大阪のろくろ首
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第二章
「もうこれを言ってもね」
「仕方ないんですか」
「そうよ、従姉の人だって八条大学で教授さんの助手してるけれど」
「その人もろくろ首ですか」
「うちの家系は女の人は代々ね」
「男の人はならないんですか」
「そうみたいよ、男の人のろくろ首って少ないの」
女が多いというのだ。
「それもかなりね」
「そうなんですね」
「そのせいかね」
「先生はろくろ首でもですか」
「親戚の人で女の人は皆そうだけれど」
「男の人はですか」
「いないのよ」
そちらはというのだ。
「一人もね」
「そうなんですね」
「そう、けれど普通に暮らしてるし」
「人を襲ったり食べたりもですか」
「しないわよ、ただね」
ここでにんまりと笑ってだ、明菜は翔太にこう囁いたのだった。
「実は先生結婚してるの」
「えっ、嘘ですよね」
「嘘じゃないわよ。大学生はもう結婚出来るのよ」
このことも言うのだった。
「それで旦那と二人暮らしなのよ」
「そうだったんですか」
翔太も驚く事実だった、このことは。
「先生もう」
「大学入学してすぐに結婚して子供もいるのよ」
「えっ、お子さんもですか」
「男の子ね、今一歳よ」
「そ、そうだったんですか」
「旦那はサラリーマンだけれど私の方から誘ってね」
そうしてというのだ。
「結婚したの」
「それでお子さんもですか」
「びっくりした?」
「しました」
本当に仰天した顔になって言う翔太だった。
「そういえば時々お母さんと色々お話してると思ったら」
「翔太君の成績のこともあるけれど」
それでもというのだ。
「家庭のことでも色々アドバイスしてもらってるの」
「そうだったんですね」
「びっくりしたでしょ、襲ったり食べたりしないけれど誘うことは出来るのよ」
こちらはというのだ。
「勿論旦那も私がろくろ首ってこと知ってるし」
「何も言われなかったんですか」
「今も面白いって言ってもらってるわ」
「面白いですか」
「そう、首が延びてね。これって便利なのよ」
「どう便利なんですか?」
「だって座ったままで遠くの場所を観られるのよ」
首を延ばしてそうしてというのだ。
「本当にいいわよ、今みたいにね」
「そうなんですか」
「こんないいものないわよ」
「僕それでも怖いんですが」
「だから別に襲ったり食べたりしないから」
明るく笑って言う明菜だった、この時も。
「誘うのも旦那だけだし」
「そうですか」
「食べるものも飲むものも普通の人と変わりないしね」
「ろくろ首なだけですか」
「本当にそれだけよ」
明菜は陽気に笑ってそうして翔太に色々教えていた、彼女の教え方は上手で確かに翔太の成績は上がっていた。
だがそれでもだ、どうしてもだった。
翔太は明菜の首が延びることが怖くてだ、ある日彼女が帰ってから母に言った。
「あの、先生一つだけ困ったことがあるんだけれど」
「ろくろ首だってこと?」
「うん」
その通りだというのだ。
「それだけどうにかならないの?」
「別にいいじゃない」
母は切実な顔の翔太に素っ気ない顔で答えた。
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