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ランス END ~繰り返しの第二次魔人戦争~

作者:笠福京世
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第一部 GI歴末からLP歴の終わりまで
第一章(CP4二周目、結末Bエンド)
  第02話 自由都市アイスのキースギルド

 GI1014年 ヘルマン共和国 ゴーラクの南にある小さな村

 「ビュートン、起きろー! 朝めしを食べたら今日も特訓だ!」

 基礎学校が休みの日、マハが寝起きが悪い僕を叩き起こす。
 彼はゼナ叔母さんの子どもだ。二つ年下で、僕にとっては弟のような存在だ。

 僕は姉との冒険から帰ってきてからは、木刀で剣の稽古をするようになった。
 とは言っても姉に教わった型を繰り返すくらいで、さほど本格的なものではない。
 それでも十二歳になって一緒に冒険するときの為に気合を入れて練習している。

 その姿を見つけたマハが、最初はチャンバラだと思って勝負を挑んで来た。
 軽くあしらうと、その後も何度も木刀を握って挑んで来た。
 マハは木刀勝負では歯が立たないと気づくと、あれやこれやと武器を変えて挑んで来た。
 
 今は木製のハンマーを使い続けている。
 というより他の武器と違い明らかに習熟が早かった。間違いなく素質があるということだ。
 負けん気の強いマハの戦闘全般に関する素質は、どこか僕以上に思える。
 とは言っても年上の僕が、そう簡単に負ける訳にはいかないけどね。

 「う~ん、起きる。起きる。起きるから、先に行っといて」

 「その寝起きの悪さ、本当に直さないと冒険や旅での野営とか無理だぞ」

 そうなのだ。マハと冒険ごっこのようなことをするたびに実感する。
 僕はやはり冒険者には向いてないと……。

 例えば料理Lv0でもあれば、家庭料理として十分美味しいものが作れる。
 だから日常生活における技能Lvというものは、さほど意識されない。
 技能Lv1あればプロ、技能Lv2あれば世界有数だ。
 たぶん野球技能とかサッカー技能もLv0だと趣味の領域だろう。

 ただ技能レベルなしとなると違う。
 料理であれば、ちゃんと学んでも、うっかり塩と砂糖を間違うレベルだ。
 
 冒険だと、気を付けてるはずなのに、うっかりとトラップや罠に引っかかる。 
 学校では忘れ物をしたことが無いのに、冒険では道具を忘れたり、失くしたりする。
 冒険の知識はある。練習では問題ない。しかし実際の冒険になると対応できない。
 そんなことが続いたので、僕は冒険者になることは早々に諦めた。

 「きっと贅沢なんだろうけど、冒険の才能が欲しかったな」

 姉は二年ほど前に冒険者の弟子を取った。
 性根をたたき直すために連れ回しているだけらしいが羨ましい限りだ。
 目を離してはおけないということで、昨年は村に帰ってこなかった。
 おかげで最近はもっぱら年に数回だけの手紙のやり取りだけだ。

 その弟子は僕より五歳上の男の子らしい。
 どうやら性格に難があるらしいが、剣と冒険の才能に溢れているそうだ。
 技能Lv2の素質を始めて間近で目のあたりにしたと手紙に書いてあった。

 「冒険は無理だけど、旅なら平気だって分かっただけでも良かった」

 あの離れ宮島に向かった旅のドキドキを忘れることができない。
 冒険は無理でも、いつかは世界を旅したいと思った。
 ヘルマンの田舎だけで一生を過ごしたくないとだけは思った。
 冒険は無理でも、僕はこの世界をもっと知りたい。

 来年には十二歳だ。基礎学校を卒業したら姉と約束の旅に出る。
 またリーザスに行って、自由都市に行って、JAPANにまで行く。
 その後の進路はハッキリとは決めてない。けど旅をしながら考えれば良い。

