NEIGHBOR EATER
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EATING 1
「ああぁー!」
小学校からの帰り道を、俺は叫びながら走っていた。
カシャカシャカシャカシャ!
何かが擦れるような音と迫ってくるのは…
<死>だ。
黒い穴から現れた、明確な<死>。
あらゆる場所で人が喰われ、斬り裂かれ、光に呑まれ、死んでいく。
車くらいの大きさの脚が幾つか有り鎌を携えた<死>
口の中の眼から光を放つ<死>
山のような巨体で人を喰らう<死>
空を覆うように埋め尽くす二つの輪を持った<死>
今現在この街はこんな大量の<死>に覆われていた。
「はぁ!はぁ!はぁ!…」
苦しい、心臓が破裂しそうだ。
もう走り続けてどれ程たっただろうか。
目の前に曲がり角が有った、コレで振り切れるかもしれないと、角を曲がった。
「はぁ!…よし!」
曲がった先に<死>は居なかった。
俺は一心不乱に走った。
しかし少し走った時、目の前に穴が空いた。
全てを呑み込むような暗くておぞましい穴、そこから出てくるのは当然<死>だ。
穴の手前数メートルに再び曲がり角。
<死>が出てくる前に曲がるべく、走った。
降り切ろうと曲がった先は
袋小路だった。
カシャカシャカシャカシャ…カシャン
振り向けば<死>が二つ。
追ってきた<死>と今出てきた<死>。
鎌を携え人を斬り殺す<死>
俺は後退り、やがて突き当たりに背中をぶつけた。
心が絶望に染まった。
<死>が俺を虐めていた上級生を斬った時と同じく、鎌を振り上げた。
「う、う、あぁ…」
死ぬのか?こんな所で?こんな訳も解らない終わり方で?
嫌だ、死にたくない、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…
「…だ…嫌だ…嫌だ!まだ…まだ死にたくないんだ!」
そう叫んだと同時に鎌が振り下ろされ
俺の体は斬り裂かれ…なかった。
ガスッ!っという、音がして俺の体の直ぐ横の地面を鎌が抉った。
俺の目の前には揺らめく<何か>が有った。
気付くと、俺は地面を抉った鎌を掴み取り、引き千切っていた。
「はぁ…はぁ…あ…あ、あ、あ…」
引き千切った鎌を握りしめ
「あぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
<死>に襲いかかった
カァン!カァン!
鎌を打ち付けても通らない。
がむしゃらに鎌や脚でインファイトを仕掛けると口を…否、中の眼をガードしている事に気付いた。
俺はフェイントを入れて、眼に鎌を突き刺した。
<死>は動きを止めた。
安堵したのも束の間、倒した死を踏み、もう一つの<死>が迫って来た。
再び鎌を打ち合う。こちらは鎌が二本健在だったので苦戦したが、辛くも勝利した。
「はぁ…はぁ…勝った…勝てるんだ…」
カサッ…
<死>が動いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
驚いた俺は<死>に鎌を何度も突き刺した、何度も何度も何度も…
「はぁ…はぁ…もう…動かないよな…」
ふと、<死>の中に何か光る物を見つけた。
淡く光る六角形の板だった…
ゴクリ…
俺の中の何かがそれを求めた。
「なんだ?この板?」
喰らえ! 俺の中の何かがそう叫んでいる。
訳の解らない<死>と戦い、思考力が低下していた俺は従った。
がっ、はぐっ、あむっ、ゴクン…
それを喰らうと体の奥から何かが溢れて来た。
俺はその全能感に魅いられ、もう一つの<死>からも板を奪った。
「あは、はは、ははは、はははははは!」
その全能感に身を任せ俺は走り出した。
さっきまでの疲労が嘘のように軽快に。
走っているとさっきの奴と同じ<死>を見つけた。
「あは!みぃつけた!」
俺は後ろから走って近付き…
上にのってから口の中に鎌を捩じ込んだ
ドスン…、と<死>が崩れ落ちた。
<死>を解体するとやはり板が出てきた。
喰らうと一段と力が増したような気がした。
「もっと、もっと、モッと、もっト、モット!」
遠くに見えた山のような巨体の<死>を見据え、走り出す。
きゃぁー!助けてー! と、巨体の<死>の方から声がする。
子供の、女の、男の、老人の…
「アハァ!やっト着イた!」
巨体の<死>は大きすぎて俺じゃ届かない、だから。
「こウすれバいい!」
途中で鎌の<死>から奪った鎌を投げ付ける。
グロロロ…
巨体の<死>が煩わしそうに唸り声を上げて、俺の方を向いた。
「アハハハ!そうダ!こっちに来イ!」
ズゥン…ズゥン…
と巨体の<死>が俺を喰らわんと向かってくる。
グパァ、と口を開けて俺を喰おうとした。
「その時ヲマっていたァ!」
口の中の眼を隠し持った鎌の鋒で貫く。
ズドォォォゥゥゥゥン…
巨体の<死>が崩れ落ちた。
解体すると中から繭に包まれた人と大量の板と死体が出てきた。
死体の胸には、穴が有った。
何かに貫かれ、引き摺り出したような穴が。
『やめろ』
本能が囁いた。
だが、俺は頭に過った仮説を確めずには居られなかった。
すなわち、板の枚数と死体の数。
数えると、一致した。
俺は背筋に氷を入れられたような気分だった。
でも、それは一瞬の事で、俺の中は大量に得た板に狂喜乱舞していた。
『ロクデナシ』と言われるかもしれないが、俺はその誘惑に抗えなかった。
板を全て喰ったあと繭の中の人を起こすと感謝された。
でも全能感に浸っていた俺は何も感じなかった。
それから数時間、俺は<死>を狩り続けた。
鎌が刃零れしたら別の鎌の<死>から奪った。
巨体の<死>や光の<死>も何体か倒すことができた。
再び巨体の<死>を見つけた、巨体の<死>は板をたくさん持ってるからアタリなのだ。
「ヒィヒャヒャヒャヒャ!」
俺は人とは思えぬ奇声を上げながら巨体の<死>に向かって行った
先と同じ方法で殺る…のは飽きたので実験してみる。
巨体の<死>が口を開け…その中に飛び込んだ。
直ぐ様眼に鎌を突き刺し中に進む。
中は乾いていた、内壁はどうやら外側と同じようだ。
解体していてふと疑問に思って入ってみたが、<死>は生物ではないのだろうか?
まるでロボットだ。
少し進むと窪みが有った。
中には繭に包まれた人が置かれていた。
意識は無いようだ。
俺は板を探して進んで行った。
板は突き当たりに置いて有った。
板を喰らい、中から鎌で切り裂く。
捕らえられていた人を繭から出しているとき、おかしな事が有った。
ある繭の中に人ではなく黒い板が入っていたのだ。
「なんだコレ?」
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