魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第148話「それぞれの尽力」
前書き
信じられるか……?まだ、本編では大門が開いてから一日しか経ってないんだぜ……?
……と言う感じで、ようやく夜が明けました。
各地の力の強い門も大体閉じたので、優輝達は一度態勢を立て直しています。
今回は、視点がばらけています。
=out side=
「ですから!悠長に待っている暇なんてないんです!事は日本全土で起きているんですよ!?こうして我々が話し合っている間にも、一般市民はどんどん被害を被っているんです!」
「だが、既に自衛隊や警察も動かしている。充分だろう」
東京のとある場所で会議が行われていた。
緊急故、本来なら会議しないはずの時間帯に、これまた普通ではない立場の人間が集まっていた。……議題は、もちろん妖の事である。
「相手がどんな存在かもわかっていないんです。“大丈夫だろう”と構えているだけでは、取り返しのつかない状況になるかもしれないんですよ!現に、確認できるだけでも何百人もの死者が既に出ているんです!相手の正体も、原因も分からないのに“充分”だと言える訳がないでしょう!」
「っ……だったら、どうすればいいか具体的な案を言ってみろ!」
そして、その会議の空気は最悪なものだった。
何せ、未知の相手が大規模な襲撃をしてきたのだ。
一般市民が混乱しているのと同じように、立場が高い彼らも平常心を保てていない状態だった。
「……ん?」
「―――――」
「……分かった」
その中で、比較的落ち着いている男性が、部下である一人から電話を受け取る。
そして、その相手からの言葉を聞いて、頷いた。
「とりあえず、だ。落ち着いてもらおうか」
「これが落ち着いていられませんよ!緊急で会議を開いたというのに!」
「ならば、そのまま聞いてもらおう」
そういって、その男性は持っている電話を、スピーカーモードにする。
『……あー、聞こえますか?私は彼の個人的な知り合いで、高町士郎と言います』
その電話の相手は、士郎だった。
事情を簡単に知っている士郎が、伝手を頼りに重役の彼らに連絡を取ったのだ。
『私も簡単な事情を聞いただけなので簡潔に説明します。現在、日本全土に出現している、怪物。それは妖という存在で、かつて江戸時代にも存在していた化け物です。まぁ、名前の通り妖怪ですね』
「……確かに、報告には妖怪と同じような特徴がありましたが……」
『妖の発生源は幽世の門と言われるものです。どうやら、瘴気が溢れる穴のような見た目らしいですが、物理的に塞ぐ事は出来ません。よって、ただ妖を倒しているだけでは決して解決はできません』
士郎から語られる説明に、俄かに騒めきが強くなる。
聞き逃せない情報ばかりなので、当然と言えば当然だが。
「だ、だったらどうすれば……!」
『そのために専門家の存在、退魔士や陰陽師が必要になります。……既にそちらでも把握しているのでは?不可思議な術を使う存在を』
「……あれが、そうだというのか……」
「…………」
実際に報告で退魔士や管理局員の事は伝えられている。
尤も、“正体不明の集団”としてしか伝えられていないので、現実味はなかったが。
そして、管理局員はともかく、退魔士に関しては知っている者も彼らの中にはいた。
退魔士は国公認の組織なので、知っている者は知っているからだ。
『幽世の門の対処はこちらの伝手で何とかします。そちらは住民の避難と安全を最優先にしてください。余裕がない今は詳しい説明はできませんが、戦闘は退魔士と時空管理局と名乗る存在に任せてください』
「ま、待て、お前は何者なんだ?それらの情報を誰から聞いた?」
話を締め括ろうとした士郎と、一人の男が慌てて止める。
『私は何者でもいいでしょう。誰から聞いたかは……まぁ、今の事態に詳しい人物からです。江戸時代で起きた事を良く知っているのでね……では、任せました』
詳しく説明する暇はないと、士郎ははぐらかし、電話を切った。
「……との事だ」
「…………」
彼らにとって、とてもではないが士郎の言う通りにはし難かった。
何せ、電話を受け取った彼の知り合いとはいえ、信じられないような事ばかり言っていたからだ。……だが、同時にそうするべきだとも考えられた。
「……警察や自衛隊は、主に防衛、救助、避難に宛てるべきだ。原因の解決をしようがない限り、我らに出来る事はそれだけだ」
