レーヴァティン
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第四十四話 琵琶湖その十
「すると深酒のせいか」
「一度抱いてか」
「それで寝てしまったでござる」
「そうだったのか」
「はい、残念なことに」
「そうだったのか」
「それで、でござる」
さらに言う智だった。
「残念に思っているでござる」
「深酒がか」
「それが眠りになったので」
「そういうこともあるな」
「はい、それで英雄殿は」
「三人を二度いや三度ずつか」
「三人一度にでござるか」
智は英雄のその話に驚いて返した。
「それはまた」
「店の婆も驚いたが」
「驚くのも道理、三人一度に相手にするとか」
智は英雄に驚いた顔のまま述べた。
「恐るべき豪の者でござるな」
「俺は豪の者だったのか」
「とてもそうは見えないでござるが」
それでもと言う智だった。
「英雄殿はそうでござったか」
「自覚はなかったが」
「ご自身はそう思われていてもでござる」
「俺はそうか」
「左様、それで一晩の間でござるか」
「三人を抱いてそれで多少寝た」
「まさか身近にここまでの御仁がいるとは」
また言う智だった。
「思わなかったでござる、それで何か気になったことは」
「聞いた情報か」
「はい、そうしたものは」
「特になかった」
こう答えた英雄だった。
「有益そうな話はな」
「左様でござるか」
「俺もあればと思ったが」
それでもというのだ。
「聞けなかったからにはな」
「どうしようもないでござるな」
「知ったのは女だけだ」
そちらだけだという返事だった。
「よかったがな」
「人生の楽しみは味わえたということでござるか」
「だがそれだけだ」
それに過ぎないというのだ。
「所詮な」
「そういうこともあるでござるな」
「そうか、ではだな」
「他の御仁でござるが」
二人以外のというのだ。
「良太殿と峰夫殿でござるが」
「二人はどうか」
「早く合流するでござる」
「二人を探すか」
こう言いつつ早速二人を探そうとしたがここで峰夫の声がしてきた。
「お二人おられるでありますか」
「噂をすればだな」
「そうでござるな」
二人も峰夫を見て言った。
「探そうとしていたところでござる」
「丁度だ」
「私は今そこの店を出たところであります」
近くのある店を親指で指差しての言葉だ。
「楽しんできたであります」
「そうなのか」
「はい、見事な花魁と一夜」
「三人ではないでござるか」
「とんでもない、三人を一度に相手にするなぞ」
智の言葉に驚いて返した峰夫だった。
「恐ろしい豪の者でござる」
「それは俺だ」
英雄は智に続いて言った。
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