| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Dr.くれはと一匹のトナカイ

 此処はロッキーマウンテンの頂上
 ドラム王国を一望できる程の標高を誇る高山の一角である。

 そんな中アキトとナミの2人はこの島の唯一の医者であるDr.くれはの居城へと難なく辿り着いていた。

 城主が不在であったため現在彼らは城内へと足を踏み入れている。
 幸いにも施錠はされておらず、容易に城内へと立ち入ることができた。

 しかし、城内といえど冬島であるこの島の気候という名の猛威は変わらず2人を襲い続けている。

 肌を凍えさせる程の寒気
 今なお、大気を揺るがし続ける冷気
 足を深く沈めさせ体力を奪う積雪の山
 
 どれもこれも今のナミには毒な気候だ。

 だが、2人にその自然環境が繰り出す猛威は届いてなどいなかった。

 見れば2人の周りは一種の不可視の壁が存在し、周囲から乖離されていた。
 冷気や雪がまるで意思を持つが如く独りでに避けているのである。

 これも全てアキトの能力の恩恵に他ならない。
 ジカジカの実の力により発生させた膜を周囲に張ることで今のナミの容態を脅かす全ての外敵を遮断しているのである。
 今の彼女は本当に些細な事で命を落としかねない重体だ。
 一瞬の気の緩みも許されない。

 故に、細心の注意を持って彼女の傍にいる。
 見ればナミは自身の腕の中で静かに眠っているが、呼吸は荒く、表情も決して芳しいものではない。

 先程から身体越しに感じるナミの体温も徐々に上がってきている。
 このままではナミの命が本当に危ない。

 この城の家主であるDr.くれはは一向に自分たちの前にその姿を現さない。


「ヒ─ッヒッヒッヒッヒッヒッ!これはとんだ珍客だ!この猛吹雪の中、容易にこの城に辿り着く奴がいるとはね!!」

 一旦、この山から下りようと考えたアキトの前に彼女が現れた。
 傍には珍妙な帽子を被ったトナカイが控えている。

 アキトは彼女こそがこの城の主であるDr.くれはだと確信し、真摯に頭を下げながら名乗りを上げる。

「お忙しい中、失礼します。俺はアキトいう者です」
「ほう、これはこれは真摯なことだね。それで、用件は何なんだい?」
「はい、本日は彼女を、いえ、ナミの病気を治してほしいのです」
「ほう、この小娘をね……」

