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英雄伝説~西風の絶剣~

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第34話 空賊との戦い

side:リィン


 ……ううん、あれ?俺は何をしていたんだっけ……うう、頭が痛い……


「リィン」


 誰かに名前を呼ばれたので振り返ってみるとなんとそこにいたのは……


「フィー!?」


 行方不明になっていたフィーだった。


「ど、どうしてフィーがここに!?いままでどこにいたんだ!?」
「?……リィンが何を言ってるのかわからないけど私はずっとここにいたよ?」
「ここって……あれ?ここはヘイムダルで宿泊していたホテルじゃないか……まさか今まで夢でも見ていたのか?」


 俺は頭を抱えて何があったのか考えるがそんな俺をフィーがいきなり抱きしめた。


「フィー?何をしているんだ?」
「ん、なんだかリィンの様子がおかしかったから……もしかして疲れてる?」
「確かに妙に頭が痛いんだよな……」
「そうなんだ、じゃあ休まないと」


 フィーはそう言うと俺をベットに突き飛ばした。


「うわ!?」


 ベットに倒れこんだ俺の頭をフィーが持ち上げて自分の太ももに置いた。


「リィンは疲れているんだよね?偶にはわたしがこうやってリィンを癒してあげるね」
「いや、流石に恥ずかしいんだけど……」
「二人っきりだからいいじゃん」


 フィーは俺の頭をそっと撫でると子守唄を歌いだした。いかん、なんだか眠くなってきた……


「ふふっ。今のリィンすっごく可愛い、赤ちゃんみたい」
「勘弁してくれ……」


 起き上がろうとするがフィーの柔らかな太ももと綺麗な声の子守唄がどんどん俺の意識を眠りへと誘いこんでくる。


「リラックス、リラックス……リィンはいつも頑張ってるもんね、偶にはわたしに甘えてもいいんだよ?」
「フィー……」


 俺は等々抗う気も無くしてしまいフィーの腰に抱き着いて思う存分甘えだした。兄という立場も忘れてフィーのお腹に頭をこすりつける。


「キャッ……もう、いきなり抱き着くのは禁止」
「んぅ……フィー……」
「いい子いい子……お休み、リィン……」


 そんな俺をフィーは仕方ないなという風に微笑んで俺の頭を撫でる。フィーに優しく頭を撫でられながら俺は再び夢の中へと入っていった……














「リート君、大胆なんだね♡」


 ……は?なんで俺はオリビエさんに抱き着いてるんだ……?


「う、うおおぉォォおおォ!?」
「がふっ!?」


 身の危険を感じた俺はオリビエさんにアッパーをかましてしまった。オリビエさんは綺麗にベットへと倒れていった。


「こ、ここはヴァレリア湖の宿屋か……?」


 やはりさっきのが夢だったのか。そうだ、俺はシェラザードさんに無理やりお酒を飲まされてそれから寝てしまっていたのか……


「いたた……酷いよ、リート君」


 オリビエさんは顎をさすりながら起き上がってきた。どうやらアッパーを喰らう寸前に自分から後ろに飛んでダメージを軽減したようだ。


「オリビエさんが悪いんですよ、人の寝こみを襲おうとする不埒ものには当然の対応です」
「酷いなぁ、僕はリート君を起こしにしたんだよ。そしたら君がいきなり抱き着いていたんじゃないか」
「えっ?それは本当ですか?」


 だったらマズいな、オリビエさんは悪くないのに手を出してしまったぞ。


「それは申し訳ございませんでした。俺の勘違いでアッパーなんかしたりして……」
「それはもういいよ、それよりもフィーというのはどんな子なのかな?」
「……もしかして俺、寝言言ってました?」
「うん、僕に抱き着いて「フィー……フィー……」ってうわ言のように言ってたよ」


 ……やってしまった。いくらお酒を飲んでしまったからとはいえうっかりフィーの名前を出してしまうなんて……


「オリビエさん、忘れてください」
「えー、無理」
「そこを何とか」
「いや無理だよ、だってメチャクチャ気になるもん。もしかして君のこれかい?」


 オリビエさんはニヤニヤしながら小指を立てる。くっ、ムカつく……


「……その子は俺の妹です。後フィーじゃなくてフィルです。さっきのは俺が寝ぼけて間違えていただけですから」
「へえ、リート君にも妹がいるのか。僕にも弟と妹がいるんだけどどちらも可愛くてね、自慢の家族なんだ」


