NARUTO日向ネジ短篇
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【夢酔(ゆめよい)】
前書き
BORUTO版ハナビと二部ネジの話。
「──⋯おい、おいお前……大丈夫か」
肩を軽く揺さぶられ、朧気に目を覚ます。
(あら……? 私ったら、お酒の席でつい飲み過ぎていつの間にか寝ちゃったのかしら)
少し痛む頭に片手を添えながら、横たえていた身体をゆっくりと起こす。
「頭痛がするのか? 立てないようなら、病院に連れて行くが」
その落ち着いた懐かしい声音に、朧気な意識がどんどん覚醒していき、すぐ近くで片膝を付いて怪訝そうに見つめてくる存在に、ハナビは目を見開いた。
「えっ、ネ…っ」
「?」
「ネジ兄様!?」
目の前に居るのは、上忍当時の白装束姿の従兄、日向ネジだった。
「何者だ、お前……。白眼であるという事は、日向の者か? だが見覚えが──」
「あぁ……私ったら、酔いが回ってきっと幻を見ているのね……」
ハナビはじわっと眼に涙が滲むのを感じた。
「上忍当時そのままの姿で……私より歳下になっているなんて。私、どんどん兄様より歳上になっているのよ……? それでも私にとって従兄は、ネジ兄様だけだから──」
「先程から何を言っている。幻術にでも掛かっているのか?」
「……兄さま、どうしたの? 何かあった?」
修行着姿の少女が二人の元にやって来る。
「え、誰その女の人……わたし達と同じ白眼だけど、日向家に居たっけ?」
(あら……? 髪が短い頃の、昔の私……??)
自分の面影を持つ少女と、互いに不思議そうに見つめ合う。
「ハナビ様、離れていて下さい。……こいつは、得体が知れない」
従兄は少女の方に警戒を促し、女を油断なく見据えたまま片膝を付いていた姿勢から立ち上がる。
「それで……お前は何者なんだ。何故俺の名を知っている」
「だ、だって私は、日向ハナビで……ネジ兄様の、従妹の──」
ハナビは咄嗟に嘘をつく気になれず、おもむろに立ち上がって口ごもりながらも正直に言う。
「え…? 日向ハナビはわたしだよ! それにネジ兄さまの従妹もわたし! あなたほんとに何者っ? 変化はしてないみたいだけど……」
少女の方のハナビは白眼を発動して大人ハナビをまじまじと見つめる。
「わ、私多分、ついお酒飲み過ぎて寝ちゃって、夢でも見てるんだと思うのよね。じゃなきゃ過去の私とネジ兄様に逢えるはずないもの……」
「……お前、そんなに飲むのか?」
従兄が眉をひそめたので、若干焦るハナビ。
「それほど強いわけじゃないけど、嗜むくらいには──」
「えっ、あなたにとってわたしとネジ兄さまが、過去……? それじゃあなたは、未来の大人のわたしだっていうの…!?」
「そうなるのかしらねぇ。……昔の私も案外可愛いわね」
ハナビは過去の驚いている自分にいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「──ハナビ様が修行をつけてほしいと言うので相手をしていた所、妙な気配を感じて竹林の奥に倒れているお前を見つけたのだ。……これがお前の夢の中だというなら、都合良く俺達を動かしてみたらどうだ」
「あ、そうよね。夢の中って判って目が覚めないなら、私の都合良く動かせるはずよね!──じゃあネジ兄さま、私と手合わせ願えないかしら」
ハナビは強気な笑みを見せ、従兄は怪訝な表情になる。
「……そんな事でいいのか?」
「昔は到底敵わなかったけど、今の私なら互角か……それ以上に闘えると思うのよ。夢の中だからって都合良く勝とうとは思わない……純粋に、上忍当時のネジ兄様と手合わせしてみたいの」
「ほう……?」
従兄は少し面白くなってきたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。
「ちょっと待って、あなたの未来のネジ兄さまはどうしてるの? 今の兄さまよりもっと強いはずだよね。やっぱりわたしが大人になっても敵わない?」
「そう、ね……。きっとそうだったと思うわ。──兄様より歳上になった私が、過去のネジ兄様相手に勝ってみせたとしても自慢にならないけど、それでも試してみたいのよ」
「兄さまより、わたしが年上になった……? それって──」
「ハナビ様、出来るだけ離れていて下さい。……どうやら、未来のあなた相手に本気を出さなければならないようだ」
ネジは六歳下の従妹のハナビの疑問を遮り、自分より歳上のハナビを前にして柔拳の構えをとり白眼を発動する。
「未来のハナビ様とやらのお手並み……、拝見させてもらおう」
───────
「八卦掌、回天!!」
「──ほう、流石に使いこなせるようになっているらしいな」
普通の人間には到底捉えられない動きで互いに柔拳を放ち合い、大人のハナビの繰り出す素早い回天を辛うじて躱したネジはどこか嬉しげな笑みを浮かべている。
「それはそうよ……日向の跡目として、修業は欠かさないわ。一族の子供達にだって、柔拳を教えているのよ。宗家分家関係なしに、対等に回天だって教えているんだから!」
六歳離れていた従兄と漸く対等になれた気がして、ハナビも内心嬉しさで心が満たされる想いだった。
(そうか……、日向一族にとって──俺にとって、理想的な未来になっているようだな)
ネジは感慨深げに瞳を閉ざす。
「ほらネジ兄様、油断してると痛い目を見るわよ! 八卦空──」
「もうっ! 大人のわたしもネジ兄さまも、ズルいよ!!」
年下のハナビが大きく声を上げ、歳上のハナビとネジの動きを止める。
「そんなに楽しそうに手合わせして、うらやましいよ。──未来のわたしの夢だろうと何だろうと関係ない。ねぇ、教えてほしいの。どうしたら“わたしの未来”にネジ兄さまを存在させてあげられるの? あなたの世界にはもう……兄さまは居ないんでしょう」
「───⋯」
年下のハナビはその事を察し悲しげな表情をしており、大人のハナビは俯いて目を伏せ、当のネジは無表情で黙っていたが、歳上の方のハナビが何か思い立ったように顔を上げる。
「そうだわ……これはきっと、夢なんかじゃない。醒める必要もないんだ。このまま私が過去に居れば、ネジ兄様を守れるはずよ。十代前半の当時は大戦に参戦出来なかったけれど、今の私なら───」
「寝言を言っていないで、さっさとこの夢から醒めたらどうだ」
冷たい口調で歳上のハナビの言葉を遮る従兄。
「俺がどのような形で死ぬ運命だろうと……、過去は変えられない」
「ネジ兄、様……」
「もういいだろう。──お前は、元の居場所へ還れ」
「だけど、私はっ」
つと、不意打ちに人差し指で従兄に額を小突かれるハナビ。
「え、あ……」
すると急速に意識が遠のくのを感じ、身体がふらつく。
「簡単な事だったな。……そのまま、眠るといい」
「だ、駄目よ兄様……、私、きっとネジ兄様を、助ける為に……っ」
「その気持ちだけは、受け取っておく。──ありがとう、ハナビ」
薄れゆく意識の中、最後に見たのは、従兄の儚げで優しい笑みだった。
《終》
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