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嗤うせぇるすガキども

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ある作者未満読者以上の場合(後編)

 
 
 
 
 
 オリ主の、つまり俺のはずの「大久保大和」は別にいた。
 しかも、みほちゃんはじめ華さんもさおりんも群がってる。
 麻子はどっかで寝てるらしい。

 お昼の時間。
 俺は、ぼっちで購買で買ってきた焼きそばパンを自席で黙々と食べていた。
 当然まわりには、誰もいない……。
 そこからずっと離れたところで、みほちゃんとさおりんと華さん……
……と、大久保大和が机くっつけてお昼食べてる。

「大和さん。これ、私が作ったんです!」

 さおりんが笑顔とともに差し出したのは、チキンタルタル照り焼き風。
 なにげに手が込んでやがる。

「うーん、おいしいね。
 沙織ちゃん、グッジョブだよ。すごく料理上手なんだね」

 さわやかな笑顔で、ほほえみ返す大久保。
 両手をほほに添えて、ほんのりピンク色になるさおりん。

「大和さん。これ、私の地元のもので……。お口に合えばいいんですが」

 みほちゃんが差し出したのは、熊本名物辛子レンコン。
 俺の設定では、大久保は俺同様辛子が苦手なはずだが……。

「うーん、おーいしいねえ。一度食べてみたかったんだ。ありがとう!」

 なんだよそのオーバーアクション。
 作り笑顔が透けて見えるー。辛いのつらいだろ~~~。
 でも、みほちゃん大喜び!
 ……なんなんだよもう。

「すみません。これは私が作ったものではないのですが……」

 な、なんと!
 華さんが、華さんが。
 何よりも大事にしている自分の食料を、大久保大和にシェアしているー!!
 それを大喜びでむしゃむしゃ食いまくる大久保。
 それを見て、にっこり微笑む華さん。

 怒りにはらわたが煮えくりかえりそうだ!

 そのとき、いきなり肩をつかむ奴がいやがった。
 振り返ってみるとそこには、お約束の○藤大輔――!

「テメエ、今日の英語のリーディングの範囲、昼休み中に訳しておけ」

 うぎゃー!
 高校英語なんて引きこもりで受けていねえよお。
 助けて神様。



 そしてまたまた、佐藤大○にヤキ入れられた――!!
 ちくしょう、天使めだましたな!
 何で俺が「大久保大和」じゃねーんだよ!!

『君はバカかね?』

 目のまえには件の天使が、またふわふわと空中浮遊していやがった。

「なんだとお!」
『オリ主として書かれた時点で、そいつは初めから作品に存在する。
 何で自分の本名と容姿にしなかった? モテていると書けばそれですむものを。
 なぜ二次作者はオリ主を自分とかけ離れた人物に設定するんだろうか。
 前から疑問だったのだが』
「そ、それは……」

 こうだったらいいなという自分だとは、とても言えない。

『まあ、そんなわけだからお前はモブキャラとして加わるしかなくなった』
「最初に説明しろよ!!」
『まあまあ、還ってから書き直せば良かろう』
「……どうやれば、還れるんだよ」
『話のチャプターの切れ目で還れる。それまでこの世界を見て傾向と対策でも考えてろ』

 なら、聞いておきたいことがある。
 というか、これまで違っていたらお話にならない。

「なあ、ここは男女共学の『大洗学園』で、戦車道も男女共学の混合授業だよな。
 俺はそう設定したはずだが」
『ああ、それはそのとおりだ』

 ならばここにいる間にやっておくことはひとつだ!
 戦車道を履修する!
 ならば生徒会長室にダッシュだー!!



