ランス ~another story~
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第3章 リーザス陥落
第107話 魔剣カオス
「ふぅん……。生意気にもオレ様が休んでる最中にユーリの馬鹿がお前らにそう聞いたのか」
「は、はい……」
ランスはシィルに自信が眠っていた時の話をした。
ユーリが話した魔王の事。そして 逃げるか、戦うかを問うた事。
「あのガキ。オレ様を差し置いて なーに勝手な事を言いだしてんだ! オレ様が総大将だぞ!」
「馬鹿っ! 今の今までグースカ寝てた癖に 何偉そうにしてんのよっ!!」
ランスの言い方にぷりぷり怒るかなみ。 耳がきーんっ! としているランス。そして 忘れてはならないのがランスの隣にいる人物だ。
「……かなみ?」
そう、リアの存在である。ランスLOVEな彼女の前であまり言い過ぎるのは(事実でも)宜しくない。
「あっ す、すみません。リア様」
しゅばっ! と忍者の様に素早く土下座するかなみ。……いや、かなみは忍者みたい、ではなく忍者そのものだ。リアはぷんぷん怒っているが、直ぐ傍にいるランスがそれを止めた。
「だーー喧しいぞ! オレ様が怒ってるのに、そっちで騒ぐんじゃない! それで答えとやらは どうなのだ! よもや逃げる等とは言いだした訳じゃないだろうな! オレ様を置いて! ユーリのヤツはどこ行った!?」
このがらんとした…… とまではいかないが、残ってないこの部屋の中を見てみるとランスがそう思ってしまっても仕様がないと言えるだろう。流石にユーリが逃げたとは思ってない様だが。
「あ、ランス様。ユーリさんは 清十郎さんやリックさん達と周囲の確認と味方の軍の皆さんや解放軍の皆さんを呼びに行ってくれています。……その、あの魔人のひとたちや魔王の元へ誰も行かない様に……と」
「ふん。オレ様くらいしか倒せんのに それでも行くやつは馬鹿だろ。ほっとけって言っとけ、シィル」
「え、えっと…… もう行ってしまわれたので……」
「役立たず」
「ひんひん……」
理不尽に怒ってゲンコツを落とすランスに、ため息を出した者がいた。
いや……、者ではなく、物。
「いやしかし この小僧、もーーっとノスにコテンパンにやられてた方が良かったんじゃないか? 起きたばっかりの癖して、偉そ過ぎだろうに」
聞き覚えのない声が場に響く。
と言うより、ランスにとって非常にムカつく内容だったから 誰の声とか関係なく。
「だぁぁぁ!! 誰だ! このオレ様に向かって失礼な事を言うヤツは!!」
当然ながら憤慨。辺りをきょろきょろと見渡すが、声の主っぽい者はいなかった。それは男の声。この場にいるのは女のみで 男はランスだけだったから。
「……ランスランス」
「なんだ!!」
かなみが、ちょいちょい、と手招きしつつ教えてあげた。
その声の主が誰なのか……。
「……そこそこ」
かなみ自身も何処か呆れた様子を見せていた。
ランスは、指さした先に視線を持っていくと、そこには……。
「ほんっと、えらっそーな感じがするのー。黙っときゃーそれなりの男前だろうに。まぁ儂ほどじゃないが」
黒い塊……ではなく、さっきまではランスが手に持っていた物。
「……は?」
珍しくランスもかなり動揺した様だ。二度、三度と向き直し 眼を何度もぱちぱちと瞬きさせていたから。
そう、その声の主は……。
「け、剣?」
「んー? そ、儂。剣」
受け答えをするのも、先ほどからランスに対して辛口コメントを残すのも人ではなく剣。
「しゃ、しゃ、しゃ、喋っただと!? 剣がか!? ってか、これ カオスか?」
「そりゃ喋るともさい。だって儂、剣は剣でも魔剣だし。すごいのよ? 魔人とか斬っちゃうのよ?」
