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儚き想い、されど永遠の想い

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453部分:第三十五話 椿と水仙その四


第三十五話 椿と水仙その四

「それでもです」
「心は奇麗でした」
「心は汚れていませんでした」
 二人は話す。そしてだ。
 老人、茶道の家元はだ。こうも話すのだった。
「しかしです」
「それでもですね」
「はい、それでもです」
 こう話していくのだった。義正に。
「彼女は病で倒れてしまいます」
「労咳ですね」
 真理と同じ病だ。だからこそだ。
 義正はその病に反応を見せてだ。老人に応えたのである。
「あの病の為に」
「そうです。ですがそこからでした」
「彼女の愛ははじまりましたね」
「歌劇にもなっていますが」
「ヴェルディでしたか」
 伊太利亜の音楽家だ。義正はここでは彼の名を出した。
 そのうえでだ。その歌劇から話したのである。
「歌劇においてはヴィオレッタ=ヴァレリーで」
「主人公はアルフレード=ジェルモンでしたね」
「私はあの歌劇を心から愛しています」
「名作故にですね」
「ヴィオレッタの清らかに心を打たれました」
 娼婦という穢れているとされている仕事に就いているがそれでもだというのだ。ヴィオレッタのその心はあくまで清らかだというのだ。
 だからこそだとだ。義正はここで話すのである。
「あそこまで高潔な愛はないと思います」
「そうですね。私もあの歌劇は一度観ましたが」
「素晴らしいものですね」
「原作もいいですが歌劇もです」
 それもまたいいというのだ。老人もまた。
「あの歌劇を観て涙を流さないことは困難です」
「全くです。ヴィオレッタを観ていますと」
「他にはプッチーニも好きですが」
 こんなことも話す老人だった。
「ラ=ボエームですが」
「あれもヒロインは労咳ですね」
 ここでも真理のことを思わざるを得ない義正だった。
 その真理をちらりと見てからだ。彼は老人に話すのだった。
「そしてそれが為に」
「悲しい結末を迎えてしまいますね」
「まるで椿の様に、ですね」
「はい」
 老人の言葉を先読みして言う義正だった。そして老人も彼のその言葉通りにだった。彼に対して答えさらにこう言うのであった。
「あの様に。あえなく」
「椿はあえなく落ちる花と言われています」
 義正は目を伏せて話した。
「ですがそれでもです」
「椿はあえなくはないと」
「花は落ちます。しかし花は花だけで花となっているのでしょうか」
「幹や根があってこそだというのですね」
「その全てが花ですから」
「だから花は死んでいないですか」
「また咲かせます。ですから」
 義正は話していく。真理と義幸、そして老人と共にその花を見つつだ。
「花は死なないのです」
「むしろ新しい生ですか」
「そう思います」
「確かに。そうした考えもできますね」
 老人は日本的な考えから話していく。
「輪廻転生において」
「いえ、輪廻ではなく」
「そうではないというのですか」
「はい、魂は不滅でそれは幾つにも分かれるものです」
 義正が辿り着いた一つの考えだ。それを今この場で話したのである。
「人の。それぞれの愛してくれた人の中に」
「生きるというのですか」
「椿が一輪落ちても無数の椿が咲きます」
「あらたにですね」
「私はそう考えます」
 真理にも話していた。老人に対してだけではなく。
 
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