儚き想い、されど永遠の想い
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71部分:第七話 二人きりでその一
第七話 二人きりでその一
第七話 二人きりで
真理と話してから。それからだった。
義正は物思いに耽ることが多くなった。それでだ。
佐藤に対してだ。よくこんなことを話す様になった。
「若しもだ」
「若しも?」
「そうだ、若しもだ」
こう前置きしての話だった。
「愛を感じている相手がいる」
「いるならばですか」
「そうだ、いるならばだ」
どうかというのである。
「そしてその相手がだ」
「相手が?」
「会えない相手ならどうするべきか」
問うのはだ。このことだった。
「一体だ。どうするべきか」
「難しい話の様ですね」
「そうだな。難しい」
実際にそうだと話しもする。
「会うことが許されない相手なら君はどうするべきだと思うか」
「会うことが許されないというのはです」
佐藤は問うた。その問うたことは。
「公には、という意味ですね」
「公か」
「はい、人目につく場所ではですね」
「そういうことになるな」
話を聞いてだ。義正はそのことを認めた。
言われてみればそうなることだった。真理とのことはだ。人目についてはならないものだ。そうした意味で会うことを許されないということだった。
「それではどうするべきか」
「それなら決まっています」
佐藤はすぐに言った。
「その場合にすることはです」
「することは?」
「人目につかないようにしてです」
「会うべきだね」
「はい、そうすればいいのです」
こう主に話すのだった。
「その場合はです」
「人目につかなければいい」
「古い本ですが」
佐藤はこう前置きしてから話した。
「ツルゲーネフですが」
「露西亜のだね」
「はい、露西亜の文豪ですが」
「初恋だったかな」
義正はツルゲーネフの代表作を述べてみせた。
「呼んだことはないけれどいいとは聞いているよ」
「初恋ではなく」
「その作品ではないんだね」
「逢引です」
そちらだというのである。
「二葉亭四迷が訳したあの作品です」
「ああ、あれなんだ」
「はい、そのタイトルです」
「逢引をすればいいというんだね」
「そうです。逢引といえば聞こえが悪いですが」
それでもだというのだ。この場合はだ。
佐藤はそうしろというのだ。また話すのだった。
「二人きりで密かに合えばいいのです」
「成程ね。それがあったんだ」
「はい、公には許されていなくても他の何かが許していればいいのではないでしょうか」
「その何かとは」
「神でしょうか」
それではないかとだ。佐藤は話すのだった。
「この場合はそうなるでしょうか」
「神だね」
「神といっても色々な神がいますが」
「この場合は我が国の神ではないような気がするね」
「愛の女神になるでしょうか」
それではないかとだ。佐藤も話す。
「希臘の神話のあの」
「アフロディーテだったかな」
「その愛の女神が許せばとなるでしょうか」
こう主に話すのだった。
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