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嗤うせぇるすガキども

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これが漢の戦車道 ①

 
 
 
 
 
 時は西暦2012年のことだった。
 第63回戦車道全国高校生大会でぽっと出の大洗女子学園は、奇跡の逆転劇の連続で優勝した。
 そのあと実に見苦しい権力闘争が起こって、元文科相の国際指名手配犯が平壌に逃亡する前のある日のことだった。

 人材派遣会社と契約し、非正規雇用で生計を立てている黒木鹿次は、大洗港区にある船舶会社が大洗艦を解体会社に回航するために募集した臨時雇いに派遣され、回航準備作業に従事していた。



 鹿次は、看板まで持ち去られて建物だけになった旧大洗女子学園の正門前にたたずんでいた。

「くんかくんか……。
 ああ、こここそが戦車道の新たな聖地になるはずだった、大洗女子学園!
 いま、そこにこの僕は立っている!」

 鼻をひくつかせている彼はそう、戦車道、それも高校戦車道の大ファンだった。
 そのまま彼は誰も見ていないことをいいことに、「KEEP OUT」と書かれた黄色いテープをかいくぐり、勝手に校内に入っていった。
 戦車倉庫の前まで来た鹿次は、倉庫ゲートのワキにある扉を勝手に開けて勝手に入る。

「ああ、ここに大洗の優勝まで戦った『不屈の8両』がいたんだなあ。
 さびとオイルのにおいさえいい香りだ。まるで西住みほ以下三十二勇士のかぐわしい体臭までにおってくるかのようだ……くんかくんか」

 そして何を考えたのか、鹿次は作業服のまま、戦車倉庫の床に大の字に寝転がってしまう。

「あああ~、シ・ア・ワ・セ(はあと)」

 ああ、いま戦車道の新たな聖地大洗女子の、それも戦車倉庫の中。
 その大洗女子も数日中には解体工事に入って、この世から消えてしまう。
 この倉庫が栄光の場所でいられた時間は、大変短かった。
 そのわずかな刹那に、彼はここにいる。
 仕事のことなんか忘れ去って、彼は至福の時間を味わっていた。

 ……そして鹿次は、仕事なんかおっぽり出して、そのまま寝入ってしまった。

「……むにゃむにゃ、男も戦車道できる世界に生まれたかったなあ」

 鹿次は、いつの間にか二人の小さな人影が現れ、彼の寝言を聞いていることなど
知るよしもなかった。






『おはよう。そろそろ目を覚ました方がいいんじゃないか?』
「うわっ! しまった。仕事忘れて寝ちまった! ……あれ?」

 鹿次があわてて跳ね起きる。
 外はもうすでに真っ暗。星がまたたいている。
 そしてスマホには、派遣解除のお怒りメールが入っていた……。

「あああ~、今月水だけで暮らすのかよー」
『それはご愁傷様だけど、いい加減私たちに気づきなさいよ』

 鹿次は、そのときになって自分を見下ろす10歳ぐらいの外人のガキと、中学一年生ほどのサイドテールの少女(秋からグダグダをまとめた不真面目映画に助演出演決定)がいることにようやく気がついた。

「うわっ! なんだお前ら。ガキは帰って小便して寝る時間だろ!」
『普通のガキならな。あいにく僕は600歳、そっちのは4,000歳越しているんだな』
『ティーンズに混じって、女子高生美少女にうつつ抜かすのがよくいうわね』

 どうやらこいつらは、見かけどおりの連中ではないらしい。といいたいらしい。

「まったく最近のガキは、大人をからかうのもたいがいにしろ」
『最近の人間もたいがいよね。天使に化ければ悪魔だろといい、堂々と悪魔でとおせば今度は天使に化けるくらいのひねりをいれろというのよね』
『しかたないから人間の姿で登場すれば、これだからな』