調子よく更に喋り出す魔剣カオスに再びげんなりとさせている面々。ランスは所謂初対面だから 当然驚きが大きいが、その口ぶりと様子に段々と驚きよりも 呆れが入ってきた。かなみが、呆れている様子が大体判った様だ。
「なんだ、馬鹿っぽいぞ、この剣」
「なーにを抜かすか。ノスに手も足も出せなかったへっぽこがー。さっきの顔がガキっぽいにーちゃんの方がよーっぽど頑張っとったってもんだろーが。あー、儂がノスの手チョン斬りたかったのー」
「なんだと貴様! ノスの手も斬れんなまくらが、いい加減な事抜かすなよ! あれは武器の差だ」
「いやいや、儂様ほら、起き抜けだったし? 眼が本格的に覚めてからばっちりパワーだすつもりだったの」
「適当な事抜かすんじゃない!!」
2人? の喧嘩が始まった。
皆 初対面した時は、何処となくこの魔剣カオスはランスに似ている様な気もする、と誰もが思ったのだが、互いに言い合ってる姿を見てそれが間違いなかった、と改めて実感していた。
「はぁ…… えと、カオス? 今ユーリさんがいないから良かったものの…… またそんな暴言いってたら 水責めされた挙句今度こそ封印されてるかもしれないのよ? 判ってる?」
「うひゃいっ!! わ、儂なーーんにも言ってないぞーーっ!」
「……言って、ましたよね?」
「何をー、きっと幻聴幻聴。なー、もこもこピンクちゃん?」
かなみが言う暴言……と言うのは、当然ながら『顔がガキっぽい』の部分だ。
「何だこの馬鹿剣。急に怯えだして」
「あ、あははは。ランス様。このカオスさんが さっきの調子でユーリさんに…… その……」
シィルがそこまで言った所で速攻で把握。この手の話を理解する頭の回転は異常に速い。
「がーーーっはっはっは!! 剣にまでイラつくとは、それこそが証拠と言うものではないか。がははは! 戦闘が多少できてもお頭はまだまだオレ様には到底及ばんなぁ!」
あっという間に上機嫌。
さっきまで、比較され更に下に視られていたと言うのに、もう忘れてしまった様子だ。
「多少でノス斬れたらアンタ……。とっくに人類の勝利になっとるわい。ありゃ快挙よ? 長い歴史みても結構な快挙よ?」
「がはは。あの男はオレ様の下僕だ。あの程度当然よ」
「うーん。(なーんであんな兄ちゃんが下につくのかねぇ。ま、てきとーに流しとる~ とは聞いとるけど)」
「がははは。それで貴様は偉そうに批評しとるが、きーっちりお仕置きされたって事か? 剣を、それも男でオヤジっぽいヤツにお仕置きとはなぁ。げーーっ やーっぱホモか」
「アホかーー! そんなへんちくりんな話じゃないわい! 男の娘っぽいのと清楚なAL教の神官2人掛かりで聖水ぶっかけられて大変だったんだぞーー!」
「がはははは。クルック―とセルさんか。いい気味だ」
ここで少しだけ時間を遡ろう。
魔剣カオスがまさか喋る様な事が起こるとは、当然ながら場の面子は大体が固まってしまっていた。
『まぁ、バグとやらが実体化し動いたり、土塊の怪物がいたり、機械に感情があったりと色々様々な世界だ。……ここまでくれば剣が喋った所で不思議ではないか』
『オレも今更驚く程でもない。ジルが蘇った方のインパクトが強過ぎる』
数少ない柔軟な発想をした清十郎。
そして、人類史において最悪と称されるジルを目の当たりにした事もあって 冷やかな目を向けながらも、驚いたりはしていないユーリ。
そこから、男性陣の後に女性陣と口々に納得していって、大体の面子が柔軟に対応していった。
『ふぃぃ。いやー ノスの野郎。メチャクチャに握りしめやがって。締め付けられるのは 可愛子ちゃんだけで十分だっつーのに』
そして、何処となくランスに似ている……とまっさきにつぶやいたのはユーリだった。
『えーと、おお? おー、兄ちゃん兄ちゃん』
『……んん? なんだ』
ぱちぱち、と眼を何度も瞬きさせつつ カオスはユーリを見て呼んだ。薄気味悪い気もするが、呼ばれたから無視するのも……と思い受け答えはする。
