銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第九十七話 クラーマー逃亡
謀略だと本当に筆がすすみますよ。
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第九十七話 クラーマー逃亡
帝国暦481年2月1日
この日、雪のオーデインを一隻の輸送艦が飛び立った。
中には、昨年の憲兵隊粛正で逮捕されたクラーマー一族が収監されていた。
彼等は4ヶ月に及ぶ取り調べの結果、多数の不正などの悪行が次々と露見したうえで、
勅命無視の不忠によりクラーマー元憲兵副総監は処刑され、一族は流刑と言う事になったのである。
本来処刑はオーディンで行う予定であったが、皇帝陛下がクラーマーのような不忠者の血でオーディンが汚れるのを嫌った為に流刑星で処刑を行う事に成った為に、この日一族諸共輸送艦で護送されたのである。オーディン出発時は単艦行動ではなく巡航艦の護衛がついていた。
流刑場所はエックハルト星系隣接のツェーレンドルフ星系にある流刑星である。
クラーマー一族は絶望に打ちひしがれていた。
流刑星までは凡そ15日間の旅であるが、嬉しくない旅であろう。
流刑星への護送指揮官は艦齢30年の旧型軽巡航艦エムデン艦長ラーケン中佐であり、輸送艦はアルトマルクで艦長リンツ少佐であった。オーディンを出航直後は順風に目的地へと向かったが、次第にエムデンに時折起こる少トラブルを騙し騙し航行していた。
2月13日アイゼンフート星系を航行中、軽巡航艦エムデンにエンジントラブルが発生し星系のドックへ緊急入港が行われる事に成った。しかし16日に流刑星へ到着し翌日公開処刑が行われる為に此処で時間を潰すこと下出来ない為に最早安全圏であるとして輸送艦にラーケン中佐が乗り込み先行することになった。残った副長のブルームハルト大尉が応急修理を終え次第、後を追うことになった。
本来であれば、アイゼンフート伯爵の私設艦隊の中から護衛を頼むところであるが、伯爵の曽孫が関与した事件の影響で艦隊を動かせる状態ではない為断念したのである。
しかし、この星系はフェザーンからの物資輸送ラインである為、正規軍のパトロールも頻繁に行われていて海賊等が出ない為、安心して単艦行動が出来る星域であった。
2月15日エックハルト星系近郊でエムデンは辛うじて追いつき、再度艦列を立て直す為にラーケン中佐がエムデンへ移ろうとシャトルの準備を行い始めたその時、突如ワープアウトがあり、一隻の真っ黒な巡航艦が現れいきなりエムデンを攻撃してきた。
いきなり至近距離からの発砲でエムデンは呆気なく爆炎と共に消え去った。
そして、アルトマルクに対して威嚇射撃を行い『直ちに降伏せよ、無電を打つな』と光通信が来た。
いきなりの攻撃にパニックになる乗組員達、守ってくれるはずのエムデンは既に消え去り残骸が漂っている状態である、リンツ艦長の返答で艦の乗組員20名の運命が決まるのである。
リンツ艦長は降伏を決意するが、そこへラーケン中佐がやって来て、降伏は認めないと言い出した。
「リンツ少佐、卿は誇り有る帝国軍人として、海賊なんぞに降伏して恥ずかしくないのか!」
「そうは、仰いますが中佐殿、我々には武器もなく丸腰に近い状態です。どうやって巡航艦と戦うのですか?」
「必勝の信念があれば、自ずと道は開けるモノだ!」
「私は此処に居る、乗組員20名と護送している者達と無論あなたもだが、諸々の命を預かる義務があるのだ!」
「この輸送隊の指揮官は私だ!卿は指示に従えば良いんだ!」
言い争う間に海賊船から、乗り込み用チューブが発射され海賊が乗り込んできたのである。
しかも海賊は装甲服を着て雪崩れ込んできた、あっという間に制圧される艦内。
艦橋にも雪崩れ込んできて、言い争いをしていた2人を殴り倒して艦は制圧されてしまった。
海賊の親玉が現れたが、この艦にいるクラーマー一族を奪還しに着たと話してきた。
「貴様何やつだ!」
殴られながらも、気丈なラーケンは海賊に喰ってかかる。
「ふ。何の因果か知らないけれど、流れ流れて今じゃしがない海賊風情。元憲兵隊行動副隊長、オットー・ハルバッハとは俺のことだ!」
そう言われても誰も知らないので、リアクションが取れないのである。
その頃、クラーマー一族を隔離している独房では独房の鍵が壊され、クラーマー自身が外へ出されていたが突然現れた海賊に驚いていた。
「だっだ誰なんだ?」
ここへ来た、海賊のリーダーらしき男が丁重に喋る。
「クラーマー閣下、お迎えに上がりました」
「迎えだと、卿等何者だ」
「ハルバッハ中佐の手の者です」
