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英雄伝説~西風の絶剣~

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第35話 孤児院と妖精

 
前書き
 フィーの服装はソード・アート・オンラインのシノンの服装を想像してください。 

 
side:リィン


 ボースで起きた空賊の事件から数日が過ぎた。俺は旅を続けるエステルさんとヨシュアさんと別れシェラザードさんと何故かついてきたオリビエさんと共にロレントへと戻ってきていた。あれからは特に大きな事件はなく時間が過ぎていく毎日を送っている……


「ちょっとリート君、折角美味しく飲んでるんだからもっと楽しそうにしなさいよ~」
「シェラザード、あなたちょっと飲み過ぎじゃない?」
「ううっ、シェラ君より上の存在がいたとは……どうして勝てないんだ……」


 ……すいません、訂正します。今俺は不味い状況に立っています。


(ああもう、どうしてこうなったんだ!?)


 ロレントに戻ってきてからは強制的にオリビエさんの相手をさせられていたけどこの人美女を見ると口説かないと気が済まないのか毎回アイナさんやシェラザードさんを飲みに誘っては轟沈するんだけど問題なのはオリビエさんがダウンすると酔っ払ったシェラザードさんの相手を俺がしなければならないことだ。
 いや、結構役得なのは認めるけど毎回絡まれると流石にちょっと疲れてくるよ……


「ほらほら、私が注いだ酒なんだから飲めー♪」
「オリビエさん、お願いします」
「えっ?ちょっ、リートく……ガボボボ!?」


 シェラザードさんから押し付けられたグラスをオリビエさんに押し付けてふとエステルさん達の事を考える。


(エステルさん達はもう次の町に向かっているのかな?)


 カシウスさんは見つからず彼が今何をしているのか結局は分からないままだ。でもエステルさん達はカシウスさんが無事に戻ってくることを信じて正遊撃士になるための旅を続けることにした。別れる寸前でもう暫くはボースで依頼をこなしていくと言っていたがそろそろ次の目的地に向かっているかもしれない。


(次は位置的にルーアンか……フィーはロレントとボースにはいなかったからルーアンかツァイス……もしくは王都グランセルにいるのか?もしくはリベールにいないなんてこともあるんじゃ……いや、それはないか)


 一瞬フィーがこの国にいないんじゃないかと考えてしまったが何故かフィーはリベール王国にいると確信があった。


(……やはりおかしいな。どうしてかフィーがリベールにいないんじゃないかって思うと頭が痛くなるしそんなことはないって思ってしまう。フィーがリベールにいるという証拠があるわけでもないのに……)


 まるでそう思わなくては駄目だという何かの意思さえ感じてしまう。何かの暗示のようにそう思い込んでしまうんだ。


「あら?リート君、何やら深刻な顔をしてるけどどうしたの?」
「うえっ?な、何でもないです。ちょっと疲れちゃっただけです」
「もしかしてシェラザードの相手をするのに疲れちゃったのかしら?」
「いえ、そんなことは……」
「シェラザードったら酔っちゃうと絡み酒になるし程々にしてほしいものね」
(……あなたも凄い飲んでいるんですが)


 アイナさんに心配をかけてしまったが今グダグダと考えても仕方ないので等々倒れてしまったオリビエさんを介抱しながら俺は考えることを止めた。


(フィー、どうか無事でいてくれ……)








side:エステル


「……うんにゃ?」


 なんか酔っ払ったシェラ姉と酔ってるのか全く分かんないアイナさんにリート君が絡まれてオリビエがダウンしてる光景が見えたような……夢だよね?