「彼の言う通りにするのですか!?いくら何でも……!」
「確かに鵜呑みにするべきではないだろう。だが、信憑性は高い。それに、全くの未知よりも、仮定でも相手の存在が判っている方がマシだろう。……そして、もし妖怪が相手なら、今は防衛に徹するべきだ」
その後、何度も意見はぶつかり合ったが、最終的に士郎が言ったような方針で進めていく事になった。
「貴方達は京都に残っているかもしれない妖を探して討伐。貴方達は他の県へ救援に向かいなさい。細かい指示はそれぞれのリーダーに任せるわ」
場所は京都。土御門家本家。
その中で土御門家次期当主の澄紀は各退魔士に指示を出していた。
「準備が整い次第、向かってちょうだい!」
「「「「はいっ!!」」」」
椿と葵に一喝されたためか、澄紀はどこか一皮剥けたような雰囲気を持っていた。
実際、自らの立場に拘るような無駄なプライドは鳴りを潜め、次期当主らしいカリスマへとそのプライドを変えていた。
「……ふぅ……」
指示を出し終わり、澄紀はその場で一息つく。
既に京都で何度も妖を倒してきた身。疲労も積み重なっていた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……ええ。それに、ここでただ休む訳にはいかないわ。……古い資料が集めてある部屋に入る許可を取りに行かないと……」
「古い資料……?お嬢様、何を……」
「式姫と妖……おそらく、この家にはそれらの資料が残されているはずよ……。それらがあれば、今起きている事態を解決できる糸口が見つかるかもしれない」
「なるほど……」
召使の言葉にそう答え、澄紀は実家へと向かった。
「(式姫について、私は大して詳しくない。……いえ、それどころか薄っすらと知っていただけ。知った原因は……お父様からの教えと、以前見た古い文献。なら……)」
父にも式姫について知る情報源があったはずと考え、資料を漁るために許可を取りに向かった。
ガラッ!
「っ、けほっ、けほっ。埃塗れね……」
結論から言えば、あっさりと許可は出た。緊急時故、仕方ないともいえるが。
そして、そのまま土御門の歴史が記された書物のある部屋へと澄紀は入った。
「(以前見た文献によれば、式姫は江戸時代に存在していた……なら、その時代を中心に……)」
その時代の書物を手に取り、高速で読み解いていく澄紀。
元々、彼女のポテンシャルは高い。
それこそ、時代が時代であれば、相当腕の立つ陰陽師になれただろう。
それだけじゃない。まさに文武両道と言える程、彼女は優等生だった。
尤も、その分プライドが高くなってしまっていたが。
「(式姫……幽世の大門……これね……!)」
そして、ついに今起きている事態と一致する資料を見つけた。
澄紀はそれを中心に、次々と書物を調べていった。
「ォオオオオオオオオオオン!!」
信濃地方の信濃川周辺にて、大きな咆哮が上がる。
咆哮の主は信濃龍神。その名の通り、信濃川を力の源とした龍神だ。
「っ……!撃て!撃て!!」
そんな龍神に対し、ヘリや地上から銃火器による攻撃が撃ち込まれる。
しかし、まるでびくともしない。銃弾に至っては鱗で弾かれていた。
「くそ……!まるで効いていない!」
「こんなの、ありかよ……!」
まるで効いていない様子を見て、戦っていた自衛隊の面々は戦慄する。
「……任せるしか、ないのか……?」
「けど、彼らは正体不明の集団なんですよ!そんなのに任せるなんて……!」
「馬鹿野郎!だからって俺達が頑張った所で、無駄な犠牲を出すだけだ!」
戦っているのは、自衛隊だけではない。
既に管理局員と現地の退魔士がおり、何とか邪魔をしないように戦っていた。
「……正直言って、悪いですが……私達にも、あれの対処は難しいです」
「こっちも同意見だ。くそっ、もっと強い魔法が使えりゃ……」
だが、攻撃を避けて後退してきた退魔士と管理局員が歯が立たないと言う。
それほどまでに、信濃龍神は堅かった。
「くそっ、だったらどうすりゃいいんだ!」
「エース達を呼ぶのは?」
「ダメだ。あっちもあっちで手強い奴らを相手しているらしい。手を貸してもらう余裕はないぞ」
「っ、避けて!!」
悪態をつく自衛隊員の男。
優輝達の内誰か呼べないか言う管理局員。
そんな彼らに警告するように、退魔士の一人である女性が声を上げる。
咄嗟に、管理局員は飛んで、自衛隊員は武器を投げ捨ててでも横へと逃げた。
その瞬間、龍神がその場所を通り過ぎていった。