その名前を聞いて、クラーマーが喜びの顔をする。
「ハルバッハが来たのか、何処に隠れていたんだ?」
「詳しい事は、本艦へお移り頂いた後に」
「うむ、家族も頼むぞ」
「はっ」
海賊ではなく、憲兵隊残党はクラーマーを奪還する事に成功した。
艦橋では、縛られた乗組員21名が転がされていた。
「はは、運が良ければ拾われるかもしれんな。あばよー」
憲兵隊残党はクラーマー一族を巡航艦へ移乗させて、さっさとワープして消えていった。
翌日到着しない、護送部隊を探しに来た。エックハルト星系警備隊によりアルトマルクは発見された。
事情がわかり直ぐさま、オーディンの憲兵隊本部へと連絡が行った。
眠そうな、いや完全に居眠りしていた、グリンメルスハウゼン憲兵隊総監が話を聞くも要領を得ないので、副官のケスラー中佐が応対をするが慌てるそぶりも見せずに淡々と事後処理を命じていた。
その後、生き残りの21名はオーディンへ帰還することになったが、国事犯に逃亡された為に、非常にくらい状態であった。
2月28日オーディンに到着し、憲兵隊による取り調べが始まった。
その5日後、3月1日に、クラーマー一行がフェザーンへ逃げ込んだとの一報が入った。
そして、同盟を僭称する叛徒共へ亡命したと連絡が来たのである。
そして悲劇が起こった、ラーケン中佐とリンツ少佐が護送失敗の罪を全て被って自決したのである。遺書には皇帝陛下の御名を汚した罪は万死に値するとあり。全て両名の罪であり、残りの乗組員には罪が行かないようにお願いしたいとあった。
この話を聞いた陛下より、生き残りの19名対しての恩赦と死亡した全員の遺族に対して弔慰金が下賜された為、軍部としても玉虫色の解決が図られる事になった。
帝国暦481年2月22日
■アイゼンヘルツ星系近郊 巡航艦アトランティス
脱出に成功したクラーマー一行は元部下ハルバッハ中佐指揮の巡航艦でフェザーンへと向かっていた。
途中彼方此方で隠れる関係で時間がかかっているが、あと少しでフェザーンである。
艦内ではクラーマー元副総監が喜びながら、ハルバッハ中佐を褒め称えていた。
「ハルバッハ、良く来てくれた。お前が来なければ儂は殺されるところだった」
「閣下にご不便をおかけして誠に申し訳ありません」
「なんの、此だけの艦を掠めるのも大変だったんだろう」
「苦労はしましたが、軍内部にも今回の陛下の成されように不満がある者が居りますので、旨くだまして手に入れました」
「そうか、ありがたいな」
「元々この艦はスクラップになる予定でしたから、簡単に手に入れられました」
「なるほどな」
「ただ袖の下で閣下の秘密資金を半分ほど使いました事をお詫びしたいます」
「半分か、まあ良い。死んだら何の役にも立たないのだからな」
クラーマーはワインを飲みながら上機嫌である。
「してフェザーンへ行ってからはどうするのだ?」
「フェザーンですと、帝国の官警に見つかり連れ攫われる可能性がございますので、同盟へ亡命するしか無いかと存じます」
「うむ、叛徒共の元へか、しかし儂は平民共を虐げてきた憲兵隊副総監だ。
叛徒共にしては敵ではないのか?」
「はっその点におきましては、閣下がご記憶の貴族達の醜聞の記録を出して、更にイゼルローン要塞のトールハンマー射程が6.4光秒である情報を出せば、喜んで迎え入れてくれるでしょう」
「うむ、確かにそうかもしれんな、ハルバッハ、卿に任せよう」
「御意」
宇宙暦790年 帝国暦481年 3月1日
■自由惑星同盟 首都星ハイネセン 統合作戦本部
この日、フェザーンの高等弁務官事務所から入った一報で統合作戦本部は喧噪に包まれた。
元銀河帝国軍憲兵隊副総監クラーマー中将が亡命を求めてきたのである。
中将は命からがら一族と部下と共に亡命してきたのである。
政府や軍部でも亡命を受け入れるかで、喧々諤々としていた。
悪名高い社会秩序維持局ほどでは無いが、憲兵隊も民衆弾圧の手先であるから、その様な組織の副総監を受けれるべきでないという意見。亡命者であるなら分け隔て無く受け入れるべきだという意見。など諸々の意見が流れた。
しかし中将がイゼルローン要塞のトールハンマー射程を知っており、更に帝国貴族の醜聞を知る立場にあることから、前者は宇宙艦隊司令部から、後者は情報部から亡命をさせるべきであるとの事で結局は亡命を受け入れる事に成った。
そして3月3日に自由惑星同盟軍のルジアーナ造兵敞警備隊からの迎えの巡航艦と共に同盟領へ入国しルジアーナから同盟軍巡航艦によりハイネセンへと旅立った。
無論情報部はスパイ疑惑がある為に徹底的に調べるのであるが、
事件のあらましを聞いて帝国内に政変が起こった事を確信するに至ったのである。
