俺の屍を越えてゆけ 暁一族 戦記
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一族
「いやぁ本気で死ぬかと思ったわ……生きてるって、素晴らしいな」
「お父様本当に動かないでください!!?ああ、右腕が完全に逝ってしまってる……!?」
「だからこうして結界印を使ってるんだって、全く……おっ治った」
「本当に勘弁してください、心臓が止まるかと思ったんですから!!」
~相翼院、天女の小宮~
鬼が巣食う区域の一つ相翼院、そこへと出陣を行い奥深くまで進む事に成功した暁一族だがそこは自分達が挑むには鬼達の強さは大きな壁となっている場であった。そこに巣食う鬼、通称ドクロ大将は今まで相手にして来た鬼と比べて異様なタフネスと攻撃力を兼ね備えていた為前衛にて真っ向勝負を仕掛ける剣士の大地に取ってはかなりの負担となっていた。途中壁を蹴って立体的な移動を仕掛けて後衛の子供へと襲い掛かろうとした際に自らを盾にしてそれを防いだ、それで右腕を折られてしまったがその直後に桜が怒り狂いドクロ大将を薙刀で切り刻んでいたのでその時の光景のインパクトで痛みは忘れていた。
「お父さ~ん戦利品回収完了しましたよ~」
「親父周囲に敵影無しだぜ」
「そりゃ安心だ」
「治療完了しました!それでは撤退ですか」
「ああ。もう一月立つし潮時だ」
折れていた腕を確認しながら立ち上がる大地の周囲には桜以外にも二人の人影があった、一人は弓を手に持っている緑髪の桜に負けず劣らずの美女に肩に槍を担ぎつつも戦利品を詰めた袋を提げている青髪の偉丈夫が立っている。この二人も桜と同じく大地と神の間に産まれた子供達、弓使いの鈴鹿と槍使いの亮。
「んじゃ帰るぞ~」
「「「は~い」」」
三人の子供に囲まれながらも刀を携えながら大地は家路に着いた、大地が1歳を迎えようとしている頃。一族には新たな家族が加わっていた、新たに交神の儀を行った大地は相手として『羽黒ノお小夜』と『美津乳姫』という二柱の神と子を成していた。イツ花に交神の儀について尋ねられた時は素直にしたくはないと思っていた、呪いの引継ぎというのもあるがお焔という相手がいるのに他の神と交神をしてしまって良いのだろうかという罪悪感が心の中にあった。天界の神々はそれについては納得して力を貸してくれている事には承知しているが幾らなんでも失礼極まりないのではないかと、イツ花はそれなら自分が聞いてくると一旦天界へと戻るとお焔からの言葉を伝えてくれた。
『アハハハッなんだそんな事かい!アタシは気にしてないよ、アンタは悲願の為に石に噛り付いてでも頑張らないといけないんだからね。神でも何でも利用するつもりでいきな!それと、そこまでアタシの事思ってくれて嬉しいよありがとうね』
という言葉を受け取り再びお焔に背中を押されてしまった事に笑いながら、一族の為に交神の儀を行った。その儀にて産まれた子供がお小夜の娘の鈴鹿、美津乳の息子の亮であった。二人が加わった事で戦力が倍増した暁一族は次々と鬼を打ち倒していき今日は相翼院の奥、天女の小宮へと足を踏み入れ探索を行う事が出来ていた。
「はぁい出来ましたよ~!鈴鹿様運ぶの手伝ってくださいます~?」
「はいは~いお任せ~」
「お父様を呼んできました~」
「ふぅ……もう腹が減って倒れそうだぜ……」
「もう食べられるから我慢しろよ亮」
「わ、分かってるって親父」