「あ、危ねぇ……!!」
「早く撤退を!……自衛隊だと、倒すよりも先に全滅してしまいます…!」
「……そうだな。けど、お前たちだけで対処できるのか?」
「対処が“難しい”だけです。不可能ではありません」
「ああ。物理攻撃は通じにくいが、魔法や…霊術だったか?それなら何とか行ける」
既に退魔士達の内、何人かは殺されてしまっている。
管理局員も、飛んでいるから重傷で済んでいるものの、何人か撤退している。
だが、いつ死人が出てもおかしくはなかった。
それでも、彼らは逃げる事なく立ち向かった。
「っ………行くぞ!ここを中心として、辺り一帯の住民を避難させろ!」
「は、はい!!」
無力を感じながらも、一般市民を避難させるために、自衛隊は“戦略的撤退”をした。例え退けないと思っても、出来る事を優先したのだ。
「…あんたたちは生存を優先してくれ。俺達と違って、空を飛べないのは回避においてマイナスだからな」
「……分かってます。ですが、そちらの魔法ですか?あまり通じていないようですが……」
「何人か、強力な砲撃魔法は使えるんだがな……!そっちの術の方が通じやすいらしい!」
飛んできた攻撃を、局員は会話していた退魔士を抱えて飛ぶ。
「ひゃっ!?」
「悪いな!ちょっと掴まっていてくれ!」
薙ぎ払うように迫りくる尾を、何とか躱す。
尾が通り過ぎたのを見計らって、局員は女性の退魔士を降ろす。
「あ、あの……」
「っ、悪い。緊急時だから許してくれ」
なお、その際にある箇所を触ってしまっていたらしい。
「いえ……っ、今はそれよりも……!」
「……そうだったな……」
今の状況はそんな気まずい雰囲気も許してくれない。
即座に気持ちを切り替え、行動を再開した。
「……行け!!」
「喰らえ!!」
一人の退魔士が霊術で炎を放ち、それに合わせるように管理局員が上空から砲撃魔法を放つ。
「っ、避けろ!!」
「ッ!!くっ……!!」
その直後、別の局員が術を放った退魔士へと声を荒げて叫ぶ。
自身に迫りくる攻撃に気づいた退魔士は、避けようと地面を蹴ったが……。
「ッ―――!?」
一瞬、間に合わず、振り下ろされた尾によって潰されてしまう。
目の前で命が散ったのを見て、その局員は硬直してしまう。
「っ……バッカ……!止まってんじゃねぇ!!」
「っぁ!?す、すまん……!」
先ほど砲撃魔法を放った局員が、その局員を突っ込む形で抱える。
寸前の所で龍神の噛みつきを回避する事に成功する。
「人が死んじまう事で動揺するのは分かるが、今は立ち止まるな……!」
「あ、ああ……。悪い、ただでさえ劣勢なのに」
「分かればいい。……くそっ、砲撃魔法が直撃してびくともしねぇ。反応してくるって事は効いちゃいるんだろうが……」
悪態をつく局員の上空を、魔力弾が飛ぶ。
その魔力弾は龍神の目を狙っており、上手く命中する。
「……目を狙うか」
「そうだな……って……!?」
命中した際、僅かに龍神は怯む。
それを見た局員二人は、そこを狙うべきだと察する。
……が、その直後に……。
「………くそっ!」
骨の砕ける音と共に、血の雨が降った。
反撃してきた龍神に、魔力弾を放った局員は噛み砕かれてしまったのだ。
「倒しきる前に、こっちが全滅しちまう……!」
「どうすれば……!」
今まで運が良かっただけに過ぎないが、ついに退魔士だけでなく管理局員にも死人が出てしまった。その事に、ますます劣勢に陥る。
……すると、その時。
「膨大な霊力を感知。封印、緊急解除します」
「……え…?」
抑揚のない少女の声が戦場に響いた。
「戦闘モード起動。……排除します」
そして、桃色の一陣の風が、地上にいた退魔士と局員の間を抜けていった。
―――“斧技・瞬歩”
―――“斧技・鬼神”
そのまま瞬時に龍神との間合いを詰め、胴体を駆けあがる。
「はっ!」
―――“斧技・夜叉四連”
直後、手に持つ大きな斧で怒涛の四連撃を繰り出した。
堅い鱗を持つはずの龍神の胴に、四つの斬撃跡が刻まれる。
「ガァアアアアアアアアアッ!!?」
「は、早い……」
「な、何者なんだ、あれは……」
辛うじて、それが人型の存在だと分かっている退魔士と局員が呟く。
その呟きで互いに知らない存在だと分かり、余計に何者なのかと混乱した。
「これで終わりです」
―――“斧技・雷槌撃”
さらに胴を蹴り、頭まで移動した“少女”は、霊力を斧に纏わせる。
雷を発しながら斧は振り下ろされ……。
ドンッッ!!!