 オリビエさんにも兄弟がいたのか……でもこの人の兄弟だから性格も似てるのかもしれないな。


「弟は母親によく似てるんだけど妹は僕や父親に似たのか結構お茶目な性格なんだ」
「なるほど、あなたの性格の由来は父親からなんですね」
「どっちももう13歳になるんだけど、弟はともかく妹はそろそろお婿を探さないといけない年でね、リート君が良かったら妹の婚約者にならないかい?」
「冗談はやめてくださいよ、ただの一般人が貴族に婿入りなんてできるわけがないでしょう?」
「そうかな?妹なら君を気に入ると思うんだけどね」
「はいはい、お戯れはそこまでにしてください」


 これ以上は話が脱線しすぎて修正が効かなくなるので俺は話を変える。


「それで何があったんですか?エステルさん達もいないしあなただけですよね」
「うん、どうやらシェラ君達は僕らを酔わせてここに置いていくつもりだったんだ」
「道理であんなに絡んできた訳だ、最初から計算していたんですね?」
「そうみたいだね」


 やっぱり一般人を連れて行くのには思う事があったんだろうな。


「じゃあ俺たちはここで大人しくしておきましょう」
「何を言ってるんだい?こんな楽しいパーティーに出席しないわけにはいかないだろう?幸いシェラ君達が出て行ってまだそんなに時間は立ってないし今から行けば十分間に合うさ」
「いやでも……ってまた引っ張らないでくださいよ!?」
「さあ真夜中のパーティーにレッツゴー♪」


 俺は抵抗したが寝起きということもあってズルズルとオリビエさんに引きづられていった。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


 俺とオリビエさんは陰でエステルさん達が空賊と謎の黒づくめの男の会話を盗み聞きしてるのを宿屋の陰から見ていたが突然エステルさん達が街道に出ていった。どうやら空賊たちが止めてある飛行船を探しに向かったようだ。俺とオリビエさんは琥珀の塔辺りに人の気配を感じたので慎重に近づいていく、するとエステルさん達が空賊たちの様子を伺っているのが見えた。


「エステル君、こんばんわ」
「オ、オリビ……!」
「エステル、静かに……」


 オリビエさんの姿を見て驚いたエステルさんが叫ぼうとしたがヨシュアさんが口を塞いだ。


「……驚いたわね、二人とも酔いつぶしたと思ったんだけど」
「ふっ、任せてくれたまえ。胃の中のものを全て吐き出してから水をかぶってきたのさ」
「あ、ありえない……」
「なんというか、執念ですね……」


 オリビエさんはそうやって酔いを覚ましたのか……俺はお酒には弱いから今も頭が痛いんだけど夜風に当たってたからかちょっとは楽になってきた。


「それにリート君まで連れてきちゃって……全く未成年にお酒を飲ませてまで止めようとした私の苦労が台無しじゃない」
「す、すいません……オリビエさんを止めようとしたんですが……」
「それよりも君たち、ここで空賊を捕らえるのは面白くないじゃないか」


 オリビエさんは無理やり話を変える。


「別に面白くなくていいのよ」
「いや、これは真面目な話。ここで戦ってあの空賊やリーダー格の兄妹を捕らえたとしても彼らがアジトについて口を割らない可能性がある。それどころか人質を盾にして釈放を要求してくるかもしれないし他の仲間が帰ってこない仲間を疑ってアジトから逃げてしまうかもしれない」
「確かに向こうには人質がいますからそれをどうにかしないといけませんね」


 オリビエさんの真面目な話に思わず感心してしまったが、確かに空賊たちには人質がいるのでこのままあいつらを捕らえても人質を盾にされたら意味がない。それに一人でも逃がしてしまえば報復に合うかもしれないから纏めて一網打尽にするのが一番だろう。


「じゃあどうするのよ」
「僕にいい考えがある、彼らにアジトまで連れて行ってもらえばいいのさ」


ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「……まさかこんな大胆な作戦を思いつくとはね。オリビエも案外やるじゃない」
「うん、上手くいってよかったね」


