万華鏡の連鎖
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宇宙戦艦ヤマト異伝
連合宇宙軍
「よぉし、6ダースだ!
副長、次を探せ!!」
コワルスキー大佐は、上機嫌で言い放った。
探すまでもなく前方視界スクリーンは、無限艦隊の大群に埋め尽くされている。
次を探せ、は言葉の綾だ。
意訳すれば『俺は戦闘指揮に没頭する、攻撃目標の選定は任せた』と言う所か。
重巡洋艦『コルドバ』艦長コワルスキー大佐は、最強とも噂される手練れだ。
短気な所が玉に瑕だが、宇宙戦の際には誰よりも頼りになる。
長年コンビを組んで来た副長は、その辺りの呼吸を充分に飲み込んでいた。
重巡洋艦の主砲6門、50センチ熱線砲≪ブラスター≫は休む間も無く連射を続行。
発射された火球は的確に標的を捉え、艦体を灼く。
無人艦隊に向け放たれる1斉射毎に、6個の爆発円が発生。
既に12斉射分、72隻の大型戦闘艦が姿を消した。
全長15メートルの宇宙戦闘機2機も『コルドバ』から離れず、敵艦を霍乱。
緑色のエネルギー吸収力場は許容量が小さいが、短時間の砲撃には充分耐え得る。
断続的に発射される低出力レーザー光線はパルス・レーザー同様、小規模な次元振動波を発生。
共鳴効果を発生させ分子振動を引き起こし、分子破壊砲と同様の威力を発揮する。
照射時間の微調整に拠り条件が合致すれば惑星を崩壊させる分子爆弾と同様、崩壊砲と化す。
熱線砲や電磁砲に比べエネルギー量は遙かに小さいが、敵小型艦の攻撃には効果的だ。
全長400メートル級の重巡洋艦が機敏な操作に反応し、弾かれた様に艦体を翻す。
無限艦隊の集中砲火が一瞬前まで『コルドバ』の占めていた空間を貫き、空しく流れ去る。
宇宙エネルギーを吸収し駆動源とする新型主推進機関、重力場推進機構が瞬間的に全力を発揮。
以前のロケット機関とは比較を絶する高加速度を維持し、混沌の坩堝と化した戦場を駆け巡る。
コワルスキー大佐指揮の『コルドバ』は怖れる事無く、無限艦隊の群がる密集地帯に突進。
熾烈な戦闘の真っ只中へ切れ込み青白い火球、断続的な細い光線が数多の敵艦を消滅させた。
重巡洋艦『コルドバ』艦長コワルスキー大佐と1、2を争う連合宇宙軍屈指の切札≪エース≫。
軽巡洋艦『アルタミラ』艦長トミヤマ中佐は、ライバルと対照的な戦い振りを見せた。
敵は、無限艦隊。
決着など付けられる筈が無く、持久戦となる事は避けられない。
戦果≪スコア≫など、どうでも良い。
敵艦の多数撃破は狙わず、味方の援護に徹する。
熟練宇宙艦乗りは容易に補充は出来ず、何物にも代え難い貴重な存在であるのだ。
不利な態勢の味方を敵艦から逃がす事に徹し、全体的な戦力比の悪化を極力阻止する。
高速を誇る軽巡洋艦『アルタミラ』は軽快に、錯綜する戦場を駆け抜けた。
窮地に追い込まれた味方艦、200メートル級の駆逐艦を発見。
機敏に転針を行い、迅速に接近し介入。
被弾損傷した駆逐艦は20センチ熱線砲が使用不能に陥り、運動性も低下。
低出力パルス・レーザーのみでは、牽制の効果も薄い。
回避動作も緩慢であり、数秒後には致命傷を負いかねない。
直ちに、エネルギー奪取弾が味方駆逐艦の前面に投射された。
敵艦の砲撃を吸収する楯≪シールド≫となり、止めとなる筈であった攻撃が無効化される。
30センチ熱線砲≪ブラスター≫発射の直後、青白い火球が瞬間移動≪テレポート≫。
爆発を避け、水星方面に逃れる駆逐艦を追う敵艦は無い。
トミヤマ中佐は戦場を見渡し、危機に瀕する味方を探した。
護衛艦と切り離され、孤立し集中砲撃を浴びる戦闘艇母艦を発見。
重力場推進機関を全開し、損傷艦の後方へ割り込む。
膨大な攻撃波を肩代わりした為、急激な負荷の増大を引き受けたエネルギー吸収力場が輝く。
緑玉色から鮮やかな青空、眩い青紫色に変化。
攻撃負荷を処理し切れず、エネルギー吸収力場が崩壊する。
艦体装甲と言うべき艦殻外部の鏡面塗装、エネルギー反射防御壁が露出。
反射衛星砲ならぬ極低温の罠、銀色の鏡が敵艦の発射孔に破壊光線を撥ね返す。
30センチ熱線砲≪ブラスター≫と超電磁直撃砲が唸り、火球と電撃が瞬間移動。
集中砲火を浴びせる敵艦の傍に現れ、同時に複数の爆発が生じる。
小口径の破壊光線砲が断続的に閃き、至近距離で敵艦の破壊光線と衝突。
次元歪曲力場が形成され、防護弾幕となった。
エネルギー奪取弾が虚空を翔け、軽巡洋艦の周辺で破壊光線を無力化。
トミヤマ中佐の卓越した操艦術、妙技が発揮され戦闘艇母艦『ダウラギリ』は窮地を逃れた。
軽巡洋艦『アルタミラ』は無限艦隊の追撃を振り切り、要援護味方艦艇の捜索を再開。
