FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
三大竜の終焉
前書き
今回の話はかなり前から決めていました。だからうまく最後に持っていけてるような気がする。
壊滅状態であるはずのアルバレス軍。ハルジオンを奪い返されるまでは時間の問題・・・それなのに・・・
「「「「「うわああああああ!!」」」」」
宙を舞っているのはラミアやマーメイドの魔導士ばかりだった。
「どうした?もう終わりなのか?」
地面に伏せて動けなくなっている魔導士たち。その中心にいるのは、返り血を払っている髪を後ろに流している男。
(このことか・・・シャルルが言っていたのは・・・)
この戦場に来る前にシャルルから聞いていた。多くの人が倒れている中立っている髪を後ろに流している男。傷一つないというところは違うが、おおよそのところは合っているようだ。
(俺じゃ勝てない?お前だって勝ててないじゃないか)
一人を相手にしているにも関わらず多くの魔導士たちを圧倒してきた友が息を切らして踞っている。その姿と先程の言葉を重ねると、怒りしか湧いてこなかった。
「水竜の・・・咆哮!!」
怒りに身を任せてブレスを放つ。天海はそれを体をわずかに反らしただけで回避する。
「やっと戦う気になったか?シリル」
彼が待ち望んでいたもう一人の人物。その人物に今迷いも不安もない。ただ、友が勝てなかった相手を撃破し、彼に対して辛く当たることしか考えていなかった。
「お前がエドラスのお父さんでも、それは別の話だ。俺のお父さんはヴァッサボーネ一人だけなんだから」
魔法を教え、言葉を教えてくれた父。その名前が出てきて動揺したが、目の前の人物はそれと関わりはない。異世界からやって来た脅威、それだけでしかない。
「レオン、よく見てろよ」
ドラゴンフォースを解放し、目の魔水晶を輝かせる。地面を蹴った彼のその速度は氷の神に匹敵するほどだった。
「ダメだ・・・シリル・・・」
迷いを捨てたかに思えた少年。しかし、それを待ち望んでいたはずの少年は体を起こしながら、友人の姿を視界に入れる。
「それはお前の戦い方じゃない・・・」
今まで見せたことがないほどの速度で拳を振るうシリル。だがそれを天海は片手でガッチリと受け止めてしまった。
「!!」
会心の一撃を喰らわせることができると思っていただけにこれには驚きを禁じ得ない。それでも受け止められたのは片腕のみ。シリルは空いている左腕を振るって再度攻撃を試みる。
「まだ遅い」
彼の腕を振り切られるよりも早くシリルを投げ飛ばす天海。地面を転がったシリルは立ち上がると、腕を水の剣へと変化させて突っ込んでいく。
「水竜の斬撃!!」
動きはいいように見える。それなのに少年の攻撃は一切敵に届かない。
「こんなもんか・・・つまらないな」
敵の限界が見えてしまった。強者との戦いを望むこの男に取って、今のシリルは退屈な存在。その場凌ぎの、勢い任せの攻撃に彼は嫌気が差した。
「フンッ」
「ぐあっ!!」
下からの蹴りで宙に浮かせる。そこからオーバーヘッドキックでシリルの背中を蹴り落とし、地面へと叩きつけた。
「お前の父親は何をしたかったんだ?その程度の力しか手にいれられない魔水晶を渡して」
「ヴァッサボーネの・・・」
痛みで体が痺れている。それなのに彼は立ち上がり、渡り合えるはずのない敵へと挑んでいく。
「悪口を言うんじゃねぇ!!」
感情的・・・単細胞になっているシリルの動きは確かに際立っていた。だが、そこには大事なものが欠落しており、周りの伏せている者たちは皆、それを感じ取っていた。
「シリル!!落ち着け!!」
「一回下がれ!!」
このままではいけないと察したグレイとリオンが少年を呼び止める。しかし彼は言うことを聞かない。やってやると言う気持ちだけが前に出ており、中身がなかった。
「あと五年・・・いや、三年遅く出会いたかった」
悲しそうな目をした天海は最速の拳をお見舞いする。それを受けたシリルは電池が切れた人形のようにフラフラとその場に伏せる。
「・・・」
その時の天海の少年を見下ろす顔は暗かった。自分の欲望を叶えてくれると信じていた相手がこのレベル・・・自分の相手になり得るものなど誰もいない。そう思っていた。