 オリビエさんが言った作戦とはなんと空賊の飛行船にこっそり乗り込んでアジトまで連れていってもらいそこで人質を解放して空賊たちを一網打尽にしようという作戦だった。幸いにも空賊たちに見つからず奴らのアジトまで来ることが出来た。


「それにしてもまさか空賊たちのアジトが『霧吹き峡谷』にあったとは思わなかったわね」
「霧吹き峡谷ってボースとロレントの境にある霧の濃い峡谷のことよね?」
「それに視界の悪さだけじゃなく大型船は侵入できない高低差の激しい入り組んだ地形……軍も中々発見できない訳ですね」


 外は一面真っ白で先が見えない。空賊たちはよくもまあこんないい場所を見つけたものだ。


「さてと、あまりグズグズはできないわね。空賊たちを制圧しつつ監禁されている人質たちの安全を確保するわよ。勿論カシウス先生もね」
「うん……!」
「了解です!」


 俺たちは人質解放と空賊たちを制圧するためにアジト内部へと入っていった。





「……案外静かなんですね」


 空賊たちのアジトにはほとんど人の姿が無かった。見かけるのは何故かいる魔獣ばかりだ。


「おそらく空賊たちは徹夜明けで活動していたから今は就寝しているんでしょうね。でもこれはチャンスだわ、今の内に人質を奪還できれば空賊たちは軍に対する切り札を失う事になる」
「そうなればもう空賊たちに恐れることはなくなりますからね」


 辺りを警戒しながら更に奥へと進んでいく。暫く奥に進むと何人かの男の声が聞こえる部屋の前についた。ヨシュアさんがこっそり中を見ると空賊の手下たちがお酒を飲んで談笑している光景が見えたようだ。


「どうする?ここであいつらを無力化しておく?」
「そうね、万が一見つかった時にあいつらに来られるのは厄介だからここで無力化させておきましょう」


 エステルさんの提案にシェラザードさんが同意する。俺たちはタイミングを計ってから部屋の中に突入した。


「あん……?」
「なんだ?新入りか?」


 男たちは相当酔っているようで俺たちが侵入者だということに気が付いていない。


「二の型、『疾風』!!」


 俺は高速で抜刀して空賊の手下たちに峰打ちで攻撃を仕掛ける。男たちは反応する暇もなく地に倒れる。


「あら、やるじゃない。流石は先生と同門の事はあるわね」
「恐縮です。まあ今回は相手が油断していたから上手くいったんですけどね」


 俺たちは気絶した空賊たちを縛り上げて部屋の隅にまとめておく、そして更に下の階層に向かった。


「それにしてもここって一体なんなのかな?あいつらが作ったにしては大きいし古めかしいわよね?」


 下の階層に向かう途中でエステルさんがそう呟いた。確かに盗賊の作ったアジトにしては構造がしっかりしてるし何かの基地みたいだ。


「大昔の城塞のような雰囲気があるし昔に作られた砦を偶然見つけた空賊がアジトとして使っているんじゃないかしら?」
「大崩壊から数百年以上は戦乱の世が続いたそうだからね。こういうものが残っていても不思議じゃないだろう」


 オリビエさんが言った大崩壊というのは1200年前に天平地位が原因で起こったと言われる古代ゼムリア文明の崩壊のことだ。


「へえ~、そう言えばアルバ教授が話してた内容に出てたわね」
「それにしても発見されにくいとはいえこんな砦をアジトにするなんて悪趣味ね。魔獣も放置されているし全体的に汚いし男所帯何てこんなものかしら」


 シェラザードさんの話を聞いて俺とヨシュアさん、オリビエさんが苦い表情をして流石にそれは違うと思うよと反論する。でも確かに西風の旅団もマリアナ姉さんや女性団員がいなかったらこうなってたかもしれない。団長やゼノは面倒くさがり屋だしレオくらいしか綺麗好きがいないんだよな。
 今はいないガルシアが見たらきっと激怒するんだろうな……


