
区切りがいいので一息つく。
「ベル、わからない所は無いか?」
とリヴェリアさんが耳元で話す。
「いえ、特には」
僕には『関連付けて覚える』すべがある。
だから多少は他の人より早く多く覚えることができる。
「ベル」
「はい」
「お前には前世の記憶があるとロキから聞いたが、実際はどうなんだ?」
「どう、とは?」
「お前の精神年齢は幾つなのかと思ってな」
精神年齢は、年相応だ。
『オレ』のクオリアとかパーソナリティとか、個人を形作る核は消えてしまった。
あるのは『オレ』が僕にくれた知識だけ。
「僕の精神年齢は14歳ですよ。
僕の中にあるのは記憶じゃなくて前世で得た『知識』だけですから」
「ほう?それは興味深いな。何か知識を披露してくれないか?」
知識…知識…リヴェリアさんが喜びそうな物…
「では万物を形作る目に見えない世界の話をしましょう」
何を教えるにも先ずは基本から。
「ほう、万物ときたか」
「はい。この世界の全ては小さな粒でできています。
この机も、ペンも、僕やリヴェリアさんの体も、全ては『元素』という粒からできています。
さらに元素は『中性子』と『電子』と『陽子』という粒からできています」
「つづけてくれ」
「中性子、陽子、電子の組み合わせで元素の性質は変わります。
例えば水は『酸素』と『水素』の二つの元素から成り立ち、この二つはそれぞれ違う量の中性子と電子と陽子をもっています。
鉄や炭も、同じように元素から成り立ちます」
「すまん…何を言っているのか全くわからない…」
あ、そうですか…
そうだよね…『科学』を知らない人にいきなり原子論を言ってもね…
「だが興味深い話だ。紙に纏めてくれないか?」
「膨大な…それこそ本みたいな量になりますよ?」
「構わない。紙は私が出そう」
「はい!わかりました」
先ずはやっぱり周期表だよね。
周期表完全暗記してるとか前世の『オレ』はどれだけの変人だったんだろうか。
「しかし元素か…魔法はどうなんだ?」
「いえ、僕の前世は、この世界とは別の世界なんです。
魔法も神も聖霊もモンスターもエルフもドワーフもキャットピープルもいない。
ヒューマンだけが栄えた世界なんです」
「なに?」
「僕の、前世の記憶が甦ったのはミノタウロスに殺されかけたとき。
僕だってそんな世界があるなんて、記憶がなかったら信じられません」
「ベル。さっき魔法も神も存在しないと言ったが、ならどうやって栄えたんだ?」
魔法という万能の力なしで栄える方法。
それはただ一つ。
失敗し続けて答えを探す。
「科学という学問があります。
水が凍る理由を。
炎が燃え盛る理由を。
物が地上に落ちる理由を。
雨が降る理由を…
そんなあらゆる事の理由を調べ上げ、失敗を繰り返し答えを探し…
そんな過去の偉大な先達の犠牲と献身の上に、僕の前世の世界は成り立っていました」
「科学…さっきの元素も科学か?」
「はい。前世の世界は、魔法が無い代わりに科学によってこの世界よりも発展していました。
音より速く飛ぶ人が乗る鉄の鳥。
世界の果ての人とも話せる道具。
千億以上の本を閲覧できる書庫。
星々の世界へ飛び立つ船。
太陽を模倣した炉。
そんな物がありふれた世界です」
「そんな、恐ろしい物が…」
「中には人を害するための道具だってあります。
地の果てを狙い撃つ大砲。
一滴で千万人を殺す薬。
地上を焼き付くす炎を生む道具…」
むしろ科学とは戦争、つまり人を害する為に発展したと言ってもいい。
「リヴェリアさん」
「なんだ」
「リヴェリアさんに科学を教えるのは構いません。
でも、悪用だけはしないでください。
この世界には魔法がある。
科学で不可能な事が魔法ではできてしまう。
だから…」
リヴェリアさんがぽんぽんと僕の頭を撫でた。
「案ずるな。私がそんな人間に見えるか?」
「みえません。でも、使い方は間違えないでください」
「生意気な奴め」
こうして僕とリヴェリアさんは、互いに教師で互いが生徒という関係になった。
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