魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica11今日からあなたが私の愛機~Asteion~
†††Sideアインハルト†††
学院祭より2週間ほど経過し、生徒の制服も冬仕様へと変わった頃。フォルセティのお母様であられる八神司れ――はやてさんより、待ちに待った私のデバイスが完成したと言う知らせを頂いたので、放課後となったこれから八神家へとお邪魔することに。
「楽しみだね~、アインハルトさんのデバイス♪」
「うんっ! どんなのになってるのかな~?」
「クールなアインハルトさんには指輪型とか? ルシルさんやシャルさんの指輪も綺麗で格好いいし」
「フォルセティは何か知らないの?」
「うーん、僕からアインハルトさんに伝わらないようにって秘密にされちゃってて。たとえ知っても漏らさない自信はあるんだけど。信用されて無いみたいでちょっぴり残念」
ヴィヴィオさん達が私のまだ見ぬデバイスに胸を躍らせている。そういう私も初めてのデバイスということで、連絡を頂いた朝よりずっと鼓動が高まっている。真正古代ベルカ式のデバイスを造れる技術者は限りなく少なく、開発の依頼料も高額だと聞いていましたし・・・。それを厚意で造って頂けるとなって・・・。感謝しても仕切れませんね。
「確かアインハルトは、装備型ではなく補助型を所望していたのですよね?」
「はい。覇王流も他の格闘技の例に漏れず、徒手空拳を主とする流派ですので、武器の所持および使用はしません。この拳、この体1つで闘い抜けるためのデバイスを、はやてさんに依頼しました」
イクスにそう答える。私は未だに覇王流のすべてを扱えるわけでも思い出しているわけでもない。ただ何か武器を使っての技は無いはず。ともあれ「本当に楽しみです」と私は目を閉じた。それから皆さんでレールウェイを利用して八神邸へ。
「ただいま~! お母さーん、アインハルトさんを連れて来たよ~!」
フォルセティさんが元気な声で挨拶をしながら玄関へと駆け出すと、「おかえり~!」とはやてさんが玄関より飛び出してきました。そして「いらっしゃい、アインハルト。ヴィヴィオ達も♪」と出迎えてくれました。
「「お邪魔します」」
「「「お邪魔しま~す♪」」」
「「いらっしゃ~い♪」」
はやてさんとフォルセティさんにリビングへと通されると、「やあ、いらっしゃい」かつてはシュリエルリートと呼ばれていたアインスさん、それに「です!」リインさんと、「ささ、座ってくれ」アギトさんが出迎えてくれました。案内されるままにソファへと座り、出されたお茶を頂く。
「ふぅ~。さてと。変に長引かせるのも趣味が悪いし。コホン。覇王流アインハルトの愛機の完成お披露目会ア~ンドお渡し会を開催しま~す!」
「いえ~いですぅ~!」「いぇいいぇい!」
「すまないが、主たちの余興に少しだけ付き合ってくれ。苦労した分、納得のいくデバイスの出来なのだ」
アインスさんがコソコソと囁き声でそう言いました。はやてさんがAIシステムの仕上げと調整を、リインさんがユニットベースを、アギトさんが外装(ということは、何か装飾が施されているのでしょうか?)を担当なさったようです。
「苦労なんてしてへんよ~。ノリノリで造らせてもろたわ~♪」
「ですね! お任せの部分も多かったですから、それはもうあーだこーだと試行錯誤♪」
「でもすげー楽しかった! だからアインハルトに気に入ってもらえると嬉しいぜ♪」
