提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・27
~飛鷹:ところてん~
季節は移ろい、夏。日本よりも南方にあるブルネイは当然ながら暑い。まぁ、日本の湿気を多量に含んだ纏わりつくような暑さに比べれば幾らかマシだが、暑い物は暑い。そんな時期だ、飛鷹がチケットを持ってきたのは。
「ふぅ……しかし毎年の事とは言え、暑いわねぇ」
「ま、夏だしな」
「まぁ……だからこそ、これを頼んだんだけど」
俺と飛鷹の目の前には、透き通ったガラスの器が2つ。そこに箸が添えられている。しかし、中には何も入っていない。そりゃそうだ、今から入れるんだからな。しかし、うっすらと汗ばんだ肌、湿って張り付くシャツ、僅かに赤くなっている頬……妙な色気を感じるな。
「な~に~?私の顔に何か付いてる?」
「いんや?妙に飛鷹が艶っぽく見えてな」
「……スケベ」
飛鷹が両腕で身体を隠すように、自分を抱き締める。
「別にいいだろ?減るもんじゃなし。それに俺の嫁をエロい目で見て何の問題がある」
「そっか、たまに忘れちゃうけど、私って提督のお嫁さんなのよね。仮だけど」
「おいおい、忘れんなよ」
ごめんごめん、と笑う飛鷹の左手の薬指には、シルバーのリングが輝いていた。
「さ~てと、んじゃ早速」
俺が取り出したのはところてんつき。……そう、飛鷹のリクエストはところてんだったのだ。器の上にところてんつきの排出口を向けて、一気に押し出す。ストーンと一気に突き抜ける様なこの感覚がまた気持ちいいんだよな、ウン。
「あーぁ、私もそれやりたかったな」
「これは譲れません」
「何それ、加賀さんの真似のつもり?全然似てないんだけど」
「うるせぇ、ちょっとボケてみただけだ。はいよ、酢醤油に辛子、七味に、その他薬味色々。好きなのをどうぞ」
「じゃあ、酢醤油に七味で。ん~、この喉を冷たいところてんが通り抜けていく感じ!身体の中から涼しくなってく気がするわ」
「んじゃ、俺は酢醤油に辛子で……うん、やっぱ暑い時期にこういうの食うのは美味いよな」
「そうよね!夏を楽しんでる感じよね」
「洋菓子のリクエストの方が多くて、こういうのはあんまり作ってなかったからな。俺としても新鮮だったよ」
因みにこのところてん、俺がちゃんとテングサから煮出して作った手作りだ。寒天から作っても良かったんだが、潜水艦の連中に聞いたら近くの磯にテングサが生えてる所があるらしくてな。協力してもらった。
「……にしても、何でところてんなんだ?確かに黒蜜ときな粉かければオヤツにもなるが、お前がかけてるの酢醤油に七味だろ」
「私、あんまり甘い物得意じゃないのよね」
「へぇ?飛鷹って辛党だったのか」
「いや、別に嫌いってワケじゃないんだけどね。ただ……」
「ただ?」
「甘い物って、あんまりお酒に合わないじゃない?」
盛大にずっこけた。
このホワイトデーチケットを配り始める時、1つだけ絶対のルールを設けた。それは、
『酒の持ち込みは禁止』
という物だ。だって、考えてみてくれよ?ウチの飲兵衛軍団に酒の持ち込みを解禁したらリクエストされる菓子は柿の種とかレーズンバターだとか、そういう酒のツマミになる物だらけになる。確信できる。それじゃあ日頃の疲れを甘い物で取ってもらおうという企画の主旨から外れる。その為、酒の持ち込みは禁止にした。なお、酒を使ったスイーツのリクエストだけはOKにした。一部の連中に泣いて土下座されたのは関係ない……という事にしておこう。
「結局お前も酒中心に考えんのかよ……」
「だってしょうがないでしょ!?隼鷹に付き合ってたら自然と飲む機会は増えるし、私も嫌いじゃないし。そこで甘い物を出されても……ねぇ?」