 その生徒会長室の扉が開いて、中から出てきたのはみほちゃん華さんさおりん、
 ……と、大久保大和。
 しかもみんなきゃっきゃうふふとじゃれ合いながら出てきやがった。むかつくう~。
 次は俺がああなってやるう! 異論は認めん。






「で、貴様も戦車道履修希望者というわけだな」

 やっぱり会長室にはチビガリ陰険、胸のある片眼鏡、グラマー副会長がいた。
 貴様呼ばわりは片眼鏡。だが次来たときは「是非履修してください」と言わせてやる。

 ふてぶてしいチビガリ生徒会長が、こっちを見ないで横を向いたままで口を開く。

「あのねえ、今年の男子枠はもういっぱいなんだ。
 それでも志願するなら、選抜になるけどいいかな?」
「もちろん望むところです」

 チビガリ、こっちぐらい見ろ。むかつくったらありゃしねえ。
 てめーなんか大嫌いだが、ここはとりあえず言うこと聞いておいてやる。
 次に来たときには、お前、奴隷だ。
 そのわきで胸元眩しいグラマー副会長がファイルを開いている。
 そして「選抜」と書かれたインデックスで手を止めた。

「選抜の方法ですが、
 ① 在京三大私大の過去問で、合格点をたたき出す。
 ② ボクシング部、レスリング部、柔道部主将と試合して全部倒す。
 ③ 投票で選ぶ。
 の三つがありますが、どれにします?」

 グラマーが提案するのは、全部無茶ばかりじゃねーか!
 チビガリがあさってを向いて立て膝で補足している。

「いまじゃどこの学校も男子は自衛隊陸曹レベルの選手をそろえてるからね。
 戦車道男子といえば、スポーツ万能頭脳明晰は当然と言っていい。
 そして男女混合競技である以上、身体が密着するんだよ。鉄の箱の中で。
 だったら選択権は女子にある。当然でしょ」

 ぬわんだそれわああぁぁぁあ!
 俺はそんな設定しとらんわー!!
 今度はポンコツ片眼鏡がうさんくさげな視線を向けてくる。

「で、貴様どれを選ぶんだ?」

 あの目つきは無言で「もうあきらめろ」と言っているに違いない。しかし……。
 ①と②は可能性がマイナスだ……。③だって0の微分方程式だけど、もはや一択じゃないか。
 でも、戻ったらとことん俺に都合のいいように書き換えてやる。

「③で、おねがいします」
「本当にいいのか?」
「はい、もちろんです」

 チビガリは俺をちらりと一瞥し、また横を向いてこう言った。

「まー、そんならちゃっちゃとすまそーか」



 投票選抜の会場は、大洗艦で一番デカいアリーナだ。
 投票を選んだのは、俺入れてたったふたり。
 当然というか、相手は大久保大和。
 俺の原作では選抜なんてことにならないから、こんなシーンはない。

「よう、選抜と聞いてあきらめないとは、お前ってよくよくのバカじゃね。
 ま、今日は引き立て役よろしく頼むわ。
 せいぜい笑いを取って、みんなを楽しませてね~☆(歯がキラッ)」

 こっ、このオリ主野郎~!!
 だから「オリ主」って警告タグなんだなあ。
 よし、このシーンも書いてやる。ただし立場逆転でな!



「今日投票に参加された皆さんには、テンキーのついたリモコンを配布いたしました。
 ない方は生徒会役員にお申し出ください。
 お持ちでない方はいませんね。
 では、投票方法について説明します」

 この声が最終回だけ出てくる、広報の女子アナ「王 大河」だな。
 早く話のチャプター終わんねえかな。
 あいつも俺のハーレム入りだ。

「これから戦車道履修者候補2名が、ステージに出てまいります。
 皆さんはステージのスクリーンに映る各種データーをご覧になってから、0から10までのいずれかのボタンを押してください。
 総合平均値が、8以上であれば合格となります」

 なんだその無茶なやり口はー!
 で、でもここをこらえれば、次はハーレムだ。

「では、候補者一番、大久保大和さん。ご入場ください」

 大久保が舞台の袖から暗幕をまくって、ステージに上がる。
 とたんに「きゃあああー!」とかナントカ、かるく120dB以上の黄色い絶叫ってやつがアリーナじゅうに響き渡る。