「それじゃあアインハルト。あなたのデバイスや、受け取って」
はやてさんがテーブルの上に1つの箱を置きました。私は「失礼します」と断りを入れてから箱の蓋を開けた。ヴィヴィオさん達と一緒に箱の中を覗き込むと、「猫?」と首を傾げました。箱の中には1匹の猫が蹲って眠っていました。
「え? あー・・・豹なんだけど・・・。クラウス殿下が豹を飼ってるっていうのは、あたしらがグラオベン・オルデンとしてベルカに居た頃に聞いてたから・・・」
アギトさんがそう言ったのを耳にした直後、「あ・・・!」クラウスの記憶が突如として蘇りました。シュトゥラは、豹を・・・雪原豹を兵士としても扱っていました。クラウスとオリヴィエ殿下は兵力としても、1つの命としても大切にしていました。
(そういえば・・・オリヴィエ殿下には特に気に入っていたつがいが・・・。気の早い殿下は、子が生まれる前より名前をいつも考えてくれていた・・・)
クラウスと殿下にとっても最後となるその年に、死産だった子がいた。その子に付けようとしていた名前がなんだったのかを思い出していると、「ダメか・・・?」とアギトさんが不安そうに私に尋ねました。
「え?・・・あ、いえ! そんな事はありません! ただ、私のような者がこんな可愛らしい子を持っていては変なのでは?と・・・」
ヴィヴィオさんのデバイスである“クリス”さんを見る。とても可愛らしいウサギの外装をしたデバイスだ。ふわふわと宙を舞い、言葉を交わせないでも手振り身振りで意思疎通が出来る。ヴィヴィオさんのような可愛らしい少女が持っていればおかしな事ではないですが、私にはあまりに似合わないような・・・。
「そうかい? 私から見ても君は魅力的な女の子だと思うけど?」
アインスさんがそう言ってくださると、ヴィヴィオさん達も「はい! とっても綺麗です!」とか「クールで格好いいです!」とか「強いです!」とか言ってくれた。あまりそういうのは言われ慣れていないので、「あ、ありがとうございます?」と最後に疑問符を付けてしまった。
「ふふ。では改めて。アインハルト」
「「「どうぞ♪」」」
「はい。では・・・」
雪原豹をモチーフとした小さなその子を両手で抱え上げる。まるで生きているみたいに温かく、やわらかい。その子がもぞもぞと動き出し、ゆっくりと目を開けて私を見て「にゃあ」と一鳴き。ヴィヴィオさん達が「可愛い❤」と黄色い声を上げました。
「その子の名前認証はまだ済んでへんから、名前を付けたってな」
「あ、はい」
「それは庭でやるですよ、アインハルト」
リインさんに続いてお庭の方へと移動。両手の平にちょこんと座るこの子は「にゃあ♪」と私の目をしっかり見つめて鳴いている。この子の名前はつい先ほどのフラッシュバックで決めた。死産した子の名前を、この子に付けようと思う。その子の代わりに私とともにこれからを一緒に生きていくために。
「(2人が好きだった物語の主人公。勇気を胸に諦めずに進む、小さな英雄の名前・・・)固体名称登録。あなたの名前はアスティオン。愛称、マスコットネームはティオ。・・・セットアップ・・・!」
“ティオ”を使っての武装形態への変身。デバイス無しと有りではやはりスムーズに変身を行える気がする。“ティオ”のサポートのおかげですね。両手を軽く開閉していると、「あ、髪型・・・」とヴィヴィオさんが漏らした。両手で両側の後ろ髪の結び目に触れると、以前までと結び方が変わっているのが判った。普段の私と同じ結び方だ。