最初はイツ花と大地しかいなかったこの今にも賑やかな食卓へと変化していた。父の為にお茶を注ぐ桜に皆に米を山盛りにして配る鈴鹿、流石に多すぎる米の量に顔を歪めつつ顔を引きつらせている亮にそれを見て笑うイツ花、そしてそんな家族と食事を取れる事に幸せを感じる大地。命の駆引きをする討伐後の食事は何時もそんな嬉しさを感じさせるゆえか大地にとって嬉しい出来事である。
「大地様、今日の討伐は如何でしたか?」
「相翼院の奥まで行けたから上場だよ、そこの鬼は純粋に強いのが多いけど次からは問題なく対処出来ると思うよ」
「私なんかを庇って右腕が折れた時は私、凄い心配したんですから上場ではないですよ!!!あの時私がどんな思いだったか!!?」
「いやお姉ちゃんは無言でキレながら鬼切り殺してたじゃん」
「あの時の姉さんは恐かったぞ……」
無言で首を縦を振る大地にイツ花は少々顔を引きつらせた、一体どんな風に倒したのかと聞いてみるとまず足を切り膝を着いたと同時に両肩を切り裂き腕を動かせないようにしつつ脚を切断し立てないようにしてから胸を十文字に深く切りつけ倒れ付した鬼の首を切り飛ばした。完全にキレていたのに酷く洗練させていた動きに恐ろしさを全員感じずにはいられなかった。
「だってお父様を、お父様を傷付けたのよ……万死に値して当然じゃない」
「あーもうそんな話はやめやめ、折角のイツ花先生のご飯なんだから……にしても鈴鹿も亮も確りと戦力になってくれてる感じはして俺としては助かるよ本当に」
父の偽りない言葉に思わず二人は照れた。
「でもさ最初の頃はあんなに情けない亮も立派な槍使いになったよねぇ、最初なんて腕を切られて血が出ただけで大泣きしてたのにさ」
「そ、その事は言わないでくれよ姉さん……」
「『お、親父血が、血が止まらねぇ……!!お、俺は死んじまうのかぁ~!?』なんて言ってた奴が」
「ぎゃあああああやめろっつってんだろぉぉぉぉっ!?」
「こら鈴鹿。誰だって最初は恐いんだからそう言って虐めるんじゃないよ、それに貴方だって初陣の時は実はお漏r」
「すいません本当に勘弁してください。その事は本気で勘弁してくださいもう亮の事虐めたり弄ったリしないから許してくださいお願いしますお姉様」
「ほほぉう?そりゃ良い事聞いたぜ、是非聞いてみてぇな姉貴」
これは仕返しが出来るのではないかと目を輝かせる亮とこれはやばい事を知られたと顔を青くする鈴鹿、咳払いをしてからキラキラとした雰囲気を纏いながら弟に擦り寄った。
「ねぇ亮ちゃぁ~ん私の焼き魚あげるわ。ねっだからこの話は終わり、ねっねっ?」
「どっちかっつったら俺りゃイツ花先生特製タレが掛かった鶏肉を出してくれたら手を打つぜ?」
「そ、それは私も大好物で……きんぴらも付けるからさ」
「姉貴さっきの話詳しく」
「らめぇ!!」
後生だからと涙目になりながらも悪い笑みを浮かべながらさあ話をしてくれと言う亮をみて思わず大地は笑う。本当に賑やかで楽しいなぁっと。
「こらこら亮もその辺りにして上げなさいよ、鶏肉だったら俺のを半分分けてやるからそれで勘弁して上げな」
「おおっ流石親父!話分かるぜ!!」
「お父さん本当に有難う大好き!!」
「ほほう、鈴鹿私とお父様大好き度を競うとはいい度胸ね……」
「えちょ何それ私はただ純粋にって顔恐いよ!?」
「やれやれ本当にお祭り騒ぎですよねお夕食は」
「全くだ。ゆっくり食べてる暇なんてないな」
夕食後、居間に残っている大地は腕の事もあるので一応ゆっくりしつつお茶を飲んでいた。
「あいつらは?」
「修練場ですよ、亮様が今日こそ桜様に勝つって張り切ってらっしゃってるので桜様ったらそれを返り討ちにしてやるって」
