儚き想い、されど永遠の想い
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437部分:第三十四話 冬の花その一
第三十四話 冬の花その一
第三十四話 冬の花
義正は今だ。彼の両親と実家の屋敷で話していた。
ビロードの絨毯の上の豪奢な、英吉利調のその椅子に座りだ。独逸製の陶器の中の紅茶を飲みながらだ。彼は両親に尋ねるのだった。
「そういう花ですが」
「冬の花か」
「そのお花をですね」
「はい、どういったものがあるでしょうか」
切実にだ。両親に問うたのである。
「教えて欲しいのですが」
「そうだな。十二月ならだ」
「十二月ならどの花があるでしょうか」
「菊がまだある」
父が出した花はそれだった。
「菊がまだある」
「菊ですか」
「日本の花でもあるな」
「そうですね。皇室のものですね」
「それを見に行けばどうか」
父が勧めるのはその花だった。
「真理さんと二人、いや三人でだ」
「義幸と共に」
「そうだ。三人で菊を見に行けばどうか」
「そうですね。それがいいですね」
「菊ならです」
ここでだ。母も彼に言ってきた。
母はその菊についてだ。息子にこの場所を教えたのだった。
「私のお友達のお屋敷がいいでしょう」
「その方のお屋敷のお庭になのですね」
「はい、菊があります」
それが咲いているからだというのだ。
「それを見に行くことです」
「では。その方のところで」
「私からお話しておきます」
その菊の咲き誇る屋敷にだというのだ。
「ではそちらに行かれて下さい」
「有り難うございます。それでは」
「そしてだ」
菊の話が決まったところでだ。また父が彼に言ってきた。
「冬の花はまだある」
「他にはどういったものがあったでしょうか」
「椿にそれに」
「椿にですね」
「水仙だな」
父はこの花も挙げた。
「それもある」
「冬の花もありますね」
「知らなかったという訳ではないだろう」
「はい、実は」
知ってはいたとだ。義正も答える。
しかしだ。自信のない面持ちでだ。彼はこうも言うのだった。
「ですが。冬に花というのが」
「御前の中で結びつかなかったか」
「はい」
実はそうだったというのだ。それでだ。
その自信のない面持ちでだ。彼はまた両親に話したのである。
「ですからどうしてもです」
「そうか。しかしそれでもだな」
「はい、それならです」
そうした花達をというのだ。
「三人で見ていきます」
「そうしろ。しかしだ」
「しかしとは」
「御前は花鳥風月にこだわるな」
我が子のそのことにだ。父は言ったのだった。
「それもかなりな」
「そうですね。それは」
「考えあってか」
「やはり。世界を三人で見ていきたいですから」
「自然をか」
「いえ、自然と共にこの世にあるものをです」
そうしたものをだ。見たいというのだ。
「ですから私は」
「三人でか」
「見ていきます。ただ」
「ただ、か」
「冬については自信がありませんでした」
そうだったというのだ。
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