二重反転旋廻を披露し、包囲網を崩して集中砲火から離脱する。
宇宙戦闘艇の操縦士兼、艇長。
テン・ルー大尉は副表示枠を閉じ、安堵の溜息を吐いた。
本来であれば母艦が爆発四散する危機であっても、駆け付ける事は許されないが。
蛍光塗料で≪トミー≫と描いた艦に援護され、母艦『ダウラギリ』は致命傷を免れた模様だ。
戦場の借りは戦場で返す、の鉄則に例外は無い。
今度は、俺が味方を救う番だ。
「艇長、味方が危ない!」
戦闘艇の航法士兼、射撃手。
ナヒモフ曹長の声が響き、表示スクリーン上の映像が切り替わる。
小型艦に環状砲撃を浴びせ、止めを刺す直前に見える無限艦隊の1群が見えた。
150m級の護衛駆逐艦は熱線砲を撃ち、脱出を試みるが状況は絶望的。
エネルギー奪取弾8発は総て、使い果たした。
円盤状で直径30m級の戦闘艇は機動性に優れ、主任務は霍乱だが。
小型の超電磁直撃砲1門、低出力の断続式破壊光線砲2門は健在。
艇長は躊躇せず急旋回に入り、一気に距離を詰めた。
相棒も絶大な信頼を裏切らず、精度の高い威嚇射撃を浴びせる。
不規則転位で敵を誘い、小型艦の後退を援護。
鏡面塗装、エネルギー変換力場の駆動装置は直撃に耐えた。
照準の定め易い直進は避け、強引過ぎる急角度で針路を変える。
幅広の青白い破壊光線が閃き、宇宙戦闘艇の数m脇を掠めた。
小型艦が安全圏に逃れる時間を稼ぐ為、更に幾度か急激に軌道を曲げる。
「大丈夫です、戦艦の陰に隠れました!」
ナヒモフ曹長の報告に応え、テン・ルー大尉は敵艦を振り切った。
一撃離脱戦法が幾度も繰り返され、多数の敵艦を撹乱。
戦闘艇数百万隻を含む連合宇宙軍の奮戦、激闘は数時間に及んだ。
太陽系防衛戦に駆け付けたのは第八艦隊、連合宇宙軍の精鋭達だけではなかった。
驚異的な戦闘能力を保有し、短時間であれば絶対真空の被曝にも耐え得る宇宙戦士達。
惑星国家サルシフィ宇宙軍の秘密兵器、通称バイオボーグ達にも。
女神を救う為に太陽系防衛戦へと参加を果たし、無限艦隊と戦う理由が存在した。
人類の絶滅した平行宇宙では皮肉な事に、永い平和な時代が到来。
バイオボーグ達は互いを敵視せず、平和共存を実現していた。
居住惑星を銀河系全域で確保、空前の繁栄を経て彼等は更なる進化を模索。
銀河帝国セルダン計画の精神統合体、私=我々=惑星≪ガイア≫=銀河系≪ギャラクシア≫。
人類のみならず動植物、惑星構成分子段階の感覚も共有する集合意識が実現された。
惑星メル発信源の思念波が届き、記憶封鎖を解除の後に。
理想郷の実現に至る無数の再試行、女神の恩恵が顕らかとなった。
多次元世界に関する発明は皆無、平行宇宙を移動する術を持たぬ彼等は精神を統一。
集合意識の総力を挙げ遠隔視、千里眼《クレヤボワイヤンス》の開発を試みた。
銀河系規模の精神感応波、テレパシー放送を異世界の超能力者達が受信。
超空間通信《ハイパー・ウェーブ》と異なる原理に基き、返信を試みる。
オーティス・ザ・グレイテスト率いる超能力者達、5千名も精神融合を実験。
メローラ姫の助言《アドバイス》を得て、複数の複製世界に思考が伝達された。
女神を救う事は、総てに優先する。
戦闘用改造生命体起源の《統一体》は要請に応え、人類との共闘を受け容れた。
生体強化人は無人戦闘機の特性を損なう事無く、必要最小限の改造で操縦可能。
脆弱な星間航行種族と異なり、短時間であれば絶対真空の被曝にも耐え得る。
真田志郎工作班長以下、技術者達は瞬く間に遠隔操縦装置を撤去。
戦闘用改造生命体専用、耐G性能を無視した操縦席に造り変えた。
大蛇《ビッグ・バイパー》、沙羅曼蛇《サラマンダ》、白銀の鷹《シルバー・ホーク》。
超時空戦闘機は瞬間物質移送装置、エネルギー奪取弾が標準装備となっっている。
加速重圧の耐用範囲も有人機を遥に凌駕し、人体破壊を免れ得ぬ急機動も問題は皆無。
バイオボーグ達は強力に改造された超時空宇宙戦闘機に乗り、圧倒的多数の敵に挑んだ。
彼等は優秀な電子頭脳も備え、実戦で蓄積された膨大な情報を短時間で整理。
無限艦隊の戦術パターン、運動法則等を理解し絶大な戦果を挙げている。
敵は異銀河M-87星雲出身の戦闘用改造生命体、第二段階の《けだもの》を投入。
半生体宇宙船≪ドラン≫群と震動守護者が現れ、冥王星前線基地を襲った。
最強の敵は海王星、天王星、土星、木星軌道も強行突破。
小惑星帯の要塞群が潰滅の最中、最強の援軍が現れた。
後書き
『撃滅!宇宙海賊の罠』参照。
テン・ルー大尉、ナヒモフ曹長。
戦場に斃れた数多の勇者達に敬意を表し、黙祷を捧げます。
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