「鈴鹿は?」
「お二人を煽ってたらどうせなら纏めて掛かって来いという話になって嫌がるのを完全無視して修練場に連れて行かれました」
「鈴鹿はなぁ…腕は良いんだけどあの煽り症が悪い癖だよなぁ」
子供達の元気いっぱいさに笑みを零しつつもしょうがないなぁと愚痴を零す。その表情は一族の命を受け持つ当主としての風格に溢れていた、まだ1年しか経っていないと言うのも関わらず身体はすっかり一人前の大人と遜色無い程に成長しその身体から放たれる刃の一撃は鬼を深く抉るほどの力を誇っている。これが短命の呪い故の宿命なのだという事に本人は皮肉を感じていた。
「今日は晩酌なさいます?」
「うーん明日は討伐の予定ではなかったし貰おうかな、つまみは任せるよ」
「はい分かりました。確か烏賊が合った筈ですからそれをお出ししますね」
「楽しみだよ」
「どぉぉおおりゃああああ!!!」
「甘いっ!!」
「そっちがな!!」
暁一族の修練場からは亮の気迫に篭り切った声が響きそれを纏いながら槍を振り回す亮の姿もあった、亮の戦い方は恵まれた体格を活かしてどっしりとした構えから放つ一撃必殺の重い一撃を繰り出して相手を粉砕するスタイル。彼の豪腕から放たれる槍の一撃は最早槌のそれに近い物を秘めており鬼へと向けて放てば容易く鬼を吹き飛ばす事も出来る、しかし人間相手にやるには隙が多くなりがち。最小限の動きで回避する。槍は床へと落ち、桜の刃抜きされた模擬薙刀が振るわれようとした。が亮は振るった槍が床に落ちた槍へ更に力を込めて強引にそのまま腕の力だけで槍を基点として一気に持ち上げて姉の一撃から回避した。が身体が一番高いところに達した時、模擬槍からいやな音が響いた。
「ミ、ミシってちょちょおわぁぁぁっ!!?」
体格もいい亮の体重を支えるには模擬用の槍は軟い物であった、その真ん中から見事に折れてしまい亮は床へと落ちてしまいその隙に首へと薙刀が添えられてしまった。
「はい一本、駄目だよ。得物の事も確り考えて戦わないと」
「ちぇっ……ったく今日こそはと思ったのによぉ」
「はははっほら言った通り、亮は勝てないって言ったじゃん!」
「あっさり落ちたアンタに言われたくねえよ!!」
何時かもしかしたら人間のように動いて戦う鬼が来るかもしれないと言う事も考えての訓練、しかし亮は未だに桜から一本を取れた事がなかった。彼自身も弱くはないが戦闘経験という覆せない物をもっている桜が圧倒的な有利を確立し続けている為である。
「ふぅ、さてと今日はこの辺りにしとこうか。そろそろお風呂行こうかな」
「あっ私も行くよ、亮はどうする?」
「俺ぁまだ訓練してる、また負けたから腹立つ」
「はははっ何時でも掛かっておいで、ぶっ潰してやるから」
「言ってろ」
不機嫌そうに鼻を鳴らした亮を置いて桜と鈴鹿は修練場を出て行く、亮は折れてしまった槍を片付けながら愛着を持っている愛槍である『笹ノ葉丸』を構えながら息を吐いた。
「俺はまだまだ弱いし一族の中で一番わけぇ。だが俺はまだまだ強くなれる、俺は何時か親父を越える男になってやるんだ待ってやがれぜってぇ勝ってやる!!そのために、まずは素振り100回いや300回だ!!」
張り切りながら槍を振るい始めた息子の姿を隠れ見た大地は笑いを零しながらそろそろ準備が出来た頃だろうとイツ花の元へと行き月を見ながら晩酌をするのであった。
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