 マハが去った部屋で、ぼんやりと目を覚ます。
 気が付くと部屋には、知らない小さな女の子がいた。

 「……あ、起きた」

 ぼんやりとした瞳でこちらを見つめてくる。
 長い髪に青いリボン、ほとんど裸のような装飾……。

 「誰? っていうか人間?」

 どうも夢心地だ。寝起きで意識がハッキリとしない。

 「ふわぁ、人間じゃないよ」

 「じゃあ何?」

 「ん、むにゃむにゃ……時のセラクロラス?」

 「神様?」

 「そうなのかな?」

 よく分からないけど、人間でないのは間違えない。

 「あっ!」

 「うわっ! なになに」

 いきなり少女が、声を上げるので反応する。
 
 「見えた」

 「だから何が?」

 「みらい? かこ? いま? あれ?」

 「ねえ、何の話?」

 「ビュートンは何週目?」

 「え!?」

 「ここが時の集結点だよ」

 そういうと時のセラクロラスと名乗った少女が片手をあげる。
 そこに小さな光が灯ったと思ったら、彼女は消え去っていた。

 「一体、何だったんだろう? 夢?」

 これは僕が姉の死を知る前日に見た白昼夢。


 GI1015年 自由都市 アイスの街 キースギルド

 十二歳なり基礎学校を卒業した僕は、あの日に姉との約束した通り旅に出た。
 けど一緒に冒険するはずだった姉はもういない。
 一人で旅に出るつもりだったが、心配だと言ってマハが勝手に着いて来た。
 旅に反対してたゼナ叔母さんは、今ごろ心配しているだろう。ごめんなさい。

 一年ほど前に、キースギルドの使いだという冒険者が村に姉の死を報せに来た。
 そしてギルドが預かっていた遺産と、姉の形見である片刃の曲刀を受け取った。
 
 姉がどうして亡くなったのか、使いの冒険者は詳しくは知らない様子だった。
 だから僕は姉の所属していたキースギルドにやって来た。
 姉はどんな冒険者だったのだろうか。姉の弟子も一緒に死んだろうのだろうか。

 成金趣味を感じる看板のかかったキースギルドの扉を開ける。
 建物の中身も僕が勝手にイメージしていた薄汚い冒険者ギルドとは違っていた。

 その目の前の大きな机に、薄い口髭を生やしたスキンヘッドのオッサンがいた。

 オッサンはまるで幽霊でも見たかのように驚いた目で黙って僕を見つめる。
 僕も咄嗟のことで言葉が出ない。互いに固まったまま沈黙が続く。

 「あら? キースギルドへようこそ」

 そこに赤髪の眼鏡をかけた女性が隣の部屋からやってきた。

 「あ、すいません。ヘルマンの村から来ましたビュートン・エンドです。
  以前キースギルドに所属していた冒険者の姉について知りたくて訪ねて来ました」

 「あ、ああ、なるほどな。あいつの妹か、化けて出て来たのかと思ったぜ。
  俺がギルドのボス、キース・ゴールドだ」

 「……妹ではありません。弟です」

 「すまん。なんせ、あいつが初めてギルドに来たときと瓜二つでな」

 「いつも弟みたいな可愛い妹がいるんだって自慢してましたね」

 「ハイニ、そりゃ妹みたいな可愛い弟の間違いだ」

 「なんだか俺も混乱してきた」 後ろにいたマハがボソッと呟く。

 「そっちのガキは連れか? 二人で姉みたいに冒険者にでもなるのか?」

 「いえ、姉のことを詳しく聞きたいだけです」

 「……そうか。ま、今は暇だ。そっちのソファにかけろ」

 「あ、お茶とお菓子出しますね」

 「そうだな。長話になるだろうから頼む」

 キースさんは話して見れば、見た目はアレだが面倒見の良いオッサンだった。
 秘書のハイニさんを交えて、姉の思い出話、冒険譚、武勇伝に盛り上がる。
 しかし楽しい話だけを、聞きにきたわけじゃなかった。

 「その片刃の曲刀は、あいつが使っていたやつか?」

 「はい。形見として受け取りました」

 「それは古きを狩る刃を持った冒険者なら垂涎のレアドロップだ。大事にしろ」

 「そんなに凄い武器だったんだ……」

 マハが驚きの声を漏らす。
 僕は古ぼけた鞘から曲刀を抜き、その片刃を確める。
 たしかに鋼鉄とは材質が違う。よく見れば紋様が薄っすらと刻んである。

 「ああ、狙われて盗まれたれないよう、あえて古ぼけた鞘に納めてるのさ」
 
 「遺産はギルドに預けてた金銭やアイテムだけ。唯一残った愛用の遺品だな」

 「姉は冒険の途中にモンスターに殺されたと聞きました。
  死体は回収できなかったと……。誰がこの曲刀を?」

 「ああ、それは――」

 キースさんは語り始める。

 「その日は雨が降っていた。夕暮れ時だった。
  ギルドの扉に何かがぶつかってきて大きな音が響いた。
  何事かと思って扉を開けてみると、血まみれの男が倒れていた――」

 大怪我を負った男は、姉の弟子だった冒険者だ。
 その手に片刃の曲刀を握っており、意識を失ってもけして手放さなかった。
 ヒーラーの治療を受け、意識を取り戻した男にキースは尋ねた。

 「もちろん何があったのかと聞いた。
  ただ、お前さんの姉がモンスターに殺されたとだけ答えた。
  詳しい話が聞きたかったのは俺も同じだ。
  だけど、そいつは頑なに口を開こうとしない。
  仲間が酷い死に方をした冒険者にはよくある事だ。
  だから落ち着くのを待とうと思った」