 そんな会話をしながら先を進むと再び男たちの話声が聞こえる部屋の前に来た。


「また話声が聞こえるね、どうする?」
「もしかしたらここに人質がいるかもしれないわね。敵の数も少ないしここは突入して一気に肩をつけましょう」


 再びタイミングを計り中に突入する。


「お、お前たちは!?」
「遊撃士どもだと!?」


 突然現れた俺たちに空賊たちは動揺している。


「どうやらその奥の部屋に人質が監禁されているようね?大人しく降伏すればよし。さもなくば……」
「ふざけるな!」
「やっちまえ!」


 空賊たちは武器を出して襲い掛かってきたがさっきよりも人数は少なくあっという間に制圧することが出来た。


「く、くそがぁ……」


 空賊たちを制圧した俺たちは奥に監禁されていた人たちの元に向かった。


「皆、無事!?」
「あ、あなた方は……?」
「僕たちは遊撃士協会の者です、あなた方を救助しにきました」
「遊撃士だって!?じゃあ助けが来たのか!」
「よ、良かった……」
「私たちは助かるんですね」
「助かった……」

 捕らわれていた人たちはエステルさんたちが遊撃士だと知ると安堵した表情を浮かべた。


「私は定期船『リンデ号』の船長を務めるグラントという。本当にありがとう、なんとお礼を言ったらいいか……」
「あなたが船長さん?お礼は後でいいわ。それよりも……」


 エステルさんは人質たちがいる部屋を見回している。


「あれ?いない……ねえ船長さん。定期船に乗っていた人質はここにいる人達だけかしら?」
「ああ、ここにいる者だけだが……」
「うそ……」


 エステルさんはカシウスさんを探していたようだがカシウスさんは乗っていないようだ。


「カシウス・ブライトという人が定期船に乗っていませんでしたか?遊撃士協会の関係者なんですが……」
「カシウス・ブライト……どこかで聞いたような?」
「あ、あの船長……あのお客様の事じゃありませんか?離陸直前に船を降りられた……」
「ああ、そういえばそんな人がいたな」



 人質の一人がカシウスさんについて何か知っているようだ。


「ど、どういう事!?」
「いやボースを離陸する直前に船を降りた人がいたんだよ。王都から乗ってきた男性で確かそんな名前だったな」
「あ、あんですってー!」


 まさかの乗っていなかったという展開にエステルさんがポカーンと口をあけてしまった。


「だ、だって乗客名簿には……」
「すまない、離陸直前だったから書類の手続きが間に合わなくてね。ロレント到着後に手続きするはずが空賊たちに捕らえられてからそのままなんだ」 


 そんな事情があったのか、通りで空賊たちが定期船を制圧できたわけだ。カシウスさんが乗っていたら今回の事件は未然に防がれていただろうしようやく疑問がとけたよ。


「もう父さんったら人騒がせな……でも変な事に巻き込まれてなくてよかった……」


 エステルさんは少し怒っていたがカシウスさんが無事だと知ると涙を流していた。


「取り敢えず今は空賊たちのボスを捕らえに行くわ。申し訳ないけどもう少しだけここで辛抱していてくれないかしら?」
「わかりました。どうかお気を付けて……」


 俺たちは空賊のリーダー格であるあの兄妹とその二人が話していたドルンという空賊のボスを捕らえるためにアジトの奥を目指した。


「あ、見て。あそこから聞き覚えのある声が聞こえるわ」


 アジトの一番下の階層に来た俺たちは階層の奥にある部屋からエステルさんが聞き覚えのある声が聞こえたと言う。おそらくジョゼットとキールだろう。もう一人の声は年の取った男性の声でエステルさん達も知らない声らしい、この声の主が空賊のボスなのだろうか?


「何かを話しているようね……」


 俺たちは扉の隙間から中の様子を伺う、中にはジョゼットとキール、そして左目に傷のある男性が人質について話していた。


「そうか、女王が身代金を出す気になったか。これで貧乏暮らしともオサラバだな」
「兄貴、油断は禁物だぜ。身代金はこれからだ」
「うん、まずは人質解放の段取りを決めなくちゃね」
「人質解放だと?馬鹿言うな、そんな面倒なことしないでミラ頂いたら皆殺しにすりゃいいじゃねえか」


 なんてことだ、空賊たちのボスは身代金を受け取ったら人質を皆殺しにするつもりだったのか?でもあの二人は驚いた表情を浮かべている……意見の食い違いでもあったのか?


