FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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もう二度と
前書き
書いてる最中に泣きそうになった( ;∀;)
たまに感情的になることがある今日この頃。
一つの命の灯火が北部で消えた頃、南部では天海の雰囲気が一変したことを感じ取り、青ざめている者がいた。
「お前・・・まさか・・・」
首をコキコキと鳴らすその男を見て汗が止まらないカミューニ。その姿はかつて聖十大魔道の上位序列を獲得したとは思えないほど怯えていた。
「まさか・・・まだ本気じゃなかったのか?」
「「え!?」」
「は!?」
カミューニの言葉にメルディが、ジュビアがラクサスが目を見開いた。彼らだけではない。地に伏している多くの者たちも、その言葉には動揺を禁じ得ない。
「むしろこれが本気だと一瞬でも思っていたのか?笑わせる」
その台詞に全ての者が恐怖した。多人数を相手にしておきながら呼吸が乱れることを知らない敵。それはてっきりスタミナが桁外れなのかと思っていたが実は違う。
ただ単純に全力ではなかったから、だからこそ呼吸が乱れることもなく、動きが鈍くなることもなく、一定を保っていられたのだ。
「ウェンディ!!」
「!!」
そこにやって来た一匹の猫。その後ろには赤紫色の髪の毛をビッグテールにしている少女が駆けてきていた。
「シャルル!!シェリア!!なんで戻って来たの!?」
ケガをして戦線を離脱したシャルルと魔法を失ったことにより遠くに逃げてもらっていたはずのシェリアが戻って来てしまったのだ。これには事情を知っているウェンディは声を荒らげたが、その他の者はシェリアが魔法を失ったことを知らないため希望の光を感じていた。
「ごめん!!シャルルがどうしてもって・・・」
彼女たちが戻ってきた理由。それはシャルルが一人逃げることを嫌がったから。大切な友人たちが戦っているにも関わらず逃げ延びてしまうことは何よりも屈辱だと彼女は感じたのであろう。
「シェリア・・・ちょうどよかった・・・」
ウェンディの隣で倒れていたリオンが笑みを浮かべシェリアを呼び止める。それに対し彼女は口を押さえた。そこには多くの仲間たちが血まみれになって倒れていたからだ。
「回復の魔法をかけてくれ・・・全員じゃなくていい・・・できる限りで構わない・・・」
話すのもやっとなリオンは懇願するように彼女にそう言う。彼の言葉を聞いていた氷の神は、その叶えられない願いに拳を握り締めていた。
「ごめんなさい・・・あたし・・・もう魔法が使えないの・・・」
「「「え・・・」」」
その言葉を聞いた瞬間彼らは唖然とした。彼女の言葉の意味がわからず、呆けていると、ウェンディが事情を説明する。
「16の時を止める魔導士と戦った時に、シェリアは未来の魔力も全て使ってしまったんです・・・だから・・・」
体内のエーテルナノが二度と構成されることはなくなった彼女に魔法を使えるようにすることは不可能。ディマリアの止められた時の中で起きたその事象を知らなかったリオンたちは唯一の希望が絶たれたことに顔を伏せてしまう。
「もしかして・・・レオンがあんなになってたのは・・・」
「・・・あぁ、見てたからだ」
「え・・・」
あの止められた時の中、全員が止まっているように見えていた。だが、あの時実はただ動きを止めて敵の動きを見張っていた者が二人いた。レオンと天海だ。二人は相手が動かないことがディマリアの魔法が理由なのか、それともこちらを伺っているのか判断できずに攻撃に出ることができなかった。それゆえに、静まっていた戦場での彼女たちの会話が聞き取れてしまい、レオンはシェリアの頑張りを無駄にしないためにと普段とは掛け離れた我武者羅な戦い方をしていた。
「そうか・・・気付いてやれずにすまなかった・・・シェリア・・・」
シェリアが魔法を使えなくなったことを聞いて落胆するかと思われたリオンだったが、むしろその逆だった。彼はボロボロの体で立ち上がり、まっすぐに前を見つめる。
「俺たちが勝たねぇと、シェリアの頑張りが無駄になっちまうんだ・・・」
それに続くようにレオンも足を踏ん張らせて立ち上がる。彼らだけではない、他の魔導士たちも痛む体に鞭を打って天海に向き直る。
「シャルル、力を貸して」
「えぇ、もちろんよ」
シャルルに持ってもらい宙へと飛び上がるウェンディ。すると、その隣に同じように飛び上がる人物がいた。