 そいつら二人は「眠狂四郎」の「円月殺法」のように右腕をゆっくり回すと、600年前のお坊ちゃまと、毎度おなじみの少女小悪魔の姿にもどった。

『どうだ、信じる気になったか?』
「……ゆ」
『ゆ?』
「幽霊だぁーっ!!」
『あほかーっ!!』



「……いや、そんなことより次の派遣を斡旋してもらう方が先だ」

 鹿次は目の前の二匹を放置してゆらりと立ち上がり、戦車倉庫から出て行こうとする。

『ヘーイ、ストップ!』

 自称600歳以上が、鹿次の目の前に見えない壁を作り出し、鹿次はガツンと止められる。
 そのまま後ろに倒れる鹿次は、今度は後頭部をしたたか何かにぶつけてしゃがみこむ。
 腕を横に伸ばしてみると、やっぱり見えない壁らしきものにさわる。
 鹿次は、どうやら自分は1m四方のみえない牢屋に閉じ込められたらしいと悟った。

「おい、幽霊。おいたはやめろ。
 俺は次の仕事を見つけ――うぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

 今度は公称4,000歳の小娘悪魔が、ピンヒールで鹿次の影を思い切り踏んでいる。

『だからー、私たちは、ア・ク・マ。
 私たちの話をちゃんと聞かないなら、こうしてやるわ』

 小娘悪魔は、鹿次の影に突き刺さるヒールの先っぽを、ぐりぐり回転させて踏みにじる。
 響き渡る鹿次の絶叫。しかし無人の大洗女子で、それを聞きとがめる者はだれもいない。






『僕たちが本当に悪魔だって、わかってくれたかい?』
「わかった。だからここから出してくれ。でも魂は売らない」
『なんというか、ここまではっきり言われると、かえってすっきりするわね』
『はっきりいおうか。
 正直言って魂の売り手には不自由していない。
 みんな目のまえの快楽しか追い求めていない。
 明日がどうなったってかまわないんだから』
「……。
 まー、そいつはわかるな。
 いくら努力したって変わらない明日なんか悪魔にくれてやりたくもなるだろーさ。
 でもそれなら……」
『地獄の沙汰も金次第、って言葉はあなたたち人間が作ったのよね。
 でも、真面目な話、魔界でもそれ本当になりつつあるの。
 お金がなさすぎて、魔界の運営さえ困難になっているのよ』

 ほへー。魔界の通貨って「魂」じゃなかったのかと鹿次は思った。

『以前は地獄に落ちてくるろくでなしに罰を与えるだけで、天界が補助金を出してくれたんだけどさ』

 つまり、地獄というのは、あの世の刑務所らしい。
 というか、日本の念仏宗あたりでは、はっきり裁判官や刑務官がいると言っている。
 そう言えば地獄の一歩手前の段階で「煉獄」とかいうのがあって、見込みのある罪人はそこで更生させてくれるみたいな話すらある。これはキリスト教だけど。
 悪魔が人間を誘惑するのも、上っ面だけ立派な奴を天国行きから排除するためなのかも。

『天界も人口が増えすぎて、住民サービスの対価を取ろうか検討中みたいよ』

 まあ、労働しない人物にいい思いだけさせてればそうなるだろうなと、鹿次でさえ思う。
 この国が同一労働同一賃金になるのは、いつのことかわからないが。



『てっとりばやく言えば、魂なんかもうどうでもいいから、お金を稼ぎたいのさ』
「そりゃ俺だって同じだよ。この世って、銭がなければ死ぬか犯罪者になるしかねえ」
『そこでね、私たちと組んでお金儲けしない? ってことなのよ』

 普通なら突拍子もなさ過ぎて、ついてこれるかどうかわからない話だが、戦車道マニアの中でもプラウダ風紀いいんかい?の次ぐらいに図太いと思われている鹿次にとって大事なのは悪魔のオファーだからといっておたおたすることではない。

「お仕事の内容を聞かせてもらおうか。内容次第によっては労基署に通報する」
『なに、君にとってもいい話だよ。
 この多元宇宙では、男も女と同様に戦車道をやっている地球だってある。
 そこで、非正規労働者として働いてほしいのだ』