「ッッッ―――!!?」
龍神の頭を、地面に叩きつけた。
「………」
―――“戦技・狂化”
少女の体を闇色と赤色が混じったようなオーラが包む。霊術による効果だ。
そして、無言で少女は斧を龍神の頭へ何度も振り下ろす。
「……うへ……」
「うぷ……戦闘前の夜食が出そう……」
何度も斧が突き刺さり、龍神の頭から血飛沫と肉片が飛ぶ。
そのあまりの惨さにそれを見ていた退魔士も局員も吐き気を覚える。
「……対象沈黙しました。戦闘モードを終了します」
返り血を浴びながらも、少女はそういって斧を御札に仕舞う。
そして、龍神の死体から降りて門を見つけ出し、閉じた。
「…………」
「…………」
少女はそのままの足取りで局員と退魔士の下へと歩いてくる。
いきなり現れた少女に対し、皆が警戒していた。
「……交渉モード起動。……誰か、現状の説明を求めます」
「それは……こちらのセリフなんだが……」
戸惑いを見せながらも、局員たちは改めて目の前に来た少女を見る。
足まで届く、長くふんわりとした桃色の髪に、両サイドに赤いリボンのついたカチューシャをしている。また、小さな紅葉色の角が二本生えている。
顔は蓬色の瞳で、感情がないかのように無表情だが、可愛らしい。
服装は丈の短い紅葉色と浅緋色の二色の着物で、それを留めるように腰の両脇に大きなスイカ程の直径の茶色の歯車がついている。ちなみに、両手首にもはめるように歯車と白いシュシュを付けている。また、梅があしらわれた白いマフラーもしている。
脚には黒いタイツ、靴は紅葉色で可愛く装飾されており、戦闘向きとは思えない。
何よりも注目すべきなのは、肘が人間ではなかったからだ。
「……ろ、ロボット……?」
肘…関節の構造が、まるでロボットなどのようになっており、つい局員の一人が呟く。
「いいえ。私は“ろぼっと”とやらではありません。絡繰りです」
「……とりあえず、こちらからすればいきなり現れた相手を信用する訳にはいかない。素性を説明する事は出来るのか?」
「…………」
局員の問いに、少女は一旦黙り込む。
言えないのかと、周りは思うが、微かに彼女の中の“絡繰り”が動く音が聞こえた。
「……解説モード起動。私は式姫の天探女と言います。行方不明になったますたーを探し出す事は不可能と判断し、現在まで自己封印をしていました。こうして再起動をしたのは、膨大な霊力を感知したからです」
「自己封印……いや、他にも色々気になる事はあるが……まぁ、いい」
名前が分かっただけマシだと、聞いた者達は思うようにした。
「式姫……と言ったな。つまり、幽世の門や妖について知っているという事でいいか?」
「……交渉モードに戻ります。……はい。そうおっしゃるという事は、再び幽世の大門が開かれてしまったという認識で構いませんか?」
「は、話が早いな……。まぁ、そう言う事だ」
「分かりました。では」
幽世の門が開き、再び妖が現れるようになったと聞いた天探女は、そのまま去った。
「って、ちょっと!?」
「速っ!?まだ暗いから見失った!?」
驚きの連続だったため、つい呼び止めずに行かせてしまう。
「……あー、とりあえず、式姫がいたって事は報告しておくか……」