「……どうしたの、エステル?」
「あ、ヨシュア。ごめん、何でもないわ」
「そう?疲れているなら早く寝たほうがいいよ」


 隣で寝ていたヨシュアが顔を上げてあたしの方を見ていた。どうやら起こしてしまったようなのであたしはヨシュアに謝った。


「……おい。さっきからうるせーぞ、俺はお前らと違って忙しいんだ。ガキは夜更かししてないでさっさと寝ろ」


 部屋の反対側で寝ていた赤髪の男性が不機嫌そうに呟いた。
 彼の名はアガットで『重剣のアガット』という二つ名を持った正遊撃士なんだけどすっごく口が悪いの。何かとバカにしてくるしイジワルな奴よね。
 

「何よ、そんな言い方しないでもいいじゃない!」
「まあまあ、アガットさんにはさっき魔獣の群れとの戦いでお世話になったんだから」
「そりゃそうだけど……」
「ふん、分かったら静かにしてろ」


 アガットはそう言うと目をつぶり寝息を立て始めた。


「もう、新人には優しくしなさいよね」
「もしかしたら僕たちの事を気遣ってワザと厳しい言い方をしているんじゃないかな?」
「それ、自信もって言える?」
「……ごめん、あまり自信はない」


 そもそもどうしてアガットと一緒に寝ているのかというと、ボースで推薦状を貰い空賊事件後の溜まった依頼も処理できたので次の目的地であるルーアンを目指していたんだけど関所についた時点で日が暮れかけていたから今日はそこの休憩所を借りて休んでいたの。そしたら夜遅くにアガットが来て相部屋になったって訳よ。
 少し前の時間に狼の魔獣の群れが関所に襲ってきたんだけどその時あたしたちもアガットと一緒に戦ったの。その時は凄く頼りになったのは認めるけどあたしのことバカにしてくるのが気に入らないのよね。そりゃあたしはアガットと比べたら未熟者だけどさ……


「もういいや、早く寝ちゃお……」


 悔しいけどあたしが未熟者なのは間違いないから早くルーアンに行って沢山依頼をこなしてアガットにバカにされない立派な遊撃士にならなくちゃね。そう思ってあたしは再び夢の世界に入っていった。









「ふわ~、良く寝た~……」
「おはよう、エステル。よく眠れたみたいだね」
「うん。あれ?アガットは?」
「彼はもう出発しているよ、急ぎの用事があったみたいだね」
「何よ、昨日協力して魔獣退治したのに挨拶もしないで行っちゃうなんて薄情な奴ね」
「まあまあ。それよりもそろそろ出発しよう、昼過ぎには峠を越えたいからね」
「ん、分かったわ」


 翌朝になりあたしとヨシュアは関所の隊長さんに挨拶をして関所を後にしてクローネ山道を降りて行った。


「わあぁ……見てみて、ヨシュア!海よ、海!」


 山道を降りるとあたしの目の前に青い海が広がっていた。


「青くてキラキラしてめちゃくちゃ広いわね~!それに潮騒の音と一面に漂う潮の香り……うーん、これぞまさに海って感じよね」
「エステルは海を見るのは初めてなの?」
「昔、父さんと定期船に乗った時チラッと見た記憶はあるんだけどこうやって近くで見たのは初めてかもしれない」
「そっか、僕も海は久しぶりだな……」


 その後は暫く海を眺めてからあたしたちはマノリア開道を進んでいった。途中で寄った灯台で魔獣が灯台に入り込んで困っていたお爺さんを助けてから先を進むとようやく私たちはマノリア村にたどり着くことが出来た。


「は~っ。やっと人里についたわね」


 辺りを見回してみると白い花があちこちに咲いていた。綺麗だけど何の花かしら?


「あの白い花は木蓮の一種だね」
「ふ~ん、綺麗よね~」


 海から漂ってくる潮の香りと白い花の香りが混じってとてもいい匂いがするわ。


「丁度お昼だし休憩がてらお昼にしない?」
「いいけど何か手持ちの食糧はあったかな?」
「あ、ちょっとタンマ」


 あたしはバックから食べ物を出そうとするヨシュアに待ったをかける。


「どうしたの?」
「どうせならこの村の名物料理でも食べない?折角旅をしてるんだからさ」
「そうだね、なら宿酒場を探そうか」
「オッケー」


 あたしたちはマノリア村にあった白の木蓮寧でお弁当を購入して亭主さんに教えてもらった町はずれにある風車の傍でお昼を取ることにした。


「ヨシュア、ほらほら早く!」
「ちょっとエステル、前を向いて歩かないと……」


 お弁当を購入して少し浮かれ気分だったあたしは白の木蓮寧を出た瞬間に誰かとぶつかってしまった。


「きゃあ!?」
「おっと……」
「フィルさん!?」


 あたしは尻もちをついてしまったがぶつかった銀髪の女の子は体制を立て直して倒れるのを防いでいた。その女の子の近くで紫色の髪をした女の子が驚いた様子で銀髪の女の子に声をかけていた。