「大和さあああぁぁぁぁん愛してるぅうううっ!!」
「私を抱いてー」
「めちゃくちゃにしてえー!!
「一緒に死んでー」

 もう耳が張り裂けそうだ!
 大和の野郎、なんか微笑みながらポーズ決めてやがるし。

「えー、ただいま集計結果が出ました。これは……
 総合計84,920点! 調整、総合ともに文句なしの10点まんてーん――!!
 堂々の合格でーす!」

 わああああーっ、と耳を聾する女どもの叫び声がひとしきり響く。
 反対側のそでから、みほちゃん、華さん、さおりんがとびだして大和に抱きつく。
 ちくしょう。オリ主がモテモテなのってこんなにむかつくとは。

「つづきまして、候補者二番。プラウダ風紀いいんかい?さん。ご入場ください」

 アナウンスに促されて、暗幕をめくって一歩踏み出したとたん、喧噪はピタリとおさまる。
 なんなんだよこの扱いの差は!

『よう、どうだね』

 いつのまにか、後ろに例のガキンチョ天使がいる。

「なんだよこれ。俺が考えていないことだらけじゃねえかよ」
『見えてることがすべてじゃない。バックグラウンドでいろいろ動いているのは現実も同じ。
 お前の小説は一人称だから特にそうだ。
 それよりさっさと進めないと、話が終わらないぞ』

 そ、それもそうだ。しかたねえ。
 肩をいからせ、のしのしと大股で歩き出すと、静寂はボソボソ声にとって代わられる。
 いかにも場違いの身の程知らずが、とでもいっていそうだ。
 でも耐える。次は天国だから。

「えーと、ただいま集計結果がでま……した。
 役員さん、機械にエラーはありませんね。
 えっ、正常ですか。そうですか……」

 何がでたんだ? まさか10点満点とか。

「あらためて発表します。
 総合計0点、0点です。
 調整、総合平均ともに0.00点!
 文句なしの不合格でーす!!」

 なんだそりゃー!!
 そしてアリーナじゅうを揺り動かす「カ・エ・レ」コール。
 向こうで大久保大和が「ふっ」と嗤って肩をすくめてやがる。
 そしてチビガリがこっちに向かって歩いてくる。

「やーやーやー。前代未聞だね、れ・い・て・んなんて。
 そんな君にはボッシュートぉー!!」

 チビガリが叫ぶと、足元にまっ暗な穴が!

「うぎゃあああああぁぁぁぁ――……」

 そうして、どこまでもつづくまっ暗な穴を、「プラウダ風紀いいんかい?」は真っ逆さまに落ちていった。






 数日後
「プラウダ風紀いいんかい?」はあいかわらず部屋から出てこなかった。
 食事に手を付けることもなく、冷蔵庫の中身が減ることもなかったが、家の人間は、誰一人として気にすることはなかった……。

『おい、もう偽装はやめろ。似合ってないぞ』

 プラウダ風紀いいんかい?の部屋には、二人の人影があった。
 しかし彼らには「影」というものがない。

『なによ6世。マスターのもとにはちゃんと一人分魂を送ったでしょ』
『あんな使えないものを送るなと仰せだ。今月分のお手当は減額だとさ』

 中世の貴人が着るような服を着た、せいぜい10歳の男児の前で、「天使」はゆっくりと右腕を回転させる。
 天使の扮装が取り除かれ、あとには黒い角、黒いしっぽに黒い羽の小悪魔がいた。

『ふーん。プラウダ風紀いいんかい?の小説は不評ね。感想欄は炎上してるし評価も最低』
『ユニークアクセスが一週間で100未満とはね。
 まあ、これで思い残すこともないだろう』



 その部屋には、電源がついたままのパソコンがおかれている。
 その画面には、断末魔の「プラウダ風紀いいんかい?」の顔の画像があるだけだった。





 こんな男女共学戦車道は、果てしなくいやだ -完-
 
 
 
 
 
 
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