 パラレルワールド論とはそういうものだ。
 選択肢が発生した時点で、粒子でもあり波動でもある世界は、両方とも実現してしまう。
 その結果起こることは、「世界」の分裂だ。
 もちろん男しか戦車に乗らない地球だって存在するだろう。
 そんな地球に住みたいと思う者はいないだろうが。
 だが大事なのはそういうことではなく、鹿次が思わず生唾を飲み込んだことだ。
 この場合彼にしっぽがあったなら、ぶんぶんふっていたにちがいない。

「で、お坊ちゃまにお嬢さま、それがしめはその世界で、何をすればよろしいのでしょうか?」

 あからさますぎる豹変だ。
 さすがの悪魔コンビも、先だって地獄に送ったプラウダ風紀いいんかい?の方が、単細胞お馬鹿だっただけマシではないかと考え始めている。

『……まあな。とりあえず魔界にいっしょに来てくれ。
 どうせ魔界経由じゃなきゃ「他の世界」にはいけないからな』

 小娘悪魔が戦車倉庫の床に、得意技の魔方陣を光で描く。
 その魔方陣がまばゆい光を放って、3匹を光で包み込む。
 光が消えたあとには、もう何の痕跡も残っていなかった。






 彼らがやってきたのは、魔界の大公爵様の屋敷とは別にあるオフィスビルの一室だった。

「アスタロト社会保険労務士事務所、ねえ」
『我々のマスターは、他にも首席判事、司法書士、公認会計士、社会教育主事、図書館司書、危険物取扱者甲種、宅地建物取引士、土地家屋調査士、特許を取り扱う弁理士その他
1,000以上の公認資格をお持ちだ』
「はえー。魔界も資格をたくさん持っていた方が有利なんだ」

 それにしても、と鹿次は思う。
 もっと魔界っておどろおどろしい場所かと思っていたが、このオフィスビルは採光もよく、清潔感もあって、働いているのが魔族でなければ都心にある高層ビルとまったく変わらない。
 というか、みんな人類が作ったOA機器でお仕事してるし。

「これじゃあ、お金がかかってしょうがないなあ」
『魔界もいつまでも手仕事では時代に乗り遅れるでしょ』
『ただな、我々は見ている画面をテレパスで他の魔族に送れるから、完全ペーパーレスだがな。
 オフィスにLANがあればいいだけで、インターネットの必要もない。
 サーバーは脳みそのデカい魔族が専任でやっている。
 処理能力は人間の作ったスパコンに、ついに抜かれたけどな』

 人間は携帯を発明して、やっと魔族の通信能力と同じレベルになったということらしい。
 進歩した科学は魔法と区別がつかないそうだ。



 鹿次はオフィスの会議室らしいところに通された。
 やはり今どきの楕円形の円卓にオフィスチェアーが並んでいる。
 前方の壁にはプレゼン用らしい、大型の液晶4K対応ディスプレイがかかっている。

「あのなー。魔族といえばビジョンをホログラムみたいに空中に映したり、イメージをテレパスみたいに頭に送り込んだりするもんじゃないのか?」
『最近ではこういうものがあるのに、なんでわざわざ魔力を消費してまで、んなことせなならんのだ?』
『あなたたちも進めてるでしょ。省力化よ。
 まだ魔法でしかできないことはいっぱいあるんだから、そうそう魔力の浪費はできないの』

 少年悪魔はテーブルの上のリモコンを手にし、まず部屋の暗幕を閉じる。
 それからディスプレイの電源を入れて「PC」を選択し、さらにタブレットを操作して画像をディスプレイにうつしだす。
 省力化というより単なる不精じゃねえかよと、鹿次が思うのも当然といっていい。
 しかし、確かに産業革命以前の人間がこの光景を見たら、やはり魔法としか思えないだろう。