「レオン・・・シェリア・・・ごめん」
それはシリルとセシリーだった。シリルはドロがついた頬を拭い魔力を高める。
「俺、自分のことしか考えてなかった。二人はみんなのことを考えてたのに、自分勝手だった」
エドラスのヴァッサボーネが目の前にいると聞いて動揺し、動けなくなっていたシリル。その直後にレオンからそれを指摘された彼は苛立ち、ますます動きが鈍くなっていた。だが今は違う。
「俺も必ず勝ってやる。シェリアの分も頑張って」
魔法を失ってまで敵を倒してくれたシェリアのためにと少年は奮起する。その吹っ切れた表情を見てレオンは待ってましたと言わんばかりの顔をしていた。
「行くよ!!ウェンディ!!」
「うん!!シャルル!!セシリー!!お願い!!」
「えぇ!!」
「任せてよ~!!」
空から重力も活用して一気にトップスピードに入る四人。二人は足に魔力を込め、タイミングを合わせて突撃する。
「水竜の・・・」
「天竜の・・・」
「「鉤爪!!」」
二人の息の合ったコンビネーション攻撃。水と風、それぞれが混ざり合ったその一撃は、これまでの技のスピードも威力も優に越えていた。
「普通だな、やはり」
だが、この男はそれを冷めた目で見ていた。
「「ハアアアアアアア!!」」
二頭の竜の全力攻撃。叫びながら向かっていった二人だったが、天海はそれを両手を伸ばし、ガッチリと受け止めた。
「「え・・・」」
何が起きたのかわからないといったような表情の二人。天海はそんな二人を投げ捨てる。
「「「きゃっ!!」」」
「くっ!!」
地面を転がる四人。だが彼らはすぐに立ち上がり天海に向き合おうとした。
「悪いが、貴様らにもう用はない」
その四人の目の前に迫ってきている男。彼らはそれに驚愕するしかなかった。
ドンッ
「ぐはっ!!」
アッパーパンチが水髪の少年の腹部に突き刺さる。そのあまりのパワーにシリルは吐き気をもようしたが、彼が倒れることすらこの男は許さなかった。
右フック、左ストレート、上段蹴り、回し蹴り、多種多様な攻撃を目にも止まらぬ速さで打ち込んでいく。しかもシリルだけにそれを行っているのではない。その隣にいたウェンディにもシャルル、セシリーにも攻撃を加えており、四人の妖精は一瞬のうちにボロボロになり、地に伏せた。
「シリル!!」
「ウェンディ!!」
「シャルル!!セシリー!!」
血まみれになって倒れた四人を心配して絶叫するレオンとグレイとリオン。だが、彼らにそんな余裕はなかった。なぜなら離れていたはずの天海が、瞬間移動と見間違えるほどの速度で彼らの前に現れたのだから。
「「「!!」」」
その速度に彼らはすぐさま頭を先頭に切り替えた。天海の右ストレートをガードした。
ブシャッ
「「ごはっ!!」」
しかし、彼の後ろにいた二人は己の身を守ることができなかった。目にも止まらぬ天海の攻撃の前に一瞬のうちにやられ、地面へと倒れる。
「マジかよ、こい・・・つ・・・」
天海のあまりの実力に味方の心配もしている余裕がないと彼から視線を外さなかったレオン。それなのに、彼は突如吐血すると、その場に膝をついた。
「バ・・・カ・・・な・・・」
超人的な力を持っている彼でさえも、天海に対抗することはできなかった。気が付いた時には全身ボロボロ。いつやられたのかすらわからず、少年は激痛に悶えながらうずくまることしかできない。
「さて・・・」
最大のライバルを打ち負かした彼は次なるターゲットに目を向ける。
「来るぞ!!カミュ!!」
「わかってんよぉ!!」
目があったラクサスとカミューニはすぐさま戦闘体勢へと入る。敵の一瞬の動きも見逃さない。集中力を最大に高めていたはずだった。それなのに・・・
「遅い」
二人の強者は背後を一瞬のうちに取られてしまっていた。
「雷―――」
「波動―――」
それでも彼らの対応は速かった。敵の声に反応すると体を反転させて魔法を放とうとする。ロスが一切ない彼らの動き。しかし、相手が悪すぎる。
ドンッ ドスッ
「ガハッ!!」
「ごっ・・・」
顔面を強打されて意識が飛び掛けたところでのボディーブロー。挙げ句の果てには踵落としを頭部へと落とされ、地面にめり込んだ。
「ならば私たちが!!」
「止めて見せる!!」
重力魔法と金剛の鎧で相手をしようとしたカグラとエルザだったが、彼女たちで太刀打ちできるはずがなかった。
「その程度で、俺は止められないぞ」