「あいたた……ご、ごめんね!大丈夫!?」
「ん、わたしは大丈夫……あなたこそ平気?」
「うん、あたしは大丈夫よ。それよりも本当にごめんね」
「いいよ。不注意は誰にでもあるしね」


 銀髪の女の子は気にしてないという風にあたしを許してくれた。


「まったく……エステル、何をやってるのさ」


 遅れて出てきたヨシュアがあたしたちの様子を見て何があったのか察してあたしをジト目で見てきた。


「えっとこれはその……」
「だから言っただろう?前を見ないと危ないって……すいません、僕の連れがご迷惑をお掛けしました」
「こちらこそごめんなさい、私たちも人を探していたのでついよそ見を……」
「えっ?誰かを探しているの?」


 どうやらこの二人は人を探していたようだ。


「帽子をかぶった10歳くらいの男の子なんですけどどこかで見かけませんでしたか?」
「帽子をかぶった男の子……ヨシュア、見かけたりした?」
「いや、ちょっと見覚えがないな」
「そっか、教えてくれてありがとう。それにしてもどこに行っちゃったんだろうね」
「私たちはこれで失礼します。どうもお手数をおかけしました」
「バイバイ」


 二人はあたしたちにお辞儀をして立ち去っていった。


「銀髪の女の子可愛かったな~。12~13歳くらいかな?まるでお人形みたいな愛らしさだったわ」
「逆に紫の髪の女の子はどこか気品のある立ち振る舞いだったね。彼女達は姉妹なのかな?」
「分かんないわね。探してた男の子が無事に見つかるといいんだけど……」


 さっきの二人が探していた男の子の事がちょっと気になったが、お腹の虫には勝てずまずはランチにすることにした。


「うわぁ……絶景ね」
「うん、海が一望できるね」


 白の木蓮寧の亭主さんに教えてもらった場所は海が一望できるまさに絶景と言える場所だった。


「こんな素敵な場所で食事なんてすっごく贅沢な気分になるわね」
「これも旅の醍醐味って奴だね」


 近くに置かれていたベンチに座り早速お弁当の中身を確認する。あたしはスモークハムのサンドイッチでヨシュアは魚介類のパエリア。どっちもいい匂いがして美味しそうね♪


「それじゃ、いっただきまーす!!」
「いただきます」


 あたしはスモークハムのサンドイッチを口に運び一口頂く……むぐむぐ、うーん!ハムが香ばしくてとっても美味しい!レタスもシャキシャキしてていい感じね!


「ヨシュアのパエリアはどう?美味しい?」
「うん、とっても美味しいよ。サフランの香りと魚介類の出汁がご飯にしみ込んでいて深い味わいだ」
「そっか。うーん、ヨシュアのパエリアも美味しそうね。ねえ、あたしにも一口ちょうだい」
「えっ?」


 あたしは口をあーんと開けてヨシュアに向く。それを見てヨシュアが顔を赤くした。


「わ、態々僕が食べさせなくてもランチボックスを交換すればいいんじゃ……」
「手が塞がってるから面倒だし偶にはいいじゃん。ほら早くー」
「ううっ、こっちの気も知らないで……」


 最後に何を言ったのか聞こえなかったがヨシュアは観念したのかスプーンにパエリアをのせてあたしの口にそっと近づけた。


「はい、どうぞ」
「あ~ん♡」


 ヨシュアが食べさせてくれたパエリアはとても美味しかった。


「う~ん、デリシャスね。魚介類の旨味がたっぷりと感じるわ!」
「ははっ、気に入ってもらえたならよかったよ」
「じゃあ次はあたしがサンドイッチをあーんしてあげるわ」
「うえっ!?いいよ、そんな……」
「何恥ずかしがっているのよ、ほらあーん」
「むぐぐ……」


