儚き想い、されど永遠の想い
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471部分:第三十七話 桜を前にしてその五
第三十七話 桜を前にしてその五
そのうえで真理の前に出される。その花達を見てだ。
真理は自然にだ。この言葉を出したのである。
「百花繚乱ですね」
「そう言われるのですね」
「はい、これもまたですね」
義正も見つつだ。真理は話すのだった。
「百花ですね」
「実際にどれだけのお花が集められたのかはわかりませんが」
「それでもですね」
「百は多いという意味です」
百が実際に大きな数であることが多いからこう使われるのだ。
「ですから」
「今は百なのですね」
「はい、百花です」
義正も笑顔で話していく。
「では。宜しいでしょうか」
「このまま花達を見て」
「楽しみましょう」
今はこうしてだった。花道の花達を楽しんだのだった。こうした春も楽しんだ。しかしだ。
真理の身体は刻一刻と悪くなっていた。花を見た次の日にだ。
また喀血した。白いベッドの中で。この時もかなりの量だ。
その自分の口から出た血を見つつだ。彼女は言うのだった。
「あと僅かなのに」
「無理だと言われるのですか?」
「いえ、決して」
介抱して背中を抱いてくれる義正にだ。強い声で述べる。
「それは言いません」
「そうですね。それでは」
「私はまだです」
目も強い。顔はやつれ蒼白になってきているが。
それでも何とかだ。こう言ったのである。
真理は今はベッドの上で半身を起こしている。そのシーツや口を抑えた手、寝巻きが紅く染まっている。その中での言葉だった。
「まだ。大丈夫です」
「あと僅かだから」
「ですから。まだです」
こう言うのである。他ならぬ義正に対して。
「あと少しだけですから」
「そうですね。本当にあと少しだけですね」
「お外はどうなっていますか?」
真理はここで義正に尋ねた。口の周りの血を義正が出してくれたその布で拭きながら。
「今は」
「はい、今はです」
「桜はどうなっているでしょうか」
「まだ咲いてはいません」
それはまだだというのだ。
「ですがそれでもです」
「もうすぐなのですね」
「もうすぐ咲きます」
実際にそうだとだ。義正は真理に話す。
「蕾が出てきました」
「そうですか。では本当にですね」
「あと少しです」
そのだ。待ち望んでいる桜が咲くというのである。
「あと少しで咲きますので」
「ではその時に」
「待ちましょう」
こう話してだった。義正は実際に外を見る。真理も彼に続く。
外は春の、優しい日差しに照らされぽかぽかとしていた。草木も出て来ていて蝶達も飛んでいる。野花もそこにはある。
その外を見てだ。真理は言うのだった。
「待ち遠しいです」
「外に出ることがですね」
「はい、とても」
こう話すのだった。
「そして桜を見ることが」
「ではその時に」
「ですから。これ位で」
その喀血にもだ。真理は言うのだった。
「私は終わらせたくないです」
「そうですね。では」
「あと少しだけですから」
力を振り絞るというのだ。残っているそれを。
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