「もしかしてアスティオンが調整したのでしょうか・・・?」
「かもな。そっちの結び方が良いって思ったんだと思う」
「そうなのですか?」
「にゃあ~♪」
私の肩に乗る“ティオ”が一鳴きして頬を摺り寄せてきた。どうやらそうらしいので、「ありがとう」とお礼を述べる。
「変身魔法は上手くいったようやね。んじゃ、ちょこちょこっと微調整をやってこか。時間は大丈夫か?」
「はい、問題ありません。お願いします!」
「うん。ヴィヴィオ達は・・・暇やったらトレーニング器具を使っててもええよ。今日は八神道場も休みやから、気兼ねなく使ってな~。フォルセティも手伝ってあげて」
「「「ありがとうございます!」」」
「うん、判った!」
それから私は、はやてさん達と一緒に“ティオ”の調整を行い、その間ヴィヴィオさん達はトレーニング器具で練習をした。その後、“ティオ”の調整をいくつも終わらしていき・・・
「では! これより流派ストライクアーツ、高町ヴィヴィオと、流派覇王流、アインハルト・ストラトスの1ラウンド3分の試合を始めます!」
ヴィヴィオさんと“クリス”さんを相手に私と“ティオ”の最終実践調整を行う事になった。お庭は広く、格闘戦を行っても問題ないくらいです。
「ヴィヴィオさん、クリスさん。お願いします」
「にゃあー!」
「はいっ! 精いっぱい頑張ります!」
私は前に突き出した右手の平に“ティオ”を乗せ、ヴィヴィオさんは頭上に掲げた右手の平に“クリス”を乗せ・・・
「セイクリッド・ハート!」
「アスティオン!」
「「セーットアーップ!」」
ともに変身しました。お互いに身構え、「レディー・・・ゴー!」というはやてさんの合図と同時に私はヴィヴィオさんへと向かって地を蹴った。
†††Sideアインハルト⇒イリス†††
ヴィヴィオが仮面持ちの連中に狙われていることを改めて認識できた学院祭より1ヵ月が過ぎた。あれから仮面持ちに関わっているかもしれない事件を最優先に回してもらうよう、第零特務機動隊――特殊機動戦闘騎隊を抱える脅威対策室にわたしは進言。それはつまりプライソンの負の遺産である巨大兵器が使われている戦争に干渉するということだ。
「(実際に兵器攻略に当たったのは4件中3件。3件中2件はハズレ。残り1件は今のわたし達の任務だ)・・・ミヤビ! 10時の方角、距離1000から戦車6台接近中! 迎撃をお願い!」
『了解です!』
――土鬼降臨――
モニターの1つに移るミヤビが応じて、半透明だった2本の角の色を茶色に変色させた。ミヤビは単独で指示した方面へ向かう。彼女のことを最後まで見ていてあげたいけど、「ああもう、しつこい!」敵がウザ過ぎてそんな余裕は無い。
『こちら本部! 各騎に緊急連絡! 南方、距離6000に列車砲を確認! 砲門は地上本部の建設予定地、司令部に向けられています!』
「了解! ルシル! 上空から迎撃をお願い!」
『ナイト2了解。これより砲撃の迎撃に移る。各騎、支援頻度が下がることを留意せよ』
上空で戦場すべての戦闘に支援射攻撃を行ってたルシル。まぁ他の特騎隊メンバーの戦力からいってあんまり必要の無いものだけど。ともかく、わたしが今いる場所に砲門が向けられてる。たとえ砲撃を撃ち込まれても逃げればいいだけなんだけど、今回の任務にはこのエリアを護る、というのもあるし、逃げるわけにはいかない。
「ルミナ、セレス、どっちか列車砲の攻略に行ってくれない?」