「この状況下で呼び止められなかったのは痛いぞ……」
溜め息を吐きながら、とりあえず報告するために通信をする局員。
退魔士たちも、残った局員から情報交換したり、撤退した自衛隊と合流したりなど、自分たちにできる事を遂行した。
―――……夜が、明ける……
「……………」
一つの人影が、真上へと昇る日に照らされながら駆ける。
向かう先は東京。かつて、“武蔵国”と呼ばれていた地域だ。
「……!」
人影の前に、何体かの妖が立ち塞がる。
それを見て一瞬人影は立ち止まる。……が、即座にまた駆ける。
「ガァアアッ!」
向かってくる人影に、妖は襲い掛かる。
しかし、そのまま人影に素通りされ……。
「――――――」
その妖の首が、落ちた。
「……ん、おい、あれ……」
東京。日本の首都であり、日本で最も人口が多い都市。
人口が多く、発展している事もあって、妖からの防衛は上手く行っていた。
都市の中心に一般人は避難し、そこを中心に警察や自衛隊が妖を防衛していた。
「あれは……」
妖から人々を守るのはもちろん、逃げてきた人を保護する事もしていた。
そして、その中の何人かが、近づいてくる人影に気づく。
「避難してきた人だ!周囲に化け物がいないか確認した後、保護しろ!」
その人影は少女だった。桃色の着物と赤色の袴と言う、現代において珍しい着物姿だったが、少女を見つけた者達は近づいて行った。
「………」
一方、少女は近づいてくる人達を前に足を止める。
「大丈夫か?他に誰かいたりは……」
「………どこ……」
「え……?」
言葉を掛けた男は、少女が呟いた言葉に首を傾げる。
同時に、“何かがおかしい”と、男は思った。
「……逢魔時退魔学園は……どこ……?」
「逢魔……なんだって?」
「……そう……」
少女の問いに男は答えられずに聞き返す。
だが、少女にとってはそれだけの問答で十分だったようで……。
「じゃあ、いいよ。後は自分で探すから」
「……ぇ……」
男の体が、斜めに両断された。
「な、なにを!?」
「………」
突然の事に、一緒に駆け寄っていた男達が驚愕する。
そして、一瞬見えた剣閃を最後に、その命が消えた。
「な、ぁ……!?」
「何をす……る……!?」
少し離れた所にいる者達が、そこでようやく気付く。
少女が放っている、“濃密な瘴気”に。
「お前は一体、なんなんだ!?」
「……」
恐怖しながらも問うた男を、一閃の下切り伏せる少女。
「くそっ!!」
もう一人の男が、アサルトライフルで撃つ。
銃を撃つ事に既に躊躇いはなかった。
彼の認識では、もう少女は人ではないと悟ったからだ。
キキキキキキン!
「は……?」
だが、その銃弾はあっさりと斬られる。
そのまま少女は前進し、銃ごと男は細きれにされる。
「な、なんだよあいつ……!」
一部始終を遠くから見ていた者が、戦々恐々しつつ呟く。
明らかに人が為せる業ではないと今ので理解したからだ。
「至急応援を呼んでくれ!人の姿をした化け物が現れやがった!!」
「くそっ、来るな!!来るなぁ!!」
そして、彼らはパニックに陥る。
阿鼻叫喚の惨状となり、少女に近づかれた者から一人、また一人と殺される。
―――……させないよ……!