「俺に同意を求めようとすんじゃねぇ」
「その点、ところてんなら黒蜜ときな粉かければオヤツにもなるし、お酒にも合うからセーフなのよ。解る?」
「お前らが大変飲兵衛なのは解った。後は解りたくない……というか考えたくない」
「あら、飲兵衛の貴方がそれを言うの?」
「う……それを言われると辛い」
「じゃあ諦めるのね。さてと……」
「ってオイ、自然と酒瓶を出すな!」
「あら、業務は終わりの時間だもの。飲んでも問題ないでしょう?」
時計を見れば、時刻は確かに午後5時を回っていた。業務終了時間だ。飛鷹の奴め、これを狙ってやがったな。
「折角だし、晩酌付き合ってよ提督」
「チッ……しゃ~ねぇなぁ」
ところてんをつつきながら盃を傾けつつ、水平線に沈んでいく夕日を眺める。ある意味贅沢な時間だ。
「……って、提督はところてんに何かけてんの!?」
「何って、酢味噌だけど?」
「酢味噌!?ところてんに酢味噌!?」
「おう。そこに辛子を大量にぶちこんで、よくかき混ぜてからチュルチュルっと……うん、美味い」
「ええええぇ~……美味しいのソレ?」
「ウチの地元だと一定数いたぞ?酢味噌派」
気になって調べてみたんだが、ところてんにかける物の定番にも地域差があるらしい。大きな派閥としては、
関東以北(または全国的?):二杯酢(酢醤油)
中部地域:三杯酢
近畿地方:黒蜜&きな粉
四国:ダシ汁
の4つ。だが、この他にも様々な食べ方が色々載っていた。ホント、ネットって便利だわ。
「て言うか、四国のダシ汁で食べるっていうのも気になるんだけど」
「あぁ、それな?鰹とかいりこでダシを取って醤油とかで味付けしたつゆに薬味入れて食うらしいぞ?」
「……ソレって讃岐うど」
「それ以上いけない」
他にも変わった食べ方が色々と載っていたので、そのサイトを飛鷹に見せつつ、気になった奴を試してみる事に。
~オリゴ糖シロップ&レモン汁~
「ん?意外とアリかも」
「だなぁ。シロップが単純に甘いから、レモン汁でサッパリさせてるのがいい」
「でも、市販のところてんだとしっかり洗わなきゃお酢と混ざるかも……」
「そこは……各自頑張れとしか」
~しゃぶしゃぶ用ごまだれ~
「タレがしっかり絡むから味濃いめだな」
「でも、ゴマの風味が効いててお酒にも合いそう。私好きよ?この味」
「結局酒基準かい」
~青じそドレッシング~
「……普通ね」
「……普通だな」
「青じそ刻んで三杯酢と合わせたみたいなモンだから合わない道理が無い」
「まぁ、酢醤油に飽きてきたらたまにはいいかもね?」
~とろろにわさび~
「あ、美味っ!」
「おぉ、こりゃいいなぁ。ウチのみせでも付き出しで出せそうだ」
「とろろが絡むからいいのね、これは」
~ダシ汁&薬味~
「予想通りね」
「予想通りだな」
「「讃岐うどんだ、コレ」」
まぁ、ダシの味を讃岐うどん風にしたからね、仕方無いね。
~九州の甘い醤油&おかか~
「甘い醤油だから、おかかと合わせてちょうどいいわね」
「濃口醤油や薄口醤油だとこうはならんな」
「う~……食べ過ぎたぁ」
少し膨れた腹を擦りつつ、苦しそうに呻く飛鷹。
「幾らなんでも食べ過ぎだ、バカ」
「だってぇ……ところてんってカロリー低いから、気にしないで食べられるでしょ?だからつい」
「つい、じゃねぇよ。腹膨らんで妊娠してるみたいになってるじゃねぇか」
「あら、心配してくれてるの?大丈夫よ、私達艦娘って妊娠しにくいから」
「そういう事じゃなくてだな……」
ダメだこりゃ。食べ過ぎで腹痛にならんか心配してるのに、別の方面に勘違いしやがった。まぁ、俺も子供は嫌いじゃねぇし、何人出来ても構わんのだが。
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