「雷竜の咆哮!!」
「波動砲・球の章」
この二人がやって来るまでは。
「!!」
雷のブレスにそれと合わせるように飛んでくる巨大な波動の球体。天海はそれを回避しようとしたが、あまりの広範囲に避けきれずかすってしまう。
「水流昇霞!!」
「マルギティ=ソード!!」
彼らに続くように現れた二人の女性。ジュビアの水により足場が浮き上がった天海。そこにメルディの痛覚に直接的に働きかける剣が突き刺さる。
「ぐっ!!」
感覚への直接的な攻撃にはさすがの彼も対処できない。激痛に顔を歪ませ地面に落ちた天海は、新たに現れた四人を見据える。
「いいコンビネーションだ」
それぞれのコンビネーション能力の高さに思わず笑みを浮かべる。ジュビアとメルディはその表情に不気味さを感じていたが、ラクサスとカミューニは無表情を貫いていた。
「もう他の奴等は全滅した。残るはお前だけだぞ」
「降参したらどうだ?そうすりゃ命までは奪わないぞ?」
二人の男の言葉を聞いてようやく気付いた。周りにはアルバレスの兵隊たちが全員地に伏せており、意識を失っている。残るは天海、ただ一人となっていた。
「ククッ・・・」
「何がおかしいんだ?」
絶望的な状況。そのはずなのに天海は小さな笑いを堪えるような素振りを見せる。
「残念だったな、俺は強者と戦えるなら、自分の命などどうでもいい」
「狂ってるな」
「俺ぁ嫌いじゃないぜ?そう言うの」
悪魔の心臓にも同じように戦いに命を燃やす者がいた。それを知っているからこそ、カミューニはそのような反応を示せるのだろう。
「ん?お前は・・・」
そこで天海は気が付いた。かつて自分から魔水晶を騙し取ったカミューニに。
「あの時の・・・」
「ん?」
カミューニは忘れているらしく天海が自分を見て目を細めたことに首を傾げる。
「ハデスは殺せたのか?少年よ」
「!!」
その言葉でようやくカミューニは気付いた。目の前にいるのがかつて自分に魔水晶を与えてくれた人物であることを。
「その様子では、殺せなかったようだな」
その事実に天海は残念そうな表情を浮かべる。彼がカミューニに魔水晶を与えた理由。それは、ハデスを殺すことにより歯止めを無くし、強大な力を得た彼との戦いを熱望していたから。だが、それが叶わなかった上に約束の場に現れなかったカミューニは負けたのだと察し、イシュガルを後にすることになった。
「ハデスは殺せなかった・・・だが、俺はあの頃よりも強くなった。貴様も倒せるほどに」
「・・・楽しみだ」
期待していないかのような反応に苛立ちを見せるカミューニ。ハルジオン解放戦はさらなる混戦へと陥っていく。
「完全なる滅竜まであと10人」
その頃北方では、突如現れたアクノロギアがゴッドセレナを殺害すると、霊峰ゾニアの方へと進んでいく。
「・・・何・・・今の・・・」
「信じられねぇ・・・」
「一瞬でこんな・・・」
その事態にもっとも困惑していたのはゴッドセレナと戦っていたミラジェーンたち。彼女たちは言葉を失い、呆然と立ち尽くしていることしかできなかった。
場面は変わり南方。ハルジオンではアルバレス軍の残り一人となった天海相手にラクサスたちが奮闘していた。
ドンッ
「グッ!!」
男の蹴りに倒れる雷竜。金髪の大男の後ろからカミューニとメルディが飛びかかる。
「「マルギティ=ハドウハ!!」」
幼馴染みならではのコンビネーション。これまでの体の外面にダメージを与える波動波にプラスして内面にダメージを与えるメルディの魔法。その合わせ技で大ダメージを与えに行くが・・・
ビュンッ
風切り音が響くほどの蹴りでその波動を打ち返す。カミューニとメルディへの直撃は避けられたが、天海へのダメージも大きいものではない。
「いい魔法を使うな」
痛覚に直接的な攻撃を与えることができるため多少のダメージは与えられたようだがそれもほとんど無意味。天海は速度を落とすことなくカミューニへと迫ってくる。
ドス
「ガッ!!」
腹部へと突き刺さる拳。それにカミューニは吐き気を催すほどの痛みを感じるが、次に顎へと拳が叩き込まれ、さらには胸ぐらを掴まれ頭突きをされ地面へと倒れ込む。
「お兄ちゃん!!」
「だい・・・じょうぶだ・・・」
フラフラとしながら立ち上がった彼に安堵の表情を見せるメルディ。だが、その体はボロボロで、見るに絶えなかった。