「っ……!」
その時、四つの陣が空中に展開される。
それを見て、少女は飛び退いた。
「な、今度は何だ……!?」
「な、何か出てくるぞ!」
四つの陣から出てきたのは、四体の人ならざる者だった。
青い鮮やかな鱗を持つ龍。赤い羽根を持つ大きな鳥。兜のようなものを纏い、尾が蛇となっている巨大な亀。青く雷光を纏う鬣と白い体毛の大きな虎。
どれもが人の身では敵いそうにない存在だった。
「嘘……だろ……?」
「あんなの、相手にしろって言うのか……?」
ただでさえ少女相手に蹂躙されていた所に、四体の出現。
それだけで、人々は心を折られた。
そこへ、少女が斬りかかる。
「っ……!?……?」
接近を辛うじて認識した男は咄嗟に目を瞑る。
しかし、訪れるはずの“死”がない事に訝しみ、目を開けると……。
「え……?」
「グルルルゥ……!」
「ッ……!」
男の前に、虎が立っていた。
男からは見えないが、虎が爪を振るい、刀を受け止めていたのだ。
「クァアアアア!!」
「ッ!」
さらにそこへ、鳥が炎を放つ。
放たれる炎弾は、少女の刀に切り裂かれるが、ブレスのように炎が繰り出された場合は、少女はすぐさま飛び退いた。
「ガァアアアアア!!」
「ォオオオオオオオン!!」
飛び退いた所へ、亀が圧し潰しにかかる。
それを避けたのを予期し、龍が雷を繰り出す。
「……味方、なのか……?」
「……青い龍、炎の鳥、尾が蛇の亀、白い虎……まさか……」
それぞれの特徴に、一人の男が気づく。
「……四神?」
「四神って……青龍、朱雀、玄武、白虎の事か?」
「言われてみれば、確かに……」
一人の少女を相手に、四体で攻め立てる。
その様子を見て、彼らは四神と特徴が合致していると気づく。
「……どの道、今はあれらが相手してくれている。今の内に、俺達にできる事を!」
「あ、ああ!」
じっとしていてはダメだと、彼らは行動を起こす。
避難誘導や他の妖の防衛など、やる事は大量にあるのだ。
「……これで、何とか……!」
「四神の召喚……これでも、時間稼ぎしか出来ないなんて……」
「これでも、あたしの力をだいぶ使ったんだけどねぇ……!」
一方、どことも取れない、どこかの場所。
そこで、一人の少女が踏ん張るように陣の上に立っていた。
「時間がない。幸い、四神が召喚出来たからあんたを送る事に何も問題はない」
「……はい」
「だけど、時間制限はそのままだ。……二刻半、それが限界だよ」
「分かってます」
陣に立つ少女の前には、もう一つ、別の模様の陣が敷かれていた。
そこへ、会話していた少女の片割れが立つ。
「言っておくけど、四神でもいつまで持つか分からない。それに、どれほどの死人が出るのかもね。式神として召喚した四神と違って、あんたは最期を迎えた場所、縁のある場所にしか送れない。召喚と同時に向かわなければ、間に合わないよ」
「……はい…!」
「……よし、じゃあ、行ってきな」
陣に立つ少女がそういうと、もう一つの陣が輝き始める。
「……頑張って」
「……はい」
もう一人、陣の外にいる少女の激励を受け、少女は“現世”へと、召喚された。
「(……今、助けに行くよ……!)」
―――………お兄ちゃん……!!
後書き
信濃龍神…見た目は黒い龍。色と曲が相まってやばさが凄い。戦線に出ている人数が多ければ多い程ダメージが減る頭割り攻撃を初めて使ってくる妖。防御力が高い上、参戦の際に最低限のHPが求められるなど、勢いで進んできたプレイヤーを叩き潰しに来る。なお廃人勢には(ry
天探女…全ての鬼族の始祖とされている存在。それを基に作られた絡繰り人形。いつの時代、誰の手で生み出されたかは不明。複数の人格機構があり、状況に応じて人格を使い分ける。
斧技・夜叉四連…打属性の四連撃。夜叉の如き勢いで攻撃を叩きこむ。その一撃一撃は重く、鋭い。生半可な防御では防げない。
戦技・狂化…攻撃が上がる代わりに技が使えなくなる。攻撃上昇倍率は中々高い。
四神…文字通り四神。ただし、今回召喚されているのはそれらを模した式神。だが、四神の名を冠するだけあって、式神と言えどその強さは一線を画している。ゲームではレイドボス。
天探女は、第2章の閑話5でほんの少しだけ後書きで紹介しましたが、今回、実際に登場したので再度詳しく紹介しています。
何気に増援で駆け付けているはずのプレシアさんが影も形もない状態ですが、プレシアさんは艦から次元跳躍魔法で熊野川の龍神などと戦っている局員たちを援護しまくっています。と言うか、今回の信濃龍神以外はこの魔法のおかげで勝てています。ちなみに、信濃はさすがに手が回らなかったらしく、一回も援護されなかった模様。
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