『あー無理。相手は魔力を持たない、質量兵器だけの武装兵。間違って殺さないように注意しながら戦車などの兵器を相手にしないといけないこの窮屈感・・・』
『同じく。管理局もこの数年で嫌われたものだよ』
クラリスがそう言って溜息を吐いた。まぁそれだけじゃないと思うよ。わたし達が今いる世界は、管理世界に加わるかどうかって言う瀬戸際に立つヴィエルヴァキア。管理世界入りを果たせば第69っていう世界番号を得る。けどま、管理世界入りを反対する人たちもまた出てくるわけで。それが現在進行形でわたし達が戦ってる敵の正体だ。魔力資質を持たない人たちが、魔法や魔導師によって自分たちが追い込まれるんじゃないかって不安から、このろくでもない戦争を始めたわけだ。
(この世界での魔導師の絶対数は限りなく少ない。でもそれも今の内だけで、移民してきた資質持ちと交わって、数年、十数年後には資質持ちの人口も増えるとは思う・・・)
でも魔力資質を持って生まれるかは神のみぞ知る、だ。何せ魔力素も無い地球で、なのはやはやてっていう超絶魔導師を生むことだってある。このヴィエルヴァキアは魔力素が存在しているから、時が経てばもっと増えてくる。でも今現在の持たざる人は最期まで持たざる人。それが戦争の動機。
「・・・わたしが行く。わたしからの指示が止まるけど・・・。ルシル、上空から見て戦場の動きを各騎に報告してあげて」
『了解した。気を付けてな、ナイト1』
――真紅の両翼――
ルシルからの気遣いに「えへへ♪」にやけながらもわたしは背中から魔力で編んだ翼を展開して、「ナイト1、出ます!」と飛び立つ。空に上がることでわたしも列車砲を視認にすることが出来た。デカイけど、プライソン作の“ディアボロス”ほどは大きくもないし、砲台も2台じゃなくて1台しかない。手抜き感というか試作感というか・・・。
『あの、シャルちゃ――じゃなかった、ナイト1。私たちも出撃しようか?』
『命令をいただければ即時に出撃できます』
『私もいつでも行けますぅ~♪』
今回というか兵器が確認された任務には、すずから第零技術部のメンバーに同行してもらってる。今回は護衛としてセッテ、すずかの補佐としてクアットロが来てくれてる。申し出は嬉しいけど、すずか達は客人だから、「気持ちだけ受け取っておくよ」ってお断りをする。
『そう? でも何か手伝える事が出来たら、遠慮なく言ってね・・・?』
「うん、ありがとう、すずか」
すずかとの通信を切った直後にドォーン!と砲撃が発射された。魔力でもエネルギーでもない、単純な物質的な砲弾。ちょうど真っ直ぐわたしの方に向かって来ているし、「初弾はわたしが潰す!」って報告を入れて・・・
「ま、砲塔を斬り落とせばそれで終わる・・・!」
――剣神モード――
わたしの固有スキル・絶対切断アプゾルーテ・フェヒターを発動。“キルシュブリューテ”の柄を両手で握りこんで「せいやっ!」と、すれ違いざまの砲弾をバッティング。砲弾は打ち返される事なく真っ二つに斬り裂かれて、わたしの後方へと十数mと滑空した後に爆散した。
(アレは冷気・・・! 砲身を冷却してる・・・!)
目に見えるほどの白い煙が列車砲から噴出した。列車砲“ディアボロス”と同じだ。連続して撃てない仕組みなんだ。ならその間に叩けばいい。
『敵航空魔導師が接近中! 高射砲・・・撃てぇーーー!』
通信でもないただの拡声器を使っての指示が発せられた。列車砲の周囲に停車している10台近い車両の後部に設置されている高射砲から無数の弾幕が放たれてきた。