しかし同盟政府はその情報を有効活用できずに終わっている。
選挙が未だ近くない為に政府が、それほど焦っていなかったからである。
クラーマー一行はハイネセンに着くと情報部の調査を受けた後で、
邸宅をあてがわれて住み始めたのである。
情報部などの手伝いをすることを確約した上で。
クラーマー中将は同盟軍に中将待遇で分室を貰い貴族の醜聞の纏めを行っている。
長男のアウグストは同盟軍に大尉として任官したが親父の分室で遊んでいる。
次男のグスタフは遊び歩いては女の子をナンパしている。
オットー・ハルバッハ中佐は同盟軍の中佐になったが、暫く監視が着くことになった。
その他の兵員60名はそれぞれ監視がつくが、一般市民としての教育を受けた後で、自分の道を歩むようにハルバッハ中佐から命じられた。
帝国暦481年3月31日
■オーディン ノイエ・サンスーシ 小部屋
小部屋に笑い声が響いている。
「ハハハ、グリンメルスハウゼン、急報中に居眠りとは、良い演技じゃったぞ」
「陛下、閣下は本当に居眠りしていたのです」
「ケスラー、卿までその様な事を言うとはな」
皇帝とケスラーにからかわれた、グリンメルスハウゼンは少々憮然としている。
「まあ、見事に策がはまったのですからいのではありませんかな」
「ケーフェンヒラーの言う通りよ、クラーマーは見事に叛徒共の元へ逃げ込んだわ」
ケーフェンヒラーの言葉をテレーゼが肯定する。
「しかし、殿下あの艦の爆沈はよく考え着きましたの」
「色々とね、オンボロ巡航艦が故障して、一旦分かれて帰還後に撃沈される。
無人にして沈めるにはリアルさも必要でしょ、それに艦長2人の自決もだしね」
「元々あの2人はデーターベース上での存在ですからね、工作員が化けるのは容易いわけです。
それに死んだところを誰も見ていない。死んだと19人の生き残りには知らせただけでも、
大いなる嘘になりますから、ラーケン中佐とリンツ少佐は名誉の自決というわけです。
巡航艦で戦死した事に成っている、ブルームハルト大尉以下90名も同じです」
ケスラーが説明をした。
何のことはない、巡航艦も無人であり、乗務員は全てダミーの軍籍で、グリンメルスハウゼンの部下達であった。無論指揮官も死んだことにしているだけである。
唯一関係ない乗員が輸送艦の19名で有り、彼等の証言が事件にリアルさをもたらしているのである。
「殿下、態々ラーケン、リンツ、ブルームハルトを選んだのは何故ですかな」
ケーフェンヒラーがニヤニヤしながら聞いてくる。
テレーゼは単にローゼンリッター関係の名前を見つけたから使っただけであるから適当である。
「適当に目に入った名前だからですよ」
「なるほど」
ケーフェンヒラーは面白くない答えにつまらなそうである。
「所で、クラーマーこそ良い面の皮じゃな」
「そうでありますな」
陛下の言葉にケーフェンヒラーとグリンメルスハウゼンが頷く。
「しかし、憲兵隊にも確りと草を仕込んでいたのね」
「ホホホ、このグリンメルスハウゼン抜かりはありませんぞ」
「見事じゃ」
「見事です」
「陛下、殿下ありがたき幸せ」
「しかし、クラーマーも叛徒も命からがら逃げてきた、ハルバッハ中佐が黒幕とは気がつかないでしょうな、暫くは監視をされるでしょうから動くのは4年ほど後でしょうな」
「それぐらいの期間は熟成期間ですから出世もしましょう」
「ほんに」
「しかし、クラーマーの情報は大丈夫であろうな?」
「お任せ下さい、戦いとは二歩三歩先を読むことでございます故、先に手を打ってあります」
「トールハンマーの射程は6.4光秒だって、そろそろ叛徒も気がつく頃だしね、死んだ情報を有効に活用しなきゃ駄目ですからね」
「明日は大騒ぎであろうな」
「放送が楽しみですな」
今までの4人にケーフェンヒラーを加えた、話し合いは続くのである。
帝国暦481年4月1日
朝のニュースで、銀河帝国全土で様々な思いが交差した。
今まで臣民を苦しめてきた、憲兵隊の元副総監クラーマー中将が処刑寸前に元部下たちにより奪還されて同盟を僭称する叛徒共の元へ逃げ込んだと報道された。
巡航艦一隻が撃沈され90名が命を落としたことと、責任者が部下を庇い自決した事などが事細やかに報道され、自らの自決で部下を守った艦長達と、その願いを聞き入れた皇帝陛下の温情に比べると、平民の間に自分たちを苦しめてきた憲兵隊副総監を送り返さずに匿う、同盟に対する失望感と怨嗟が益々起こって言ったのである。
臣民は見事に魔女の誘導に乗ってしまったのであった。
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