「だから俺が魔界なんかに連れてこられても、恐れおののいたりしないんだな。
 人間がお前らに近づいたから」
『あら、いくら何でも私たちは、自分たちを根絶やしにする魔法はもってないわよ』

 さて、これから人類は、何になっていくというのだろうか? 真面目な話。



『で、肝心のお仕事のあっせんだが……。まあ、これを見てくれよ』

 ディスプレイには、大きな競技場らしきところで、第二次大戦型戦車どもが撃ち合いをする光景が映し出されている。

『これは、「仕事現場」の地球で大人気を博している、戦車道プロリーグの試合だ』
「プロ野球やプロサッカーのように、戦車団同士でリーグ戦してるのか?」
『それもあるし、相撲やプロレスのようなワンオンワンの単独戦もあるわよ』
『もちろん、男子も女子もある。
 さて、たしか君は大型特殊免許とユンボオペ、移動式クレーン運転士の免許も持っていたな』

 大特免許は、たとえばトラッククレーンを路上で走らせるためだけの免許で、クレーン車を現場で操作するためには、別途の資格が必要だ。
 これは戦車の場合にも当てはまり、戦車兵になるためには、それぞれの技能免許が必要だ。

「まあな。しがねえ非正規労働者だからな。
 取れるもんは、ひたすら取りまくった。大洗艦にもそれで派遣されたようなもんだ」

 しかし、趣味を優先して派遣解除になったのでは、どうにもならないだろう。

『我が事務所では、そういう人材をすでに数名派遣している。もちろん魔界経由で。
 実績としては良好と言っていいだろう。
 ニセの履歴をつくって、そっちで産まれた人間にして、入団までの道筋はつけてやる』
『戦車道選手になるための道としては、プロ野球の球団のような「戦車団」に所属する方法と、単独戦をやっている車長に隊員として雇われる方法があるわ。
 個人選手は団体に所属するけど、基本的にタレントと同じ個人営業よ』
『なお、スポーツの常として、男女が同じ戦車に乗ることはないし、基本的にリーグも男女別。
 個人戦団体も男子戦車道団体と女子戦車道団体は別だ』

 ここまで聞いて、鹿次にはある疑問が浮かんだ。
 というか、それが疑問でなければアホというしかない。

「はっきりいって、それってプロなんだから、実力社会じゃないすか?
 俺は正直いって戦車は素人だし、スポーツでプロになる才能もない。
 仮にトライアウト枠で採用されても、あとが続かないんじゃないか?」

 少年悪魔にも、それはわかっていたようで、渋い顔をした。

『まあ、君の現状ではそうだろうね。
 本当は入団時の契約金をもらって、あとはそちらの世界でがんばってねでおしまいだが』
『でもね。「興業」の世界でもあるでしょ。ガチでストイックじゃない職業人もいるわよ』

 ある意味、いやーな予感しかしないけれども、ここまで来て成果無しで地上に帰されても鹿次には次のお仕事が来るまで水しか口にできない日々が待っているだけだ。
 だったら何があろうとも、先に進むしかない。

「戦車芸人にでもなれ。というのか?」
『ある意味、それにちかいね』

 少年悪魔が、またタブレットを操作した。
 今度はちがう動画を再生する。
 こちらでもよく見る、野外に観客席をもうけてというスタイルとはかなり異なるものだ。

「なんだこれ? 超巨大なコロッセオか?」
『大当たり。町中に作られた戦車闘技場だ』
『こっちでいうローマ時代には、こういう場所で二頭立てチャリオット同士の試合なんか本当にやってたらしいわ』

 それってグラディエーター(剣闘士)ではないか。
 普通に鹿次もそう思った。

「まさかと思うが、死人が出るまで戦っているんじゃないだろうな?」
『そりゃ、いくらなんでも古代の話だよ。
 これは公認ギャンブルだ。勝ち戦車や勝ちチームを当てるやつだね。
 もちろんプロリーグにも戦車トトカルチョはあるけど、射幸性からいえばこっちが上』
『こっちの戦車道と同じく、競技弾を使って有効無効の判定をやってるわ。
 面白いのは、男子チームと女子チームが対戦することになってるの。
 女子チームは当然オッズが高いわ。まあ、男の方が戦車兵としては圧倒的に有能だから
 試合が成立するようハンディキャップはあるけどね』