「ウェンディ・・・シェリアは・・・?」
「え?」
そんな中リオンがあることに気が付き問い掛けた。彼が気が付いたのはこの場に姿を現していないシェリアの存在。彼女が今どこにいるのかを問い掛けた。
「これ以上はとてもじゃないが受け止められない・・・一度ダメージをリセットするべきだ・・・」
「・・・」
この場にいる魔導士たちはほぼ全滅。動けるものもほとんどいない中で戦っても意味がない。ただ敗北へと向かっていくだけだ。
そう考えたリオンは治癒力の高いシェリアに回復してもらい、全快で戦えるもので押していく作戦。だが、ウェンディは彼の言葉に答えることができなかった。
「飽きたな、この戦いにも」
戦意を喪失するものも現れた中ふと男の口からそんな言葉が漏れた。その瞬間、カミューニは額から汗が滝のように流れ出し顔色が白くなっていった・・・
「グラシアン!!てめぇ何言ってやがんだ!!」
「この魔法を早く解除しろ!!」
霊峰ゾニアの麓・・・魔力の球体に捕らわれているスティングとローグが懸命に叫ぶがその声にグラシアンは反応を見せない。
「一人で戦うつもりか?」
「あぁ、そうだ」
仲間たちを安全な場所に置いて自分一人で戦う・・・その判断は尊敬に値するが、相手があまりにも悪すぎる。それをティオスもわかっているようで、苦笑いするしかない。
「四人でも勝てないのに、一人で勝てるわけねぇだろうがよ」
呆れたようにフードの上から頭をかく。そんな相手のことなど気にする様子もなく、グラシアンは地面に何かを描き始めた。
「・・・お前、ふざけてるのか?」
ゆっくりと地面に描いているのが何なのかティオスはすぐにわかった。だが、それを待ってやる心の広さなど、彼は持ち合わせていない。
「そんな魔法陣を描かせる隙なんて与えるかよ!!」
苛立ちで駆け出しグラシアンの顔面に拳を叩き込む。そのあまりの威力に青年の体は宙を待った。
(・・・!!笑ってる?)
殴り飛ばされるグラシアンの顔から笑みがこぼれた。それがどういうことなのか一瞬理解ができなかったが、すぐにわかることになる。
ピカッ
突如光出すティオスの足下。それは先程描いていたグラシアンの魔法陣の書きかけ。
「引っ掛かったな、ティオス」
「これは・・・」
書きかけに見えていた魔法陣。しかし、それは彼の狙い通りだった。大雑把であるが故に未完成に見えていたそれは実際には必要最低限度の言葉だけを繋ぎ合わせた、中に入ったものの動きを封じ込める魔法。
「なるほど、これは騙されたな。だが、そんなの意味がないぞ」
わざとらしく魔法陣を描き始めたことによりティオスが隙を突いてくるのを狙っての行動。だが、ティオスは魔力を高めていくと、それを力業で破ろうとして来た。
「あいつ!!マジかよ!!」
「魔法陣を無理矢理破るつもりか!?」
見ていたスティングもローグも目を見開かずにはいられない。グラシアンの書いた魔法陣は最低限しか書いていないため効果は薄い。しかし、それを差し引いても破ることなど普通の魔導士にはできない。
ビキビキ
だがこの男にはそれは関係なかった。魔法陣から溢れ出る光が点滅し始める。魔力を高めていくティオスの力により、破られようとしているのだ。
「っおおお!!」
声を張り上げ魔法陣を打ち破ったティオス。万事休すかと思われたその時、グラシアンはティオスに飛びかかった。
「俺の目を見ろ!!」
「!!」
全身に力が入っていた状態から脱力した瞬間を狙って飛びかかったグラシアンはティオスのフードを上げて彼の目と自分の目を近付ける。グラシアンの目が赤く輝いたかと思うと、ティオスの動きが鈍くなっていく。
「この魔法・・・覚めない悪夢か!?」
グラシアンの魔法に心当たりがあったティオスは彼を引き剥がそうと懸命に腕を伸ばすが、その動きがどんどん遅くなっていき、彼の腕を掴んだところで完全に制止する。
(スティング・・・ローグ・・・お嬢・・・ユキノ・・・みんな・・・)
懸命に魔法を撃ち破ろうとするティオスに負けじと魔力を高めて破られまいとするグラシアン。彼の頭の中に多くの人たちが浮かび上がる。
その彼の最後に思い浮かんだのは、虎のような模様の猫だった。
(キセキ・・・力を貸してくれ!!)