「キルシュブリューテ!」
≪カートリッジロードっ!≫
――パンツァーガイスト――
全身を魔力で覆って防御力を高めつつ、弾幕の中に突っ込む。ガンガン当たってくるけど、カートリッジをロードした上でのわたしの防御力なら、この程度の弾幕くらい完璧に防ぎきれる。まず車両1台目。機関銃を手にした民兵が「化け物め!」って怯えと怒りを宿す瞳で睨み付けてきた。
「あなた達ヴィエルヴァキア人の中にも魔導師がいるでしょ。その人たちにも化け物と言って蔑むの?」
「当たり前だ! 少数派なんだよ、魔導師は! 今まではそれで良かったんだよ!」
「便利な道具は、ただ使われていれば良いんだよ!」
「これまではずっとそうだった! だというのに、政府が勝手に管理局と連絡を取り合って、魔導師を今さら保護しようなどと!」
「出て行け、化け物!」
「失せろ、余所者!」
魔導師を奴隷として扱う、か。差別はどの時代、どの世界でも存在してる。差別が消える事は無いって思う。人なんだもの、他人と違うところが気になってしょうがない。机上の戦争で解り合えればいいんだけど、コイツらを説得するにはまた随分と時間が掛かりそうだし、ここはちょろっと痛い目に遭ってもらおう。
「でもさ、そうやって邪険にし続けた末路は、ちゃんと背負った方が良いんじゃない? 魔導師の恩恵を受けていながらの恩知らず。今回は痛い目を見て反省しなさい」
“キルシュブリューテ”を振るって高射砲の砲身を切断する。民兵が「生身で、しかも単独でこんな事が出来る化け物とどう解り合えと!?」って一斉に銃口をわたしに向けた。
「風牙!」
≪烈風刃!≫
後方に飛び立ちながら"キルシュブリューテ”を薙ぎ払って、風圧の壁を民兵たちに打ち込んでやった。連中は「うわぁー!?」って吹っ飛んで地面に叩き付けられたけど、打ち身と骨折程度で済むでしょ。それから列車砲の周囲に停車されている車両と高射砲、武装した民兵を斬り伏せ続けながら、『発射!』って号令とともに発射される砲弾を・・・
「させないっつうのう!」
――光牙烈閃刃――
物理破壊設定にした剣状砲撃で蒸発させてやる。これはルシルの出番は無いかな~。んじゃ、メインディッシュの列車砲攻略といこうか。
『こちらシャーリーン。ナイト1。各戦線の戦闘が終了しました。各戦線の民兵は全員捕縛。死者0、重傷者0です』
「了解。各騎は警戒継続したままでその場で待機。列車砲攻略後、敵軍への降伏勧告を行うように、ヴィエルヴァキア政府に伝えておいて」
『了解です。お気をつけて』
シャーリーンとの通信を切ったと同時に「飛刃・一閃!」と上段に構えていた“キルシュブリューテ”を「えーい!」と連続で振り払った。放つのは絶対切断の効果を持った魔力刃で、40mほどある列車砲の砲身をざく切りに処す。轟音を立てて崩落する列車砲から「退避ー!」と作業員らしき人たちがわらわらと脱出し始めた。これより政府から民兵軍に降伏勧告が伝えられる予定だ。とりあえず、その前に列車砲周りに居る民兵および作業員を拘束しておかないと・・・。
「えっと・・・――っ!?」
――幻惑の乱景――
投降するように呼びかけようとしたその時、わたしたち特騎隊とはまた別の魔力反応が発生した事に気付いた。ヴィエルヴァキアの魔導師も、今回の戦闘には参加しない手はずになってる。何せ戦闘用の魔法が無いからだ。
「・・・って! なんか列車砲が増えてるんだけど!!」