 Dr.くれは右手を顎に乗せ、アキトの腕の中に静かに眠るナミを見据える。

「成程ね、まあ構わないよ。それで、小僧……」
「……?」


「……若さの秘訣の話だったかい?」

 彼女の突然のカミングアウトにアキトは思わず瞠目する。

「失礼ですが、Dr.くれはさんはおいくつなんですか?」
「私かい?私はまだまだピチピチの139歳だよ」

 見た目にそぐわないご老体であることにアキトは驚きを隠せない。
 とても100歳を超えた人の姿には見えない。

 ドルトンさんが魔女と揶揄していたのもあながち間違いではないのかもしれない。
 こんなことを彼女に面と向かって言えば殺されることは言うまでもないが

 しかし、これを言わずにはいられない。

「ぴ ち ぴ ち?」

ちょっと何言っているか分かんないですね

「ほう?」

 Dr.くれははその身からどす黒い殺気を放ち、包丁をどこからか取りだしていた。

 顏は笑っている。
 だが、目は全くと言っていい程笑ってはいない。
 普通に怖い。

「すみませんでした」

 アキトは素直に頭を下げ、謝罪する。

仕方ないよね。とてつもなく怖いんだもの

「はぁ、冗談はこれくらいにしてあんたが抱えているその小娘の治療に取り掛かるよ」

 今の遣り取りは彼女なりのジョークであったらしい。

「小僧、この小娘の容態が変わったのはいつだい?」

 ナミの治療に取り掛かるべく彼女の表情が医者の顔付きへと変わる。 

「ナミの容態が急変したのは今から3日前です。この島へと辿り着いた頃には既に熱は40度を軽く超えていました」

 ナミはリトルガーデンを発った後突然体調が急変したことを今でも覚えている。

「じゃあ、次の質問だ、小僧。あんたたちはこの島に来る前はどこにいたんだい?」
「リトルガーデンという太古の文明が未だに蔓延る島です」
「太古というのは生態系そのものが古来のものだと解釈していいんだね?」
「その解釈で間違いありません」
「……成程。チョッパー、患者を運びな!」
「分かった、ドクトリーヌ」

 トナカイがDr.くれはからの指示を受け、行動に移す。

 途端、目の前のトナカイの姿が変化した。
 四足歩行から二足歩行へ、体躯もより人間へと近づき、洗練されたフォルムへと変身する。

 チョッパーと呼ばれるトナカイはナミを軽々と抱え、颯爽とその場から立ち去っていく。

「さて、小僧。いつもなら治療費としてお金をむしり取るところだが……」
「……?」

 此方を測るような彼女の視線に晒され、アキトは思わず怪訝な表情を浮かべざるを得ない。
 そんなアキトの様子に構うことなくDr.くれはは先程までの陽気な笑顔を消し、真面目な表情にて口を動かした。

「……小僧、あんた腕は立つかい?」

 それは今後のアキトの行動を定めるものであった。





「……っ。ここは……?」

 混濁とした意識の中、眠たげにナミは瞳を重々しく開ける。

 目に映るは知らない天井

 ナミは現状を確認するべく自身の周囲を見回した。
 そんな彼女の額から濡れた冷やされたタオルがずれ落ちる。
 見れば寝台の傍には水が汲まれた桶が置かれていた。

 室内の至る所には医療の道具が散乱し、薬品の臭いが鼻の奥を刺激する。
 自身の服装もいつの間にか寝間着に変えられていた。

 体調もメリー号にいた頃と比較してもすこぶる良好である。
 熱はまだ完全にはおさまってはおらず、倦怠感を感じるが先日までとは雲泥の差だ。

 無事彼女の体調は回復の道を辿っていることは間違いないだろう。

「起きたか、ナミ」

 そんな中、静かに病室の扉を開け、アキトが彼女の前に姿を現した。  

「……アキト、ここは?」

 未だに熱による影響で頬が赤いナミは悩まし気に尋ねる。
 
「Dr.くれはが住む城だ。俺がナミを抱えてこの場に連れて来たんだ」
「そうなの……」

 ナミはどこか釈然としない様子で再び室内を見回す。


 そんなナミの額に大きな掌の感覚が伝わった。

「……熱は下がっているな」

 見ればアキトが瞳を閉じ、右手の掌を静かに自身の額に乗せていた。

 掌越しに感じるアキトの体温
 自身の額を覆うほどの大きさを誇る掌
 その掌は修行の証とも言うべく頼もしさを感じさせる硬さを誇っている。
 それら全てがナミにアキトを強く感じさせるものだった。

 また熱が未だに残るせいか、アキトの掌を冷たくも感じる。
 しかし、そんなことよりもアキトの顔が予想以上に近いことがナミの心にさざ波を立てていた。

ち…ちちッ…近い!