『いやぁ、兄ちゃんのおかげで ノスのボケナスに折られんですんで良かったわい。あんがとね? 礼言ってなかった』
『そりゃどーも』
『可愛い顔してるし、ガキっぽいのにやるの-。儂が無敵結界斬った後とは言え、ノスの硬い皮膚を両断するとは』
ぴしり…… と空間に亀裂が入った様な気がしたのは気のせいではない。
だが、ユーリはまだ大丈夫だった。カオスはジルを封じていた魔剣だ。即ち単純に考えてもその歳? は1000は軽く超えるだろう。そんな高齢なお爺ちゃん剣だったら、誰もがガキだし、子供だから。
『こ、こらぁ! ユーリさんに何失礼な事言ってんのよ!』
その代わり突っかかるのは かなみだった。
『えーー? 失礼?? なんで? この中でも……んー』
カオスはぐるぐると見渡し、其々の顔を確認した後。間違えてない、と言わんばかりに続けた。
『結構年下っぽいじゃん』
追い打ちである。
『ま、儂の時代。ガキだろーが女だろーが、ひっどい目にあってたし、子供が戦えたって驚きはしないが、まさかノスを斬るとは思わないのよ。てな訳で、にーちゃん。儂使ってジル斬らない?』
ちょいちょい、と 手招きが見えた様な気がするが、もー知らない。
『……ゆぅ? 落ち着きなさいよ。変な剣が言ってるだけだし』
志津香がそれとなくフォロー入れるのは珍しい。
でも、ユーリの頭の中には沢山のムカツキマーク、四つ角が出来上がってるのがよく判る。更に更にの追い打ちは、ロゼやミリが、横で『あーーっはっはっは!!』『く、くくっくくく……』と腹抱えて笑ってる事を視ても明らか。
『うん? 儂面白い事言った?? おー、結構素材も身体も良い姉ちゃんたちだけど、儂淫乱はちょっとなぁ。JAPAN系もちょーっと。冷たい女もNG。この場でストライクなのは……』
物色してる所を申し訳ないが、刀身部分をギュっ!! と強く握りしめて止めた。
『…………』
『ぶえっ!? な、なになに、って痛い痛い!! にーちゃん持つんなら柄でしょ? ノスの真似なんかせんでえーっちゅーの。ってか 手斬れちゃうよ?』
ぐぐぐ~っと振りかぶってー振りかぶってー、窓の外へ…… はしないけど、とりあえず地面へ ゴー。
『喧しいわ! 寝起きなら もうちっとは静かにしとけ!!!』
『ぶげんっ!!』
べちーーんっ。と叩きつけた。
カオスは、何で投げられたのか理解出来てなく、ぷりぷり怒っていたけど、大暴投を2,3回続けられた後、ロゼに説明を受けて納得できた。
『ええーーーっ!! マジ? お前さん年齢詐称してね? 儂が大活躍しとった時代でもそのレベルは……』
『……おーい。クルック―。セルさん。AL教秘蔵の聖水とかないか? ちょっとぶっかけてみよう。ひょっとしたら魔剣から聖剣に変わるかもだ』
『あっらー? ユーリちゃん?? わたくしもAL教徒なのになーんで訊かないのかしらぁ? あ、私の黄金聖水ならお安くお売りしますわよ?』
『喧しいわ! んな状況で下ネタばっか連発すんな!』
『ま、今の状況も結構ヤッちゃってる気がするけどねー』
時折、ロゼにツッコミを入れつつ、セルやクルックーに聖水を貰って 清めを実行。
やっぱり、魔剣と言うだけあって、かなりの高威力だった様で。
『いやーーーんっ! 刃こぼれしちゃうーーーー』
『……なんで聖水で刃こぼれすのよ』
気持ち悪い声が響いたり、呆れた声が響いたりしていた。
そして場面は元に戻る。
一部始終訊いたランスは更に笑う。
「がははは。……むぅ、だがそんな面白い場面があったのならオレ様を起こさないか! シィル!」
「ひんひん…… 痛いです、ランス様……」
「やーれやれ。お前さんにはもったいないな、このピンクちゃんは」
「黙っとけ、馬鹿剣」
ランスがべしーんっ! とカオスを叩きつけた。
「剣虐待はんたーい!」