 その後は二人で食べさせあいながらお弁当を完食した。


「は~、美味しかったぁ」
「サービスで貰ったハーブティーも絶品だったね」
「うん、身体が温まって軽くなってくるっていうか……潮風も気持ちいいし何だか眠くなってきちゃった……」
「食べた直後に寝ると身体に良くないよ……って言いたいところだけど食後の昼寝も偶にはいいかもしれないね」
「うんうん……それじゃあお言葉に甘えて……え~い」
「うわ!?エステル!?」


 あたしはヨシュアの膝を枕にしてベンチに横になった。


「ちょっとエステル……今日中にはルーアン支部に向かいたいんだけど……」
「ちょっとだけいいでしょ。10分間だけ。ね?」
「はあぁ、仕方ないな……30分だけだよ」


 あたしは呆れながらも優しく微笑んでくれるヨシュアに感謝してゆっくりと目を閉じた。


「ふふっ。お休み、エステル……」



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


side:??


 エステルたちが食後のお昼寝をしている最中、マノリア村の雑貨屋の近くで先程エステルにぶつかった銀髪の少女が雑貨屋のサティという従業員と話をしていた。さっき一緒にいた紫髪の少女はルーアンに向かった。別れてある孤児院に住む男の子を探すためだ。


「う~ん、さっき見かけたような気はするからもしかしたら村にいるかもしれないわね」
「そっか。サンクス」
「気を付けてねー」


 サティにお礼を言った後銀髪の少女は探していた男の子がマノリア村にいることを確信して辺りを探し始めた。すると風車の近くにあったベンチにさっきぶつかった二人がお昼寝をしていた。


「あ、さっきの遊撃士カップル……」


 少女はさっきぶつかった時に二人が胸につけていた遊撃士の紋章をチラッと見ていたのでこの二人が遊撃士だという事は知っていた。
 最初は黒髪の男の子が何やら自身に似たような雰囲気を感じたので警戒をしていたが今は安心しきっているのか栗色の髪の少女に膝枕をしてる男の子自身も眠っていた。


「……」


 少女はその光景を見てある男性の事が頭に浮かんだが頭を振って思考を切り替え辺りを見渡し始めた。
 別にこの二人に用があった訳ではない、この辺は見晴らしもいいし少女自身もよくお昼寝の場所として使っているのでこのカップルがお昼寝していようと何とも思わなかった。少女が気にしたのはその近くにいた帽子を被った男の子の方だった。


「クラム、何してるの?」
「うわっ!?」


 少女は帽子を被った男の子……クラムに声をかける。急に声をかけられたクラムはびっくりして後ずさりをするが少女を見ると不機嫌そうな表情を浮かべた。


「なんだ、フィルかよ。テレサ先生かと思ったじゃんか」
「またイタズラしてるの?クラムもクローゼも困ってるよ」
「うっさいなー。オイラよりも後に来た新入りの癖に生意気なんだよ!」
「新入りでも年はわたしが上」
「屁理屈言うなよな~」
「それはこっちのセリフ」


 フィルと呼ばれた少女はジト目でクラムをにらみつける。流石にバツが悪くなったのかクラムも頭を掻きながら降参のポーズを取る。


「分かった、分かったからその目を止めてくれよ」
「よし、いい子いい子」
「ちょ、子供扱いは止めろよな!」


 フィルはイタズラを止めたクラムの頭を撫でるがクラムは顔を赤くしてその手を掴んで自分の頭からはなした。


「ほら、孤児院に戻るよ。クローゼがアップルパイを作ってくれたから呼びに来たの」
「えっ!?クローゼ姉ちゃんのアップルパイ!?なんでそれを早く言わねーんだよ!こうしちゃいられねぇ!!ほら、行くぞ!フィル!!」
「ん、慌てなくても大丈夫だと思うよ……」


 アップルパイと聞いたクラムは目の色を変えてフィルの腕を掴んで走り出した。フィルはクスッと微笑むとクラムと一緒に村を後にした。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「あー、美味しかった!」
「ふふっ、お粗末様でした」