「ド、ドルン兄……?冗談きついよ?」
「冗談な訳ないだろう?連中は俺たちの顔を知っているんだぜ?リベールから高跳びしても足が付くかもしれねえだろうが」
「そんな……年寄とか小さな子供もいるんだよ!?本当に殺しちゃうつもりなの!?」
「ジョゼット……おめぇはいつまでたっても甘ちゃんだな。ママゴトやってるんじゃないんだぞ?」
「そ、そんな……ボク……」


 どうやらあの二人は人質を解放しようとしていたようだがドルンという男性は初めから殺すつもりだったようだ。しかしなにか様子がおかしい様な気がするな。


「兄貴……悪いがそれだけは俺も反対だ。今やってることだって大概なのにそこまでやっちまったら俺たちは本物の外道になっちまうよ。そんな血まみれのミラで故郷を取り戻して兄貴は誇れるのかよ!」
「キールよぉ、おめぇいつからそんな偉くなったんだ?」
「えっ?」
「ナメた口叩くんじゃねえ!!」


 バキッ!!


 ドルンは急に表情を怒りで染めるとキールの顔を思いっきり殴り飛ばした。


「があっ!?」
「キ、キール兄!?」


 ジョゼットは壁に叩きつけられたキールの元に駆け寄っていく。遠くから見ても頭から血が流れているのが分かる位の傷だ。


「不味いわ、あのままじゃドルンって奴がキールって人を殺しかねないわね。皆、突入するわよ!」
「「了解!」」


 俺たちは意を決して部屋の中に入った。


「そこまでよ!」
「あ、あんたたちは……!?」
「遊撃士ども!?どうやってここに……」
「あなた方が琥珀の塔の前に止めてあった飛行船にこっそりと乗り込ませてもらいました」
「いわゆる密航って奴だね。中々スリリングな体験だったよ」
「くそ、やられちまったか……」
「遊撃士協会の名に置いてあんたたちを拘束するわ。逆らわない方が身のためよ?」
「くっそー……ここまでなの……?」


 バガガァァァンッ!!


 突然の轟音に俺たちは驚いてしまった。見ると今まで黙っていたドルンが片手で木製の机を粉々に叩き潰していた。


「キール……ジョゼット……てめぇらにはほとほと愛想が尽きたぜ。こんなヘマしやがって……」
「ド、ドルン兄……?」
「こうなりゃてめぇら全員ぶっ殺して俺だけがミラを手に入れてやる!」


 ドルンは近くにあった導力砲を片手で軽々と持ち上げるとなんと自分の妹であるジョゼットに向かって発砲した。


「あ……」
「あぶない!!」


 間一髪でヨシュアさんがジョゼットを押し倒し導力砲の一撃は後ろの壁に炸裂した。


「大丈夫?」
「あ、うん……ありがとう……」


 ヨシュアさんはジョゼットに怪我がないか確認すると彼女を安全な位置まで移動させてこちらに戻ってきた。
 

「チッ、余計なことをしやがって」
「自分の妹を攻撃するなんてお前それでも兄貴か!」


 俺は自分の妹をためらいもなく攻撃したドルンに思わず口調を荒げてしまう。


「自分の足を引っ張る役立たずなんか妹なんかじゃねえよ!」
「こいつ……!」


 ドルンの言葉に思わず血が上ってしまいそうになるが俺は深呼吸をして精神を落ち着かせた。


「明鏡止水、わが心は無……」
「リート君、それって……」
「八葉一刀流に伝わる呼吸法ですよ、シェラザードさん……もう大丈夫です」
(怒りで突っ込んだりしないか心配したけどどうやら大丈夫そうね……)