「だー喧しい! それで今後はどーすると言うのだ! さっさと先を話せ」
話が先に進まないだろう、と言う事で マリスが前に出て説明をした。
「ユーリさんに言われた通り。私達は決めました。……誰も敵前逃亡をすると言う意見は出ませんでした。皆、付いていく所存です。……どこまでも」
「……私も。(ユーリさんとなら、何処へだって………。マリス様もユーリさんに……)」
マリスの一つ一つの言葉に重みが加わる。
その『付いていく』と言う言葉のベクトルは何処へ向けられているのだろうか。……いつもであれば当然主であるリアだ。……でも、今のマリスは『リアと共に付いていく』と言う意味も込められている。付いていくその先に光が必ずあると判っているから。
かなみも、同様だった。そしてマリスの心を占めるウェイト。リアだけでなくユーリの色も増えて言っている事に改めて気付く。
複雑な気持ちではあるものの、今は感情を押し留める事が出来た。他の人であればまだしも、マリスはリアと同じく、かなみにとって 仕える相手……と言えるから。
「当然だ。敵前逃亡など死刑だ。……ふん。訊くまでもないって事か。がははは。オレ様についてくれば万事解決だから安心しろよ。マリス」
「……はい。当然ですランス様」
「と言う訳で起き抜けに一発ヤラせろ」
「あーんっ、ダーリンっ! リアと、リアとーーっ!」
揉みくちゃ祭りを行っている最中。がたんっ、と扉が開いた。
「……はぁ。起きた早々元気だな、ランス」
帰ってきたのはユーリ。そして隣にリックと清十郎。
そして その後ろに志津香やクルック―がいた。
「む? 遅いぞユーリ」
「そりゃこっちのセリフだっての。元気なのはわかったから さっさと次行くぞ」
「次だと?」
抱き着いてくるリアをぽいっ と放るとランスは起き上がった。
「城外のヘルマンの連中はトーマが行ってくれた。暴れてるモンスターは兎も角、ヘルマンの兵の暴動が止まるのは時間の問題だ。……が、問題は中にあったみたいでな」
「さっさと要件を言え。とーまだか、とんまだか知らんが、おっさんの情報なんぞ要らん」
「だろーよ。マリアが率いたカスタムの解放軍が城内。東の塔にまで出撃したらしい。……が、運悪くトーマの息がかかってないヘルマンの別部隊が追撃しに入っていったらしい。挟み撃ちの状況だ」
時間にしてまだそこまで経っていない。更に主力と言って良いこの場のメンバーを除いた部隊で ここまで早く進撃出来るのは流石の一言だ。だが狭い場所での挟撃はチューリップ部隊にとって不得手だろう。前衛部隊も揃ってはいるらしいが心許ないのも事実だった。
「ほうほう。マリアのヤツが助けを求めていると。それ以外では誰がいる?」
「……はぁ」
「無言でため息吐くんじゃないっ!!」
「なーなー、ピンクお嬢ちゃん」
「あ、はい。何でしょう?」
「ひょっとして、この2人仲良い?」
「あ、あー…… あははは……」
「否定はしないのね。って、ぶげっ!!」
カオスは問答無用で床に叩きつけられた。
「誰が仲良いだ! 馬鹿者。コイツはオレ様の下僕だと言っているだろうが! それにシィルも否定しないか馬鹿者!」
「ひんひん……」
「「誰がランスの下僕よ!!」」
「わーったわーった。……オレの代わりに否定してくれるの結構久しぶりな気がするけど、とりあえず今は時間が惜しい」
判ってはいても、ランスのいつも通りな言動にはある意味感心できるが、それ以上に脱力してしまうからそれが態度に出てしまう。それを見てランスが怒り、周囲も連鎖して長くなると言うのが今までのパターンだったから、ユーリはさっさと進めた。ランスが欲しがりそうな情報を混ぜて。
「メンバーは、カスタムの部隊が主だ。マリアとカスミのチューリップ部隊に加えて前衛にランとトマトを軸とした剣士。前衛が圧倒的に少ないのは チューリップ火力重視のパーティだからだろうな。突破されたらヤバいぞ」
