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ドリトル先生と奈良の三山

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第十一幕その四

「緑が多くて」
「お寺の中にはお花も多くて」
「境内に色々な堂があって」
「昔から沢山のお坊さん達が修行していて」
「源氏の君も来ていたんだね」
「そうだよ、源氏の君はね」
 この人はについて先生はさらにお話しました。
「矛盾していた人でもあったね」
「あれっ、そうなの」
「帝の御子で位人臣を極めた人じゃないの」
「政治家としても文人としても立派で」
「絶世の美男子でお洒落で」
「女性にももててもててで」
「そうだね、けれどね」
 皆の言ったことは事実でもです。
「それでいて女性との愛と俗世と信仰にも常に悩んでいてね」
「あれっ、そうだったの」
「華やかなだけじゃないの」
「そうだったの」
「華やかさと悲しさが一緒にあるんだ」
 先生は源氏の君が見てきたその景色を見ながらお話しました、木々の中に昔ながらの姿を見せる堂達もその緑の木々も花々も。
「源氏物語は」
「それで源氏の君も」
「そうだったの」
「その中心にいたね」
 栄華と悲しみ、その物語のです。
「あの人は」
「ううん、華やかなだけじゃなくて」
「悲しみもあって」
「それで源氏の君もその中にあって」
「苦しみ悩んでいたの」
「そうした人だったの」
「それで最後は出家するしね」
 俗世のことに悩み疲れ果ててです。
「そうなるから」
「そうだったの」
「だからお寺にもお参りしてたの」
「そうだったのね」
「この長谷寺にも」
「このことも前の皆に話した記憶があるけれど」
 それでもお話する先生でいた。
「折角源氏物語の所縁の場所に来たからね」
「お話してくれるのね」
「そうなのね」
「そうだよ、物語であるけれど」
 先生もこのことをよく認識しています。
「それでも意識してしまうね」
「物語だけれど」
「それでも現実に思える」
「何かそれも不思議なお話ね」
「物語なのに現実に思える」
「このことも」
「まあ現実と物語の区別は」
 それはといいますと。
「確かな様で実はね」
「曖昧なのかしら」
「その壁は薄くてすぐに行き来出来る」
「そうしたもの?」
「お互いの世界の違いは」
「そうかもね、源氏の君も物語の人でも」
 それでもというのです。
「その実はね」
「現実の世界にも影響していて」
「僕達も今考えている」
「源氏の君が来ていたこの場所に来て」
「そのうえで」
「そうかもね。現実と物語の壁は実は非常に薄いんだろうね」
 先生はこうも考えるのでした。
「だからひょっとしたら僕達も何かきっかけがあったら」
「物語の世界に行くかも知れない」
「何かしらの」
「そうかも知れないのね」
「そうも思ったよ、それぞれの世界は完全に分かれていないんだ」
 多くの世界はというのです、先生はパラレルワールドについても考えるのでした。
「非常に薄くて脆い壁で遮られているだけで」
「別の世界にも行ける」
「お互いに」
「僕達もそうで」
「そして源氏の君も」
「そうかもね、世界は一つじゃなくて」
 そしてというのです。 
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