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横須賀鎮守府の若き提督

作者:水源+α
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プロローグ

 
前書き
未プレイです。すみません。

ですが書いてみたかったので許してください。 

 
 艦娘......突如、世界中の海に現れた深海棲艦に対抗しうる唯一無二の存在。二次大戦中の軍艦達が精霊として『擬人化』した姿でもあり、全員が美しく、兵器には無いそれぞれの自我や個性を持ち合わせている。

 






 ───海は荒れていた。

 曇天の空に、青かった海の面影がなくなったどす黒い海の色。

 潮の香りはすれど、それらを見たときにその香りを嗅げば、嫌悪感に襲われるだろう。

 曇天なのは、ここで熾烈な海戦が行われ、砲撃の拍子にでる硝煙が空に溜まりに溜まったためだ。

 では何故、海がこんなにも黒く染め上げられているのだろうか。

 その理由は







「きゃあっ!?」

「くっ......!!」

「......っ!」

 海面に幾つもの雷のような轟音が響き渡ったと同時に、海上に三つの爆炎が上がった。

 その黒煙からしばらくして現れた三人の少女達はそれぞれ苦渋な表情を浮かばせており、またそれぞれ服はあられもなくほぼ面積が無くなっていて、その繊細で綺麗な肌には痛々しい傷を負っている。

「───!? で、電っ! ......赤城さん! 長門さん! ......大破っ!」

 そんな三人の少女達を、高速で飛来してくる幾つもの砲弾の雨を掻い潜りながら、横目で信じられないという風な驚愕させた顔をしながら、無線で被害報告をした。

(そんな......赤城さん、長門さんもッ!)

 少女は───いや、時雨はその心を大きく動揺させながらも、まだ飛来してくる砲弾を回避し続ける。

 度々その手で持っている主砲で反撃したとしても、長門みたく巨砲でもないその非力な砲では、こちらを砲撃してくる深海棲艦、戦艦ル級flagshipにはかすり傷程度の損傷しか与えられない。

 深海棲艦の数は6。

 戦艦 ル級flagship 1

 戦艦 ル級 1

 重巡 リ級 3

 正母 ヲ級 1


 強力な戦艦ル級flagship 擁する、敵の強力な艦隊に、こちらは

 戦艦 長門改二

 戦艦 大和改

 重巡 妙高

 駆逐 電改

 駆逐 時雨改二

 正母 赤城改 

 という、決してここまでこちらが不利になるほどの戦力差でもない。

 だが、何故ここまで艦娘達が不利な状況になっているのか。

 それは実に簡単で、そして実に可哀想な理由だった。



 時雨は、必死に敵からの猛攻に耐えながらも、出撃前の執務室での出来事を後悔しながら思い返していた。



 ..................

 ............

 ......



「資材が底を尽きそうになっている。これでは建造が出来ない。そのため、今すぐに遠征をしようと思う。長門、大和、妙高、電、時雨、赤城は敵陣の少し奥深くまで侵入し、資材を調達してこい。資材不足であるため、改二の使用は禁止。どんなことがあっても、資材を無駄にするな」


 こちらのことを一切振り向かずに提督から放たれた無理難題な命令に、そこに集められた艦娘達全員が困惑し、息を呑んだ。


「ま、待ってください! ......私達、いやここの鎮守府の殆どの艦娘達が度重なる出撃で疲労しています。食事も満足に取っておらず、万全な状態に程遠い調子にあります。......それに、私や赤城、電は既に中破しており、このまま出撃すれば......う"っ!?」

「「「「「......!?」」」」」

 必死な思いで進言していた長門の頬を、いつの間にか近づき、思い切り掌で叩いた提督。

 艦娘達が思わず恐怖に震え上がるなか、まるで虫を見るような目で、既にボロボロな艦娘達を睨み付けた。

「休暇? 食事? 治療? そのような時間を取る暇はない。お前らは艦娘、兵器なのだ。確かに銃のように兵器には整備は必要だろうが、それは一月に一回でいい。いいか? お前らに人権など存在しない。この鎮守府には、艦娘という兵器として登録されている。......それに、兵器ごときが上官の命令に歯向かうと言うのか? 今すぐ、解体してまた祖国のために沈んでいった海の藻屑になっていた『船』にしてやってもいいんだぞ? さっさと出撃し、日本の為に兵器としての使命を全うしてこい。この役立たず共が」

「「「「「「......っ」」」」」」

 こちらには有無を言わせる気がない提督の実力行使と脅迫が織り混ぜられた、二度目の無謀な命令に、時雨達は成す術もなく、そのまま執務室を立ち去った。


 ..................

 ............

 ......



(......こんなの、無理に決まってるよっ)

 段々と近付いてきてる気がする。

 もう、何分敵の攻撃に耐えなければならないのだろうか。

 長門や大和以外の、いやまともにまだ撃てる大和以外の砲撃は全くといって良いほど効かない。

 艦載機での爆撃や雷撃はことごとく敵艦載機に阻まれ、呆気なく撃ち落とされる。

 時雨と電の頼みの綱である魚雷は、敵戦艦や重巡によるアウトレンジからの砲撃で、魚雷の射程にそもそも入ることが出来ない。

 これが、正真正銘の詰み───ということなんだろうか。

「───うッ......」

「妙高っ! っ......大破」

 ついに、重巡妙高まで戦艦ル級flagshipによる強力な砲撃が命中してしまい、一気に轟沈寸前まで被害を与えられてしまう。

 悲しみと怒りにうちひしがれ、消え入った声で味方に味方の被害報告をする時雨。

「どうしてっ......どうしてなんだ......」

 もう、訳が分からなくなっていた。

 命令に従わなければ解体され、それを恐れて命令に従えば従うほど、心身を削られていき、最終的には今のような轟沈寸前まで追い込まれていく。

(僕は、一体何のために戦ってきたんだ?)

 ───日本という国を再び守るため。

 そのような言葉が、瞬時に浮かんできた。

 しかし、果たしてそれは本当だったのだろうか。

(守ってきた国に......ただ良いように利用されていただけだったんじゃないのかい?)

 ───兵器に人権など存在しない。

 そんな疑問に、散々言われてきたあの言葉が胸に突き刺さる。

「僕は......僕はっ」

 その時、時雨は思わず減速し始める。

 何のために戦っているのか。

 何のために砲弾を避けながらも、必死に生きようとしてるのか。

(生きたとしても、その生きようとした努力が......どうせ報われることはない)

 鎮守府に帰還したとしても、誰もが手一杯で、誰も笑って迎い入れてはくれない。

 そしてまた言われるのだ。

 ───Sランクで遂行しろ。役立たず

 ───無駄に弾薬を消費するな

 ───お前らの言う言葉は《はい》で充分だ。私語を慎め兵器ごときが

 ───いつまでたっても出来ないのか?

 ───上官に歯向かうな。解体されたいのか?

 いつまでも。

 いつまでもいつまでも。

 ずっと。

 ───兵器に人権など存在しない

「......」

 そして、これからも

(......そうか)

 そう悟った瞬間、もう時雨は立ち止まっていた。

「白霧、夕立、初春、春雨......皆。僕、もう何で生きてるのか分からなくなったよ......ごめん......皆っ───」

 その時、砲弾の雨が着弾し、時雨を幾つもの大きな水飛沫が取り囲んだ。
  
 
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