「ほうほう。がははは。トマトはまだヤってないしな。連中に恩を売っておいしく頂くのが良いだろう!」
「ん。オレさっさと行くから。ゆっくりで良いぞ」
「だーー、オレ様より先に行くんじゃないっっ!!」
ランスは追いかける様に続いていき、自然と全員が同時に部屋から出ていく。
「やーーっぱ仲良いんじゃん」
「喧しい。捨ててくぞ」
「やーん。剣虐待はんたーいじゃーい!」
カオスとランスのひと悶着が更にあったのは言うまでもない事だった。
そして、東の塔へと向かう道中の事。
「……ゆぅ」
「ん?」
志津香は意図的に移動速度を上げてユーリの隣にいった。
「魔人……、魔王の方は……どうでると思う? それにマリアたちの事は確かに心配だけど、魔人や魔王を置いといて 全員で向かうのは配置的に効率悪いと思うんだけど」
「ん」
ユーリは速度を落とさず止まらず、志津香に返事を直ぐに返した。
「確かに、志津香の言う事も最もだ。アレはワイルドカードみたいなものだからな。動けば即座に戦況が一変する。……が、まだあいつらは動かん」
「その根拠は?」
「明確な根拠はない」
「………」
「頼りないか?」
「ランスが言ってたら速攻でそう言ったかもね。……もういい加減長い付き合い。信じてない訳ないし、頼りないわけないでしょ。でも、明確じゃなくても良いからゆぅの考えが訊きたい」
ユーリは薄く笑うと自分の考えを話す。それは 魔王と相対した時の状況だった。
「……あいつは『戯れ』と言った。『良き戯れ』とな。人間を舐めきってるのは当然だと思うが、人間で遊んだりする様な魔王じゃ無かった筈なんだ……。だが、確かにそう言った。なら、遊びがあっという間に終わる様な手を打つとは思えない。だから、オレ達がたどり着くまで 待ち構えていそうだ。そして ノスはジルの命令には見てわかる通り絶対。命令が無ければ傍を離れる筈もない。故に ノス―ジルの順に配置されていると推察できる」
ユーリの説明を一言一句聞き逃さずに頭に入れた志津香は ゆっくりと頷いた。
「確かに不確定要素が多いとは言え、現状を考えたら一番有り得そうな推察ね。謙遜する必要ないと思うわ」
「おう。……だからオレ達は最短・最速で魔王と魔人以外の懸念を払拭する必要がある。……それだけに集中できるようにな」
ユーリは、剣の柄を軽く持ち上げた。いつでも抜刀できる様に。それを見た志津香も習う様に手に少しの魔力を集中。問題ない事の確認が出来た。
「はぁ。あまり言いたく無いけど ロゼには感謝だわ」
「ま、同感だ。アイツのおかげだ。オレ達がここまで回復出来たのは。……それで、勿論クルック―もだぞ」
「はい。志津香さん。ユーリ独占中にすみません」
「っ……。別に独占なんかしてないわ」
「そうですか。ミリさんがそう言ってましたので」
「…あ、アイツはこんな時まで……っっ」
背後から忍び寄る様に……いつの間にかクルック―が直ぐ傍にまで来ていた。
ミリにまた色々吹き込まれた様で、志津香は軽く殺気を撒き散らせていた。
「ユーリに少し話がありまして」
「ん? なんだ」
「この戦いが終わったら、カオスを回収しても良いですか?」
AL教の神官として やはりバランスブレーカーの回収と言う役割はいつでも何処でも曲げない様子だった。
「今ダメですか? って聞かれるかと思ったよ」
「それは流石に無いです。魔王と魔人が相手なのですから」
「だな。……ま、それについてはオレじゃなくランスに聞いてくれ。アイツがあの駄剣の持ち主だ」
「判りました」
色々と根に想っているのだろうか、少々トゲのある言葉だった。
ユーリとの話を終えたクルック―は 志津香に一言。
「終わりました」
「だから、私にそんな言う必要ないの!」
~リーザス城 東の塔 4F~
