| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

儚き想い、されど永遠の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

473部分:第三十七話 桜を前にしてその七


第三十七話 桜を前にしてその七

「死ねばそれで終わりといったものがありますね」
「はい、確かに」
「マルクスやそうした思想にもある様ですが」
「所謂無神論ですね」
「神はない。死ねば何もかもが終わりである」
 この考えについてはだ。医師は淡々と話した。
「こうした考えですが」
「先生は否定的ですか」
「否定しています」 
 まさにその通りだというのだ。
「それは間違っていると思います。いえ」
「いえ、とは」
「マルクス主義自体が間違っていますし」
「無神論もですね」
「彼等は何もわかっていないのです」
 経済、社会、宗教、そして人間がだというのだ。
「だからです」
「間違っていますか」
「彼等は人間を万能と思いそうして語っていますが」
「それ自体が違うと」
「はい、違います」
 これが医師の考えであり言葉だった。
 そしてだ。彼は義正にこう話すのだった。
「人はこの世界の中の一つでしかないのですから」
「多くの存在がある中のですね」
「その小さな存在である人間のわかることはといえばです」 
 それは何かというのだ。
「小さなことなのです」
「些細な、ですね」
「はい、実に小さなことです」
 まさにそうだというのである。
「それでどうして神や魂を否定できるのか」
「できるものではありませんか」
「彼等はわかったつもりでいるだけです」
 こう言って共産主義者達を否定していく。
「それだけなのです」
「そうですか。私はまた少し違った考えで」
「共産主義や無神論とはですか」
「考えていることが違います」
 共産主義を否定しているし無神論でもないというのだ。むしろその逆だというのだ。
 そのことを話してだ。義正はだ。
 医師にだ。こう話したのである。
「そのことは御了承下さい」
「わかりました。それではです」
「はい、妻にですね」
「お伝え下さい。この生での最後まで」
 義正の言葉から考えを変えてだ。今はこう言ったのである。
「楽しまれて下さいと」
「有り難うございます。それでは」
「はい、では私はこれで」
 頭を下げての言葉だった。
「帰らせて頂きます」
「お茶でもどうでしょうか」
 しかし義正はここで医師をこう言って引き止めた。
「紅茶がありますが」
「紅茶ですか」
「それにチョコレートも」
 それもあるというのだ。
「その二つは如何でしょうか」
「有り難いですね。しかし」
「しかしですか」
「残念ですが私は今歯を患っていまして」
 虫歯だというのだ。残念な笑みを浮かべての言葉だった。
「ですから今は」
「チョコレートはですか」
「遠慮させてもらいます」
 そうするというのである。
「ではそれで」
「虫歯は辛いですね」
「実は甘いものが好きでして」
 医師は苦笑いで自分自身のことを話す。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