魔力を使いきってでも止めようとしたカグラの重力を感じさせず二人に接近すると、エルザの防御力に優れた金剛の鎧を粉砕し、二人の剣士をなぎ倒す。
「カグラ!!」
「何なんだあいつ!?」
次々に倒されていく実力者たち。その姿に恐怖を抱いた蛇姫の鱗と人魚の踵の魔導士たち。
「あとは雑魚ばかりか。1分もいらないな」
主要人物たちを一掃したことでさらに加速する。恐怖で体を震わせていた魔導士たちを次々に攻撃し、戦場を縦横無尽に駆け回る。その姿は血に飢えた獣を彷彿とさせるほど、狂気に満ちたものだった。
「あぁ・・・そんな・・・」
その様子を見ていたシェリアの瞳から大粒の雫が溢れる。わずか数分足らずの出来事だった。彼女が目にしたのは、力なく地面に伏せる仲間たち。
「天空の滅神魔導士・・・だったか?」
立っているのはシェリアと天海のみ。彼の視線が向けられたと同時に、シェリアの体は大きく震え、ビクついていた。
「お前に一つ問おう。お前はディマリアに勝ったと言えるのか?」
「え・・・?」
彼の質問の意味がわからない。シェリアはディマリアを倒すことに成功した。大切な友達を守るために、己の力を犠牲にして。
「お前は確かに戦いには勝った。だが、勝負には負けたんだよ」
「何・・・言ってやがるんだ・・・」
天海の言葉に反論しようとしたのは、地に付せて起き上がることもできなくなっているシリル。まだ彼が生きていたことに驚いた天海はそちらを見ると、トドメを刺したと思っていた者たちの多くがわずかに動いていることに気が付く。
「ほう。大したものだ。今のでまだ生きていられるとは」
殺したとばかり思っていた彼はまだ生存している魔導士たちの生存能力、力に感心していた。だが所詮は虫の息。いつでも殺すことができるとシェリアに向き直る。
「今日のディマリアの目的は回復役を潰すこと。つまりは貴様を殺すことだ。奴はお前をターゲットに絞り殺そうとしたが、結果的には破れた。
だがな・・・お前は回復役としての機能を完全に失ってしまった。ゆえにディマリアの目的は果たされたのと同義なんだ」
「「「「「!!」」」」」
ディマリアがこの日のターゲットに選んだシェリア。その理由は彼女が回復系の魔法を使えるから。だが、第三魔法源を解放した彼女の前にディマリアは散った。
本来ならそれで彼女の負けは確定なのだが今回は状況が違う。ディマリアを倒すためにシェリアも魔法を失ってしまったのだ。その結果、戦いに負けたはずのディマリアの目的である回復役潰しが完了してしまい、アルバレス軍に有利に働くきっかけとなってしまった。
「よく見ろ、シェリア・ブレンディ」
両腕を広げて今の現実を見るように指示する天海。シェリアは彼の言葉と今の仲間たちの惨劇に、膝から崩れ落ちた。
「これがお前が魔法を失った代償だ」
回復役を失ったことにより、一時撤退という選択肢が浮かばなかった魔導士たち。彼らは天海を倒すためにと突っ込んできたが、力及ばず倒されていった。
それでも治癒魔法の使い手がいればまだ勝機はあったかもしれない。だが、シリルはレオンと共に最大の敵に向き合い魔力を消費、ウェンディはシェリアの分までと冷静な判断ができず前線へと上がってしまった。
その結果が今の状況・・・生きている者たちも動くことができないほどに傷付いている。それだけならまだよかった・・・力ない魔導士たちは白目を向いてピクリとも動かない。それがどういうことなのか、誰から見ても明らかだ。
「あたしが・・・魔法を失ったから・・・?」
自分の判断は間違いだったのかと崩れ落ちるシェリア。その姿に心が痛んだのか、天海は頭をかく。
「お前というより、あの時の魔導士の判断だろうな。もし本気で勝ちたいなら、水竜のでも雷竜のでも、時を動かしてやるべきだったさ」
ウルティアは自らの限られた時間の中で三人の時を動かすのでやっとだった。それでもシリルやラクサスなら、もしかしたら結果は違っていたのかもしれない。
「時の魔導士・・・?」
「おい・・・それってまさか・・・」
その時、ジェラールとカミューニが反応を示した。彼らの知る中で時を扱える魔導士はただ一人。
「ウルティアが・・・いたのか?」
彼らと同じ魔女の罪のメンバーであるウルティア。大魔闘演武の直後から姿を消した彼女がこの場に来ていたことに、仲間たちは驚愕した。
「ウルティア・・・そんな名前だったかもしれないな」
「どこ!?ウルはどこにいるの!?」
その名前に一番興奮していたのは彼女を幼い頃から知っているこの女性だった。メルディは痛みも忘れて立ち上がり、大切な仲間の存在がどこにあるのか探していた。