攻略したばかりの列車砲の後方に、同型の列車砲が3台と横に並んでいた。砲台が金属の擦れ合う音を発しながら回転して、砲門を予定地へと向けた。
「各騎! 砲弾に最大警戒! ナイト2、わたしが漏らした砲弾の迎撃用意!」
全体通信でそう指示を出した直後、各列車砲から砲弾が連続で発射された。迎撃するために“キルシュブリューテ”の柄を握り直した時、「撃て撃てぇぇぇーーー!」っていう号令と同時に発砲音が一度に何十回と聞こえた。
「あぐっ・・・!?」
砲弾に気を取られ過ぎてた。新たな民兵が放ってきた何百発っていう弾丸を全身に受けてしまった。パンツァーガイストも解除されていたし、意識も砲弾の方へと集中してたから防御も回避も疎か。骨が折れる音が頭の中に届く。目の前が真っ暗になる・・・けど、「墜ちてたまるか!」ってかぶりを振って意識を繋ぎ止める。
「撃て! 撃て!」
指揮官らしき男性の命令に応じた民兵たちが、さっきみたく容赦なく重火器でわたしを狙い撃ちしてくる。でも今度は大人しく当たってやるもんか。背中の魔力翼を何度も羽ばたかせて、宙を舞うようにして弾幕を躱し続けつつ・・・
――飛刃・一閃――
新しく現れた列車砲の砲身へ向けて絶対切断の魔力刃を放つ。向こうには、というか管理世界の中でもこの一撃を防御できる術はほぼ無い。民兵たちが魔力刃に銃弾を撃ち込みまくるけど、それすらも切断して、目標だった列車砲の砲身を真っ二つにした。
「(あーもう痛い! 左腕折れてんじゃんこれ・・・!)ナイト2! 砲弾の迎撃は!?」
『問題ない! 君こそ大丈夫か! かなりの銃弾をもろに受けたぞ!』
「左前腕を骨折しちゃった・・・」
『判った。俺が迎撃に出る。ナイト1、君は下がれ。シャーリーン。エイダー1を待機』
『シャーリーン了解です。ナイト1、即時帰艦をお願いします』
「・・・ごめん。ナイト1、帰艦する」
とりあえず列車砲2台を潰せたんだから、結構な仕事はしたと思う。離脱するそんなわたしに向かって「回復してからまた来る気だ! 逃がすな!」って、無事な高射砲までも使ってわたしを狙ってきた。改めて思うけど、それって対人兵器じゃないでしょうが。
「この・・・!」
――雷牙神葬連刃――
イラッとしたわたしは、絶対切断のスキルを解除したうえで雷撃の斬撃を連続で放って、「ぎゃぁぁぁ!?」と連中を感電させる。そんな中、「アイツは・・・!」と民兵たちの中に見覚えのある格好をした奴を視界に捉えた。
「仮面持ち・・・! やっぱり・・・!」
逆五角形の仮面とセーラー服。マリンガーデンで、ティアナとマリアージュ事件の首謀者として逮捕されたルネッサ・マグナスの前に現れた奴で間違いない。ソイツがわたしに向かって飛んできた。
(アイツは相手の魔力を学習して無力化してくるっぽいし、倒すなら一撃で戦闘不能にしないと詰む・・・!)
さらに防御力に自信があるようだし。ここはルシルかルミナに頼るべきか。最悪、さっきまでのわたしの魔法を見られていた可能性もあるわけだし。だから「逃げるが勝ち!」ということで、変にちょっかいを掛けないようにしよう。
「って! 回り込まれた!?」
チラッと後ろを見て、次に前を見るとそこに仮面持ちが居た。ほぼ無意識に右手に握ってる“キルシュブリューテ”を仮面持ちに向かって振るった。アイツは防御でもなく迎撃でもなく、ヒラリと回避。それでもわたしの斬撃範囲内に入ってるから、「ふん!」と“キルシュブリューテ”を薙ぎ払うけど、またふわっと避けた。
(ひょっとして遊ばれてる・・・?)