 そう、近いのだ。
 あと少し踏み込めば顔と顔がくっつきそうな程に

 眼前のアキトの表情は真剣そのものであり、そんな邪なことを考えているわけではないことは分かっている。

 だが、それ以上にアキトと自身の距離は近かった。
 故に、ナミは混乱の極致に陥っていた。
 
「本当に良かった、ナミ。お前が無事で……」

 自分のことを真剣に心配した様子で此方を慈愛に満ちた目で見つめてくるアキト
 普段余り表情を変えないあのアキトがふわりと笑う。 

「う、うん……」

 アキトの優しさと笑顔がナミの心に深く突き刺さる。
 ナミは絞り出すような声しか出すことが出来ない。

 そんな混沌とした雰囲気な病室に珍妙な帽子を被るトナカイと思しき生物が入ってきた。

「お、おい、人間。お…お前熱は大丈夫か?」
「え?喋った?」
「うおおおおおぉー!?」

 叫び声と共に病室の壁へと激突する謎の生物

「え?え?」

 ナミは混乱することしか出来ない。

「落ち着きな、チョッパー!」
「ド…ドクトリーヌ」

 今度は酒瓶を片手にサングラスをかけた女性が現れた。

「ヒ─ッヒッヒッヒッヒッヒッ!ハッピーかい、小娘?」
「……あ、貴方は?」
「38度2分…んん、順調に回復しているね」

 Dr.くれは額に人差し指をかざすだけでナミの体温を測り取る。

え、何その特技。凄い

「あたしゃ、Dr.くれは、医者だよ。『ドクトリーヌ』と呼びな」
「医者。じゃあ貴方が私を……」
「若さの秘密かい?」
「いいえ、そんなこと聞いていないわ」

 Dr.くれはの言葉をナミはばっさり両断する。

「チョッパー、あんたはこの桶の水を入れ替えてきな」
「わ…分かった」

 Dr.くれはの指示を受け、チョッパーは急ぎ足でこの場を去っていった。

「あ…あの、あの喋るトナカイは一体……?」

 ナミが躊躇い気味にDr.くれはへと尋ねる。

「……そうだね。話せば長くなるが、あいつのことをお前達に知ってもらうとするかね」

 重々し気に彼女の口から語られるは世にも残酷な一匹のトナカイの過去であった。



「チョッパーを医者として私達のクルーに貰ってもいいかしら?」
「……良い度胸だね、小娘。私の前でチョッパーを奪おうとするなんざ」
 
 どういう経緯を経てその考えに至ったのか分からないが、どうやらナミは彼女の話を聞きチョッパーを海賊へと勧誘する気になったらしい。

 確かに現状、自分達の船には医者がいない。
 これを機にチョッパーを仲間へと加入するのも悪くないことなのかもしれない。
 
「あら…男を口説くのに許可が必要なの?」

 何て男前なセリフだろうか。
 アキトは思わずナミに感心した様子で見詰める。

 そんなアキトの視線を受け、ナミは頬を朱に染め、そっぽを向く。
 そんな彼女の初々しい反応を見てDr.くれはは「あぁ、そういうこと」と一人勝手に察する。

「……まあ、好きにするがいいさ。ただ、あいつをそう簡単に連れ出せるとは思わないことだね」

「医者は患者の傷は治せても心の底に負った傷までは治せない。今でも、あいつの心の底には当時の傷が深く残っているのは間違いないね」

「さっきも言ったがあいつは生まれた瞬間から仲間外れだったのさ。だからチョッパーは本能的に仲間を求めているんだよ」

『……』

「あんたらはどうだい?この話を聞いてもあいつを化け物とのたまうかい?」

「……チョッパーは医者を目指しているのですよね?誰かを慈しむことが出来るチョッパーが化け物なはずがありません」

 医者になることを志しているチョッパーが化け物なわけがない。
 誰かを慈しむ心を持つ者が化け物なわけがないはずだ。

「そうよ、アキトの言う通りだわ」

 ナミからの援護射撃が入る。

「う…!うるせェーなっ!お前らなんかにそんなこと言われても嬉しくなんかねーんだぞ!バカヤロー、コノヤロー!」

 そんな彼らの耳に声が響き渡る。 
 見れば件のチョッパーが病室の扉に隠れる形で此方を見つめていた。