 クラムの満足そうな表情に紫髪の少女……クローゼは嬉しそうに微笑んだ。ここはクラムが住むマーシア孤児院で他にも数人の子供が暮らしている。


「フィルさんもクラム君を連れてきてくださりありがとうございました」
「ん、別に気にしなくてもいいよ。それよりもテレサ、クラムがまたイタズラしようとしていたよ」
「あ!おい、フィル!!」
「まあ、それは詳しいことを聞かないといけませんね」


 フィルはこの孤児院を経営している院長のテレサにクラムがイタズラをしようとしていたことを報告した。


「まったくクラムってば本当にしょうがないわね」
「悪いことをしたら駄目なんだよ~」
「うるさいなー。別にいいじゃねえかよ」


 クラムと同じこの孤児院に住むマリィやポーリィもまたやったのかと呆れていた。どうやらクラムはかなりのわんぱくみたいだ。ダニエルだけはマイペースにアップルパイを食べていた。


「クラム、前から言ってますが人に迷惑をかけたらいけませんよ?」
「先生、だってさ~」
「だってじゃありません、もう10歳にもなるんですから子供みたいなことは止めなさい」
「ううっ~。クローゼ姉ちゃん、助けてよー」
「ごめんなさい、クラム君。流石に援護はできません」
「そんな~」


 その後はクラムがテレサ院長にお叱りを受けて外に逃げ出してクローゼはそれを追っていった。他の子供たちは二階に上がりフィルはテレサと一緒に食器の後片付けをしていた。


「まったくあの子にも困ったものです。もう少し大人しくなってくれるといいんですが……」
「まあクラムも度が過ぎた事はしないしああいう年頃なのかもしれないよ?」
「フィルさんはいつもクラムを気にしてくれていますね。ありがとうございます」
「このくらい気にしないで。ここに住まわせてもらっているだけでも大きな恩を作っちゃってるから」


 フィルは食器を洗いながら頭につけてあるみっしぃの髪飾りに触れる。


「……探し人はまだ見つかりませんか?」
「うん、色々情報をできる範囲で集めてるけど進展はないかな……」
「そうですか。早く見つかるといいですね」


 その後は二人とも無言で皿を洗っていたがふとフィルが呟いた。


「……ねえ、テレサ?」
「どうしましたか?」
「何でわたしの事を何も聞かないの?わたしがこの孤児院の前に倒れていてあなたに保護してもらったけどどうして遊撃士に話したりしないの?こんな得体の知れないわたしを……」


 フィルは前に孤児院の前に倒れていた時にテレサに発見されてそれ以来この孤児院で過ごしているがテレサはフィルの素性などは一切聞かず遊撃士にも報告していなかった。


「……初めは気にはなりました。でもこの孤児院が前に魔獣に襲われたときあなたは何も言わず戦ってくれました。だから私はあなたが悪人だなんて思っていません」
「テレサ……」


 フィルがテレサに保護された日に孤児院に魔獣が入り込んできたことがあった。普段は魔獣が入ってこないように街道灯が光っているが丁度その日に交換する時期が来てしまい交換する前に魔獣が孤児院の敷地内に入ってきてしまったのだ。フィルは素手で魔獣と交戦して負傷してしまったが何とか魔獣を倒すことはできた。


「自分の事について話をしないのは何か事情があるからでしょう?だから無理には聞きませんしあなたが望むなら遊撃士協会にも話はしません。だから安心してあなたがするべきことをしてください」
「……サンクス」


 フィルは申し訳なさそうにお礼を言うとテレサは微笑みながら頷いた。



(リィン、あなたは今どこで何をしてるの?無事だよね……)


 フィル……いや、フィー・クラウゼルは未だ行方の知らぬ想い人の事を想いギュッと両手を胸の前で重ねて祈りを捧げた。


 
 

 
後書き
 もしクラムがエステルからゲームみたいに遊撃士の紋章を取ろうとしたらヨシュアは直に目を覚ましていました。 
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