このメンバーが強過ぎるから、と言う理由と今のヘルマン側の戦力が著しく損なっていると言う理由が一番だろう。幾つもの戦線を潜り抜け続け、劣勢を跳ね返しつつ、仲間を増やし、進軍を続けたメンバーとリーザス城無いで悠々と過ごしてきたヘルマン兵だけでは相手にさえならない。
業を煮やしたヘルマン側は、兵器を使用した。
NATO ガーディアンで話を聞くとリアがゼスから購入したらしい。耐久度も高く、図体もデカく面倒くさい相手だったが、問題なくスクラップにした。
ヘルマン兵よりも、ガーディアンよりも最大の障害はリーザス兵……即ち洗脳兵たちだった。
「わひーーっ み、みんなー 助けに来てくれたのはとっても嬉しいけど、なんでリーザス兵達が襲ってくるのよーーっ」
「忘れたの? マリア。……この人たち洗脳されてるわ」
ホッホ峡の戦いを思い出す志津香。
リーザス兵1人1人の目の色があの時同様明らかに違ったから。
「つまり、使途たちがいる……と言う訳か。……成る程。ノス辺りか。命令を下したのは」
ノスの執念を目の当たりにし、その仕える姿も見ている。
あの男が自分以外の魔人を傍にずっと置いとく様には見えないし、何より殺したいと強く思っている筈だから。
ジルの命令を訊きつつ、手段を選ばず殺しに来る手段としては最適だろう。
「がははは。あのトップレス。まるだしっ子どもか?」
「そーゆートコだけは訊いてんのな……」
「一番重要なトコだろ? なんだミリ。妬いてるのか?」
「いんやべーつに。なんなら終わったら相手してやるぜ? 久しぶりに耐久レースだ」
「ぐぐっ……。オレ様としては望む所…… と言いたいがミリを相手にするのは今はきつ過ぎるぞ……。だー、戦争をとっとと終えた後ゆっくりしっぽりだ!」
「へへーん。情けないなぁランス。ユーリのヤツは夜通しOKだったんだぜ? 何せ、オレが負けちまう程の精豪でよぉー」
「なな、なーにぃぃ!!」
また妙な事を言われている、と肩を落とすユーリ。
勿論、学習能力もそれなりにはあるし、何より直ぐとなりにいたから 正確に攻撃の軌道を読む事が出来た。
「今は止めとけよ……」
「ミリに変な事したんじゃないでしょうね……?」
「あれだ。逆に訊く。……シたと思うのか? この状況で?」
「…………」
正面からの反論は流石の志津香も弱い様子だった。そもそも ミリと2人きりになる事などこの戦争中では殆ど無かったから。……あのボーナス? の時以外はほとんど。
「はぁ…… お前ら元気だな。ユーリ。この辺のフロアは大体片付いたぞ。多分、この奥だ。使途がいるのは」
「ああ。ありがとなフェリス。……後、一括りにしないでくれって。ありゃ ミリとランスの暴走だろ。いつも通り」
~武器(人物?)紹介~
□ 魔剣カオス
リーザス城の地下で魔王ジルを封じていた黒い柄の魂を持つ大剣。
人類が魔人・魔王に対抗する為の唯一の手段の1つ。その効力は無敵結界を斬り割く力があり、一度でも斬り割けば暫く張り直す事が出来ない為 以後誰でも攻撃が当たる様になる。
因みに切れ味や攻撃力に関しては、本人のテンションに左右されるらしく、そのやる気は魔人への憎しみとエロパワー。目を覚ましたばかりの際は、寝起きに一発……とランスみたいな事を言って周囲に強請っていた。
色々禁句を犯してしまった事もあって、ユーリとクルック―、セルに折檻される。
女の子達を(特にシィルとセル)狙おうとした時
『聖水フルコースを勧められる(強制)のと 頑張って自力でテンション上げるの。……どちらが良い?』
のニッコリ怖い笑顔の一言で、どうにかやる気を出す事にした模様。
ランスの印象は最初こそは良くなく、実質魔人を斬ったユーリの方が良い、と言っていたのだが ランスの性格に触れ、こっちの方が肖れると思ったらしく もうまんざらでもない。
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