 どうやら立ち聞きをしていたらしい。

 言葉とは裏腹にチョッパーの身体は踊りに踊る。
 実にテンポ良く、軽快にリズムを刻んでいた。
 表情は緩みに緩み、喜んでいるのは一目瞭然であった。

褒めると伸びるタイプだな、これは。間違いない

『……』

 そんなチョッパーの姿に何とも言えない3人

「ねえ、チョッパー、良かったらなんだけど私たちの……」
「……っ!ドクトリーヌ、あいつらが遂にここまでっ!」

 ナミの言葉を無視し、チョッパーは鼻を引くつかせ、険しい表情を浮かべる。
 先程までの笑みを引っ込め、チョッパーは己の主であるDr.くれはへと進言した。

「そうかい……」

 対称的にDr.くれはは焦る様子を見せない。

「─」

 そんな中、アキトは何処か遠くを見つめていた。
 その表情を伺い知ることはできない。

「……ドクトリーヌ、俺は少し外の風に当たってきます。少しのぼせてしまったので」
「ああ、構わないよ。まあ、気を付けな(・・・・・)
「はい、勿論です。……ナミはこの場で安静に寝ててくれ」
「え…?う…うん」

 アキトは戸惑っているナミを背に病室を後にした。







▽▲▽▲







 遂にワポル達がロッキーマウンテンの頂上に辿り着いた。

「まっはっはっは!遂に辿り着いたぞ、我が城に!これでドラム王国も復活だー!!」

 ワポルは両腕を上機嫌に掲げ、声高らかに喜びを表す。
 後ろには付き人のクロマリーモとチェスが控える。
 ワポルの隣にはピンクのおかっぱ頭の長身の男の姿、ムッシュールの姿もあった。

「ワ…ワポル様!城の国旗が我がドラム王国の国旗ではありません!」
「妙な国旗がぶら下がっております」
「んなに~?なッ、何だ、あの国ッギガバァッ!?」

 突如、饒舌に口を動かしていたワポルへと上空から何者かが接近し、ワポルの顔に強烈な蹴りを直撃させた。

「ワ、ワポル様──!」
「きッ、貴様──!?」

 クロマリーモとチェスは己の主君を足蹴にした敵に怒りをあらわにする。

「……ほう」

 ただ一人、ワポルの兄であるムッシュールは自身と渡り合う可能性を秘めた存在の登場に心を高ぶらせる。

 ワポルを足蹴にした下手人は勢いよく後方へと跳躍することで後退した。
 やがて彼らの前方にて佇む敵の姿が鮮明になり始める。

 降りしきる雪を弾き飛ばし、螺旋の如く暴風を伴い件の人物、アキトが彼らの前に現れた。

「お前たちは此処で潰れてもらう」

─ ナミの治療費を置いていけ ─

 今此処で戦闘開始の狼煙が上がることになった。







 一方、城内の病室

「あの坊やがあと少しでもここに来るのが遅かったらあんた死んでたよ」

 Dr.くれはの言葉に顔面を蒼白にするナミ
 Dr.くれははそんなナミの服の裾を捲り上げ、斑点を見せつけた。

「"5日病"と言う病気だよ。古来の密林に住む"ケスチア"と呼ばれる有毒のダニが感染源だね。そのダニが引き起こす病の恐ろしさは身をもって体感してるはずさ」
「……っ」

 Dr.くれはが告げる衝撃的な事実にナミは思わず顔をしかめる。

「ところであの坊やあんたのこれかい?」
 
 Dr.くれははナミを揶揄うようにニヤニヤしながら小指を上へと突き上げる。

「ちっ、違うわよ!私とアキトはそんな関係じゃっ…!?」

 ナミは熱の影響も合わさり顔がりんごのように真っ赤に染め上げた。

「初々しい反応だね。冗談だよ、冗談。ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ!」

 そんな会話があったとか、なかったとか。
 それはナミとDr.くれはのみぞ知る。 
 

 
後書き
▲ ワ ポ ル が 現 れ た !

▲ だ が ア キ ト 高 笑 い を 続 け る ワ ポ ル の 顔 に 挨 拶 を し た ! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