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ガンダム00 SS

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epilogue in 2314 ⑺

X国首都 国会会議室

会議室という名を借りたその部屋は、名前以上の質と大きさを有していた。赤や黄色などの暖色系が高級感を漂わせている。王宮の広間を彷彿とさせる豪華絢爛な空間だった。

その中心にある長いテーブルで、俺はX国の重鎮たちと向き合っていた。右隣にはフランク・コークマン大尉が座っている。その後ろで他のメンバーが直立している。

X国軍の通信参謀が最初に口を開く。

「ここまでの道中、お疲れ様でした。我々からは支援を出せず申し訳ない」

コークマン大尉がそれに答える。

「いえ。こちらこそ被弾した輸送艦の修復をさせていただいて感謝しています」

コークマン大尉が俺に視線を送ってくる。次の番だ、という合図だ。

俺は手元の資料を持ち、言葉を発する。

「アポを取ったときにお伝えした通り、連邦軍がX国、Y国の紛争に介入する方針に踏み切りました。我々停戦監視団第3方面第5分隊は、その勧告に参りました」

真正面の重鎮たちが皆、険しい表情を浮かべた。連邦軍の介入は前例がある。それでも環境が修復されなかったということは、解答が違うのだ。重鎮たちは、連邦軍の介入に意味がないと考えているに違いない。

俺は声のトーンを少し上げて、もう一度言葉を口にした。

「さて、ここまでが軍の命令です。今からお話しするのは、我々停戦監視Z団としての仕事となります」

X国通信参謀が若干目を開き、俺をじっと見る。目の奥を覗き見るような視線の鋭さに、俺は一瞬言葉を忘れそうになる。

これは、戦場にないプレッシャーだ。新鮮というより、気持ち悪い。

「軍の方針を切り替える方法はただ1つです。両国が交渉の後、紛争解決に入ることです」

相手方からの反応はない。俺は話を続ける。

「この紛争の根本はイノベイター派と旧人類派の対立にあります。彼らは勝利のために武力支援をしますが、国内経済にまでは手を出しません。つまり、この紛争は確実に両国そのものを滅ぼします。少しでも早い対話解決をお勧めします」

広間に静けさがこもる。やがて、相手の方から声が上がった。X国の防衛相だった。

「正直な話をすると、我々は休戦と和解をしたい。イノベイター派も考えは同じだ。だが、相手側がそれを望んでいない」

「貴国側には和解の意思があると……?」

「ああ。現状、我が国の軍はY国との戦闘を続行している。だが、その水面下で交渉を進めたいと思っている。Y国の考えは知らないが、バックが武力的制圧を求めているのは確かだ」

バックーー旧人類軍はイノベイターを新人類として認めていない。その劣等感を武力的制圧で解消しようとしている。この紛争の原因は明らかにそれだった。

そのとき、コークマン大尉の軍用携帯電話に連絡が入った。大尉が席を外し、後ろの方で話を始める。

X国防衛相が俺に問いかける。

「そういえば、Y国MS部隊はどう振り切ったんだ?君たちの艦にはMSが2機しかなかったそうだが」

恐らく、ソレスタルビーイングが救援にきたという事実は隠さないとダメだろう。ガンダムパイロットも存在を伏せるように話していた。

俺はなるべく平然に努めて、言葉を選んだ。

「MS2機は現行のジンクスⅣに対抗できる機体でして、大きく押されることなく戦闘空域を脱出することができました」

「輸送艦自体は非武装だ。2機だけでジンクスⅣ1個小隊に勝てるのか?」

防衛相は本当に不思議だとばかりに聞いてくる。説得力に欠ける説明だと我ながら思う。だが、機密事項を話すわけにはーー。

トン、と肩を軽く叩かれた。振り返るとコークマン大尉だった。大尉はX国の重鎮たちに向かってハッキリと言った。

「たった今、Y国にいる交渉班から連絡が入りました。Y国が武装解除を行い、X国との停戦交渉を申し入れたとのことです」

空気が変わった。今までの緊迫感とは打って変わり、疑念を孕んだ戸惑いが空間を支配する。

通信参謀が顎に手を当て、不思議そうに呟いた。

「また第三勢力がしゃしゃりでてきたのか……?それとも、この前のような工作か?」

X国に潜伏していたY国スパイのことだ。だが、コークマン大尉はそれを否定する。

「Y国にいる我々の仲間からの確定情報です。Y国は実際に停戦を申し入れています。どうされますか」

X国関係者たちの視線が1人の男ーー首相に注目する。首相はしばらく目を瞑って微動だにしなかったが、やがて口を開いた。

「Y国とホットラインを繋いでくれ。私が話そう」

側にいた秘書が淡々とした調子で「承知しました」と礼をする。首相は音もなく用意された白電話の受話器を手に取った。

「……ああ。私だ」

今、自分は1つの歴史の終幕を目の当たりにしている。だが、あまりにも平坦としていて、実感が沸くにはアクションが足りなかった。

「貴国と会談を設けたい。ああそうだ。停戦について……」

首相はその後も電話の相手と話していたが、しばらくして受話器を置いた。

「会談は明日。Y国の首都で行う。準備を頼む」

それから首相はコークマン大尉に向かってニヤリと笑ってみせた。

「そういうわけだ。連邦軍本部に行って伝えて欲しい。我々はY国との会談をセッティングし、停戦に向けた協議を始める、とな」

「承知しました、首相」

コークマン大尉の敬礼に倣い、俺も首相に敬礼をした。首相は歯を見せ、俺たちに向かって呟いた。

「物事がこうも上手く進むことに違和感はあるがな……。我々とて、また連邦軍に茶々を入れられるのは勘弁だ」

続 
 

 
後書き
次回が最終話となります。ここまでご覧いただいた方がおりましたら、物語のラストまでおつき合いしていただきたく思います。
紛争を通じて、アル・スワンズ少尉が改めて感じ、進めていきたいこととは何だったのか。世界から戦いをなくすためには何が必要なのか?
よろしくお願いします。 
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