魔法科高校の劣等生 〜極炎の紅姫〜
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討論会
前書き
今回はオリジナル多めで文字数少なめです。
『学内の差別撤廃を目指す有志同盟』略して同盟と生徒会との間で、翌日の放課後に公開討論会が行われる、という発表がなされた日の夕食後。
達也と深雪は、達也の師匠である九重八雲の寺を訪れていた。
訪れた理由は、ブランシュとエガリテ、そして剣道部主将の司甲についての情報をもらうためである。
「では師匠、色々とありがとうございました」
「いやいや、肝心なところで役に立つことができなくて悪かったね」
「いえ、参考になりました」
達也が帰ろうと腰を上げかけた時、あぁそうそう、と八雲が声をかけた。
「最近達也くんたちは、不知火の火神子と仲良くしているそうだね」
火神子、という聞き慣れない言葉はあったものの、不知火の単語から深紅のことを言っているのだとはすぐに想像がついた。
「不知火深紅のことですか」
「そうそう、そんな名前だったね」
何を考えているのか全くわからない、飄々とした態度を崩さず言う八雲に、達也が訝しげに問うた。
「彼女がどうかしたんですか」
「今度その深紅さんを、ここに連れてきて欲しいんだよ」
「先生のところに連れてくるのですか?」
予想外の言葉に、深雪が何故を隠しきれずに首をかしげる。
それに対して八雲は、少々わざとらしく頷いた。
「彼女に訊きたいことがあってね」
「わかりました。今度深紅と一緒にここに来ます」
「頼んだよ」
達也も、八雲が深紅に訊きたいことが気になったが、とりあえず頷いておく。
深紅がここにくるのを拒むことは無いだろう、と思ったからだ。
「あの……先ほど先生がおっしゃっていた“火神子”というのは、どういう意味なんですか」
深雪が、もう一つ八雲に尋ねる。
「あれ、知らなかったかい?火神子というのは、不知火家に生まれる、不思議な力を持った子を指す言葉だよ」
「不思議な力を持った子……深紅が、ですか?」
深雪が少し驚いた顔をするが、隣にいる達也はさほど驚いてはいなかった。
火神子という言葉は初めて聞いたものの、深紅の“不思議な力”については知っているためだ。
「引き止めて悪かったね。じゃあ深紅さんのことは頼んだよ」
八雲がこう括り、達也たちは家へと帰った。
♦︎♢♦︎♢
「あっ、達也に深雪おはよう」
公開討論会当日の朝、深紅と達也と深雪はいつものように駅で待ち合わせた。
「あぁ、おはよう」
「おはよう深紅」
先に来ていた深紅が二人に手を振り、達也たちも挨拶を返す。
「今日だね、討論会。……何も起こらずに済むと思う?」
「これはまたキナ臭い質問だな」
歩いて行く道すがら、深紅が達也にいきなりこう尋ねた。
それに達也が苦笑を返す。
「何も起こらずに済めばいいが……あまりそう簡単にはいかないだろうな」
「ブランシュが何か行動を起こすということですか?」
「恐らく……ね」
深紅が少し苦い顔で、眉をひそめる。
実際、公開討論会を行うことを発表してから同盟の動きは活発化し、あの青、白、赤のリストバンドもよく見かけるようになっていた。
「まあその時にならないとわからないがな。
それはそうと深紅、今日の夜は空いているか?」
「えっ?うん。空いてるよ?」
何を想像したのか、深紅が少し頬を赤らめる。
「俺の武術の師匠が、深紅に会いたいと言っているんだ」
達也のこの言葉に、やはり何を想像していたのか、深紅が若干肩を落とした。
達也はそれに気づかなかったが、しっかり気づいた深雪が二人の後ろで小さく笑いをこらえた。
「達也に武術を教えてる人って……九重八雲さんだっけ」
「あぁ。なんでも深紅に訊きたいことがあるようだ」
「訊きたいこと……?なんだろう」
深紅が、心当たりがないなぁとでもいうように首をかしげる。
「何時頃なら行けそうか?」
「んー、七時半過ぎくらいにいつも夕食を終えるよ」
「じゃあその時間迎えに行く」
達也がさらりと言ったこの言葉に、深紅が目を丸くした。
「えっ、迎えに……って、家?達也の家からわたしの家って割と距離あるし、大変じゃない?」
「いや、バイクで行くからそんなに大変じゃないよ。それに……最近は物騒だからな」
最後の一言は少し小さめの声で、若干顔をそらしながらだった。
−−−あのお兄様が、照れてる……?
そんな達也を見て、深雪が後ろで静かに驚いて気を示す。
しかし深紅は全く気づかず、嬉しそうに小さく頷いた。
「じゃあ……お願いします」
そんな深紅の姿に、達也もまた頬を少し口元を緩ませながら、了解した、というように頷くのだった。
♦︎♢♦︎♢
そして放課後、全校生徒の約半分が講堂に集まっていた。
「結構集まりましたね……」
「意外……と言うべきかな」
「当校の生徒にこれほど暇人が多いとは」
「たしかにそうですね。学校側にカリキュラムの強化を進言した方がいいでしょうか?」
「笑えない冗談はやめてくれ、深紅」
上から、驚いたような深雪、
言葉通り意外そうな表情を浮かべる達也、
無表情の鈴音、
ニヤリと笑う深紅、
引きつった笑みを浮かべる摩利、の台詞である。
彼女たちは舞台袖に控えており、壇上に立つ予定の真由美と服部は少し離れたところに控えている。
「実力行使の部隊が別にいるのかな?」
「恐らく、な」
深紅と達也が、そっと呟く。
ざっと会場を見渡したところ、同盟のメンバーは十人前後だ。
「何をするつもりかわからんが……こちらから手を出すわけにはいかないな」
二人の呟きを聞き、摩利もこう漏らす。
「専守防衛といえば聞こえがいいのではないですか?」
「深紅、実力行使を前提に考えるな」
「始まりますよ」
まだ何か言おうとした深紅の言葉は、クールな鈴音の声にかき消された。
……討論会は、真由美の独壇場だった。
舞台に立つ同盟の人たちの意見は具体的な提案が何もなく、ただ実質のないスローガンを掲げるだけだった。
「私は当校の生徒会長として、現状に決して満足していません。
なぜなら、一科生も二科生も当校の生徒であり、当校の生徒である間はその人たちにとって、唯一無二の三年間なのですから」
真由美が最後にこう締めくくると、会場から拍手が湧いた。
手を打ち鳴らしているものに、二科生と一科生の差はなかった。
やがて拍手が止む。
「みなさんにはこの機会を通して、私の希望を聞いてもらいたいと思います。
実を言うと現在、生徒会役員に指名できるのは一科の生徒だけで、二科生を生徒会役員にすることはできません。
少々気の早い公約となってしまいますが、私は任期を終えるまでにこの制度を撤廃したいと思っています」
今度こそ、満場の拍手が起こった。
真由美は差別意識の克服をみんなに呼びかけたのだ。
もはや壇上にいる同盟のメンバーは、野次を飛ばすこともできず、ただ悔しそうに真由美をにらんでいた。
突如、轟音が講堂内の窓を震わせた……。
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