「随分元気な女だな。ちょうどいい」
その瞬間、天海の周りの空気が変化したのがわかった。その場にいた全員が、彼が動き出そうとしていることを察知する。
「シェリア・ブレンディ。よく見てろ。貴様の判断がどれだけ愚かだったかを」
「やめて・・・」
音速を凌駕すると思われるほどのスピードでメルディに接近する天海。彼は拳を握り締め、彼女を貫こうとした。
「よせ・・・」
「やめろ・・・」
地面に伏せている者たちがメルディに迫る危機にそう呟くのがやっと。敵の接近に彼女は気が付いたが、とても逃げられるものじゃない。
「メルディ!!逃げろ!!」
ジェラールが必死に叫んだ。だがその声が届くよりも速く、天海の腕が彼女の体を―――
ズッ
貫こうとした。だが、彼の拳はメルディまで届かなかった。
「え・・・」
殺されると思ったメルディは何が起きているのかわからない。目の前まで来ていた敵の攻撃。それは、一人の男の体によって阻まれていた。
「がはっ・・・」
腹部を貫かれた赤髪の男は吐血した。不満げな表情を浮かべている天海がそこから腕を引き抜くと、支えを失ったカミューニは膝から崩れ、倒れ込んだ。
「お兄ちゃん!!」
兄のように慕ってきた人物に駆け寄り体を揺らす。仰向けにされた彼の目は、完全に生気を失っていた。
「ごめん・・・メルディ・・・」
「なんでお兄ちゃんが謝るの・・・」
自分を助けてくれた彼の謝罪の言葉に困惑するメルディ。カミューニはわずかに残された意識の中、必死に言葉を紡いだ。
「あの時俺が街に残ってれば・・・あんなことにはならなかった・・・そうすればお前はもっと幸せになれたかもしれないのに・・・」
ゼレフを目覚めさせる鍵を手に入れるために二人の故郷を襲撃してきた悪魔の心臓。彼らを追い払うだけの力がカミューニにはあった。しかしその日は運悪く彼は街から出ており、帰ってきた頃には街は焼け、人は死に、彼女は連れ去られた。
善悪の区別がつかない幼少気を闇ギルドで過ごしたことにより、彼女は犯罪者として逃げ回るしかなくなった。今でこそこうして笑顔を見せれる女性となったが、もし悪魔の心臓の襲撃を防げていればと彼は常々考えており、こんな言葉が出てきたのだ。
「違うよ・・・お兄ちゃん・・・」
表情が一切動かなくなった彼を抱き締める。徐々に白くなっていく彼の顔を覗き込み、メルディは涙ながらに訴えた。
「お母さんたちが死んじゃったのは辛かった・・・でも、私にはウルもお兄ちゃんもいてくれた。ジュビアとも仲良くなれた。だから、私は全然寂しくなんかないよ・・・だから・・・死なないでよ・・・」
みんながいてくれたからメルディは今が一番楽しいと思えた。そんな日々をまた取り戻すためには彼は必要不可欠な存在。
「ごめん・・・メルディ・・・」
涙でグシャグシャの彼女の頬に手を伸ばすカミューニ。彼はもうほとんど見えない目で彼女の姿を捉えると、小さく笑ってみせた。
「お前の成長を見れたことが、俺にとっての一番の幸せだった」
その言葉を最後に、彼の手が彼女の頬から離れた。必死に彼の名を叫ぶがもうその声は届かない。メルディはカミューニに覆い被さり、止まない悲しみの雨をその体に降らせていた。
「泣く必要はない。貴様もすぐにそこに行けるぞ」
足を振り上げ悲しみに暮れる女性に重たい一撃を食らわせようとした天海。一思いに消し去ろうと振り下ろされたその足は、黒い氷の壁に阻まれた。
「ほう。まだそんな力が残って・・・!!」
誰によってこの氷が張られたのかすぐにわかった。天海はその少年の方を向き直ると、その姿に驚愕した。
「シェリアは・・・俺たちを守るために二度と魔法を使えなくなってもいいと選択したんだ・・・」
光輝く少年の体。どんどん高まっていく魔力は体内に封じ込められ、彼の体をより輝かせていく。
「あいつの頑張りを無駄にしないためにも、お前は死んでくれ」
「この感じ・・・神の領域か!?」
再び踏み込んだ神の領域。大切な友の期待に応えるべく、少年は禁断の域へと足を踏み入れた。
後書き
いかがだったでしょうか。
カミューニの死、からのレオン久々の神の領域解放です。
予定だとラクサスも死ぬ予定だったけど、犬死に感半端なかったのでやめました。
次はいよいよラストのカウントダウンです。果たしてどんな結末が待っているのか!?
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