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ナポリタン

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第一章

               ナポリタン
 イタリアのナポリから仕事で日本の大阪に来たホセ=ロンゴーニは会社の同僚達とすぐに打ち解けた。それでだった。
 日本での仕事をすぐに覚え日本文化も知っていった、その中で日本の料理も楽しんだ。だがその中でだ。
 たこ焼きやうどんに舌鼓を打ちつつだ、彼は黒髪を粋にセットさせた彫のある明るい顔立ちを幾分曇らせて言った。黒い目は大きく眉は太い。背は一七四程で中肉である。
「ナポリタンってあるよね」
「ああ、スパゲティだね」
 同僚の一人赤井旗慎吾が応えた、背はホセより五センチ位高く丸顔で眼鏡も丸い。髪の毛はオールバックにしていて大きな目が印象的だ。身体つきは太めな感じで言葉は大阪の訛りがかなり出ている。
「あれだね」
「うん、あれはね」
 ホセは外回りの時に大阪の街を歩きつつ共にいる慎吾に話した。
「イタリアにはないから」
「ナポリにはね」
「イタリアは確かにパスタの国だけれど」
 スパゲティはその中で一番有名だ。
「あれはないね」
「ミートソースとかイカ墨はあるよね」
「カルボナーラもね、ボンゴレだってペペロンチーノも」
「けれどナポリタンは」
「ないから」 
 ホセは慎吾にはっきりと言い切った。
「もっと言えばうどんやたこ焼きもないよ」
「ははは、それはないだろうね」
 慎吾もホセのジョークに笑って応えた。
「やっぱり」
「どっちも美味しいけれどね」
「それでもだね」
「ないよ、それでもスパゲティはあっても」
「ナポリタンはない」
「ナポリにもね」
 彼の故郷にもというのだ。
「ないよ」
「やっぱりそうだね」
「トマトではなくケチャップで濃く味付けをして」
 ホセはまずこのことから話した。
「マッシュルームにソーセージ、あとは玉葱にだよね」
「そしてピーマンも入れるね」
「どれも細かく切って、そうしたのはね」
「ないんだね」
「ないよ」
 こう慎吾に言った。
「そうしたスパゲティは」
「ナポリタンといっても」
「そう、ナポリにはないから」
 そのナポリ生まれとしてだ、ホセは言い切った。
「全然ね」
「そう聞いて僕もびっくりしたよ」
「というか驚いたのは僕だよ」
「何でこんなスパゲティがあるのかって」
「そうね、しかしね」
「しかし?」
「いや、実はそのナポリタンはね」
 ここでこうも言ったホセだった。
「食べたことがないんだよ」
「ああ、そうなんだ」
「うん、美味しいのかな」
「美味しいよ」 
 即座にだ、慎吾はホセに答えた。
「ナポリタンはね」
「本当かな」
「それなら一回食べてみるかい?」
 話すより実際にということでだ、慎吾はホセに提案した。
「そうしてみるかい?」
「そうだね、じゃあね」
「ならお店に行こうか」
「洋食店にだね」
 日本のだ、ホセにとってはこの洋食も日本の料理のジャンルの一つであり他の国の料理という認識はない。味がイタリアのものでも他の国のものでもないからだ。
「そこに行くんだね」
「それか自分で作るかね」
「両方しようか、まずはね」
 ホセは慎吾の提案に乗ってすぐにこう返した。 
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