 先に挙げた「三次元時空のどこかにあるという、男しか戦車に乗ってはいけない地球」では、単に風紀上の問題や男尊女卑の残滓だけで女を戦車に乗せないわけじゃない。
 その地球でもかつて女人禁制だった軍艦でさえ(まったく保護することができない潜水艦をのぞいて)女性クルーを乗せるようになっている。
 本当の理由は、女性が「戦車兵としては絶望的に無能」だからのようだ。
 どうしてそのような判断をしているのかはわからない。
「常識で判断できるだろ」という返事が返ってくるだけだからだ。
 ただ、それが単なる偏見でなく事実の一端であるならば、試合を成立させるためのハンデは男にとってはかなり過酷なものになるだろうとは、容易に想像できる。
 そして問題はそれだけではないのだが、当然この二匹の悪魔は話す気はない。

『そこの選手たちは、プロ未満がせいぜいのアマチュアか、体力の衰えで引退した元プロの高齢選手ばかりだから、あなたでもがんばればついていけるんじゃないかしら?』
『僕たちへの報酬はファイトマネーや賞金の半額とする。
 もちろん手取りじゃなく、引き去り前の支給額だ』
『その累積が日本の通貨で一千万円に達した段階で、私たちと縁を切ってそっちに残留するか、稼いだお金を持ってこっちに帰ってくるか決めてもらうわ。
 こっちに持ち込むお金には、為替手数料も所得税も当然かからないわよ』
『どっちをえらんでも、その時点で君と僕たちは無関係となる。
 なお、死亡などで契約が不履行になってしまっても、君には現地で生命保険に加入して
 もらうので、魂じゃなくそっちを担保にするから安心してくれ。
 ただし、君が犯罪者になって逮捕されたり、職場放棄して姿をくらますなど、君がわの故意による場合は、その限りではない。
 その場合は、何をやってもらってでも、一千万払ってもらう』
『さあ、話に乗る? それとも労基署に通報する? 決めてちょうだい』

 まあ、悪い話ではないようだ。少なくとも鹿次にとっては。
 戦車に乗れて、女性選手とも交流がありそうで、しかもお金にもなる。

「わかった、その話に乗ろう」
『では、この契約書にサインをおねがい』

 また例の悪魔の契約書かと思った鹿次は、契約書を見て少し驚いた。
 それは日本語のワープロ打ちで、しかも契約主は彼らではなく、向こうの地球の「興業会社」が作成した、人間界の正規の契約書だったからだ。

『まあ、僕たちがビジネスで書面の契約書を取り交わしても、公序良俗に反する契約だからね。
 初めから意味がない。
 だったら仲介だけして、契約は向こうさんと直接やってくれってことさ』
『はい、インキで自署してね。最近は自署であれば印鑑はいらないそうよ』

 そういって小娘悪魔からわたされたモンブランで、鹿次は契約書にサインする。

「でも、やっぱり印鑑もほしいな。自分の部屋に行って……」
『その必要はないわ』

 小娘悪魔が両手を向かい合わせにして、光を放つ。
 すると、鹿次の手に、彼の実印が入った印鑑ケースが出現する。

「うわ、これ本当に俺の実印だ。どうやって……」
『だから魔法でしかできないこともあるっていったでしょ』

 それはこれから鹿次をちがう平行宇宙に送り込むことに関しても同じだ。



 事務手続が終わると、また小娘悪魔が床に、前とはちがう紋様の魔方陣を描く。
 そして、再び魔方陣から発した光が、彼ら3匹を包んだ。

(続く)
 
 
 
 
 
 
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