 どうやらシェラザードさんに心配をかけてしまったようだ。でももう落ち着いたから先走ったりはしない。


「皆、相手は様子がおかしいわ!油断しないで戦いなさい!」
「「了解!!」」


 ドルンが撃ってきた砲弾をかわしてエステルさんがアーツの体制に入る。俺は太刀を構えてドルンに攻撃を仕掛けた。


「はあっ!」


 俺の一撃がドルンの足に当たり血が地面にまき散らされる。相手は手加減できるような相手じゃないと判断して死なないように機動力を奪うつもりで攻撃をした、だがドルンは切られたことも構わずに導力砲をハンマーのように振り回して俺を殴った。


「ぐっ!?」
「リート君!?」


 俺は防除をしたが思っていた以上の力に吹き飛ばされてしまった。エステルさんが背後から氷の刃を放つアーツ『アイシクルエッジ』を発動させた。


「ぬうんッ!!」
「嘘でしょ!?」


 だが氷の刃はドルンの導力砲で粉々にされてしまった。


「援護するわ、『フォルテ』!!」
「回復するよ、『ティア』!!」


 シェラザードさんがエステルさんに火炎の守護を与えて攻撃力を上げてオリビエさんの放った癒しの波動が俺の傷を癒していく。


「ありがとう、シェラ姉!とりゃあァァ!」


 エステルさんはスタッフを振り下ろしてドルンに当てようとするがドルンは導力砲で防御する。


「喰らえ、『朧』!!」


 その隙にヨシュアさんが相手の懐に飛び込み、鋭い一撃をドルンに喰らわせた。


「『紅葉切り』!!」


 更に追撃として俺は居合切りを放ちドルンに切りつけた。流石にタフなドルンも効いたのか膝をついた。


「とどめよ!『金剛撃』!!」


 エステルさんの放った一撃がドルンを大きく吹き飛ばして壁に叩きつけた。


「ド、ドルン兄!?」
「大丈夫、気を失っただけだ。今回復するから君もこっちに来て」
「あ、うん……」


 ジョゼットが悲鳴を上げるが気を失わせただけなので問題はないだろうとヨシュアさんが説明した。エステルさんがドルンとキールに、ヨシュアさんが念のためにジョゼットにもティアラを使って傷を癒した。


「う、うーん……あいたたた……どうなってやがる?体中が痛ぇぞ……」


 ドルンが目を覚ましたがどうも様子がおかしい。さっきの荒々しさが嘘のように鳴りを潜めていた。


「ド、ドルン兄?」
「兄貴、一体どうしたんだ?」
「おお?……ジョゼットじゃないか!ロレントから帰ってきていたのか!こんなに早く帰ってきたって事は失敗したな?」
「ふえ……?」
「がっはっは。ごまかさなくてもいい。まあこれに懲りたら荒事は俺たちに任せておけ。チマチマした稼ぎだが気長にやればいいんだからな」
「ドルン兄、何を言ってるの?」
「おいおい兄貴、ジョゼットはとっくの昔に帰ってきていただろう?定期船を奪った後に俺が迎えに行ったじゃないか?」
「何を言っているんだ?定期船を奪うだなんて危ない橋を渡るわけねえだろうが?」
「……」
「……」


 ドルンの言葉に二人は訳が分からなくなったのか口をあんぐりと開けていた。しかしどうしたっていうんだ?ドルンの話を聞くと彼は今回自分たちが起こした定期船を強奪した事件のことを知らないように振舞ってるぞ?


「ねえ、こいつ何を言ってるの?もしかしてあたし強く叩き過ぎたかしら?」
「どうも言い逃れしようとしてる訳じゃなさそうだね。本当に今の状況が分かっていない感じだ」
「演技って感じもしないね。まるで夢から覚めたような様子だ。僕も夢から目が覚めると時々自分の美しさが現実かどうかわからなくなってしまう事が……」
「はいはい、分かりましたから静かにしてください」
「……リート君の意地悪……」
「どっちにしろ事件は起きてるんだから詳しいことは捕らえてから聞きましょう」


 エステルさんたちもドルンの様子に疑問を持ったみたいだがどのみち事件は起きてしまっているので彼らを拘束することにした。その後はこの場所を突き止めたリシャール大佐率いる王国軍に彼らを引き渡して今回の事件は幕を閉じた。


 
 

 
後書き
 本来ならここで黒のオーブメントを手に入れますがこの小説ではまだエステルたちの手元にはありません。理由は後で分かります。 
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