 「その冒険者の名前は?」

 「ランスだ」

 「彼は今どこに? 会えますか?」

 「一応はウチのギルドに所属してはいるが、居場所が分からん」
 
 話を聞くと、姉の死後に一度はギルドを抜けたらしい。
 いくつかのギルドに入るが、そこらで問題起こして出入り禁止になったらしい。
 そこでキースギルドに戻ってきたが、彼の前では姉の話はタブーだ。
 酒場でタブーにふれた同業者が、その場で斬られたこともあるらしい。
 どうやら亡くなった姉以外に、手綱を握れる者がいない傍若無人の暴れ者らしい。

 「いったい、どこで女あさりをやってるんだか」

 とにかく女の子が大好きで、見境なしに手を出すらしい。
 先月もある組織のボスの女に手を出して、命の危機にさらされるが撃退したそうだ。
 トラブルメーカーで定宿もコロコロ変えるし、宿を変えても連絡さえよこさない。
 仕事を受けるペースも気侭で、選り好みも酷い。
 だけど下手に他の冒険者よりも能力があるからタチが悪い。

 「あいつにも何かあったときは、ランスの事を頼むと言われてたからな」

 「そうですか」

 「ま、宿も紹介するし、金はウチが支払うから一週間ほど、この街に泊まってけ」

 「いいんですか?」

 「ああ、あいつには世話になったからな。まだまだ話したいこともある」

 「その間にランスさんが顔を出せば良いんですけど……」

 それからは毎日キースギルドに顔を出した。
 だけどランスという冒険者と会うことは出来なかった。
 それでも同業者、道具屋、武器屋、様々な人に冒険者だった姉のことを聞けた。

 姉の死因は気になったが、冒険者たちは死に際なんてろくなもんじゃないと言った。
 喰われたり、犯されたり、胸糞が悪くなるような話が、そこらに転がっている。
 だからだろう喋りたくない人間の気持ちも分かるそうだ。
 モンスターに殺されたというのは間違いないらしい。

 事件などに巻き込まれ卑劣な人間に殺されたわけじゃない。
 ある冒険者には、もし敵討ちなんか考えてるなら止めとけとも言われた。
 冒険者としての生き方を選んだ以上。冒険で死ぬのは自己責任だ。
 ダンジョンや遺跡といったモンスターの棲みかに入って殺されるのは仕方ない。
 確かに姉さんはそんなことを望むような人じゃなかった。

 僕とマハは自由都市での短い滞在を終え、ヘルマンの村へと戻ることにした。


 一方、その頃――

 ランスは性悪女サリーの色仕掛けに騙され危険な任務をいくつか任された。
 持ち前のエロパワーで、危険な任務を成功させる。
 しかし、いつの間にか莫大な借金を背負わされていた。

 借金取りから逃げ回りながらも、行方をくらませたサリーを追い続けて二ヶ月。
 ようやく捕まえて徹底的にお仕置きをしたところだった。

 その後もランスは、不思議な屋敷に閉じ込められる。
 ランス他6名の優秀な冒険者を集めたのが屋敷の主。
 その正体は勇者を見つけ出し、その身体を乗っ取ろうとしている魔法使いだった。

 ランスがシィル・プラインと出会う前の物語。

 (ワールドノート参照)


*ゲームデータ*

Lv12 ビュートン・エンド(闇属性/突撃(弱)/若者の可能性)-オリキャラで主人公(記憶の引継ぎなし)
Lv10 マハ・マーガレット(雷属性/全力突撃/若者の可能性)-ランス9に登場
聖女 セラクロラス(炎属性/急速退行/急速老化)-聖女の子モンスター(八級神)の中でランスXでは唯一エロなし

 
 

 
後書き
ビュートン・エンドは、ランスに冒険者として生きる術を叩きこんだという女戦士の弟です。
この女戦士については年齢以外は不明。設定上だけの存在なのでオリジナル要素が満載です。

ランスは男だと気に入らないければ、問答無用で殺しちゃうような奴なので絡ませ難い。
なのでランスが、どうも強気に出にくい男キャラということ、本作のオリ主が生まれました。
またランス9で非業の死を遂げる、マイトレイア・メイシアンことマハ・マーガレットが弟分です。
マハも設定上は才能限界LV120という人類では史上トップクラスの逸材(LV∞のバグを除く)
この戦力を第二次魔人戦争に投入したいと、ずっと考えてました。
ランスⅩに未登場だったランスシリーズのキャラを色々と活用したいなと考えています。

まあ才能限界がいくら高くても魔人の前に人間は、無力であることは間違いありませんが……。 
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