額をぶつけ合わせ目を最大限近付けるグラシアン。すると、懸命に開いていたはずのティオスの目が徐々に閉じていくではないか。
「貴様・・・正気か・・・」
「あぁ。悪いな」
目を閉じまいと抵抗するティオスと徐々に細くなっていくグラシアンの目。両者は至近距離でのにらみ合いを演じていた。
「自らの全ての生命エネルギー、魔力で相手に永遠の悪夢を見せることができる魔法・・・だが、同時に術者も全ての力を使い切り、息絶える・・・」
目を閉じれば最後、永遠に目覚めることのない悪夢・・・地獄の世界へと案内される・・・つまりは敵を確実に死に至らしめる究極の魔法。
だがそれは両刃之剣・・・相手を幻影のみで死に至らしめるには自らの魔力はもちろん、生命エネルギーを使い切り相手に夢を見続けさせなくてはならない。つまりは術者は自らの命と引き換えに、敵を道連れにするための最終奥義だ。
「やめろ!!グラシアン!!」
「イザベリーたちもそんなのは望んでいないぞ!!」
スティングとローグの必死の叫び。だが、グラシアンはお構い無しに魔法を続行する。
「スティング・・・ローグ・・・みんなに伝えてくれ・・・」
左目は完全に閉じ、右目だけが辛うじて開いているグラシアン。ティオスも同じ状態になっており、どちらが先に力尽きるかの我慢比べになっている。
「犠牲になった奴等のためにも、全員で生きてギルドに帰れ。キセキも忘れんなよ・・・」
そう告げた彼に仲間たちの声はもう届かない。通常もっとも最後まで活動を続けるはずの耳は完全に機能を失い、視界ももはや何も見えない。
「クッ・・・大した奴だ・・・」
そう言うとティオスは諦めたかのように目を閉じ、力なく地面に崩れ落ちる。彼にしがみついていたグラシアンも地面に落ちたのを感じ取ると、ホッと一息ついて、目を閉じる。
(そっちで会えるのかな?イザベリー・・・)
先立った仲間たちのことを思い浮かべながら眠りについた幻竜。その顔は死んでいるとは思えないほど、清清しいものだった・・・
「完全なる滅竜まで、あと9人」
その頃北方に現れたアクノロギアは、一人の滅竜魔導士の死を感じ取り、カウントダウンを進めていた。
「グラシアン!!」
「おい!!しっかりしろ!!」
術者が死んだことにより魔力の球体から解放されたスティングとローグは大切な友を涙ながらに揺すっていた。だが、彼は一切の反応を示さず、冷たくなってしまっている。
「ふざけんなよ・・・おい・・・」
ボロボロと涙を抑えることもせずに青年に降りかかる雨のようにこぼし続けるスティング。普段冷静なローグも、目頭を赤くさせ、顔を俯かせていた。
「俺たち・・・三大竜なのに・・・お前がいなくてどうすんだよ・・・」
やっと仲間の大切さに気が付いた一年前・・・それからずっとお互いを支え合ってきた友の死に、冷静さを保っていられるはずもない。
二人は地面にへたりこみ、大粒の涙を溢していた。
「必ずこの戦争に勝つ・・・」
「絶対に生き延びてみせる・・・」
彼の死を無駄にしないためにと決意を新たにした二人。彼らは涙を拭い立ち上がろうと顔を上げた。
「あ?もういいですか?」
その時二人の目の前には見覚えのある顔の人物が立っていた。その男は黒装束を身に纏っており、誰なのかすぐに特定できた。
「貴様・・・なぜ生きて・・・」
「いや・・・おい・・・ウソだろ?」
ティオスは生きていた。永遠の眠りを掻い潜り二人の前に立ちふさがった。その真の素顔を晒して。
後書き
いかがだったでしょうか。
グラシアンが命を賭けたにも関わらず平然と生きていられる神の子ティオス。
まもなくその素顔が明らかになることでしょう。次は南部を進めることになりますがね。
ページ上へ戻る