何度斬り掛かろうとしてもアイツは反撃を一切せず避けてばかり。民兵たちの銃撃や高射砲と列車砲の砲撃も止んでる。なんだろ、何かが引っ掛かる。と、意識がちょい散漫になったその時・・・
「い゛っ・・・!?」
アイツがいきなり距離を詰めてきてわたしの折れた左腕を鷲掴んできた。これがまぁ痛くて、一切の行動が一瞬とはいえ止まってしまった。次にアイツは左手でわたしの頭を鷲掴んできた。
「この・・・放せ!」
「ああもう! いい加減にしろ! 呪われし者に、汝の施しを!」
「はい・・・?」
喋ったかと思えばそれはルシルの声で、しかも術式の名前だった。視界が彼の魔力光であるサファイアブルーに満ちてく。
「ハッ・・・!」
視界が晴れて、目だけを動かして周囲を確認するとそこはシャーリーンの医務室だった。わたしはベッドに寝かされているようで、被っている布団を退けようと両手を動かそうとしたら、「いっつ・・・!」全身に痛みが走った。
「なに・・・?」
折れたはずの左腕もまぁ痛いけど、折れた割には動かせる。痛みに耐えながら上半身を起こす。それで気付いたんだけど、全身に包帯を巻かれてた。しかも服も入院の際に着る病衣だし。
「イリス・・・!」
「ティファ・・・」
白衣姿のティファレトが医務室に戻ってきた。わたしは彼女にどういった経緯で医務室にいるのか、そもそも任務はどうなったかを尋ねた。
「・・・本当に憶えていないのね。あなたは列車砲を無力化した直後、いきなり棒立ちになったの。それで民兵たちの集中砲火を受けた。全身のダメージはその所為。しかもその後、重傷なのに帰艦指示がルシル副隊長から出ても戻らず、誰も居ない、何も無いところをキルシュブリューテで攻撃を始めて、さらにまた集中砲火を受けた。そして回収しに赴いたルシル副隊長にまで攻撃を仕掛ける始末。強制的にイリスの意識を落として回収、私とアイリ医務官とで治療に当った」
「なにそれ・・・。それってまるで・・・!」
「ええ。クアットロ教官の推察では、強力な幻覚魔法なのでは?ということだよ」
「魔力反応はちゃんと捉えているのね?」
「ええ。副隊長たちが過去の魔導犯罪者の魔力パターンを調査したけれど、該当者はなしとのことだった」
「そう・・・。あ! 任務はどうなったの!?」
まずそっちを気にするべきだった。特騎隊の隊長が負傷して眠ってたなんて恥以外の何ものでもない。
「イリスが意識を失ってからすでに10日と経過した。その間に特騎隊の任務はすべて完了となり、今現在は本局に向けて航行中よ」
「と、10日!? そんなに!? ルシルってば、そんな強くわたしを落としたの?」
「というよりは、イリスが負ったダメージを回復させるため、私が強制的に眠らせていたの」
「あ・・・そう」
何はともあれ任務は果たしたってことか。なら良いか。溜息を吐きながら俯いたところで、「悪いニュースとすごく悪いニュースがあるけど、どちらから聞く?」ってティファが選択肢を出してきた。
「どっちにしろ悪い報せじゃん。・・・じゃあ悪い方から」
そう選択すると、ティファはベッドから離れてキャスター付きの全身鏡をわたしの元へ持ってきた。そしてここで始めて気付いたわたしの体の異常。
「~~~~~~っ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
出撃前はお尻辺りまでの長さだった後ろ髪が、今じゃちょい肩に掛かるセミロングヘアになってた。大事に大事に伸ばしてケアし続けてたわたしの髪が・・・。また伸ばせば良いって話だけど、生まれてからの23年間ずっと守ってきたのに、まさかこんな形で失うなんて・・・。
「これ以上の悪いニュースがあるっていうなら教えて・・・」
「では。聖王教会本部が、管理局法からの脱退を全管理世界に表明、これが本局に受理された」
「・・・・・・・・・はい?」
いやいや、ちょっと待って。なに言い出すの。管理局法から脱退って・・・。各地上本部に届けずに管理世界を行き来できて、行動も縛られなくなるけど、支援も協力も出来なくなって孤立するのは間違いない。確かにすごく悪いニュースだった。後ろ髪の喪失を忘れてしまうほどに・・・。
後書き
次話から本エピソードの要であるベルカ再誕編へと突入します。が、なんと驚いた事に今なお過程がおぼろげなのです!
結末は連載前から考えてますが、それに至るまでの過程がまだグニャグニャのフワフワです。
本エピソードを始める前に1ヵ月も頂いたのに、書けば書くほど決めていたプロットがゴミ箱逝きに・・・。もうすでに前エピソードの予告が役立たずな状態です。
これなら再誕編の方を潰して、血の紅月編をやっておけば良かったとちょっぴり後悔。
ですので、次の投稿はちょっと間が空きそうです。
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